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青春日記  作者: あある
8/15

私と彼と存在

次の日、兄は普段通りに戻っていた。結局、昨日のは何だったんだ?。

そんな疑問を持ちながら、私は兄と自転車で学校へ向かう。しかも、珍しいことに兄が自転車を漕いでくれた。それに関して感謝の言葉を伝えようとした途端「お前なんて、居ないも同然だろ」と私の体重を馬鹿にてきたので、思いっきり殴ってやりました。てへっ。

その後、私はいつも通り授業を受け過ごし、放課後になると素早く図書館へと向かう。そこでは、透明減少について調べたり、馬鹿な美咲君への補習授業など、色々なことを行っていた。

そんな日々を繰り返して、呆気なく一週間が経った。

そして放課後。最終下校時間になったので、私は図書室の合鍵を受け取り、美咲君に「バイバイ」と手を振りながら帰った。

その帰り道、鞄に入っていた携帯が鳴り出したので、私が立ち止まり、手に取って画面を確認すると、画面に「朝比奈美咲」という名前が映っていた。

私は少し緊張しながら、ブルブルと震える携帯の画面をタッチし、耳に当てて電話を繋いだ。

「も、もしもし」

「あ、もしもし。俺だけど」

「すみません。俺俺詐欺はお断りしてるので…」

「携帯なんだから名前乗ってんだろ!。朝比奈美咲だっつの」

「で、どうしたの?」

「あ、ああ、お前、合鍵じゃないの持ってっただろ?。俺の手元に合鍵あるし」

「んー…あっ、ホントだ。確かに倉庫の鍵持ってる」

「だよな。無いと色々不便だし、届けに行きたいんだけど、お前どこに居んの?」

「え…っと、商店街通りの隣の通りにある住宅街かな。あっ、美咲君には分かりずらかったかな?。バカだから」

「さすがに分かるっつーの!。何だ?、お前は俺のことを進化の遅れた猿とでも言いたいのか!?」

「え、違うの!?」

「違うに決まってんだろ!」

「いや、人間も元は猿だったはずなんだけどなぁ?。それなら、美咲君は一体何だったんだろうね?。気になるなー」

「き、気にならない気にならないっ。とにかく、今から行くから動くなよ」

そう言い、美咲君はすぐに電話を切断したので、私の耳にツーツーと音が伝わってくる。音が止むと、私は耳から携帯を離した。

そういえば、美咲君の体はどうなっているんだろうか?。

そんな疑問が頭を過った。

私が見る限り、一度も消えてないし、消える様子もなさそうだ。かと言って、私と出会った時に透明だったわけだから、彼が嘘ついてるということはないだろう。結果が出ないから、改善策すら見つからない。進歩がないだけで喉に痰が詰まっているような気持ちが悪い気分になり、次第に気力さえなくなっていく。

そう思いながら、私は「はぁ」とため息を吐き、持っていた携帯の画面を睨んだ。

「困っているようだね?」

その声が背後から聞こえ、私は急いで振り返った。

そこには、「ヒヒヒッ」と不気味な笑みを浮かべる少年が立っていた。

少年はかなりの長身で、下は黒く引き締まったズボン、上にはフードのついた黒いパーカーを身に着けていた。月明かりが反射して、フードから微かに見える金髪、口元以外に巻きつけた包帯が美し過ぎるぐらい輝いていた。

「君は…誰…?」

私は警戒して、後ろへと一歩下がった。だが、それと同時に少年が一歩前に進み、私と彼の距離は一向に広がらない。

「俺はねぇ、ヒロって言うんだぁ。そして、君の心の中では「連続殺人鬼」とでも呼ばれてたかな」

この人が美咲君の存在を殺した人。

その言葉が頭を過る。すると、陽気な声で話すヒロと名乗る少年を私はギロリと睨んだ。

「おー怖い怖い。そんな睨まないでよ、せっかくの可愛い顔が台無しだって」

「残念だけど、君に可愛いと言われたところで全く嬉しくないから」

「そうだね。確かに、君は「美咲君」という人物からでないと嬉しくないらしい。でも、いいのかなぁ?。俺はその「美咲君」のことを親切に教えたあげようとしてるのにさぁ」

「…やっぱり、あの現象は君が関わっていたんだね」

「そりゃあね。でも、俺も君にお願いがあったんだ。だからさ、教えたあげる代わりに、俺のお願い聞いてくれないかな?」

そして、私が瞬きをした瞬間、ヒロが私の目の前にいた。私は驚きすぎて、声すら出ない。だって、ヒロが私との間にあった距離を、物音も立てずに一瞬で移動したのだから。言うなれば、これは「瞬間移動」だ。

「む、無理。君みたいな人のお願いは聞きたくないよ」

「ひっどーい。なんか、警戒してるみたいだけど、俺は別に人を殺したりしていないからね?」

ヒロは子供みたいに頬を膨らまして、くるくるっと両手を広げて一回転した。

「人を殺してなくても、君は多くの人間を傷つけている!。それだけで、十分いけないことだよ!」

「えー?、いけないことかなぁ、だって、本人達が望んだことじゃん?」

「望…む…?。何のこと?。自分から消えたいとか望むわけないじゃない」

そうだ。美咲君がそんなことを望むわけがない。美咲君は私に「生き返らしてほしい」と言ったのだから。

「…そんなの、君が幸せ者だからの台詞さ」

「どう…ゆう…こと?」

私が聞き返すと、彼はいつもより口元を引きつらせる。それは完璧すぎる、いや、完璧すぎて気持ち悪いほどの笑みだった。

「誰もが幸せにはなれないことは知ってるだろう?。でもね、俺は不幸な人々に幸せになってほしいんだ。だから、人を不幸にするもの=人の不要なものを奪っているんだ」

分からない。分からない分からない分かりたくない。彼の言葉の意味を私はどうしても理解したくなかった。だって、そしたら…

「不要なものさえ奪ってしまえば、人間に残るのは幸せだけだ。そして、その人にとっては不要でも、それを必要としてる人も居るかもしれない。だから、俺は不要なものと必要なものに変える為に、人から奪ったものを必要としている人に与えているんだ。つまり、世界を平等にする為のGIvE&TAKEといったところかな」

「そ、それじゃあ、美咲君の存在が消えたのは…」

美咲君が死にたかったことが分かってしまうから。

「そう。彼が消えたのは、彼が自分の存在を否定してしまったからさ」

「……で、でも、美咲君はっ、美咲君は私に…「生き返らせてくれ」って、そう言ってた。だから、自分の存在を肯定してるはずだよ!」

たぶん、私は誰でもいいから「そうだよ」って肯定してほしかったんだと思う。ねぇ、言ってよ。美咲君は嘘なんかついてないって、こいつを否定してよ。こいつを信じそうになっている私を否定してよ。

「ホント、君は幸せ者だ。きっと、君は世界一の幸せ者だろうね。誰もが羨み、妬みするぐらい」

「ど、どうゆう意味?」

「…幸せすぎて、君は疑うことすら忘れてしまったのかな?」

そう言ったヒロの口元には、あの歪んだ笑みさえ消える。そのせいか、重く鋭い言葉が私の胸に突き刺さった。

「………っ」

私は放心状態になり、力が抜け、へたりと地面に座り込んでしまった。

「きっと、今の君よりは分かっていると思うなぁ。君の大好きな「美咲君」のことをさ。君は彼をちゃんと見てなかったんじゃないの?」

そう言いながら、ヒロは私にゆっくりと近づいて来る。でも、私は何も出来ないまま俯いていた。

「あっ、もしかして、本当は君に殺してほしいんじゃないの?」

そう言って、ヒロは腰を曲げ、私の耳元で「ヒヒヒッ」と心底楽しそうな笑い声をあげる。その言葉を聞くと、私は無意識にヒロの服の裾を掴んでいた。

「そんなことないっ。消えるとか、死ぬとかっ、そんなの…絶対許さない!」

「君は随分自己中なんだね。生きたいと願う子が山ほど居る中、死にたいとか思う奴らなんかは早く死ぬべきだと、俺は思うけどな」

「違う。やっぱり、私は君のやり方には納得できないよっ」

私は掴んでいたヒロの服を引っ張り、ガクガクと震える足で立ち上がった。

「だって、君は言ったよね?。誰かが幸せになれば、誰かが不幸になると。人の犠牲の上に成り立つ幸せなんて、誰も笑えないよ!」

「…じゃあ、君ならどうするの?。まさか、そのままにするわけじゃないよね?」

ヒロは急に声音を低くして、私の手を振り払う。そんな姿に私は戸惑い、言うべき言葉が思いつからずに呆然としていた。

「はっきり言って、君にはあいつを理解することも、救うことも不可能だ。だって、君達は正反対だから」

私がただ呆然と立ち尽くしていると、ヒロが自分の額を私の額に摩りつけた。

「だからさ、君、諦めて?」

そう言って、ヒロはまたニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

「…ねぇ、君もそう思うよね?。可愛そうな美咲君?」

その言葉に私はごくりと唾を飲み込み、ヒロの視線が向かう方向へと振り返る。すると、その先には美咲君が立っていた。

「…俺は、こ、これを」

そう言いながら、美咲君は手に持っていた合鍵をぎゅっと握った。

「あれ?、本当のことを言わなくていいの?。「俺を殺して」って」

「…お、俺はそんなこと、思って…」

「思ってるよ。「俺なんか生きていても意味ない」「生きていたって、辛いだけだ」とか、そう思ってたんでしょ?。嘘ついてまで」

ヒロの言葉が図星だったのか、美咲君はピクリと反応する。そんな美咲君を見て、私が思わず名前を呼んだら、美咲君は一度視線を合わせてくれたが、すぐに逸らされてしまった。

「あっ、でも、見えてるってことは、君の心情の変化なのかな?。もしかして「生きたい」とか思っちゃってるわけ?。それってさぁ、ただ単に、君は不幸な自分に誰でもいいから知っておいてほしかっただけじゃないの。あーあ、こんなことなら、君になんて力を使うんじゃなかったなぁ」

「ち、違う…違うっ!」

美咲君は俯いたまま、目を閉じ、大声で言い切った

「…ホント、優柔不断だね。「死にたい」っていうから、俺が存在を消したのに、彼女には「生きたい」とか言っちゃってさー。君に振り回されるこっちの身も考えてよね。そんなんだから、みんなに見放されるんだよ」

そう言いながら、ヒロは美咲君の耳元で悪魔のように囁く。すると、美咲君は驚いて目を見開くだけで、反論する言葉が出てこない。

「…み、美咲君っ!」

そう言いながら、私は震える足で美咲君元へと駆け寄る。そして、ここから逃げる為、彼の手に触れたようとしたが感触がなかった。彼に触れられなかったのだ。

私は急いで振り返ると、そこには誰も居なかった。

「み…さき…くん?。美咲君っ!」

その叫び声が響き渡ると、ヒロの不気味な笑い声がその場に木霊する。

失って気づく。君が傍に居ないと怖くなること、君が笑ってくれないと寂しくなること、こんなにも君が好きになっていたってことを。



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