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青春日記  作者: あある
7/15

私と兄と恋愛感情

私達が図書館に着いた途端、学校中に最終下校時間のチャイムが鳴り響く。なので、私達は電話番号とメアドを交換して、今日は解散することにした。

そして、私は携帯を弄りながら、海沿いの歩道を歩いて帰る。海は朝と同じなのに、夜というだけで全く別物に見えた。まるで、吸い込まれそうな怖い海。

そんなことを考えていると、いつの間にか家に着いていた。

そういえば、兄はちゃんと家に帰っているだろうか?。そんな疑問をかかえて、私は家に足を踏み入れる。すると、リビングのソファで呆気なく見つかった。しかも、風呂上りの恰好で雑誌読んでるし。一人を超満喫してんじゃん!。

ん、でも、ちょっとおかしいぞ?。いつもなら、「こんな時間まで何してたんだ?」と、ストーカー並にしつこく聞いてくるはずなのに、私が「ただいま」と言っても、私のほうを見ずに「おかえり」と言うだけ。別に寂しいというわけではないが、なんか調子が狂う。

そう思っていると、持っていた携帯が鳴る。見てみると、そこには「今日は帰れそうにない」という母から文字だけのメールが届いていた。

私は兄の左隣が空いていたので、そこに座って携帯を弄りだす。そして、「了解」と到底女子中学生に見えないメールを母に送った。

その後、自動的に電話帳一覧の画面が映ると、自然と「朝比奈美咲」という名前に目がいった。ここ押せば、すぐに美咲君の声聞けるんだもんなぁ。

そう思うと、私はニヤりと笑みを浮かべる。何だ、気持ち悪いな私。なんか、美咲君のこと考えてる時の私は相当気持ち悪い。手を握りたいとか、傍に居たいとか、抱き着きたいとか…きんもっ。

そして、次に目に入ったのは「日向旭」という名前。そういえば、本当は兄と待ち合わせしてたんだった!。だ、だから怒ってるのかな。

そう思って、私は何回か兄を見てから、大きく深呼吸をして、兄に話しかけようとした。まぁ、今回ばかりは私に非があると思う。

「そ、そういえば、ちゃんとタイヤ買っといてくれた?」

まずは兄の機嫌を窺う為に、私は会話をすることにした。

「ああ、買った。しかも、自転車にちゃんと装着してやったぜ。どうよ、気が利く兄だろ」

「そだね。えっと、告白、ちゃんと断れた?」

「うん。でも、なんか泣いちゃってさ、ホント困ったわ」

女の子泣かせるとか、相変わらず最低だな。この屑。というか、別に怒ってないかも。私の勘違いだったかな。

「で、さっきから何なの?。兄ちゃんに構ってほしいっていう気持ちはすげぇ嬉しいんだけど、明らかにおかしいぞ。どした?」

そう言って、兄はようやく雑誌を閉じ、私に視線を向ける。

「いや、なんか、怒ってるのかと思って」

「俺がお前に怒るわけないだろ?。ただ単に、この雑誌が面白かったってだけ」

やっぱり、変だ。だって、兄が私に嘘ついてる。私には分かるよ。

「っていうか、お前、怪我してんの?」

「あ、うん。ちょっとね」

私がそう答えると、兄が一瞬嫌そうな顔をする。「どうしたの?」と私が声をかけようとすると、兄は遮るように会話を続けた。

「そうか。というか、これ巻き方おかしくね?。俺が巻き直してやろうか?」

「え、あぁ…いや、いいよ」

確かに兄の言う通り、かなり巻き方は不格好だ。でも、これは美咲君が一生懸命巻いてくれたものだから、私はそう言って、首を横に振った。

「遠慮すんなよ」

「いやいや、いいか…」

「いいから、足出せ」

私は兄に言葉を遮られ、足を掴まれると、無理やり引っ張られる。すると、私と兄はソファを向かい合って座っている変な大勢になった。

その際、私は手に持っていた携帯を床に落としてしまい、兄に一度見られる。だが、兄はすぐに視線を逸らし、丁寧に包帯を剥がし始めた。

それを見て、私が「はぁ」とため息を吐いていると、兄の視線を感じ、私は兄の視線の先に目を向ける。すると、その先にはあったのは、タイツを穿いてるとはいえ丸見えのパンツだった。

私は顔を赤らめ、急いでスカートの裾を引っ張って、パンツを隠した。

「…人のパンツを見るの止めてよ。後、死ね」

そう言って、私はギロリと睨んだ。パンツ見られるなんて、どこの食パン咥えた遅刻少女だよ!。くそぉぉぉ、一生の不覚っ。

「いや、生きる。というか、俺はお前のパンツ以外興味ないから大丈夫だ」

「大丈夫じゃねぇよ、このロリコンっ」

「だから、俺はシスコンだっつの。というか、ロリコンっていうほど歳変わらねーじゃん。2歳差だよ、2歳差っ」

そう言いながら、兄は手を止めて、私にVサインを強調してくる。いやいや、シスコンだからいいってもんだいじゃねぇだろ。

「2っていうと、あんまり離れてるように見えないけど、所謂730日離れてるんだからね」

「いやいや、お前間違ってるから。だって、お前は7月生まれ、俺は12月生まれ、差は約19か月、つまり約570日ぐらいだからな。ちなみに、もっと正確に表してみると、お前は7月2日19時38分21秒に生まれたから…」

「怖い怖い怖いっ、私自身ですら知らない情報知ってんのさ。というか、その暗記力は勉学で発揮しなよ」

この人、絶対好きな子にストーカーしちゃうタイプだ。後、イジメちゃうタイプ。

「えぇー、めんどくさ。お前、何真面目ぶってんだよ。勉強なんて、テストの時さえやればいいじゃん。テストの点さえ下がんなければ、内申も影響もねぇし」

「勉強しないとテストで良い点とれないでしょ」

「俺、一度覚えたものは忘れないから、当日暗記で余裕だし」

「はーい。今、兄貴は全世界の受験生を敵に回しましたー」

私は嫌味ったらしく言いながら、ビシっと兄に指を向けた。ちなみに、私は授業をちゃんと聞くタイプ。だけど、英語は聞くだけで寝ちゃうから「保健室行く?」って心配されたこともあるんだよね。

「別に、俺はお前が居ればいい」

そんな甘い台詞を兄は平然と口にする。こう言った台詞は乙女ゲームなどで慣れていると思っていたが、やはり肉声は全然違う。なんつーか、恥ずかしい。

そう思いながら、私は自分でも分からない、美咲君への思いを口にした。

「ねぇ、ずっと一緒に居たいとか、手を繋ぎたいとか、抱き着きたいって思うのは好きだからなのかな?」

「…そりゃあ、好きなんじゃねーの?」

「それは恋愛感情の好きだよね?」

「さぁな、そんなの本人にしか分からないだろ」

先ほどから、兄の返事は素っ気なく、会話中も私に目線を合わせようとしないので、私は口を尖らせた。

「ふーん。その口ぶり、兄貴も誰かを好きになったことあるの?」

「…あるに決まってんだろ」

そう兄は呟くが、声が小さ過ぎて良く聞こえなかったので、私は首を傾げた。

「…いや、俺は誰にも本気になれないって言っただろ。ないよ」

「へぇ…でもさ、もしも、それが恋愛感情なら、恋は人を幸せに出来るんだね」

「そんなことねぇよ。誰かを幸せにするってことは、誰かを不幸にするんだからな」

そう言う兄の声は急に低くなり、巻いていた包帯をぎゅっと引っ張っるので、私は思わず「いたっ」と声を漏らす。すると、兄は「悪い」と謝りながら、包帯を綺麗に巻き終わった。

「…お前、今日いい事あったんだろ?」

そう言いながら、兄は私の足から手を離し、今度は私の手を自分のほうに引き寄せ、包帯を剥がしてゆく。

「え、何で分かったの?」

「当たり前だっつの。生まれてからずっと一緒に居たんだぞ。妹が幸せだと兄ちゃんも幸せだ」

そう言って、兄は不自然なくらい完璧な作り笑顔を私に向ける。止めてよ、その顔。

「…嘘。全然、幸せそうじゃないもん。私だって、兄貴と生まれてからずっと一緒に居るんだよ?。だから、自分だけ悟ったような顔しないで。私、兄貴も幸せじゃないと嬉しくない」

「…お前ねぇ、さっき言ったと思うけど、誰かが幸せになると、誰かが不幸になるもんなの。だから、みんな一緒にハッピーエンドとか無理だっつの」

「そんなことないよ。私も手伝うからさ」

そう私が言うと、兄はビクリと身震いして、俯いたまま私の手首を握りしめる。

「……お前、俺の幸せ、何か、知ってんの?」

そう言う兄の声は急に低くなり、私は思わず「え?」と声を漏らした。

すると、兄は左手で私の足首から太股をなぞりながら、私に接近してくる。そして、顔と顔が触れそうになった瞬間、私は兄に掴まれていた右手で咄嗟に兄の口を覆った。だが、予想外なことに、兄は私の手の平に何回もキスをしてきた。

それに動揺してしまったのか、私はこの体勢に耐えられなくなって、そのままソファに倒れ込んでしまう。すると、兄の足と私の足は交差し、余計密着した。

その衝撃で兄はやっと我に返り、目を見開いて、至近距離の私をじっと見つめてくる。私は恥ずかしくて、空いている左手で真っ赤な顔を隠した。

そして、数秒の沈黙の後、むくっと兄は起き上がり、床に落ちていた包帯を拾って、私の右手に巻いてくれた。

「…今のは、怪我が治る魔法」

そう言って、兄は口に指を当て、悪戯っぽい笑みを浮かべる。私は驚きのあまり、呼吸さえ止停止して、瞬きだけを繰り返した。

「…そんなわけあるかぁっ!!」

私はごくりと唾を飲み込んでから、大声を張り上げながら、兄に全力の拳を振るうが、私の上には兄が乗っているので、どうしても避けられてしまう。くそぉぉっ。

「はははっ、お前、何、兄に発情してんだよ」

そう言って、兄は腹を抱えて大爆笑し始め、目じりに涙が浮かぶ。

「ま、俺としては嬉しいこと限りな…」

「死ねぇ!!」

私は兄の言葉を遮り、ソファの上に置いてあったクッションを兄に思いっきり投げつける。すると、それは兄の顔面に命中した。ざまぁ。

「いってぇ…ったく、いいから飯でも食えよ。じゃないと、今度は襲われた時も負けちまうぞ。なぁんてな」

そう言いながら、兄は不機嫌そうな私の頭を撫でると、すぐに私の上から退いて、扉へと歩み寄っていく。

「今度とかないから!」

そう言って、私は急いで起き上がり、兄に向かってもう一度クッションを投げつける。だが、兄は「おやすみー」と言いながら、私の一撃を簡単に避けて、足早にリビングを出て行った。

私はぷくっと頬を膨らませながら、先ほど落とした携帯を拾う。すると、画面に映っていた「朝比奈美咲」という名前を見て、兄の言っていた言葉を思い出した。

「そりゃあ、好きなんじゃねーの?」

私は美咲君が好きなのだろうか。

分からない。分からない。分からない。美咲君のことを考えたいのに、頭が兄で埋め尽くされる。

触れられた右手が火傷したかのように熱い。だから、私は自分の冷たい左手で触れた。まるで、今回のことを忘れてしまおうとしてるように。



俺は足早にリビングから逃げ出した直後、扉前でしゃがみこんで、真っ赤になっていた顔を伏せ、大きなため息を吐いた。

ヤバい…ヤバいヤバいヤバいヤバいっ。我慢が出来なくなってた。

それにしても、あいつも顔を赤くしてたということは、俺があいつを意識してしまっているように、あいつも俺に意識しているって、少しは期待したくなる。

俺はあいつに本心を知られるわけにいかない。だって、知ったら、お前は俺の傍から居なくなってしまうから。俺は何よりもそれが怖い。

だから、俺に近づき過ぎないでくれ。触れないでくれ。優しくしないでくれ。微笑みかけないでくれ。そんな嘘をお前にもつければいいのにな。

俺はどんなにお前を見てるのが苦しくなっても、どんなに辛くなっても、ずっとお前を見続ける。だって、好きだから。好きになっちゃったから。

俺はお前の隣でずっと恋をしていたんだ。ただずっと、ずっと、これからも。




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