私と兄と日常
私は目覚まし時計の音で目の覚ました。
重たい目蓋をゆっくりと開いて、うるさく鳴り響く目覚まし時計を止める。そして、口元に手を当てて欠伸をしていると、布団の中にある大きな物にぶつかった。
嫌な予感がして、私は布団をそっと捲る。すると、そこには可愛い寝顔の兄が「すぅすぅ」と吐息をたてて寝ていた。何だ、可愛いな、おい。
私はため息を吐いてから、状況把握の為に思考回路を必死に働かせた。
たぶん、昨日は日曜日だったはずだから、今日は月曜日で学校。めんどくさ。
そして、平日のこの時間からして、現在リビングには出かける直前の母親と父親が居るだろう。家族の一人として、見送るぐらいはしておきたいのだが、眠すぎて体が布団から出ようとしない。今、この瞬間も、瞬きを繰り返していないと新たなる眠りについてしまいそうなぐらい眠くてしかたがない。
これも全て兄のせいである。まぁ、挑発に乗ってしまった私のせいでもあるけど。
昨晩、私は兄と格闘ゲームで勝負をしていたら、いつの間にか寝てしまっていたのだ。勝ったら、兄は私と寝る。私は現在着用しているパジャマを変える条件で戦ったけど、この状況は所謂「敗北」ということだろうか。ないない、だって私が負けるはずないもん。
ちなみに、私が着用しているパジャマとは、露出度の高いピンク色のワンピースで、兄は黒のタンクトップに赤のハーフパンツ。というか、待って。なぜ、そんな物を着ているのかという言い訳をさせて。いや、させてください。
昔、私は兄との勝負に負け、兄の所望したパジャマを着ることになった。その際、兄は妹である私にエロいワンピースを所望したのだ。まぁ、約束とはいえ、ずっと着続けてる私も馬鹿だと思うけどさ、大半は兄貴のせいだよ。でも、裸Yシャツとか言いださないだけ良かったかな、うん。
とにかく、私は勝負中に寝てしまった為、後半の記憶が全く無い。その上、なぜか二日酔いみたいに体がだるい。己、ブログも更新出来なかったし、責任とってもらおうかっ。
そんなことを考えていると、布団の中から小さな呻き声が聞こえ、兄の顔が出てきた。すると、兄は起き上がり、頭を掻きながら私の顔をじっと見つめてくる。まつ毛ながっ。
傍から見れば睨めっこしているかのような状況の中、私はつい興味本意で兄の髪に手を伸ばした。
兄は「男なのにストレートとかかっこ悪いだろ」とか言って、いつもはワックスで髪を整えてるので、ストレートヘアーの兄は新鮮だ。というか、こうゆう綺麗な髪を見てると、つい弄りたくなる女の子の悪い癖が発動してしまった。え、私、女の子ですよ。こいつのほうが可愛いけど、私が女でこいつが男です。
そんなこんなで兄がようやく目覚めたようだ。
「…ん、あぁ…おはよう。妹ちゃん」
え、誰?。私、寝ている間に子供産んじゃったのかな?。って、誰とのだよ!。
「おはよう。って、そうじゃなくて、何で兄貴が私の部屋に居るの?」
「そりゃあ、俺がゲームで勝ったからっしょ?」
「は?、別に負けてな…っ」
と私の言葉を遮るように、兄は私の腕を軽く引っ張る。それが予想外なことだったので、私は簡単に体を持っていかれ、兄に抱きしめられたまま、ベットへと倒れ込んだ。
「ちょっと、兄貴!」
「いいじゃん、どうせお前も眠いんだろ?。もう一度寝ようぜ?」
そう言って、兄は私の露出している肩に顔を埋め、すぅーっと匂いを嗅きながら、背中を指でなぞってきた。近すぎて鮮明に聞こえる吐息、生暖かい体温がくすぐったくて、私は兄の服の裾を引っ張り「止めろ」と告げる。だが、兄は全く止めようとしない。
「…止めないと、兄貴のワックス捨てるぞ?」
私が眼光を鋭くさせて言うと、兄はビクリと身震いをしてから「スミマセン」と返事した。すると、私から離れ、ベットの上で伸びをしたり、ごろりと寝っ転がったりしていた。お前は猫か。
そう思いながら、私は起き上がり、ベットから立ち上がって、着替る為にタンスの前に歩み寄った。
「支度。時間かかるんじゃなかったっけ?」
その通り。兄は女の私より支度に時間がかかる。まぁ、女なのに、支度が10分程度で終わる私もどうかと思うけどさ、男なのに、髪を念入りにワックスで整えたり、耳にはピアスをつけたりする男もどうかと思うよ。
「んー、ま、大丈夫じゃね?。大丈夫大丈夫」
そんな兄の言葉を「そう」と聞き流しながら、私はタンスを開いた。そして、背中のチャックを開き、着ているワンピースを一気に脱いで下着姿になる。
あ、別に痴女とかじゃないよ。ただ、兄には見られたことがあるから、隠す必要性を感じないだけ。
「ていうか、兄貴は私の匂い好きって言ってたよね?。なのに、何で香水とかつけるの?」
そう私が問いかけても、兄は気を遣ってくれてるのか、こちらを見ようともしなかった。一緒に寝ようとした奴が、今更気にすることか?。
「いや、俺はこの匂いが特別好きってわけじゃなくて、この匂いがお前の匂いだから好きなだけっつーか。まぁ、そうゆうことだよ」
という兄の言葉に耳を傾けながら、私はタンスから取り出した真っ黒なタイツを履いた。
「…全然、いい匂いなのにね」
「ま、そうだな。でも、お前と一緒なのは嫌だ」
そう会話を交わしながら、私はタンスから取り出したスカートを穿いた。やっぱ、話しながらだと時間がかかるな。
「あれ、もしかして拗ねてた?」
「ちげーよ、別にそんなことで拗ねたりしねーし」
「じゃあ、どうしてさ。シスコンの癖に」
そう言いながら、私はタンスから取り出したセーラーブラウスを羽織った。
「ああ、シスコンですよ。でも、シスコンなりの拘りがあるんですよ。だから、もちろんお前が嫌いだってわけじゃねぇよ」
「それは知ってるよ」
「え、何?、ナルシ?」
兄は私をからかっているようで、悪戯っぽく笑いながら問いかけてきた。
「兄貴だけには言われたくない」
私は等身大サイズの鏡の前に立ち、自分の姿を念入りに確認した後、胸元にリボンを結んだ。
そして、近くにあった棚から櫛と赤いリボンを取り出し、髪を梳かそうとした時に「おーい」と兄が声をかけてきた。私は振り返り「何?」と問いかけながら、兄はこちらに向かって手招きしてきたので、明らかに怪しいが、私はため息を吐いてから、ゆっくりと兄に歩み寄った。
すると、兄は私が持っていた櫛とリボンを私から奪い取った。これは「俺がやってやるぜ」的なことだろうか。私はリコちゃん人形じゃないんだぞ。
「変な髪型にはしないでね」
と言って、私は兄の膝の上に座った。すると、兄は「かるっ」と言ってきたので、私はギロリを兄を睨み返した。
「えぇー、兄ちゃんはお前のツインテール姿が見てみたい気分なんだけど…」
「本当に止めて」
そう言いながら、私は兄の腹を肘で小突いた。
私の髪はとても繊細である。だから、三つ編みをした時は実験に失敗した爆発頭みたいになった。
「ちぇっ、分かった分かった分かりました」
と兄は口を尖らせて返事をする。というか、何で3回も同じこと言ってんの?。普通は2回返事して「返事は1回」ってツッコむのが定番というか、お決まりじゃないの?。
そして、兄は慣れた手つきで私の髪に櫛を通した。もう美容師にでもなればいいのに。
1回やらせれば、完璧にやり熟せる。それは誰もが憧れる能力のはずだけれど、その能力を持っている兄にとってはただの重荷なのだ。つまり、長所であり短所でもある能力。
そんなことを考えてる間に、兄は私の髪を梳かし終わっていた。あらあら、さっきまでボサボサだった髪がサラサラ髪になってるよ、奥さん。こんな早くて綺麗に出来るのに、何とお値段はタダ。今すぐお買い求めください(笑)。
「よしっ、完成っと」
そう呟いて、兄は私の後頭部に赤のリボンをつけた。なので、私は立ち上がり、等身大サイズの鏡に歩み寄り、自分の姿を凝視した。
「おお…っ」
予想外の綺麗な仕上がりに、私は思わず歓喜の声をあげる。それを見ていた兄は「へへん」と誇らしげに胸を張っていた。あーすごいすごい。
「んじゃ、俺も用意してくるから、お前は朝ご飯の準備宜しくなー」
そう言いながら、兄は立ち上がり、部屋を出て行った。
「うん……って、今日から1ヶ月間、家事は兄貴が担当じゃん!」
そう言って、私が振り返った時には兄の姿はなかった。くそ、損したっ。
私は仏頂面のまま、教科書などを詰めた鞄を肩にかけた。そして、朝食を作るべく、部屋から後にした。
あれから、私は身支度を済ませ、朝食を作ろうとキッチンに向かった。
めんどくさいから、兄の朝食だけ作ろう。ジャムつけたトーストと牛乳でいいっかな。たぶん、兄は「私が作った」という過程があれば喜ぶだろうし。
私は牛乳だけでいいや…って、別に胸を大きくしたいとか、そんな不純な動機じゃないよ。ただパンを焼くことすらめんどくさいだけであって、大きな胸にはこれっぽっちも興味ない。大体、最近は貧…じゃなくて、慎ましい胸の人のほうが好きって人も増えてるし。
そんなことを考えながら、朝食の用意をしていると、身支度を終えた兄が来た。
「えぇ!?、なんか手抜きじゃね?」と文句を言いながら、兄は朝食が並べられてるテーブルの椅子へと着席した。ちなみに、私と兄は向かい合わせで座っている。
そして、兄は結局トーストを咥えた。それを確認してから、私は目の前で牛乳を口にした。
「お前それだけ?、そんなんだから成長しないんだよ。背とか胸とか」
と言って、兄はクスクスと笑いだした。牛乳でもかけてやろうか、こいつっ
私は苛立ちを押さえる為に、テレビのリモコンを手に取り、ボタンを押す。すると、ブチっと音と共にテレビは色づき、画面では巷で噂の「おはない」という誕生月占いがやっていた。別に占いは信じたりしないけど、重いニュースよりはいいだろう。
その占いでは、今日の1位は1月で、最下位は12月。ちなみに、私は7月2日生まれなので二位だ。まぁまぁ悪くないだろう。
だが、問題なのは1位の1月でもなく、1番微妙な6位の4月でもなく、最下位の12月である。なぜかというと、兄が12月生まれだからだ。
私が兄に視線を向けると、兄は口元に笑みを浮かべているものの、顔色が曇っていく。そんな顔で見つめてくるので、なんか怖い。というか、これは私の運が悪いだけの気がする。
「…どうしよう。俺、今日で死ぬかもしれない。いや、それとも、お前に彼氏が出来る。何だ、それ、ある意味死ぬ。というか…」
そう死んだ目で言い続ける兄に、私はただ「大丈夫」と念じるように語り続けた。怖い怖い怖い怖いっ。
そんな中、私達は朝食を終えた。
そして、私は家の敷地内に置いてあるパンクした自転車を見つめている。なぜかというと、元を辿れば、兄のせい…というか、兄の運のせいだ。
昨日、私が個人的に使った時にはパンクしていたのだが、今日の兄に言っても「俺のせいだ」とまた言いだすに決まってる。それが私が悩んでること。つまり、あんな占い如きをめちゃくちゃ信じる兄のせいだということだ。
まぁ、自転車がパンクしてると漕ぐ必要がなくなるので、個人的には得はしているのだが、何で私がこんなに悩まなきゃいけないんだ。くそぉっ、やってられるか、こんなもん!。
ちなみに、この自転車通学は青春真っ盛り中の男女みたく、漕ぐ男子に女子が抱き着くようなトキメキシーンではない。日向兄妹の場合、妹である私が必死に漕ぎ、兄が後ろで楽をしている。
「普通、逆だろう!」と私も最初はツッコんだが、今では「しょうがない」という一言で済ましてしまっている。めんどくさいから。
私は下ろしてる髪を揺らしながら、しゃがんでパンクしているタイヤを突く。どうにか動いていただけませんかのぉ。
そんなことをしていると、玄関から兄が出てきて、鼻歌を歌いながら鍵を閉めた。ゲッ、もう来たのか。
「なぁーに、してんの?」
と言いながら、兄は私の元へと歩み寄ってきた。私はしょうがなく「ん」と合図をして、目の前にある哀れな自転車を指差した。
「うわっ、何だよ、これ!?」
兄は頭を掻き「俺のせいかぁ」とまた落ち込んだ。
「…ま、しょうがないよ。徒歩で行こう」
「え、お前、歩けるの?」
こんな状況下だというのに、兄は悪戯っぽい笑みを浮かべて、私をからかってきた。私は生まれたての小鹿か。そこまでひょろくないですよ。
「なんなら、俺がおぶろうか?、お姫様だっこか?」
兄は落ち込んでいた暗い表情を急に一変し、指をいやらしい手つきで動かした。
「絶対すんな。というか、それは兄貴が私の太股に触りたいだけじゃん。って、何で兄貴が幸せになってるのっ」
「不幸な兄に少しは癒しをくれてもいいんじゃないの?」
そう言うと、兄は口を尖らせる。おいおい、元気なかったんじゃないのかい!。
「必要ありません。それより気をつけなよ。今日は運悪いみたいだからさ」
「あ、お前、今デレただろ。なんか、今日は逆にハッピーデイな気がしてきた」
そう言った兄は満面の笑みを浮かべ、後ろから私に抱き着いてきた。溝に足でも嵌めちまえ。
「調子に乗るな」
と言って、私は兄を振り払い、先に門を出た。すると、慌てた兄は私の後を追ってくる。そして、私達は通学路である海沿いの歩道を並んで歩きだした。
私はこの町が好きだ。図書館がないことは欠点だが、静かで空気もおいしいし、風景も絶景だ。地球上とは思えないほど、とても美しい町。
そんな風に人が感傷に浸っているというのに、隣を歩いている兄が「ねぇねぇ」と声をかけてくる。うるさいなぁ。
私は鞄から分厚い本を取り出し、栞の挟んであるページをぱらりと開いた。そして、垂れ下がる邪魔な髪を耳にかける。
「騒ぐのは結構だけど、私の読書は邪魔しないでね」
「おいおい、そんなことしてると友達減るぞ…って、もともと居ないか」
兄の言葉を聞いた瞬間、私は咄嗟に持っていた本の踵で兄の頭を殴った。いや、居るし、別に少ないだけだから。私は友達が少ない。
「大丈夫。友達の前ではしないから」
「いやいや、兄も構おうぜ。っていうか、この俺の隣を歩くつーのに、無視して読書するとかありえないから」
今の言葉、私の耳には「自分の隣を歩きたい女子はいっぱい居るんだから、歩く時はそれなりのことをしろよ」という自慢にさえ聞こえる。
私が「そりゃ、どうも」と素っ気なく返事をすると、兄は海側に装着されている柵へと乗っかり、両手を広げてバランスを保ちつつ、私と同じ速度で柵の上を歩きだす。おぉ、すごいバランス力だな。でも、私なら死んでもやらない。
「…あのさぁ、話あんだけど、聞いてくんない?」
別人だと勘違いしてしまうぐらい真剣な声色だったので、私は素直に「いいけど」と返事を返し、持っていた本を鞄に仕舞った。私に視線を一度向けると、兄は重たい口を開いた。
「…知ってるか?。最近、この町で変な事件が多発してんだよ」
「変な事件?」
「なんかさ、同一犯の仕業かは知らんけど、急に人が姿を消したり、まるで別人になってたりしてんだってよ」
「その…人が消えるのは、誘拐という立派な事件かもしれないけれど、別人みたいに変わるっていうのは、ただ整形したとかじゃないの?」
この住民の少ない静かな町には、人気が少ないので誘拐はかなり多いほうだし、整形だったら、街に行けば誰だって出来る。私には、これが「変な事件」という名で呼ばれる意味が理解出来ない。
「そうだな。それだけ聞くと事件ってほどのもんじゃねぇ。でも、もし…もしも、それが沢山一気に起こったら?」
「それは…大事件だね」
「ああ。学校の生徒の中にも結構居るらしくてよ、俺のクラスじゃ異常現象扱いだ。お前のクラスでは噂になったりしてねぇの?」
「してないね。確かに1人休んでる子が居るけど、先生が風邪って言うから、みんな信じ込んでるよ。一応、まだ中学生だしね」
あれ?、休んでる子の名前って山田さんだっけ?。いや、田山さんだっけ?。とにかく、眼鏡のクラス委員でいつも疲れた顔してた人だったと思う。
「さすがに、こんだけ事件が多発すれば知らない奴は居ないが、あいつ等…大人達はどうにも秘密にしたがってるようだ。被害者の奴に同情してるのか知らねぇが、こんな情報だけじゃお前を確実に守れる方法が見つからねぇ」
「いや、自分の身ぐらい守れるよ」
「それは絶対なのか?。確信があって言ってるのか?。俺は言ったはずだ。確実に守れる方法って。もしものことがあってからじゃ遅いんだ」
兄は柵から歩道へと降りると、私の肩を力強く掴んだ。
すごく…すごく真剣な目だった。私と同じ真っ赤な瞳のはずなのに、真っ直ぐ過ぎて怖くなる。だからか、私は咄嗟に目を逸らした。
「…私が言いたいのはさ、兄貴は自分のことも考えるべきだってことだよ」
私は小さい声で呟くように言うと、兄は察したようで、私の肩から手を離した。
「……悪い予感がするんだ。誰かが俺を不幸にしようとしてるみたいな」
「それなら尚更じゃん」
「違う。だって、俺にとっての不幸ってのは、お前が俺から離れて行っちまうことだから」
その言葉は、とても嬉しい言葉のはずなのに、なぜか寂しくなった。だから、私は「旭」と彼の名前を口にした。
「つまり、俺が言いたいのは、お前を一人で帰らせるのが心配だってことだよ」
「でも、別に殺されるってわけじゃないんでしょ?。それに、それだけ噂になってれば、警察が見回りとかしてるんじゃないの?」
「さっき言っただろ。大人達はこのことを隠してる。だから、警察は全く動こうとしない。こんな犯人が野放しになっているところで、絶対に殺されないって可能性がどこにあんだよ?」
ここは、私にとっての理想郷だった。静かで、平和で、綺麗な海みたいな世界。
そんな町に事件が起きるなんて、私は受け入れたくなかったけれど、今の私には否定の言葉が思いつかなかった。
「とにかく、お前を一人で帰らせるわけにはいかない。だから、俺が用事終わるまで待ってろ。兄からの命令だ」
「…その用事って、一体何なの?」
そう問いかけると、兄は「これだよ」と言って、鞄の中からハートシールの貼ってある可愛いらしい手紙を取り出した。ラブレターじゃねぇか!。
「たぶん、告白だから早く終わるし。な?、待っててくれるだろ?」、
と言うと、兄は最後にとっておきのウィンクをしてきた。うわぁ、断る気満々。ホント性根の腐った最低野郎だぜ。
呆れたというか、呆れきった私は、止めていた足をまた動かした。