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郵便屋の仕事(1)

はじめまして。

藍崎どーなつと申します。

読みにくい文章となっています。ごめんなさい。

がんばって書きますので、よろしくお願いします。

「……はぁ」

 握り締めていたペンを置き、一息つく。

 後一文で今日の依頼は終了だ。気合を入れなおす。

〔~の場所にありますから、大切に使ってください。これからもお元気で〕

 もう一度ペンを握りなおして、最後の一文を書き終わると、今度こそペンを放り投げた。


 これは、僕の仕事だ。

 手紙の代筆をして、頼まれた住所まで配達。あと、依頼があればその後の「送り先」の経過の報告をすることもある。

 まっとうな職なんかじゃない。

 というよりも、依頼人が「死んだ」人間では、まっとうも何もないだろう。


『もう書き終わったんですか?』

 さっきまでどこかに行っていたはずの今日の依頼人がいつのまに帰ってきたのか、僕の手元にある紙を覗き込んだ。黒い髪の毛がさらさらと僕の手に触れそうになるのを少し体を動かしてかわす。そのまま不自然じゃない程度に距離をとり、目の前の女性に尋ねた。

「終わりましたよ。今日はもう遅いので、配達は明日でいいですか?」

『かまいません。急ぎではありませんから』

 長い髪を低いところで束ねた30代ぐらいの女性が、苦笑いを浮かべて部屋を浮遊している。

「事後報告はいりますか?」

『いえ、必要ないです。

 私が突然死んでしまったものですから、残った主人と娘が心配だっただけですから』

 女性は、さらに苦笑いの「苦い」の部分を強めて笑った。

 僕はその様子を気にすることもなく、背後の戸棚から真っ青な封筒を取り出して宛名と差出人を書き込む。

「宛名は田村健二様、差出人田村鈴子……で、間違いありませんよね?」

 最終確認のようにたずねると、女性……田村さんはしっかりとうなずいた。

「では、間違いなく」

 宛名と差出人を書き込んだ封筒に80円切手を貼り付け、「郵便屋」と書かれた判子を押す。

「明日の正午にはお届けしますので、気になるようだったら直接見に行ってください」

 客相手に礼儀の無い態度だという自覚はあるが、直すつもりも無いので素っ気無くそう言うと、田村さんの目を覗き込んだ(といっても、僕が覗き込んでいるだけで彼女からはフードで隠れて僕の目は見えない)。

 彼女は気にした様子もなく、『ありがとう』と言って笑うとふっと消えていなくなった。


 時刻は真夜中の1時。

 僕は大きく伸びをしてからそのまま畳に寝転んでそばにある布団を手繰り寄せる。

 電気はつけっぱなしで目を閉じた。

 

 基本的に、僕の睡眠時間は「一般の人」と比べると極端に短い。

 何故なら僕のお客さんは、時間なんて気にすることもなく店に入ってくるからだ。

 自分たちもついこの間まで生きていただろうに、死んでしまって魂だけの存在になって、眠る必要がなくなった途端、時間の感覚がなくなるらしい。

 いい迷惑だ。でも、仕事だから仕方がない。


「……いらっしゃい」

 気配を感じて目を開けると、既に次のお客さんがお待ちかねだった。体を持ち上げてぼんやりする頭がしっかり覚醒するのを待つ。ちらりと時計に目をやると、まだ寝始めてから1時間しかたっていない。

 今日はもうこれ以上眠れそうにない。明日まとめて配達に行って、帰って寝よう。

 お客さんを前に失礼だとは思うが、隠すつもりもなく欠伸をして、どうでもいいことを少しだけ考える。

 明日も中学校は行けそうにに無いな。行くつもりもないけど。

「代筆ですか?」

 ようやくしっかり覚醒した頭を持ち上げて尋ねる。目の前にいる茶髪の髪にゆるくパーマをかけ、短いスカートにサンダル姿の若い女性が小さくうなずいた。

『彼氏に、手紙を』

「代償のお支払方法はいかがなさいますか?」

『……魂で』

「かしこまりました」

 きっと、この人は死んだばかりなんだろう。

 近くにいた「同類」に僕のことを聞いたのかもしれない。

 「魂」で、という声に、若干の抵抗が見られた。死んで時間がたっている人ほど、こういう「商売」があることを知っている場合が多いのだ。

「では、お手紙の内容をお伺いしますので、書きたいことを全部しゃべってください」

 僕が当然のように言い放った言葉に、彼女は首をかしげる。

『……全部?』

「はい。覚えますから」

 女性は、少しうろたえたようだが、小さな声で手紙の内容をしゃべりだした。


「では、以上でよろしいですか?」

『はい』

 女性の言った手紙の内容は、一般的な恋人に向けた別れの手紙だった(当然、僕には恋人がいない。他のお客さんもこういう手紙を書きたがるから、一般的だなと判断しただけだ)。

 ありきたりだなー、つまらないなー、なんて失礼な感想を抱きながら、僕は次の言葉をつむぐ。

「それでは、先に代償を頂戴いたしますね」

 僕のその言葉に、女性が見るからに緊張した面持ちに変わった。きっと「魂で支払い」という未知のものに恐怖を抱いているんだろうな。彼女から漂う雰囲気が緊張したものに変わる。

 それに気づいてはいたけれど、僕は気にせずに指を女性に向けた。

 

 時間にして、一秒にも満たない。

 魂の回収は終了する。


「はい、ありがとうございました」

『え、もう終わりですか?』

 案の定、女性は拍子抜けしたように目を瞬かせていた。

 僕は、少しだけ苦笑いを浮かべる。

 といっても、目元までフードで隠しているので、ほとんど表情は見えていないだろうけど。

「はい。終わりです」

『……簡単なんですね。魂で支払いって言うから……』

 こう、なんていうか、痛いのかな、とか、マンガであるみたいな……と、女性はもごもごと口ごもりながら言う。そういう彼女の意図がわかり、僕は口を開く。

「簡単ですけど、魂で支払いってことは「この世にいられる時間」を縮めていますから、あんまり魂でばかり支払いしてると、すぐに消え去ってしまいますよ」

 僕にしてはおせっかいなその言葉を彼女に投げかけたのは、手紙の締めの文章が、いかにもまた手紙を書きます、と言ったものだったからだ。しかもさっきの台詞。いかにもこれならまた手紙をかけそうだと言っていた。このままでは何も知らずに消え去ってしまいかねない。一応お客さんだから、サービスだ。

 魂で支払い、ということは、生きている人間で言う「寿命」で売買をしていることに等しい。

『肝に銘じておきます』

 女性はここに来てようやくゆるく笑った。


「では、僕は今から書きますので、ここにいてもらっても結構ですし、どこかに出かけていただいてもかまいません」

『あ、はい。よろしくお願いします』

 女性は、また小さく頭を下げると、ご丁寧にドアをすり抜けて出て行った。

 僕は独りになった室内で、ペンを握り締めた。

11月19日 少し修正しました。

3月1日 修正しました。

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