私に御執心な姉の婚約者にウソ手紙を残しました
仄かな温もりを感じる風、木々の芽の膨らみ。
日増しに春の兆しを目にするようになってまいりましたね。
いかがお過ごしでしょうか。
えっ、一昨日会ったばかりですって?
そうでしたね。
いえ、私もこんな手紙を残すつもりはなかったのですけれど、急に発たねばならなくなりましたので。
ウォルトンお義兄様におかれましては、随分私を構ってくださいましたね。
パーシヴァル伯爵家としてはセシリアお姉様であろうと私であろうと、コールリッジ伯爵家と結ぶ政略という意味ならどちらでもいいはず。
ならば婚約者は私のほうがいいと、お義兄様は思ってくださっていたのでしょう?
光栄です、ありがとうございます。
しかしお義兄様の父君ブルーノ様に強硬に反対されたのでしょう?
私みたいなふざけた娘はダメだと。
淑女のお姉様にしろと。
それでもウォルトンお義兄様は、私の何がダメなんだと思っていたようですけれど。
頭を冷やしてくださいな。
燃え上がっていたのはお義兄様だけですからね?
むしろどうしてお義兄様ほど優秀な方が私に拘っていたのかわかりません。
セシリアお姉様は素敵な淑女ですよ?
えっ? 私こそ淑女ですって?
パーシヴァル伯爵家嫡男のウォルトンお義兄様が誘惑しても靡こうとしなかったって?
婚約者の妹を誘惑した自覚があるのではないですか。
実によろしくないですね。
逆にお義兄様は私のどこがよかったのですか。
価値観が似ている、ですか?
魂に共鳴するものがある?
かもしれませんね。
だって私はウォルトンお義兄様の実の妹ですから。
驚かないでくださいな。
ブルーノ様が強硬に反対する理由がおわかりでしょう?
私がお義兄様ほどの美形貴公子に言い寄られて心を動かさなかった理由も。
そういうことなのです。
この件についてはお義兄様を含めて、事実を知らない人がほとんどなのですよ。
私だってお義兄様に言い寄られなければ、告白するつもりはありませんでした。
この手紙は必ず焼き捨ててくださいね。
まだ朝は暖炉に火を入れると思いますから、自然に燃やせるでしょう。
ウォルトンお義兄様……お兄様がこの手紙を読む頃、私は既にジャッジランド辺境伯領に旅立っていると思います。
彼の地はとても遠いです。
私がお兄様に会う機会はもうないと思います。
お兄様はマキシー・ジャッジランドなんかのどこがいいって仰ってましたけど、強くて優しい殿方ですよ。
お兄様も本当はわかっていらしたと思いますけれど。
マキシー様と婚約が決まって、わたしはとても嬉しいのです。
私達は異郷で幸せになります。
そしてウォルトンお兄様とセシリアお姉様の幸せを願っております。
あなたの妹ルシールより。
――――――――――
ウォルトンお義兄様宛ての私の手紙を読んだセシリアお姉様が呆れています。
「あなたがウォルトン様の妹って、丸っきりウソじゃないの」
「方便と言ってもらいたいですね。事態を丸く収めるのに必要なものですから」
「ルシールって……策士ね」
「恋する女の手練手管なのです」
「まあ確かにマキシー様を落とすのにあの手この手でしたものね。わたくしにはできないことだわ」
お姉様が不器用だから、私が骨を折って作戦を立てているのではありませんか。
ウォルトン様とお姉様がうまくいかないと、コールリッジ伯爵家とパーシヴァル伯爵家の間がギクシャクしてしまいますものね。
実家が揉め事を抱えたら私まで迷惑なのです。
ため息を吐くお姉様。
「まったく結婚も間近だというのに、今更ウォルトン様はウダウダと」
「まあまあ。真面目な殿方ほど、結婚って覚悟がいるらしいですからね」
お義兄様もこれでいいのかと不安になってしまったのでしょう。
それでお姉様よりも私のほうがいいように錯覚してしまった。
お姉様は腹の据わったいい女ですのに。
お義兄様だって優秀な令息ですから、この手紙で目を覚ますと思いますよ。
「私から見て自慢のお姉様なのですよ」
「ルシールに褒められると、裏があると勘繰ってしまいますわ」
「ウォルトンお義兄様は自信家です。私がお義兄様を見ても、顔を赤らめたりしないで普通にしていたでしょう? だから意地になっただけと見ているのですがね」
「ルシールの好みは、マキシー様のような朴訥とした大男ですのにねえ」
「真の男子って感じがするじゃないですか」
「ちょっとわかります」
マキシー様のお爺様に当たる先代辺境伯様の具合が悪いそうなのです。
それで王立学院の卒業まであと一ヶ月あるのですが、急遽マキシー様に同行して辺境伯領に行くことになりました。
孫の婚約者の顔を見せたいということで。
私はもう王都には帰らない予定です。
「学院の卒業証書はあとで辺境伯領に送りますからね」
「助かります」
「でもルシールがブルーノお義父様の胤だみたいな、デタラメを言っていたことがバレたらどうするのですか」
「ウォルトンお義兄様が黙っていれば済むことですよ」
「お義父様に真偽を確認するかもしれないでしょう?」
「その時こそお姉様の出番です。ルシールのおふざけですよ、ウォルトン様ったらこんなの真に受けてぷぷっ、でお終いです」
「……ひょっとしてあなた、お義父様におふざけ令嬢って言われたの根に持ってます?」
「しっかり根に持っています」
私をバカにした罰です。
まあブルーノ様もお姉様には文句のつけようがないでしょうから、特に問題はないと思われます。
私を悪者にしておけばいいですよ。
「そうなった時のお義父様の顔は見ものですね」
「お姉様も随分不謹慎ではないですか? 私も見たいですけれども」
「この手紙はあなたの出発の日以降、ウォルトン様に渡せばいいのね?」
「はい、お願いします。この手紙を読んだウォルトンお義兄様の様子を観察できないのは残念ですねえ」
ウフフオホホと笑い合います。
そう、笑える家庭っていいですよ。
私は幸せになります。
お姉様も幸せに。
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