箒一本で世界を滅ぼすつもり？！～新しい使用人の正体～
（ノーラです）
人生は不公平だ——これは私が学んだ最初の教訓だった。ある朝目覚めると、何世代にもわたって築き上げてきた我家の財産が、煙のように消え失せ、私たちに残されたのは貴族の肩書きと、今にも崩れ落ちそうな廃墟同然の屋敷だけだった。
「お嬢様！階段！階段に気をつけて！」
老メイドのマーサの叫び声に、私ははっと我に返った。父へのスープを運んでいる最中だったが、支払えない請求書のことで頭がいっぱいだった。下を見下ろすと、木製の階段の一段が完全に抜け落ちており、この古い屋敷が私を飲み込もうとするまたひとつの試みのようだった。
私は短い悲鳴をあげ、転倒し、スープを散らす惨事を覚悟した…しかし、それは起こらなかった。
背後から強くて確かな手が私の腕を掴み、信じられない力で私を安定させた。古びた木の床を踏む音は一切聞こえなかった。まるで虚無から現れたかのように。
恐る恐る振り返り、そして困惑した。
彼だった。新しい使用人。
「あなた…アズガルド？どうやって…？」
彼はそこに立ち、恭しくお辞儀をしながら、まだ私の腕に手を置いたままだった。その握りは岩のように固く、しかし痛くはなかった。静かな金色の瞳は、私を気遣うように見つめている。
「失礼いたしました、お嬢様。しかし、本日は階段がいつにも増して危険なようでして」
その声は柔らかく、低く、そして奇妙なほど安心させるものだった。彼は私が渡した質素で安っぽい使用人服を着ていたが、それがまるで王族の服装のように見えた。背が高く、非現実的なほどハンサムで、長い黒髪を後ろで結っていた。彼には何か不可解なもの、言葉にできない何かが漂っていた。
彼は私を解放し、一歩下がって再びお辞儀をした。
「スープは零れていません、良かった。ご無事でいらっしゃいますか、お嬢様？」
「は、はい。ありがとう」
これはアズガルドが私たちに仕え始めて三日目のことだった。数日前、彼は突然表門の前に現れ、質素な使用人募集の張り紙を見たので応募に来たと言った。私たちには給料を払う金さえなかったが、彼は食糧と住まいだけで十分だと語った。不思議な話だったが、どん底にいた私たちは、この天の助けを断るわけにはいかなかった。今、私はそれが本当に「天の」助けなのか、それともまったく別の何かなのかを疑問に思っていた。
階段を見た。壊れた段は既に取り除かれており、その横には新しい木材と金槌、釘が置いてある。
「あ、あなた…これを直していたの？」
「只の義務でございます、お嬢様。不安全な場所は、お嬢様のような方に相応しくありません」彼は、まるで階段の破損からではなく、侵略から私を守っているかのように、真剣にそう言った。
私は恥ずかしそうに頭を振り、慎重にスープの椀を再び持ち直した。
「ありがとう。お父様に食事を届けに行くわ」
「私にお運びさせてください、お嬢様。そのような重いものをお持ちになるのは相応しくありません」彼は再び進み出て、抵抗できない優しさで私の手から椀を受け取った。私は彼がどうしてそれが重いと知ったのか尋ねなかった。一度も不平を言ったことがないからだ。
彼は影のように音もなく私の後について、父の部屋まで来た。父は眠っていたので、私は椀を傍らのテーブルに置いた。アズガルドは病の父を見つめ、その不可解な瞳の表情が、あまりにも優しく、悲しげだったので、一瞬、胸が痛んだ。
「お嬢様、どうかお休みください。今日の昼食は私が準備いたします」
老メイドのマーサが、いつものように疲れた声で言った。
「心配しないで、マーサ。アズガルドさんが手伝ってくれるわ」私は彼女を安心させようとしてそう言ったが、彼女の目には強い疑念が浮かんでいるのを見た。突然現れて、突然こんなにも有用になったこの見知らぬ奴はいったい何者なのか？
私たちはホールに出た。私は本当に庭に行く必要があった。そこは荒れ果てたジャングルと化しており、債権者たちはその見た目を苦情として、彼らが我々から奪おうとしている資産価値を（どうやら）下げているという。
私はそれを、まだ私の傍らに静かに立ち、指示を待っているかのようなアズガルドに話した。
「アズガルド、後で庭を手伝ってくれない？ちょっと…広すぎて」
彼は小さく、優しい微笑みを浮かべた。
「仰せのままに、お嬢様。直ちに始めます」
「今から？でも…適切な道具がないの。前任の庭師は…」
「ご心配なく」彼は静かに私の言葉を遮った。「私が対処します」
「私が対処します」が何を意味するのか、私には見当もつかなかったが、心配するより大きな問題があった。だから私はお礼を言い、彼を前庭に残して中へ入った。
一時間後、私は古いドレスを繕おうと座っていた時、外から奇妙な音が聞こえてきた。低いうなり音のような、強い風のような、それに混じってかすかな破裂音がする。
不安が好奇心に勝った。アズガルドは無事なのか？何か馬鹿なことをしたのか？私はこっそりと庭に向かう窓辺へ…
そして目の前の光景に、文字通り口をあんぐりと開けた。
庭が…手入れされていた。
「少しマシ」とか「きれい」とかではない。
違う。
それはまるで絵画のように手入れされていた。芝生は緑の絨毯のように短く、完全に平らに刈り揃えられていた。もつれ合い野生と化していた木々や低木は、帝国の宮殿から来たかのように、完璧な幾何学的形状に剪定されていた。落ち葉さえも、完全に対称的に隅に積み上げられていた。
そしてその中心に、アズガルドが立っていた。
彼は、ありふれた、質素で、ぼろぼろの箒の柄を握っていた。しかし掃いてはいなかった。ただ、オーケストラを指揮するかのように、ごく軽く動かしているだけだった。そしてその小さな動きのたびに、汚れの一片が消え、または飛び出した枝が小さな均等な破片に分割され、魔法のようにゴミの山の方へ飛んでいった。
汗だくになるでもなく、汚れるでもなく、重い息さえしていなかった。彼は、満足気な小さな微笑みを浮かべ、まるでテーブルのほこりを払っているかのようだった。
ある瞬間、腐った大きな枝が木から彼の後頭部めがけて落ちるのを見た。彼は振り向きもせず、ただ柄を背後で素早くひらりと動かしただけだった…そして枝は細かいおがくずに変わり、太陽の下で金色の塵のように空中に散っていった。
あ…あれ…？
なに？
どうやって？
だれ？
私は窓から後ずさりし、冷たい壁に背中を押し付け、狂った太鼓のように鼓動する心臓を感じた。こ、これは…普通じゃない。この力…この精度…ありえない。恐ろしかった。そして圧倒された。
恐怖は好奇心を飲み込んだ。もっと見て、理解したいという衝動に駆られた。
私は裏口へ走り、ほとんど泥棒のような忍び足で静かにドアを開けた。
彼は庭園という見事な芸術作品の中心に立ち、背中を私に向け、静かな満足感を持って自身の仕事を見つめていた。私には見えていなかった。
そして突然、私はそれを見た。
彼が古い像の苔を掃うために少し体を向けた時、彼の黒髪の一房が顔にかかった。そして彼はそれを、目の前から軽く息を吹いて払った。
しかしその一吹き…ただの息ではなかった。
私はそれを感じた。かすかではあるが、否定できない力の波が、庭全体を通過した。そして彼の像への触れ方…石に触れたその手の下、一瞬のうちに、はっきりと見えた。
時代にすり減った石の像が、滑らかになり、磨き上げられ、まるで作られたばかりのようになった。色が戻り、時間によって摩耗した細部が息を吹き返した。
これは掃除ではない。これは…修復。理解を超えた再生だった。
そして突然、私の恐怖の視線を感じ取ったかのように、彼は動きを止めた。
彼はゆっくりと、人間離れした様子で私の方へ首を向けた。驚いてはいないようだった、むしろこれを予期していたかのように。金色の瞳は、恐怖と驚きでいっぱいの私の瞳を捉えた。
重い沈黙が降りた。それは、遠くの葉のざわめきによってのみ破られた。彼は私が見たことを知っている。そして私も、私が見たものが単なる奇妙なスキルではないことを知っている。
そして、私はそれを見た。
彼の通常は冷静な顔に一瞬の当惑が浮かび、その後、鋭い、何かを決断するような素早い眼差しが走った。そして、もう一つ。
彼の金色の瞳の奥深くに、一瞬だけ、まばたきよりも短い一瞬、輝きが見えた。深く、理解しがたい古の権威に満ちた、燃えるような深紅の色の輝き。
そしてそれは消えた。そして静かな金色の瞳が戻った。
しかし時既に遅し。私は見てしまっていた。
私の足は震えた。空気が肺に閉じ込められた。
彼はゆっくりと箒を地面に置き、深くお辞儀をし、私の目を直接見ることを避けた。
「ノーラお嬢様。庭の作業は完了しました。他に何かご要望はございますか？」
その声は相変わらず柔らかく、礼儀正しく、従順だった。しかし今、それは怪物を隠す薄い仮面のように感じられた。
私は後ずさりし、震える両手を上げた。「動、動かないで」
彼はその場に凍りつき、お辞儀したままだった。「仰せのままに」
「な、なんだったの？」私は声を詰まらせて囁いた。「今、何をしたの？あなた、何者なの？」
彼はゆっくりと頭を持ち上げ、その金色の瞳は興味深そうに私を見つめた。「私はあなたの使用人です、お嬢様。そして義務を果たしているまでです」
「嘘つかないで！」今度は声が大きくなり、恐怖に満ちていた。「だ、誰にもあんなことできっこない。これは…魔法よ。これは…悪魔の所業」
彼は静かで、残念そうな微笑みを浮かべた。「庭は今、美しい。それだけが重要ではないでしょうか」
「違う！」私は震えるドレスを握りしめて叫んだ。「重要じゃない！どうやってできたの…あの箒で…あの像を見た…あなたの瞳を見た…」
彼は微笑むのをやめた。表情が真剣になった。「ノーラお嬢様、時には…何事も知らぬ方が良いこともございます」
「私はあなたを父と二人きりにしたのよ！」私の声は今や叫びに近かった。「私はあなたを我家に招き入れたの！私は、私が人生に招き入れたのが誰なのか知る権利がある！」
彼は長い間私を見つめ、まるで選択を量っているかのようだった。私を読み取り、嘘をつき通せるか、あるいは私が真実を知るべきかどうかを。
そして彼は、彼の若々しい外見には似つかわしくない、長く深いため息をついた。「あなたは正しい。私はあなたを欺きました。それは不公平です」
彼は完全に頭を持ち上げ、まっすぐに私を見た。その眼差しは…違っていた。もはや謙虚な使用人のそれではなかった。それは統治者の眼差し。裁判官の眼差しだった。
「い、いったい…あなたは誰なの？」私は恐怖と疲労で瞳に涙を浮かべて囁いた。
彼は微笑まなかった。お辞儀もなかった。ただ、静かに、しかしその言葉は私の耳には雷鳴のように響いた。
「お察しの通り、お嬢様。私は…完全には誠実ではありませんでした。私の前世で、私が…隠居…することを決める前、人々は私をこう呼んでいました…」
彼は一瞬言葉を切り、まるで言葉を慎重に選んでいるかのようだった。金色の瞳は耐え難い重みで私を見つめている。
「…魔王と」
沈黙。
世界の回転が止まった。
魔王…？
前世？
隠居？
私の思考、恐怖、疑念…すべてがこの一語によって粉々に打ち砕かれた。
魔王。
そして私は彼を、病の父と二人きりにしていた。
狂ったように鼓動する私の心臓と、今や偽装された獣の咆哮のように聞こえる彼の静かな声以外、すべてを飲み込む沈黙が支配した。
私の謙虚な使用人は…元魔王だった？！
皆さん、こんにちは！
初めての執筆で、こんな結果になるとは正直予想していませんでした。
予想外に才能があるのかもしれませんね…？
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました！
