表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
求職の救世主  作者: こしあん大福
就職編
7/11

7話 第一王子

実に2か月ぶりの更新ですね。

乙でした。

一体どういうことなのかとライツェルは思った。王様は確かに自分達が行ったとき既に体調が悪そうではあった。しかし、そんな簡単に死ぬような状態では無かった筈だった。そこに違和感を覚えたのと、単純にどういう事かを聞くために彼は王城へと突っ走った。


城へと向かう最中、色々な人の声が聞こえた。喜ぶ声、悲しむ声、怒る声に疑問の声。様々な声があったが、確かに悲しむ声が大きいと感じたライツェルはなんだかんだで王が愛されていたんだと感じた。


城が見えてきたが、果たして入れるかどうか。まずはそこを心配しなければならなかった。


近くまで来ると、やはり記者たちが一斉に王家の門に押し寄せていた。全員が全員自分がこの事態をスクープするのだと鼻息荒くしつつ門番に詰め寄る。


門番は3人で必死に捌いていたが流石に手が足りない。必死で呼びかけ腕で防御するも限界が来ていた。ライツェルは記者の集団に混じりながらこっそり前へと進む。元より勇者としてバレてはいけない戦いで戦った事もある。これくらいの集団でならバレずに進むことは容易だった。だが、今の彼がバレた所でジョブの証明が出来ない事をすっかり忘れているのだった。


門番の前まで来るとライツェルは話しかける。


「悪いが単刀直入に言う。中に入れて貰えないか?!王の家族、王子たちと話がしたい。代弁者でも良い。とにかく今は事情が知りたいんだ。」


「どなたか知りませんがお引き取りください。今は見ての通り立て込んでおりますので。」


門番とて仕事の真っ最中。記者ならまだしも知らない不審者を門に通す程無能では無い。


「そこをなんとか頼む。俺も無理なお願いなのはわかってる。でも無視できないんだ。分かんないと思うけど俺はライツェル。元勇者だ。頼む、開けてくれ!」


その言葉を聞いた門番は、怪訝そうにライツェルを睨みつつこう言った。


「...勇者?それを証明できますか?」


「......証明かぁ。...うーん、武器とかじゃだめかな?」


「ジョブを見せてくれれば大丈夫です。」


当然と言わんばかりの表情で門番は話す。しかし、今度困ったのはライツェルの方だった。何せ彼にはジョブが無い。


「あー、そうなるのか。...今訳あってジョブを紹介できないんだ。悪い、王子に一声かけてくれるだけでもいい。なんとか出来ないか?」


「でしたら、申し訳ありませんがお引き取りください。ジョブの証明すら出来ぬ方を紹介しては私の首が飛んでしまいますので。」


そう言うと、ライツェルを半ば強制的に追い出し始める。ライツェルとてここで諦めてしまうことは難しく、慌てて門番に頼み始める。


「なあ、頼む。確かにジョブは証明できないが、代わりならある。資金が心もとなかったので売ってしまったものもあるが、勇者パーティだけが入ったダンジョンや基地の秘宝なんかも持っている。それで証明にならないか?」


食い下がるも門番は話を無視し、そのまま彼を追い出そうとする。ライツェルがそれでもと下がろうとしないのを見るや、他の門番に目配せし槍を構えた。


「次もし抵抗するようなら、貴方を攻撃しなければなりません。これが最終通告です。」


「そ、そんなっ!!...俺はただ、王様が何故そうなったか聞きたいだけなんだ!頼む、頼むよ!!」


話を聞かなかったと判断した門番たちが、ライツェルを囲み槍を構える。もはや成す術無しかと思われたその時。


「...何をしている。」


声が届き、門番たちが一斉に振り返るとそこには。


件の王の息子、第一王子が立っていた。第一王子は名前をフィリウスと言う。彼は冷たい目をしながらその光景を見て門番に問うた。


「はっ、城に入れろとこの不審人物が申したので話を聞いたところ、元勇者だと宣っています。しかしジョブの証明が出来ないという風に聞き、信用するに値しないと断りました。しかし、食い下がりずっとしつこく入れろと騒ぐため、ここでこの不審人物を捕えようとしておりました。」


「...そうか、ご苦労。だがそいつは本当に勇者だ。放してやれ。」


その言葉に、驚いたような顔をしながらライツェルを見つめる門番たち。ライツェルは安堵したように息を吐き、そしてフィリウスに微笑んだ。


「ありがとう、助かりました。」


「本当に本物の勇者様なのでしょうか?フィリウス様を疑うわけではございませんが、それならば何故ジョブを提示できなかったのでしょうか。」


門番の1人が疑うような顔でそう問う。それに対し、ライツェルが言葉を濁そうと口を開けるのを制したフィリウスはこう言った。


「私も詳しくは知らぬが、その男、ライツェルは神のお告げにより勇者のジョブを外されたとされる。......なおこの事は他言無用だ。いいな?」


その言葉に一斉に頷く門番たち。そのままライツェルを解放するのだった。


「申し訳ございませんでした。本当に勇者様とは思わず、無礼な真似を...。本当に何と謝ればよいやら...」


「いや、気にしないでくれ。むしろ君達の行動は正しい。本来ならば俺こそ淘汰されるべき側だ。君達は自分の仕事を誇ればいい。いつもこの国をありがとう!」


「ゆ、勇者様!」


門番たちがすっかり嬉しそうな顔をし始めた所で、フィリウスは言う。


「引き続き仕事に励め。...そしてライツェルよ。お前に少し話がある。着いて参れ。」


「!............承知しました!」


門番たちが見送る中、ライツェルは前を歩くフィリウスと二人の兵士に着いていくのだった。






























「改めて、助かりました。まさかジョブが無い事で就職先だけでなく、こんな事でも困るとは...。」


「まあ、そういうものだ。礼などいい。私はただ雑務をこなしたに過ぎない。」


言いつつフィリウスはとある部屋の前で止まる。


「入れ。」


その言葉に従い、扉を開けるライツェル。


「失礼します。」


その言葉と共に部屋に入り、そして驚く。


「うわあ~~~~っ、凄い部屋だなぁ!!...っと、失礼しました。」


そしてライツェルに続けて入ってきたフィリウスは、


「ふん、まあそうだろうな。この部屋は私が集めてきた大切なコレクションが飾られている。素晴らしいだろう?」


と少し自慢げに呟いた。


その部屋には、様々な絵が飾られており有名な画家の絵も多く見るのに困らない部屋だった。壁には絵やタペストリーが、床にはふかふかの絨毯、机や家具の上にはツボや皿、あるいは剣が置かれていて、それぞれが最高級の美しさを誇っていた。


そんな芸術的に光る部屋を見たライツェルは頬を上気させ、笑顔でフィリウスを向く。


「はい、とても素晴らしい部屋ですね!憧れてしまいます...。」


「ほう、この価値が分かるのか。中々いい目をしているようだな。まあ、かけろ。」


そう言って椅子に座らせるフィリウス。


フィリウスが座ると、それにつられて対面の席にライツェルも着席する。


「失礼します.........。ッ、これも凄く良い座り心地だ...!」


驚くライツェルが思わず手で椅子のクッション部を押せば、そこにはまるで雲を掴んだかのような触感であった。


「当然だろう。我が国の最高級家具を作る職人の手作りだ。悪い筈がない。」


そんな凄い部屋に通された彼は思わず嬉しそうに微笑む。この部屋に通された意味は深く考えず、ただただ今はこの部屋の雰囲気に興奮していた。


そこでフィリウスは目を兵士たちに向ける。無言の席をはずせというアピールであった。彼らは深く頭を下げ、部屋を出て行った。


と、不意にフィリウスが真面目な顔をして話し出す。


「さて、と。そろそろ真面目には無そうじゃァないか。......何となくわかるが、君の来た理由はどんなものなのかな?」


「あっ、はい。ええと、俺が来たのは二つ理由があって。一つは勿論王様の事です。王様が御崩御成されたと聞いて、心配で。」


ライツェルは顔を歪ませる。王が亡くなった。単純に考えればいいというものではない。一国の王が亡くなったという事は、その先例えどんなに手回ししてあったとしても何かしら混乱が発生する。それをどう防ぐか、というのは彼も勇者の頃考えていた事だった。


「そうか、心配してくれたんだな。感謝するよ、一応ね......。」


そのライツェルの言葉に、何処か皮肉るように呟くフィリウスの言葉には微かに笑いが含まれていた。ライツェルは言葉の微かだが確かに存在した笑みと、一応という言葉に疑問を持った。


「...一応、ってどういう...。」


「ん?...ああ、つい漏れてしまっていたか。いや、もはや隠す必要は無いんじゃあないかな。ここには誰も居ないし、この部屋は信頼のあるやつが見張っているから誰も盗み聞きも出来やしない。」


「...えっと、それでその、何の話で...?」


困惑しつつ話すライツェル。フィリウスはもはや自分の言葉自体におかしくなったのかニヤニヤとしながら含み笑いをした。


「いやいや、あまりにも上手く行ってしまったから笑っているのだよ。君のその人をまともに信じてふにゃりと笑うカスみたいなツラを見るのも今日が見納めかと思うと凄く気分がいいね。」


その言葉に、思わず目を見開くライツェル。何を言っているのだと頭が受け付けず、息を呑んだ。


「......今、なんて...?俺の、勘違いじゃ無ければ......。」


「ん?聞こえなかったかな?君のそのツラを見るのは今日が最後だと言っているんだよ。」


その言葉に、驚いたかのようにライツェルは前を見る。


「...ど、どういう事ですか?!」


「どういう事もこうも無い。私は君も父である王も何もかも全てが邪魔だった。私にとって不快な全てが今日完全に消え去るのだから喜びもするさ。...まあ、私のコレクションに喜んでくれた者に対し言うのは少し心が痛むが、それもこれも君の罪だと思って諦めてくれ。」


フィリウスはそう言うと、笑いを隠そうともせず顔に出し更に笑う。まるで今日が誕生日とでも言いたげに彼はるんるんとはしゃいでいた。


「俺の、罪?一体、どういう意味なんですか!?」


「分からないのか?君は、勇者というジョブを生んでしまったのが罪なんだよ!!!まあ今はそのジョブにすら見放されてしまったただのカスか。もはや詰みだね。まあこれこそが自分の罰だとでも思ってくれよ。」


「な、何を言っているのか本当に分からない。ジョブをつけるのは神だし、俺は君に何もした覚えがない。もし何かしたのなら謝る!一体、何のことを言っているんだ?!」


ライツェルの困惑したような顔を見たフィリウスは突如笑うのをやめる。そこには先ほど笑っていたものとは似ても似つかない程の怒りが広がっていた。


「分からない、だと?...ふざけたことを抜かす奴だな君は。そもそも君を私が消すに消せなかったのは魔王が居たからだ。魔王には勇者が居なければ勝つ事など出来ない。だから我慢してやっていたんだ。見たくもない君のツラを城で見ながらね。」


フィリウスはまるでライツェルを悪魔とでもいうかのように睨みつける。魔王という忌々しい存在さえしなければ今ごろお前など...!という表情を隠しもせず怒りを持って話を続ける。


「魔王が死んで、世界は少しずつ平和に近づき始めた。でも私の心は平和に等ならなかった。それはなぜかって?君が居るからだよ。君と、父もだね。父は本当に能天気だった。何がリンネを妻にだ。馬鹿がっ!!そんなものを与えて、また私を蔑ろにする気か!?」


顔を歪め、頭に手を添えて怒るフィリウス。顔は真っ赤に染まり、目はこれでもかという程かっぴらいていた。


「何故そんなに君を嫌うのか、君は不思議だろうね。でも考えてみて欲しいんだ。昔から私はずっと鍛錬を続けてきた。強くなろうと努力してきたんだ。この世界を救うのは自分だと信じていた。父も私が勇者になってくれればどんなにいいかと話した。私はそれを信じ、ひたすらに厳しい修行を続けた。だが現実では、君が勇者となった。ぽっと出の平民が私の役割を奪ったんだ。その時点で私は君が嫌いだった。でもまだ命を奪ってやろうなんて考える事は無かった。」


あまりのフィリウスの剣幕にライツェルは呼吸も瞬きも忘れてじっとフィリウスを見つめていたが、その顔は徐々に困惑から悲しみへと変わっていった。


「私が本格的に君を消そうと思ったのは父からリンネの嫁ぎ先を聞いた時だ。大事な妹をその勇者にやると聞いただけでも怒りが湧きそうだったが、それを凌駕したのは子孫が出来るという事だった。継承権争いに君の血が乱入してくる...。それに私は物凄く腹が立った。何故一緒に過ごしていた筈の家族ですら継承権争いをする可能性があるのに、嫌いな奴まで入れてやらねばならんのかと。君の事は嫌いだったさ。でもそれ以上に父への怒りが爆発しそうだった。心が叫んでいた。」


「そ、それは...俺のせいじゃ...。」


「そうだな、確かに君のせいではない。だが君という存在が居る時点でその話は消えない。分かるだろう?邪魔なんだよ、君は。王位継承権を君自体は持つことは無いし、父は君が断るだろうと言っていた。でもね、私は君が血の争いに乱入してくる可能性が無いとは言い切れなかった。だから余計に腹を立てたし、君にもどんなに居なくなれと祈ったか。旅の最中に魔物にやられてしまえと祈ったよ。でもその願いも空しく君は魔王を倒し、英雄となった。」


そこでフィリウスは一息つき、そして怒りを孕んだ目つきから少し哀しげな眼つきへと変わる。


「私が見て欲しかった鍛錬の成果は君に全て奪われた。父から認められたのは結局君だったね。私にとっての希望が全て覆され、君はこの国で凱旋をした。そこで、いやその前に思ったんだ。せめて、勇者は無理でも父だけでも殺してやろうと。父と君が仲良くするだのと言う悪夢から身を守るためにね。」


そう言うや否や、フィリウスは懐から何やら袋を取り出す。紙で出来たそれの封じを解くと、中からは白い粉が出てきた。


「これが何かわかるかい?」


そう言うフィリウスから目をそっと離したライツェルはその粉を見つめた。粉だけだと分からない。だが、この話の流れが嫌でもどんなものか彼に語り掛ける。


「.........もしかして、いや、ひょっとしてだけど......。毒、なのかな。」


「当たりだよ。その通りだ。私は君がこの国に手紙で魔王討伐を報告した日からずっと、父にこの薬を飲ませていた。といっても普通に飲ませるには健康状態の父に不審がられる。だから食事に混ぜたのさ。こっそり、バレないくらいの量をね。勿論シェフは知らないよ。私が運ぶメイドに黙ってもらって、こっそり皿に仕込んでいたからね。」


その言葉にライツェルは思わずフィリウスの胸倉を掴みにかかる。


「貴様ァっ!!!!よくも、よくも王を!!!!自分の父親を、そんな身勝手な理由で!!!俺が継承権などに興味があると勝手に考え込んで、実の父親に死を振るうなど言語道断!ふざけるな、そんな思いだけで王を!!!」


そんな彼の手を逆に掴むと、フィリウスは鼻で笑う。


「ふっ、そんなに熱くなるなよ。所詮は他人の家族の事情だし、継承権に興味が無いのならこれはただの王権争いさ。君が怒る理由は特に無いはずだ。」


「な、何を言っているんだ!!一国の、我々の国の王が亡くなったんだぞ!!そんな身勝手な理由で!怒らずにいられるか!!!少なくとも、彼は俺に良くしてくれた。行くあての無い俺を気にかけてもくれた。そんな人を、貴様はァっ!!!」


「...ふざけるな。...ふざけるなふざけるなふざけるな!!!!!身勝手な理由だと!?貴様にとってはそうかもしれんがな、私たち王家にとっては死活問題だ!!貴様のようなカスの血を王家として認めるくらいなら死んだ方がマシだ!!そしてそんなゴミの血を入れようとした王も同罪だ!死ぬべくして死んだのだ!!それを身勝手だとッ!!どの口で言っていやがるんだ!!貴様こそ身勝手な理由で上がってきておいて!!!」


「なっ、身勝手だと!?」


激昂したフィリウスに逆に胸倉を掴まれ壁に叩きつけられるライツェル。その上身勝手は貴様だと返され驚愕の目つきでフィリウスを睨む。


「そうだ、貴様がここに来た二つ目の理由はなんだ!?言ってみろ!!」


「そ、それは...。」


「そうだ、話せないだろう。知っているぞ、君は最近職に付けなくて迷っているそうじゃないか。ここに来たのも前に先延ばしにした報酬を貰いに来たんだろう!!」


フィリウスはここぞとばかりにライツェルを糾弾する。


「貴様、国民の為だなんだと宣っておいて、いざ自分がマズくなったら即貰うのか、この恥さらしめ!!国民は今でも苦しいまま、それでも必死にやっているんだ。なのに貴様はそれでいいのか!?」


「そう言われると何だか悪いことのような気がするけど、実際俺が倒したのは事実だ!!あの時は余裕があったから言えただけで、ダサいかもしれないが今の俺は余裕が無いから欲しい!!それじゃ駄目なのか!!」


「ふん、悪くは無いさ。どうせ貰えんのだしな。」


そのフィリウスの発言に思わず空気が凍る。空気が止まったかのように二人とも一切の話を止めてしまった。話を再開させたのは、ライツェルの驚きと困惑と共に放たれた言葉からであった。


「も、貰えないって、どういう事なんだ!!」


「当たり前だろう。貴様なぞにこの私が渡すものか!!!まだ国民には話していないが、次の王は私になることが決定した。そんな私が君になど渡す訳が無いだろう!!!」


「そ、そんなの国民が納得するわけないだろ!!!それに、俺だって納得しない!!!確かに口約束ではあったが、もし勇者に報酬を渡していないと知れたら他の国からだって批判される対象になるんだぞ!!!」


「......それをどう証明するのだ、君は?」


口争いの中で突如生まれた疑問。それに対しライツェルは考える間もないと叫ぶ。


「そんなの決まっているだろう!!俺が勇者だとはn............あっ!!!」


「バカな奴だな君は。君は神の悪戯かそれとも私の想いを神が汲んだか、はたまた魔王の呪いかは知らんがジョブが消えた。...ましてや私があそこで助けなければ城にすら入れていないのにどう証明するというのだ?俺が勇者だーと叫ぶのか、門の前で言っていたように。」


それは至極当然で、あまりに救いのない宣言であった。ライツェルには自分の存在がどんなものかを証明するジョブが無い。結果として、自分が例え本当に報酬が貰えなかったとしてもそれを証明する手段がないのだった。


仮に手段があったのなら、口約束だとしても国民の大半は秘密裏に報酬があったのだろうと考える。それが無いと勇者直々に言ったのなら王家に不信が向くというものだ。


その筈が、今は勇者側に証明するものが無い。結果、例えどんなに突っ込まれたとて国にはダメージなど無いのであった。


「そ、そんな.........。そんなのって、無いだろ...。こんなに頑張ってきて、こんなに死にかけて、その先で得る物が何もないなんて......。酷すぎる!こんなの、酷すぎる!!」


子供のようにダダを捏ねたライツェルはフィリウスへと向き直り詰め寄るが、フィリウスはまたも怒ったようにその肩を弾き飛ばす。


「酷いだと!?君の存在に散々悩まされてきた私にとってはこれでも優しい方だ!!それに、そんなに私に詰め寄っていいのかな?もしここで勇者御乱心などと言ったら君は間違えなく国賊扱いとなるだろう。私の評判はそこまで悪くは無いし、少なくとも君が半数以上のヘイトを買うのはほぼ確定だろう。それでもいいのかな?」


そう悪魔のように嗤い話すフィリウスをキッと睨むライツェルだが、もはや術など無かった。


「しかし笑ったよ。殺してやろうかと一時は考えていた君が、まさか社会的に死んでしまうとはね。...だが、これでようやく私の時代が来るのだよ。邪魔者は最早いない、私の勝ちだ!!!!」


「............せめて、せめてどこでもいいから就職先を教えてくれないか?ゴミ処理場とか、下水道掃除とか、みんなが嫌がる者でも全然いいから...。」


「ふん、貴様に似合う仕事は精々実験のモルモットくらいだろう。誰も君みたいな不審な無職など雇わないよ。はは、さぞ今や気分が悪いだろう。私はとても気分がいい。今なら見逃してやれるから、早く出ていきたまえ。」


その言葉を聞いたライツェルは言われた通り絶望に目を染め、そのままとぼとぼと歩き出す。しかし、扉の前でふと視線を上げフィリウスに話し出す。


「...今の、俺の仲間にもする気か?!」


それに対しフィリウスはこう答える。


「ふん、君の金魚のフンになど興味は無いよ。」


「彼らは俺の腰巾着なんかじゃないし、俺をも超える逸材だ!!!彼らの事を悪くいうな!!!」


先ほどまで項垂れていたライツェルは顔を上げ、フィリウスを睨みつける。


嗤うフィリウスはそれに対し、ふむ?と顔を下に振った。


「確かにそうだな、逸材だ。それに彼らはこの国を良くしてくれている。君の様な無職と違って、ね。」


ここでも煽るのを忘れないフィリウスを睨みつけるが、その後諦めたかのようにライツェルは苦笑いした。


「まあ、アイツらに手を出さないなら良いか...。分かった、俺は帰るよ。」


そしてライツェルは再度扉のノブに手をかける。


「精々吠えろ。」


そう言うフィリウスに困った視線を返すライツェル。


「俺を殺さないのは、俺が落ちていく姿を見たいって事か?」


「分かっているじゃあないか。」


「なら、残念だけどそうはならない。俺はこれでも諦めが悪いからな!!お前の言う通りにはならないって、証明して見せる。それじゃあな。」


そう言うとライツェルは振り向かず去っていった。


フィリウスはニヤリと笑い、そして一言呟く。


「何をする気か知らんが、出来る者ならやってみろ。無職のカスが。」


そう言ったフィリウスはそのまま上機嫌で部屋を出て、仕事部屋へと戻るのだった。

そろそろ再始動したくて書きました。

2本更新ってバカなんだろうな、うん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ