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求職の救世主  作者: こしあん大福
平和になった世界で
5/11

5話 河梁之別

という事でお待たせにお待たせした5話です。

どうぞ。

太陽が昇り、新しい一日が始まる。


ライツェルの朝は早い。何せ勇者だった頃は誰よりも先に起床し、朝の訓練を行い汗を流していたからだ。まだ旅が終わり一日しか経っていないライツェルにとっては抜けない行動だった。


勇者で無くなったとはいえ基本は身に着けている。訓練用の剣を振るい素振りを続けていく。これは彼の毎日の習慣であり、これが終わると次はマラソンが始まる。


普通の人間と比べ圧倒的な速度で走るライツェル。それは昨日の悩みを吹き飛ばそうと言わんばかりに猛烈であった。それを見た夜勤の兵士たちは「流石勇者様だ」と褒めたたえた。


そこにガルブが現れ一緒に走り始める。大体彼が起きるのもこれくらいで、特訓の途中から合流して一緒に続ける。彼は毎日の腹ごなしと言っているが、なんだかんだでライツェルとの時間を大事にしているのだ。


「これもっ、今日でぇっ、終わりかっ!!」


いつもより若干スピードの速いランニングに息を吐きつつ話すガルブ。今日を持って解散するパーティ、やはり彼は寂しいらしい。


「あぁ。...いつも一緒に特訓してくれてありがとな。話し相手が居るとより長く出来て、しかも楽しかったからラッキーだったよ。これからも俺はやり続ける予定だ。ガルブもそうするか?」


「マジか?...じゃ、時間が空いたらまたやろっかな。よぉし、そうと決まればそろそろ朝飯にしようぜ!!今日で最後だし、みんなで喋ろう!!」


そう言いつつゆっくりと城の中へ戻る彼ら。そう、彼らは城を出て街をほぼ一周して帰ってきていたのだ。彼らの血のにじむような努力にはこんな形のものもあったのだ。












城では客間でアーリエが優雅にお茶を飲んでおり、汗でびっしょりの二人に対し少し怪訝そうな顔をしながらも挨拶した。


「おはようございます。...お二人は相変わらず特訓ですか?もう平和になりましたのに、お好きですね。水浴び場は空いているようなので、食事の前に一度軽く行った方がよろしいかと。流石に王家の方々の前でも失礼になりますし。」


アーリエは流石に二人のような暑苦しい努力こそ見せないが、彼女もまた治癒魔法を極めるべくとてつもない努力を重ねているためその努力そのものまでは否定しない。ただ、ここが王城なのとシンプルに汗だらけでそのままこの場へと来た二人の非常識さに呆れているだけなのだった。


「全く、あなたたちも学習しませんね。ガルブ様はともかく、ライツェル様まであんなに濡れて。せめて服を変えてから来るべきですね。最も一番良いのは考えを切り替える事ですが。」


アーリエはこのパーティでは年齢が少し下だが、その反面性格は真面目でしっかりとしているためこういった場面ではまるで母親のような立ち回りをする。結果彼らは少し肩を落としながらも水浴び場へと向かった。


そして彼らが身体を綺麗に洗い、服を変えて出てきたその20分後、ようやくラズリーベが起きてくる。彼女は基本的に起きるのが遅い。旅の最中も明らかに前日何か興奮するような事があると夜までそれにつきっきりで研究し、起きられないという事が多々あった。


回りの3人は呆れていたが、次第に言ってもどうしようも無いという事に気づき何も言わなくなった。呆れてモノも言えないとはこういう事である。


ラズリーベは髮をぼさぼさにしたまま寝間着姿で現れ、「おーっす...。眠ぃ~。ふぁあああっ。ちょっと寝たいな...。」と言いつつ洗面台へと歩いていった。


この感じだと昨日は一睡もしていないのだろう。先ほどの先ほどまで本を読み続け、そのまま来たという感じだ。彼女は一度熱中するとつきっきりになる。つまり、昨日の時点でこうなる事はほぼ確定していたという事だ。


眠そうな彼女も着替え、顔を洗えば一応いつも通りである。そして4人全員が揃った。


「全く、ラズはいつも通り遅いな。いつも通りでいいのは良い事だけだと何度も言ったが、全く学習していないようだな。」


ライツェルが苦言を呈す。まだ呼ばれていないとは言え、いつ王様から呼び出しがあるかも分からないのだ。流石にこの状態で呼び出して遅れても注意されることは無いのだろうが、大人としてそうなる事は避けたい。


「本当だぜ!ラズリーベ、お前いくら優秀でも時間を守れなかったら社会では生きてけねえって俺ァ知ってんぜ。この先お前、マジで苦労する事になりそうだな。主に生活と性格面で。」


一人だけ客間で座らず立ったまま腕立てを続けるガルブが顔を上げてラズリーベに言う。


「学習学習って五月蠅いなぁ。別に私がいつも通りだろうと時間が守れなかろうとそれを超える優秀さがあるんだから帳消しでしょ。生活や性格を弄られるような職には就かないからいいんですーっ。ていうか苦労するならライツェルが一番やばいんじゃないの?ジョブ無しってシンプルきつくなーい?」


まだ読み切っていないのか本を片手に眠い目を擦りつつ読むラズリーベは、イラっとしたような顔を隠しもせず言い放つ。その発言には間違いなく自分の遅れを咎められた事への小さな怒りが入っていた。


そしてその発言は今最も踏み込んでいる領域を堂々突破する。


「おまっ、本当にデリカシーの無い奴だな!俺でも分かるぜ、今そのタイミングで言う話じゃねえってことくらいな!ライの話はしてねえし、仮にライと比べるんならお前更にまずいそ。ライは別に自分の行動のせいで苦労するわけじゃないからな。お前だけだよ自分のせいで苦しんでるのは。」


ラズリーベの発言に目くじらを立てながらガルブは叱責する。しかし、ラズリーベはつーんとそっぽを向いたのみで反省はしていないようだ。


「まぁまぁ、その辺にしておけ。それについては事実だしな。俺が一番マズいってのは。でも、ラズも気を付けないといけないのは事実だぞ。俺たちは起きてはいたしお前と違って汗を流していたから多少遅れても嫌味を言われることは無い。けどお前は違うだろ?完全に自分の欲望に従っての寝坊だからな。そんなんじゃ王宮の本を自由に読む権利を剥奪されても文句言えないぞ。」


むっとした表情のガルブを宥めつつラズリーベに注意するライツェル。しかし、どこ吹く風でラズリーベは気にせず本を片手にソファでだらける。


それを呆れた表情で見るガルブとライツェル。特にガルブは「んったくよ~。」と言いつつこれ以上話すのも無駄かと食堂へ歩いていった。それにライツェルが続き、アーリエも向かう。ラズリーベはそこに来るにも遅れた。


ライツェルたちは食事を楽しんだ。昨日の食事もとても美味しかったが、朝のバイキングも中々のモノであった。少なくとも、旅の最中に食べていた保存食とはまるで質が別物だ。朝からゆっくりと食事ができ、汚れた川の水ではなく汲み上げられた水を飲み、魔物の肉ではなく家畜の肉を食べ、デザートまで付いてくる。


王家はこんな良いものを毎度食べていたのかとちょっとだけ恨めしくなるが、そうは言っても王家とて大変だっただろう。それを思い我慢する事にした。ライツェルとて無欲な訳ではない。ただ民の為を思い戦い抜いただけで、好んで魔物の肉を食べていた訳では無いのだ。最高級の牛肉を使ったローストビーフを齧りながら、彼は心からそう思った。


王様はあの時以来体調が優れないようで居らず、王子たちと話す他無かった。だがそうは言っても立場上差のある王子たちと話が進む訳も無く、誰かが気を遣い話を回すなんて事も起きず一言二言で終了してしまった。しいて言うならアーリエに対しもし良ければ第二夫人にならないかという誘いがあったくらいだが、彼女は神の思し召しと言いそれを断った。


腹が膨れた四人。遂に食堂を後にした。すると、遂にやる事が無くなってしまった。そう、彼らとて寂しいのだ。ここで別れても今生の別れという訳ではない。だがこの数年ずっと旅をしてきた仲間と、明日から違う場所で生きるのだ。戸惑うのも当然であった。本来、話をすれば食事をせずとも出て行っても良かったのだ。しかし、誰もそうはしなかった。


ライツェルが朝のルーティンを真面目にこなし、ガルブがそれに追いつく。その後一緒に水を浴び、飯を食う。この流れは二人が少しでも仲間と一緒に居るためにあえてやったという感情も含まれている。


ガルブについてはなるべく何かやる事があるようにと本来昨日するべき出立の準備を遅らせていた。ライツェルは誰よりも早く起きて少しでもみんなと同じ時間を過ごせるよう雑用を終わらせた。


口うるさく、規律に厳しいアーリエ。そんな彼女でさえ仲間とは離れたくないのかライツェルたちの特訓中ずっと客間で神の教えを瞑想しつつお茶を飲んでいた。大きなイベントを隙間時間に終わらせようとすることもあったアーリエ。その彼女が誰も注意せずひたすら待ち続けたというのがそれを体現していた。


ラズリーベはいつもと変わらないように見えるが、なんやかんや言っても仲間なので寂しさはあった。だから敢えて寝る時間を惜しんで本を読み、起きた後は仲間と少しでも話そうと時間を空けていたのだ。


そんな彼らにも限界はある。例えどんなに話に花を咲かせても、終わりは来てしまうのだ。それに気づいた者が、この話を終わらせにかかる。


「............みんな。そろそろ、行こうか。」


ライツェルのその一言で皆雰囲気が静まる。背が伸び、気を引き締める。ガルブはお土産にもらった食堂のパンの入った袋と旅の荷物を手に提げ、ニカッと笑う。だがその顔には微かな迷いがあった。


アーリエは杖を持ち、同じく手荷物を提げる。しかし、いつもこういった場所で確認を行う彼女が呆けている。気持ちが入っておらず、ぼーっと外を見つめていた。


ラズリーベは変わらないように見えたが、全員の顔をちらりと窺うと空気を察し、「ほらほら~、早く行かないと怒られちゃうんでしょ?」と部屋から出ない他の3人の背中を押して無理やり追い出した。


廊下を歩く4人は何一つ話さなかった。ここで話すと更に離れたくない欲が強まるからだ。


そのまま王の間へと向かう。
























「これにて、勇者パーティを解散とする!!」


王の一言が響く。


「ご苦労であった。改めて世界に平和をもたらした勇者たちに拍手を!」


憎き魔王を撃破した勇者・ライツェル。それを祝福するかのように、大臣たちや集まった家臣たち、更に兵士たちや果てはご子息までもが拍手する。


決まってしまった事は覆せない。何より、このパーティは元々ライツェルを中心とし王が集めたチーム。よって元の生活に戻るのは何一つおかしい事ではないのだ。


「それでは行くがよい。新たな新天地へな。」


王がそう言うと扉が開き、その先で構える大勢の兵士たちが敬礼をする。ガルブが一瞬「はぁ~すげぇなこれ。絶景?いや絶句もん、か?」と言いかけアーリエに小さく手を抓られる。


ガルブ、アーリエ、ラズリーベの順番で出ようとしたとき、ライツェルが王の方へ一歩出た。


「王よ、私の事で一つお耳に入れたい事がございます。」


その言葉に、流石のガルブ達も焦ったように近寄る。


「お前、何言ってんだよ!?」「そうですよ、流石に今それを言うのは...。」「流石のアタシでもやらないわ。」


しかし、ライツェルは既に決めていたのだ。仮にもし、勇者であることを再度頼られたりしたときにその場で説明する事にならないように、今既に話しておこうと思った。それだけのことだった。


「何だ?発言を許可する。」


周りの兵士や大臣も別れの形式的なものを邪魔されて少しお怒りの様子だが、一切気に留めないライツェル。


「ここでは話しにくい事にございます。王家の皆様だけにして頂けませんか?」


それを聞いた大臣たちからは思わず不満の声が出る。それもその筈、ただでさえ儀式を途中で切っているのに自分たちは途中退席しろと言われているのだから。いくら国を救った英雄だろうとそこは譲りたくない部分であった。


だが王様はそれを聞き、少し考えるとこういった。


「よかろう。じゃが私のいう事を聞く最も信用している部下は残させてもらうぞ。」


「勿論です、私がここで他の者を退出させることによって何か危害を加える可能性もあると考えた方が念のためよろしいでしょうし。」


ライツェルもそれは分かっていた。よってこう答えた。


「ほう、世界を救った勇者が王である私を害すと言いたいのかな?そんな事が有る訳ないだろう?」


「ですから、念のためなのです。というか私もありがたいですし、その部下の方たちが居る事によって私が何もしなかったことも証明されますからね。もう既に私たちは勇者パーティではない普通の人間。国が匿ってくれるような状態ではなくなりましたし。」


ぶっちゃけつつ王の考えに返すライツェル。その言葉に満足げにした王は部下と王家の者だけにする。


「それで、一体何の話だ?もう報酬の話も終えたし、後は精々被害状況の話くらいだろう。他に何かあったのか?」


「ええ、実は.........。」


ライツェルは正直に話した。ジョブ・<勇者>を神を名乗る者に剥奪され無職になったこと。そして神は去っていき今自分は一切のスキルが使えなくなり完全に勇者ではなくなったこと。


それを聞いた王は、


「何てことだ...。平和になった瞬間にこれ、か。なんとまぁ神も無慈悲な事だ。平和を救ったものにそのような仕打ちとはな。」


と同情した。王子たちは困ったような反応をしていたが、しかし内緒話で急に嬉しそうになった。というか、悪い顔をしている?が、ライツェルたちは気づかない。


「ええ、なので申し訳ありませんが今後魔王の部下が再び暴れても私ではどうにもならない可能性が有ります。そうならないように、今からでも私たち以外の者を鍛え魔王の部下を討伐できるようにして頂きたい。


「なるほどな、事情は理解した。ライツェル、お前の仲間は大丈夫なんだな?」


「ええ、私の仲間たちは特にそういった部分はありません。」


そう、ライツェルだけにそれが起きたというのはある意味王国にとっては不幸中の幸いだった。これから子飼いには出来ないモノの勇者という絶対的強者が居る国として鎮座する予定だった計画は崩れたのだから幸いなのかとなりはするが。


これで仲間たちまで無職になっていたらいよいよ神を恨むか自分の運を恨むかしなくてはならないところだった。よってギリギリ幸いと言えるだろう。


「そうか、ならばその事情も考慮し後で多少報酬に色を付けてやろう。それくらいは出来るからな。それで、これからどうするつもりかな?」


「それは後で考えます。今はまず、国民達を安心させないと。そこが最優先です。それとお気遣いありがとうございます。ありがたく頂戴します。」


今後の事も考え、ライツェルは報酬の多少の増額を素直に受け取る事にした。何せこれから何をしようにもお金が足りないのだから。結局のところ、資金が無ければ何にもならないのだ。


ここに大臣たちが居れば、あの時は要らないと言っただろうこの平民風情が等と批判されていただろうが今は身を守る最低限度の兵士を除き誰も居ない。止める者など居なかった。


「うむ、だが本当に後回しで良いのか?この国の王である私がいう事でも無いだろうが、この国、というかこの世界はジョブが身分の一つになっている。もしそれが無いなどと言ったら苦労するのは目に見えているぞ。」


「ええ、確かにそうでしょう。しかし、そうとは言え一個人である私の事情で今のこの崩れそうな状況を壊す訳にも行きません。まずは国民達を安心させ、平和を取り戻したという安寧を伝えましょう。」


ライツェルとて不安が無い訳ではない。むしろ不安だらけで、どうすればいいのか迷っている。しかし、ここでそれをいう訳にも行かなかった。


「...そうか。なら、これ以上私がいう事も無いだろう。」


「ええ、それと今お話ししたことは他言無用でお願い致します。他のご家族も皆様同じです。要らぬ心配を国民にさせたくは無いのです。どうか、宜しくお願い致します。」


「当然だろう。というか、話せる訳が無い。勇者が今は居ない、という話やそれを神が成したなどという話、誰が信じるものか。むしろ私たちが虚偽を話していると疑われてしまうかもしれぬ。それに仮に信じられたとて、ライツェルが言うようにただ混乱を広くするだけじゃな。話して一つも得など無い。私はやらんよ。」


そう発した王に安堵するライツェル。他の王子たちや王女も黙ってはいるが頷いた。


「ありがとうございます。それでは、宜しくお願いいたします。」


そう言って話を切り上げるライツェル。


「うむ、ではそのようにしよう。最後のお主の勇者としての頼みだからな。それでは、これにて終了とす...ごふっごふっ!」


王は最後の言葉を話したが、その最中昨日のように咳込みだしてしまった。そのまま兵士たちが何やら話した後、執事たちを呼びに行った。


ライツェルたちはそれを心配そうに見守っていたが、王子たちから行っていいとの声を貰ったため礼をしてそのまま王の間を出た。


アーリエやラズリーベは何か言いたそうではあるが、ぐっと堪えそのままライツェルの後に続く。しかしガルブは聞いた。


「な、なぁライ。良かったのかよ王族に教えちまって。もしこの後勇者じゃない事でなんか言われたらどうすんだよ。火の無い所に毛虫は生まれないって言うだろ?」


「ガルブ、それを言うなら煙は立たぬだ。というかこれでもしバレでもしたら王族の信用問題になるぞ。それに仮に何か言われても気にしないさ。本当の事だしな。」


「でもよぉ......。」


反応があっさりとしているライツェルを心配するかのようにガルブは聞くが、しっかりとした態度で明言されてしまったため食い下がりつつも項垂れる。


「はは、ありがとな気を遣ってくれて。お前の言いたいことも分かるよ。でも、俺もいつまでもそうやって出来るとは思わないからさ。だったらいっそ最初から国にだけは話しておいた方が良いだろ。ていうか話さなかったらそれはそれで言われそうだしな。」


ガルブのしょんぼりとした表情を見たか知らずか、ライツェルは少し嬉しそうにしつつもガルブに返す。


「まぁ、それでいいなら良いけどよ...。」


けっ、というような表情を崩さずガルブが言い、ライツェルは微笑しつつ歩いていく。彼らを見送る兵士たちや貴族たちの前を通り抜け、遂に勇者とその仲間たちは門の前まで出た。


ここで別れを告げれば、もう二度と会う事は無いかもしれない。


彼らは川のせせらぎが聞こえる門の前で黙りこくってしまう。


不意にラズリーベが語り出した。


「アタシは、なんだかんだ言って楽しかったよ。そりゃ喧嘩もしたし、嫌な事も多かったけど、このチームだったから背中を預けられたと思ってる。だから、ありがとね。でもアタシにも夢があるんだ。でっかくて凄い夢。だから、ここでお別れかな。それじゃアタシはこれで終わり。次は?」


背伸びしつつも少しだけ寂しそうな顔をしていたラズリーベはすぐ笑顔に戻るとそう告げた。ある意味彼女はさっぱりとしている為こういう最初に向いていた。


「ホントかよ.........?背中を預けられたなんて台詞をお前ェから聞くことになろうとはな。ま、いいか。最後だしな。俺も楽しかったぜ!!ライはカッコよくて誰よりもみんなの事を思っていて、アーリエは神の教えの元にみんなを救って必死に戦った。ラズリーベもまぁ、そこそこ役に立ったんじゃねえの?魔法使いとしてな。...まぁ全員俺様には及ばねえがな。まっ、兎に角良い旅だったぜ。んじゃな。」


途中ラズリーベの「何そこそこって。最後だからって聞き捨てならないんだけど。」という低い声色の発言が挟まれはしたが、ガルブもまた一人別れを告げた。恥ずかしいのか頭を背け、完全にそっぽを向いてしまっている。


「それでは私も。皆様、お疲れ様でした。そしてありがとうございました。元々神からのお告げにてこの旅に参加致しましたが、とても有意義な時間だったと今になれば思えます。神に感謝を。...最後の最後でライツェル様にアクシデントがありましたが、例えピンチがあってもずっと私たちを救っていたライツェル様ならば大丈夫なはずです。そしてガルブ様、ラズリーベ様も、皆様お体にお気をつけて。私は普通の修道女に戻ります。それでは。」


元々旅の参加理由も神のお告げだったアーリエは淡々としつつも全員に感謝を告げ、最後まで堅く別れを綴った。


そして最後にこの度の中心が別れを告げる。


「みんな、本当にありがとう。みんなが居なかったら、きっとこの未来は無かった筈だ。俺は勇者じゃなくなったが、この思い出は消えない。きっとまた集まろう。...ガルブ。お前のお陰で砂の国のワームが撃破出来た。まさか力技で倒せるとはな。あれには驚いた。次にアーリエ。回復は多分この世界でお前に勝る相手なんて居ないさ。誇れ、お前は戦いの役に立っていないなんて嘆いていたが、お前がMVPだ。そしてラズ。お前は自分勝手な所も多くて苦労もしたが、きっとお前が居なけりゃ毒の湖畔のアイツは倒せなかった。全滅してたかもな。とにかく、みんな凄くてみんな最高だ!最高のパーティだった。俺はみんなに会えてよかったと心から思ってる。...だからこそ、ここでお別れだ。ここでお別れして、次に会うときに魔王討伐以来の思い出を語ろう。きっと凄い事になるぞ。...だからそれまで、一旦さよならだ。」


ライツェルは一人一人との思い出を語りつつ、ぐっと手のひらを握り締めてみんなを見る。いい思い出、悪い思い出、全てひっくるめた戦いの果てを彼を含めた皆が思い出した。


「あー、そいえばそんな事もあったねー。ま、やっぱアタシが居なきゃってことだったのよね~。ふふん♪」


「おい、お前あんまり最後だからって調子乗んなよ!お前が居なかったら勝てた戦いも多分あるからな!!」


「こらそこ喧嘩しないでください。...全く、こんな調子で次の仕事が務まるのでしょうか???はぁ...、ふふ。でもいい思い出が出来ました。これから、平和が来るのですね。楽しみです。」


「ガルブ、お前泣きそうだからってラズを弄るな。ラズはラズでお前テキトーな事言ったな。居なきゃって言うけどお前あの時たまたまだって言っただろ?...んでアーリエはまとめありがとな。.........そう、平和が来るんだよ。ようやく、な。」


誰が泣いてんだよ!!と突っ込むガルブも、アーリエもラズリーベも皆空を見上げる。青くて雲一つない空が広がっていた。


「それじゃあ、またな。」


その一言と共に、別れを惜しんでいた皆が歩き出す。


ガルブは恐らく騎士宿舎があると思われる東の方角へと歩き出した。こちらを見ず、悠々と進んでいく。


アーリエは自分が元居た修道院へと返っていく。こちらを時折振り返っては名残惜しそうにしつつも去っていった。


ラズリーベはその一言も聞いてか聞かずか本を読みながら歩き出した。そしてしばらく行ってこけた。恥ずかしそうにそのまま走っていった。


一人門の前に残ったライツェル。彼は一人笑って荷物を抱え、そして歩き出す。


「それじゃ、俺も行こうかな。」


彼が向かう先に何があるのか、それはまだ誰も分からない。





































2週間後、そこには焦った表情のライツェルが居た。彼はふと呟く。


「やべぇ、再就職先って見つかんねえもんだな...。」


元勇者の苦難は既に始まってしまっていたのだった。

ここから新章の幕が上がります。

ライツェルはこの苦難をどう乗り越えるのか。

ご期待ください。

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