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求職の救世主  作者: こしあん大福
平和になった世界で
3/11

3話 勇者解任

超久しぶりですね。ちょっとずつプロットが出来てきております。

お楽しみに。

「い、いやいや、ちょっと待ってください!」


いきなり自分のジョブを解放され無職になると告げられたライツェルは叫んだ。それもその筈。この世界において、ジョブというのは基本的に一生かけて育てるものだからだ。


9歳になるまでただの村人であったライツェル。伝説上の勇者にまさか自分が選ばれるとは思っておらず、ただひたすらに生活を繰り返していた。そんな彼は勇者となり、必死で技も力も知識も磨いた。彼にとって勇者になった事は今の生活から脱却する事を意味していたからだ。


勿論ただの村人として一生平凡な人生を送ることも不幸では無いだろう。だが、まだ夢見る少年だったライツェル9歳は青かったのだ。故に強くカッコイイ勇者になれれば平凡では無い、ずっとより良い人生がある筈と信じていた。


そして実際一般人であれば到底ある筈のない死と隣り合わせの戦いを潜り抜け、運命的な仲間との出会いを経験した。どんどんと成長していったライツェルは仲間たちとの苦難続きの旅の末、つい先日魔王を撃破したのだった。


そんな彼にとって勇者というジョブは他のジョブを持つ者より圧倒的に大事にして伸ばしていた部分だった。それをいきなり無くそうというのだ。困惑することもやぶさかでないだろう。では、何故そうなったのか。


「ふむ。どうしたというのだ?」


「いや、どうしたではありませんよ!何故、俺のジョブを捨てなければならないのですか?!」


彼の疑問はごもっともであった。普通に考えて、世界を救ったいわば救世主、英雄にやる事では無いのだ。ましてやジョブが無い人間など居ないのだから。


「確かに、そなたに言わせると苦楽を共にしたジョブであろうし愛着とてあろう。じゃが、それは私の与えるジョブの中でも特殊なジョブでな。世界に平和が訪れている期間には勇者は存在しない事になっておるのだ。故にそのジョブは解放する。」


「確かに魔王は倒しましたが、まだやるべき事は多いです。そこに勇者の力は必要不可欠です!どうかお考え直しを!」


「ならん。そなたたち人間にとっても良くないのだ。いつまでも勇者という力に頼って居ると国そのものがそれをアテにしてしまうようになる。そうなれば再び災いが訪れた時に対応があやふやになってしまうだろう。私はそれを憂いているのだ。」


ライツェルは実際、魔王こそ倒したがまだまだやるべき事は多いと思っていた。魔王によって滅ぼされた場所を再興したり、あちこちに沸いた魔物を倒したり、その後起こるであろう改革に参加したりと。


その中で勇者じゃなくなるというのは、彼自身のアイデンティティを奪われるのも同義であった。だが、一方でライツェルは神の言い分も理解した。とある村に寄った時の事。そこで魔物と戦い倒したのだが、結果しばらくここの村を守ってくれると勝手に期待したその村の護衛たちは仕事をサボるようになる。


いくら勇者パーティとは言えど数の暴力には勝てず沢山の魔物が攻めてきた際そこで懸命に戦うも苦戦。防戦一方になる中、今まで苦戦の無かった勇者たちに安心しきっていた村人たちが異変に気付きパニックに。結果そこの護衛達は全員対応が遅れて死んでしまい、村人も犠牲になった。


この件があった為にあながち強い力が来ると油断すると言うのは間違いじゃない言葉だったのだ。


だが、だからといってアイデンティティを奪われることに納得は出来ない。神にとっては大事なコレクションアイテムの一つなのかもしれないが、自分達人間にとってはそのジョブ一つが切り札なのだ。


「確かに我々人間にとって過ぎた力は驚異ともなりましょう。ですが、今はまだその時では無いはずです!せめて、せめて猶予をお願いします!!まだ貧困に喘ぐ子供たちが居るのです!!あの戦いの地獄を忘れられない人々が居るのです!!どうか、考え直しては頂けませんか?!」


ライツェルは頭を深く下げ、神を名乗る目の前の男に願い出る。自分の事情を置いたとしても、まだ神が言うような平和は来ていないのだ。確かに魔王は倒したが、だからといってすぐに平和が取り戻せるわけではない。


しかし、神はそのライツェルのお辞儀を無視するかのようにこう言い放つ。


「ならん。今すぐにじゃ。」


「何故です!?我々に試練を課すにしても、今では無いでしょう!!いくら我々とは住む世界の違う神様でも、ずっと見届けてきた世界の事はお判りでしょう!!ここで勇者が無くなると言うのは、世界の損失に近いのです!!俺はまだ戦えますし、何より自分のジョブが無くなると言うのはご勘弁頂きたいです!!!」


神の無情な一言に一瞬息を詰まらせながらも反論を重ねるライツェル。猶予があればまだ、自分もダンジョンに籠るなどしてジョブブックを採りに行く手がある。また、世界の平和も魔王が居なくなった今、流石に1年もあれば豊かな大地に畑が出来、飲み水も増え、家畜が育ちそして誰も食うのに困らない世界となるだろう。そう思うライツェルにとって急に突然ジョブを奪われるというのは完全に計算外であった。


「確かに私はお前たちを見届けてきた。そして、もうこの世界に勇者は要らないと気づいたのじゃ。お前も本当は分かっているのだろう。平和な世界に勇気を持った戦士は沢山溢れていると。そして、世界の損失はすぐに取り返せると。何、そなたは休めばよい。あとは民衆がやり遂げてくれようて。試練ではない、これは密かな休みの時なのじゃ。」


そう言う神に対し、何も言えなくなってしまうライツェル。確かにうすうす感じつつはあった。確かにまだ魔物は残っており、街は崩壊したり満足に飯を食べられない子供が居たりはするが、だからといってそれに勇者は必要だろうか。


勇者とは魔王の対になるジョブだ。そんなジョブが、果たして魔王の居なくなった今必要だろうか。魔物は兵士団にでも任せればいい。魔物が居なくなれば畑も出来、食料も増えるだろう。街だって力自慢たちが瓦礫をどかし、職人たちが家を作り、インフラを整備していけばいずれは元に戻る筈だ。


そんな世界に勇者は要らない、よく考えれば分かる理論であった。しかし、そう考えれば考える程、自分の今までの努力と人生は何だったのかという想いが駆け巡る。勇者として、人に感謝される喜びがあった。誰かの役に立つうれしさがあった。誰かを救えず悲しんだ夜もあった。色々あった。その全てがこの一瞬で無になろうとしていた。当然どんなに正しいとしても納得は出来ず、ライツェルは声を荒げる。


「それはおかしい!!!また魔王が復活しない保証が何処にある!?それに魔王じゃなくたって隣国同士の戦争だとか残った魔族の残党とか問題は山積み。確かに長くやればいずれ終わるだろうが、人々は一刻も早い安心が欲しいんだ。上から見てるだけのアンタには分からないかもしれないが、俺だってただ勇者になって喜んだだけじゃない。苦しんだし悲しかったしきつかった!それでも輝く未来を前に頑張ってきた!!!その結果がこれなのか!?俺はただ人を守るだけの玩具になればよかったのか!?俺は夢すら見ちゃいけないのか!?人々を守って魔王を倒したらお払い箱だなんて、そんなのはあまりに無情すぎやしないか!!??」


勇者という外殻に包まれていたライツェルの心はどんどんと滲みだしていった。それは旅の苦しさもあり、勇者としての責任もあり、その果てに見ようとした幸せを期待した叫びともとれる。


「ふむ。確かに魔王はまた蘇るかもしれん。じゃがその時はまた別の勇者が戦えばよかろう。そなたは散々苦しんだのだ。ここらで責任から解き放たれても良いのじゃぞ。それにな、私は人間を見ているだけだからこそ、人間には進化してほしいのだ。出来れば自分だけの力でな。...だが、確かに君を蔑ろにしてしまったかもしれない。そこは申し訳ない。じゃが、平和には犠牲がつきものというじゃろう?その犠牲が魔王と勇者、この二人だっただけよ。魔王はそれを命を持って納得した。後はそなただけなんじゃよ。」


あまりの言葉に絶句するライツェル。別の勇者?魔王と勇者の犠牲?.........思えば思うほど、怒りが湧いてくる。大体、平和には犠牲がつきものという言葉は当事者のみが使って許される言葉だ。上から見ていただけの神様に言われる台詞では無かった。


「っざけんな...。......ふざけんなよ!確かに平和になればいいと思って戦っていたが、俺にだって生活があるんだ!!俺にだって幸せが欲しいと思う心があるんだ!!!慈善事業で戦っていた訳じゃない!!ジョブが無くなるってのはイコール職すら無くなるって事だぞ!!金すら稼げなくなるんだ!!!人として最低限のラインすら守れなくなるんだぞ!!!どうすりゃいいんだよ!!!!」


怒りの余り相手が神様であろうことも忘れ敬語を抜かし怒鳴るライツェルに顰め面をした神は、すぐ顔を戻しこういった。


「じゃから言ったじゃろう。平和に犠牲はつきものじゃと。そういう物なのだよ、平和とはな。誰かが喜ぶ影で誰かが泣くのが平和というものじゃ。それを望んだのはそなたたちなのじゃからな。それに慈善事業で無いと言ったが、ならば私も慈善事業になるのかのう。ジョブを人間に与えているのは私なのだからな。それに、幸せとは別に金を持つことでも誰かと過ごす事でもないぞ。意外と近くにあったりするのじゃ。人として最低限衣食住を繋ぎたいのならまた村にでも戻ればいいではないか。畑を耕し、麻で服を作り、住居を綺麗にする。これで十分じゃろう?」


そう言って微笑みかける神をまるで理解できないもののように見つめたライツェルはため息をついた。話の通じない奴には何を言っても無駄なのだと、皮肉にも魔王討伐の旅が教えてくれていた。魔王討伐の旅での経験が活きる中では最悪の経験だろう。


「...なんだよそれ。じゃ、俺は平和のために幸せになるなってか。なんだよ、本当に。こんな平和なら望んでねえよ......。アンタは慈善事業じゃない。俺が実際に魔王を倒さなければアンタの与えたジョブは無駄になるからな。俺がやったんだ。そんな俺がまた村人に戻る?冗談止せよ。...今更出来る訳ないだろ。それにもう村の家も何もかも冒険前に売ってきちまったから無いんだよ。王からの報酬も貰えると思ったからな。でも、これじゃジョブが無いから家すら買えねえよ。なんでだよ...。大体、せめて他のジョブにするとかあっただろ。適性があるだろうって状態じゃなく、何も適性は無いって状態だなんてそれこそ幸せが掴めるわけ無いだろ!!」


そう怒るも、神はどこ吹く風で笑う。そんな神に再び怒りを染めつつ向くと、途端に膝が地面に着いた。自分の身体の理解出来ぬ不調に戸惑っていると、神は言う。


「随分長かったな。じゃが、これで君は無事ジョブ<無職>となった。これで心すっきり世界を楽しめるな。もう責任に圧し潰されることも、誰かに無理やり利用されることも、政治的に期待され面倒な事になる事も無い。私はお前のジョブ<勇者>をこの場を持って解任とする!では、達者でな。」


そう言うや否や神と自信を呼称した者はゆっくりと輪郭がぼやけ消えていった。後に残ったライツェルは、ぶつぶつと言葉を口に出していた。


「なんだよ、ふざけんなよ。おかしいだろ、こんな、の。なんでだよ。...ていうか、話している間にジョブを解いてたとかふざけんなよ。ここに連れてこられた時点で確定かよ...。せめて選ばせてくれよ......。俺、この先どうすればいいんだよ...。クソッ、クソっ!!クソおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


叫びながらも視界は暗転していき、ライツェルはゆっくりと元の世界に戻っていくのだった。






































「.........なよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!????????????」


ごちん!!!と結構な音が寝室に響く。それは寝具から飛び上がったライツェルが寝言があまりにひどい事を知った戦士ガルブの頭と正面衝突を起こした音であった。


「いってぇ...。.........って、ガルブか。なんで俺の部屋に?」


「なんでって、お前が騒いでっからだよ。他の兵士たちも心配してたぞ。勇者様~勇者様~ってな。けっ、お陰で俺まで眠れねえっつうの。」


「...悪い。少し悪夢を見ていたものでな。」


ライツェルは身体の状態を確認する。汗でびしょびしょに寝間着が濡れているが、それ以外に異常はない。どうやら状態異常ではなさそうだ。また、頭突きと寝起きのせいで意識が定まらない。


ガルブは片手で頭を押さえつつ、苦笑いしながら話しかけてくる。


「お前も悪夢を見る事なんかあるんだな。なんつーか、お前見てっと勇者もあくまでジョブで、お前自体は人間なんだよなぁって思うわ。」


「なんだよそれ。そりゃそーだろ。っていうか、日常茶飯事だよ悪夢は。言わないだけで旅の最中結構見たぜ?毒フグ食べた日とかな。」


「あー、あの日か!!!俺ぁ腹壊したからそもそも夢なんて見てねえけどな!!!はっはっはっは!!!!!」


大笑いしつつ慌てて声を消し、あまりうるさくするとアーリエ辺りが怒ると声を静めたガルブ。


それを見ていたライツェルは不意に思い出した。今日の夢の事を。


夢で良かったと安心しつつ、彼はステータスウィンドを開く。そして、再び絶望の淵へと叩き落され縦ではなく横へと崩れ落ち、ベッド横から床へと倒れるのだった。


どうした?!と慌てて抱き起そうとするガルブはふとステータスを見て唖然とする。


そこには......。

























「ライツェル・ガリウス・ビットリーグ ジョブ<無職> 専用スキル なし 固有スキル なし アイテム 999個」

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