16話 求職の救世主
ようやくストーリーが開始できそうです。
唐突に訪れたそのベティからの問いに一瞬固まるも、すぐに顔を作り直したウィームは言った。
「ああ、もちろん。」
それを聞いたライツェルは近づき、彼の耳元でささやいた。
「おい、大丈夫なのか?見た所、もう魔力は残ってないだろ?」
「流石は勇者様だね。そこも見ただけで分かるってことか。......確かに、もう僕の魔力は無い...。正直次撃ったら気絶するだろうなって感じだよ。」
ウィームは諦めたような、それでいて希望を持ったような顔で笑った。自嘲するようなものではなく、単に喜んでいる笑顔である。
「だったら無理しない方がいいだろ。もし気絶されたらそれはそれで彼女は気にするぞ。」
「確かにそうだ。でも、それでもここでやりたいんだ。彼女には時間もない。その上、ようやくここで希望を持ってもらえるかもしれないんだろ?
僕は、今度こそ誰かの希望になりたい。だったら、ここでやらないでいつやるんだって話さ。この会話を引き出せたのなら、すぐにでもやるべきだと僕は思うね。
ここでやらなけりゃ彼女は諦めてくれるだろうが、きっとそこで希望の灯も消えてしまうだろう。再度それを付け直すのは難しいだろうね。」
ウィームの意見は一理ある。ここでもし断ったら、彼女はしょうがないと諦めてくれるだろう。だが折角彼女が自らそれを見たいと望んだのだ。ならば、答えてやるのが最も正解のルートにはなるだろう。そう思ったライツェルは、悩みつつも承諾する。
「わかった。確かにその通りだ。でも、それで倒れられても困るし、もしマズかったら言ってくれ。魔力回復薬は一応あるから、あとで渡そう。」
その言葉に振り返って笑うウィーム。頷いた彼は、ベティとの会話を再開する。
「お話は終わった?」
そう言うベティに笑顔を向けるウィーム。なるべく彼女に伝わってほしい思いを込めて、辛い顔をしないよう頑張る。
「ああ、もう大丈夫さ。それで、触ってみたいのかい?」
「はい、そうです。物心ついた時からこれなので、ほぼといっていい程何かに触れた事がありません。お花に触れて、嗅いで、楽しんでみたいです。...だめですか?」
その問いへの答えは先ほどと同じYESだった。ウィームはすぐに準備に取り掛かる。といってもやることはさっきと同じ。だが、もうアーリエの時間も限られている。失敗は許されない。彼は緊張しつつ、話した。
「それじゃあ、残りの時間も無いし早速見せるね。行くよ?」
そう言うと、先ほどと同じ魔法<百華繚乱>を発動させる。その魔法は再び彼女の周りを飛び、そして一定時間が経つや否や花となって彼女の周りを華やかにさせる。
「うわあっ......。」
思わず感嘆の声をあげるベティ。しかしここでは終われない。ウィームは額に汗を浮かべながら、更に同じ魔法を発動させる。彼の顔色が悪くなっていくと同時に、どんどん花が出来ていく。
ライツェルは彼を心配し肩を支えた。
「ありがとう、ライツェル。......この部屋は殺風景だね。当たり前だけど、余計なモノは何一つない。だったら、今この瞬間だけでも彩り豊かにさせたいじゃないか。僕が思い浮かべたのは花畑さ。どう?」
その彼の言葉通り、彼の魔法は一段ずつ量を変え花を作っていく。その花は色とりどりでとても魅力的だった。様々な品種の花が交互に辺りを照らし、まるで最初からここにあったかのように自然に咲いていた。
「す、凄い!!!こ、これってまさか...お花畑っ!?...ベティの為に、作ってくれたの?」
ベティは感激し、大喜びで辺りを見回す。その顔には驚きと喜びと感動が入り混じり、感情の処理が追い付いていないようだった。
「そうだ。君だけの、君専用の花畑さ。匂いも、色も、何もかもが君の回復を心から望んでいるよ。それじゃ、楽しんで。」
そう言うウィームは汗が吹き出し、身体は震え、杖を持つ手が微かに力を無くし始めていた。それに気づいたが彼の覚悟を無駄にするまいと何も言えないライツェル。
一方、ベティは初めて自分から動いた。この場において、すぐに枯れてしまう花が枯れない。その状況に心を動かされ、かつてのトラウマすら癒えそうな彼女はベッドの上で四つん這いで動く。膝と腕を動かし、近くの花の前まで移動する。そして目の前にある花をしげしげと観察する。
「すごい、花びらがある。色もある。綺麗......。こんな綺麗なモノを、ここに作れるなんて...。夢みたい。ありがとう、ウィームさん!」
「ど、どどどうも致しまして.........はぁっ、はぁっ。」
彼女の笑顔はウィームの悲しみと疲労を癒す。実際に身体の怠さは消えていないが、今まで必要とされてこなかった彼の自信と喜びを刺激したそのエネルギーは想像以上に強く、彼は限界を超えた力を放出していた。
彼は<百華繚乱>を発動させたのち、枯れそうな花を片っ端から<百華絢爛>を常時発動させて治していく。そうやって疑似的に地上にある花を再現させていた。彼は心の中で思う。あと少しだけ耐えてくれ。花よ。俺の身体よ。そして、命ある息吹よ。
「さぁ、触ってごらん。」
その声に、はっと顔を向けるべティ。いいの?と言わんばかりの顔には興奮と困惑が入っていた。しかし、興味に耐えきれず彼女は花にすぐに向いた。彼女はじっとその中で気に入った花を探す。そしてとある一点を見つめ、視線が止まった。釘付けというやつだった。それは鮮やかに咲いたピンク色の花。その花を眺め、そして彼女はいよいよと覚悟を決めた。
かつてネズミを触り、大変なことになってしまった光景。それを思い出し、躊躇して思わず固まる。するとそれを見たアーリエは言う。
「いいのですよ。触っても...。ウィームさんも望んでいる筈です。何より、私が絶えることの出来る時間もあと少し...。覚悟を決めるのなら今です。」
更にライツェルが続く。
「そうだぜ。確かにベティ、お前の過去は辛かっただろう。けどな、きっとその花たちはそうカンタンには枯れないぜ。ウィームの願いと想い、それに花たちの希望が詰まってるからな。」
その声にライツェルを向き、そして言うベティ。
「希望?」
「ああ、花だって思ってるさ。この世界で立派に育つようにってな。生き抜けるように、希望を持って咲いてるんだ。だから、大丈夫だ。信じて触ってみろ。」
「......うん、わかった。」
そう言うと、彼女はベッドのシーツを摘まんでいた指をそっと離し、そして手をゆっくり上へと揚げる。その手は震えており、かつてのトラウマを思い出すようだった。
そして、その指は一定の場所まで来ると止まり、そのまま進んで、戻ってを繰り返す。しかし、不意に顔を上げ、こちらを見る人たちの顔を見る。
慈愛の表情を浮かべ、魔力が擦り減っているであろうに自分を笑顔で見るアーリエ。
こちらを信頼と応援の顔で見ながら、行け!とでも言いたげに笑うライツェル。
そして、必死そうな、どこか辛そうな表情を隠しながら自分に笑顔を向けるウィーム。
きっと大丈夫だと、彼女の中で誰かが言った。彼女は手を伸ばした。そして、ついに恐る恐る伸ばしたその手の、指先たった数ミリ。それが花びらに触れた。
その瞬間、ベティの目から涙がこぼれる。それは今まで耐えてきたものが、ようやく実を結んだ瞬間だったからだ。彼女は静かに涙を零した。
「...!......うっ、うっうぁう...。うぅぅ......ぅぅうう、あぁあぁああ、......ぐすっ、すん。」
衝動的に涙を流し、声にならない声で泣くベティ。その顔は歪んではいるものの、決して悲しみでは無いことだけは明らかだった。
時々小さな声で呟かれる呻きとも喜びとも取れる唸り声は、彼女のずっと待ち望んでいたことを表していた。
その声に、再びもらい泣きしそうになるライツェル。またも慌てて隣を向き、アーリエに笑われてしまう。
そして、ここにもう一人泣きそうになってしまっている者が居た。それは、当然ウィームである。
今まででくの坊扱いされ、お払い箱にされてきた自分とその魔法たち。何度も何度も苦しんだ。いっそ消えてしまおうかと願った事すらある。しかし、それもベティと同じように今、実を結んだ。
彼は限界を超えて魔法を使用していたため顔色は恐ろしく悪かったが、それとは別に満足げであった。満足そうに笑顔を浮かべつつ、涙を流していた。受け入れられたのだと。自分の存在意義が、ここで見つかったのだと。今まで悩み苦しんできた時間が救われるかのようだった。
そして彼は彼女を見る。ベティは、涙を流して小さく呻く。その顔と声に、思わず感極まったウィームは最後の叫びを放つ。
「ベティ!!!」
その声に、ベティは涙でぐしゃぐしゃにした顔をこちらに向ける。
「君も僕も、今まで傷つき、悩み、苦しんできた。悩みのベクトルは違うかもしれないけど、何かの区切りの時からずっとそうなってきたのは同じだ。君は形は違えど僕と同じ苦しみを持っていたんだ。
だから僕は君に伝えたい。......君が今、花を見て感動したように。僕が今、そんな君を見て自分の存在の必要性を認識したように。そして僕が呼び、それにこたえてずっと生命の息吹を見せ続けてくれた花たちのように。
どんなに傷つき、倒れていったとしても、必ず何度だってやり直せる!!立ち直れるんだ!!!!...だから、絶対に希望を捨てちゃだめだ!!!僕は、僕はずっと辛かった!でも、君がそれを救ってくれたんだ!!!!君は僕を救った!!!!ということは、君だって救われる筈なんだ!!君にも、希望は必ずある!...諦めるな。」
そう言うと、彼は倒れた。文字通り地面に伏せた。それを見て、慌ててライツェルは彼を抱き起し抱える。もし自分のせいだとか思われて今の台詞が台無しになることだけは避けたいと咄嗟に言い訳を考えながら彼女を見たが、すぐに安心した。
彼女は彼をじっと見ていたが、その顔に悲観の様子はない。そしてそのまま彼女は言った。
「...ありがとう、ウィームさん。......わかった、もうちょっと、頑張ってみるね。私も、希望を捨てずに生きてみたい。
お花を触ることが出来たし、今度は外の世界でお花を見てみたいな。...ふふ、そう考えたらまだまだ死ねないや。ウィームさんが言うように、誰かが私を必要としているかもしれないし。...気づかせてくれてありがとう。.........明日、また会おうね。」
そう言うと、彼女はライツェルたちを送り出した。最後にアーリエが少しだけ何かを話すと、彼女は熱心に頷いていた。アーリエは前回同様、空気清浄の魔法をかけた。そしてみんなで地下を出たのだった。
「ふぅ、流石に疲れましたね。3人を軽減無しで魔法をかけると、いくら私でもずっとは無理ですね。......しかし、ベティが元気になってよかったです。」
彼女はそう言って笑った。熟練であるアーリエにとっても流石に軽減無しの高レベルスキルは厳しいようで、軽くではあるが呼吸が多くなっている。ライツェルも流石に泣き腫らしたような後は無く、すっきりとした面持ちで彼らを見つめていた。
「......彼女が元気になってよかったな。それに、希望も持ち直したみたいだ。」
「うん、本当によかったよ。僕の魔法が、彼女の役に立ったんだから。僕も自信が湧いた。きっと、これからもやっていける。彼女があれだけ絶望的でも希望が持てたんだ。病気の無い僕なら、きっとまだまだいけるって気づいたよ。ありがとう、ライツェル。アーリエさん。」
青い顔をしたウィームはそう言って笑顔を見せる。息も絶え絶えではあるが、肩の荷が下りたような安堵の表情に満足感が混じる。彼は自分の状況を悲観していたが、そんな彼はより悲観すべき状況の少女に出会い全てが変わった。希望をあの子が持つのなら、自分もまた立ち上がろうと重い腰を再び上げる覚悟が出来たのだ。
「それじゃあ、彼女の元気も戻った事だし、僕は行くよ。それじゃあ、改めてありがとう。二人ともお元気で。...僕は、また頑張ってみるよ。勇気づけられたのは彼女だけじゃないさ。...二人には本当に感謝してもし切れない、もし何処かでまた会ったら今度はゆっくり話がしたいな。」
立ち話もそこそこに少ない荷物を持って帰ろうとするウィーム。その彼の言葉を聞いたライツェルが慌てて引き留める。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。そんなすぐ行かなくてもいいだろ、ちょっとくらいはここでゆっくりしておけよ。それに、多分そんなに急ぐ必要も無いみたいだぜ?」
「...? 急ぐ必要が無いって言うのはどういう事なんだい?」
不思議そうにこちらを見るウィームにゆっくり近づくアーリエ。そして口を開く。
「...そのことについては私から。まずは、ベティに対しての行動、深く感謝いたします。本当に助かりました。彼女自身、もう無理だと諦めていたようですし、私たちもそんな彼女の態度に釣られてしまいそうだったので...。とにかく、本当にありがとうございます。......そこで、少し提案があるのです。」
「提案...ですか?」
「ええ、先ほどのウィームさんの覚悟を無視するつもりはございませんが、もしよろしいのであれば、彼女の看護係について頂きたいのです。」
アーリエの口から出た言葉。それは、ここに来るまでの彼が心から求めていたもの。そう、いわゆる内定である。
「......看護係...。それは、彼女のってことですよね?」
「ええ、といっても勿論私抜きでは会えませんが、今までは私が魔法を使いつつ食事を持ってくる、みたいに一人でずっとやっており、偶に神父様にも見て頂く、といったような感じでアシスタントが居なかったのです。
勿論他の人にも頼みましたが、彼女のウイルスを怖がって中々就いてくださる方もおらず...。かといって、やろうとしてくださる方は彼女に対し特に勇気づけることなどはしてくれずむしろ彼女を失望させるばかりで、結局私一人で基本的にやっていました。しかし、貴方が増えてくれるなら大助かりです。
詳しい説明は受けて頂いてからお話ししますが、基本的には彼女のご飯を作ったり服を洗ったりし、更には貴方の魔法で勇気づけたり癒したり、そして彼女と話をしてあげる役目です。...あまりこういう事は言うべきでは無いかもしれませんが、待遇も悪くはないでしょう。どうです?引き受けては頂けませんか?」
その言葉を受けた彼は思わず荷物を取りこぼす。顔には驚きの表情が浮かんでいた。そんな彼はアーリエに駆け寄り、そして手を握る。
「............是非。...是非、お願いします!僕を必要としてくれている、そんな需要があると分かっている所で働けるのなら何も文句などありません。
それに、彼女とは話も合いそうですし、家事などはずっとやってましたから問題も無いかと。それに彼女は、また明日会おうと言ってくれました。それが叶うならば、喜んでお引き受けしたいです。待遇だって今まで散々蔑まれてきましたし、今更気にしませんよ。それに、確かに彼女のウイルスは脅威的ですがだからこそ、彼女で終わりにするべきです。
他の人も不幸に見舞われないよう、彼女をきっちりと治して終わらせるべきなんです。僕はそう思います。...ただ、僕なんかがアーリエさんのアシスタントを務められるかは分かりませんが、精いっぱいやらせて頂く覚悟は出来ています。こちらから、宜しくお願いしたいです。」
そんな言葉を叫ぶように吐ききった彼は頭を下げる。マナーもくそもあったものではない、お世辞にも綺麗にとは言えない礼であったがその姿勢にライツェルとアーリエは顔を見合わせる。
「ふふ、私は貴方の先ほどのベティと向き合う心を見てきました。貴方なら、きっと必ず上手く行くと思います。それでは、詳しい話は部屋で行いますので、先に向かって頂けますか?」
「...わかりました、ありがとうございます。...ライツェルもありがとう。こんな素敵な所に案内してくれて。心の中ではあったが、疑って悪かった。それじゃあ僕は部屋へ向かいます。」
そう言って彼は走っていった。そんな彼を見送ったアーリエはライツェルに向かい頭を下げる。
「今回はありがとうございました。...おかげで、ベティを取り巻く問題は一旦解決しそうです。本当に助かりました。」
「何の何の。困った時はお互い様だろ?俺も散々助けてもらったし、これくらいは気にするなよ。...俺としても、ベティが心配だったからな。そこに上手くウィームが入って行ってよかったぜ。」
手をふりふりと振りながらにこやかに笑うライツェル。
「しかし、ライツェル様の人を見る目は本当に凄いと思います。あのガルブ様たちをはじめ、様々な人たちの特技や心を見抜いてきました。その目は、勇者のジョブで行っていたものと同様に、凄い物だと私は思います。」
そのアーリエの言葉には信憑性があった。彼女が見てきたライツェルという男は、旅の最中に本来は敵だった筈のものでさえ、本音や才能、あるいは適応能力なんかを見抜いてきた。
今回のそれもそのライツェルの特技が生み出した結果であろうと紐づけた。...そしてこれが、ライツェルの脳天に大きな衝撃を走らせた。
「...............そうか、なるほどな。...よ~うやく分かったぞ。」
「?どうしたのですか?」
「ああ、いやな。ちょっと考えたんだ。確かに今回といい、いつぞやの事と言い俺は咄嗟の状況で問題を解決できる誰かと、問題を解決する方法を模索できる才能とやらがあるらしい。勇者じゃなくなった俺だが、だからこそ無職である人の気持ちが分かるようになった。ジョブも仕事もだけどな。そして今のアーリエの言葉で閃いたんだ。」
どや顔で語るライツェルはそう言って一呼吸置くとこう言う。
「俺は、今みたく就職に困っている就職希望の人間と、現実で起きる様々な問題に直面して困っている問題解決の人間。この二人を結び合わせ、ビジネスパートナーとするんだ!俺自体にジョブが無いからどうしようもないと思っていたが、ジョブがあるからってそうカンタンに就職できる訳でもない!それを解決するんだ、俺の手で。ウィームとベティの件で閃いたぞ。俺は【求職の救世主】になる!!」
その言葉に、目を点にするアーリエ。それもその筈、急に何を言い出したのかと思えばこんなことを自分の仲間が宣ったのだから。
「え、えーと......。あの、そもそもなのですが、それってどうやって行うつもりなので?お店はどうするのですか?希望者を募るのだって、最初はそうカンタンじゃないでしょうし、いくらウィームさんに手伝ってもらったとて限度はありますよ?」
「あぁ、まあな。でも少なくとも俺が今やるべき答えは見つかった。それだけで十分だ!俺は勇者じゃなくなったが、無くなったとしてもまだ人を救えるって事だ!人を救いつつ仕事として稼ぐ。これが一番だな。っしゃ、そうと決まったらまずは行動だ!!といっても俺一人じゃ限界はあるから、ウィームもそうだけどアーリエも手伝ってくれると助かるぜ。噂程度でいいから、知人とかに話してくれ。いいか?」
「はい、それは構いませんが......。そう上手く行くか、心配です。私もライツェル様のその答えはとても素晴らしいものだと思います。ですが以前のように狙われたり、ジョブが無いからと見下されることもあるかもしれません。それでもそれをやりますか?」
アーリエのその問いは必然だった。今までそうやってきたものが、そう簡単に元の生活に戻れはしない。それはライツェルにとっても同じでここ最近の生活と同様にまた酷い事を言われたりされたりする可能性は高かった。不特定多数と関わろうと言うのだから当然である。だが、ライツェルの意志は固かった。
「ベティみたく困っている人が居る。病気だけじゃない、今まで魔王討伐の旅で見てきた飢餓、貧しさ、徴収、あるいは人間関係などで苦しむ面々の姿。そしてウィームのように、ある一定の条件でしかジョブが使えず苦しんできた人たち。そんな彼らを俺の機転で救って、それを仕事として成すんだ。いつか必ず認められるはずだ。だから俺は例え今は辛くともやってみせる。全ての国の人々が安定した生活を手に入れるまでな!」
その言葉に、呆れたような笑みを向けつつため息を吐くアーリエ。それを見たライツェルがバツが悪そうに言う。
「......無茶だと思うか?やっぱ。」
「ええ、かなり。......とはいえ、ライツェル様は一度決めたら例え周りが止めても立ち向かってしまう人でしたし、もう読めてましたよ。それに魔王討伐の際も、誰より苦しんでいた人の味方でした。ですから安心しました。やっぱり、ライツェル様は勇者です。無茶すら塗り替えてしまうお方ですね。」
やれやれと言いたげだったアーリエは笑うと、ライツェルに向けて宣言する。
「承知しました。私も出来る限り協力しましょう。といっても私も仕事がありますので、噂を流す事しか出来ません。それでもいいですか?」
「ああ、構わない。助かるぜ。」
ライツェルは礼を言うと、ひとまず今日の所はと去ろうとするがどうせならとアーリエの厚意で泊めて貰うのだった。こうして、ライツェルは無職からの脱却の一歩を踏み出したのだった。
一週間後。
ここはガルブの入隊した国営騎士団、通称「輝煌騎士団」。この国で最も優れている騎士団という括りにして、事実この世界でも十本の指に入るクラスの強者が揃っている。
そんな騎士団の寮のある区画の隅、入り口からすぐの屋台のような小さい小屋。
そこにライツェルは居た。暇そうに鉛筆を人中に咥え、口笛を吹いていた。
「だ~れも来ねえな。滅茶苦茶暇だ。なんでこうなってしまったんだ?」
それは当然の疑問だろう。何せ、救難要請の最も多い輝煌騎士団の土地の中なのだ。それなのに誰も話の一つも持ってこない。一週間前に話を聞いた時は、これはようやくちゃんと働けるとライツェルは確信した。なのにもかかわらずである。
するとそこに、一人の人間がやってきた。客かと思ったライツェルは慌てて鉛筆を置き、それを見る。が、顔を見てなーんだとでも言いたげに顔を落とした。その来た人物はガルブ本人だったからである。
「よぉ!!遊びに来たぜぇぃ!!!」
「止せよ、本当は心配してきてくれたんだろ?...全く、あんだけ大口叩いてこの様だよ。情けないな...。」
しょんぼりと顔を下に向けるライツェルを見たガルブはがははと大口を空けつつ言う。
「何だ、気にするんじゃねえぞんな事!!!これからだよこれから!!まだ出来て一週間でそんな仕事が有る訳ねえだろ!それにな、仕事がねえって事はイコール困ってる奴らは居ねえってことだろ?そりゃいいことじゃねえか!!!」
「確かに世間はいいけど俺は良くないんだよ~~!!でもだからといって問題が起きて欲しいとは思わないし...。はぁ~、まさか魔王討伐時よりこうやって悩むことになろうとは...。」
こうやって悩んでいるライツェルだが、そもそも何故こんな国営騎士団の寮地で店を構えているのか。それは一週間前.........。
アーリエの流した噂はそこそこ広がり、更にウィームの行動もあって多少広まりつつあった。といっても、元勇者という情報や一個しかない実績など情報が不十分だった為、訝しむ人間は多かった訳だが。
だとしても、その弱い藁すらも掴みたい人間はいるものらしく、噂は徐々に広まっていった。そしてそれは、別の仲間にも当然耳に入るのだった。
それがガルブである。ガルブはこの噂を聞きすぐライツェルの元へ。アーリエにああいったはモノの、店を建てるにもジョブの証拠が必要で最初から詰みかけたライツェルは悩みに悩んでいた。
そんな中駆け付けたガルブは話を聞き感激。再びライツェルが人を救うために闘いを始めようとしているのを応援しない訳にはいかないと言い、なんと自分の役職を用いて騎士団に直談判しに行った。
それは勿論ここの区画の一部をライツェルに使わせてやって欲しいという事だった。最初は断られたが、頼み込むガルブの必死さといつも真剣なこの男に嘘は無いだろうと認めた団長の助言もあり、一部の一部、小さな小屋のみがライツェルに特例で与えられた。
といっても勿論条件はある。まず、一か月以内に結果を一件でも出す事。それが出来なければ、即刻出て行ってもらうという契約である。更に、月あたり数枚の利用料を払う事。この二つの条件のみで使う事を許可した。これは特例中の特例だったが、ガルブは知らず、
「もっと割引してくれたっていいのにな~」
と見当違いな発言をしていた。彼は入って数カ月で自分が所属する分割チームのリーダーになるくらいには優秀なのに、何故かこういう部分では頭が回らないのである。要するに馬鹿だ。
そんな彼の活躍にライツェルは驚いたものの、ガルブはこう言う奴だったと再認識。感謝すると同時に改めて挨拶に向かい、そこを使わせてもらう事を正式に決めたのだった。
だが、結果はこう。いくら噂だけ流れても、実際に来る人間が居なければ仕事は成立しないのであった。ライツェルは一週間の閑古鳥具合に不安を覚えた。このままでは、一か月以内に結果を出す事など出来ないのではないだろうかというものである。
「まあ、そう肩ひじ張ってても来ねえもんは来ねえって。もっと気楽に行こうぜ!俺ァもしライツェルにその気があるんなら一緒に騎士団に来いって推薦するつもりもあるからな。いくらでも悩め!!」
「来ないものは確かに来ないんだが、それじゃ困るんだよな俺は。......ていうか、俺を騎士団に誘ってくれるのか?気持ちは嬉しいけど、今の俺じゃ足手纏いだな。あくまでスキルが凄いだけで、今の俺は普通の兵士よりちょっと強いくらいだ。到底騎士など不可能だよ。...とはいえ、ありがとな。色々と。...なんでここまでしてくれるんだ?」
ライツェルは不思議だった。そりゃずっと冒険してきたが、だからといってここまでしてもらえるほど何か恩義があるかと言われるとそういうのは無い。だとすれば何だというのか。まさか、仲間というだけじゃあるまいに。
「あァ?そんなモン決まってるだろ?...俺らはずっと冒険してきた仲間じゃねえか!!仲間助けるのに理由なんて居るかよ!!!お前ェだってそうだろ?...へっ、言わせんなこんな恥ずかしいことをヨ!!」
そう言いつつライツェルの頭を軽く殴るガルブ。軽くと言ってもかなり威力のあるそれを受け、ジンと来る痛みで思わず苦笑するライツェル。だが、自然と納得出来た。何故ここまでしてくれるのかなんて、愚問だったようだと。
「そうか。そうだよな、仲間だもんな。俺ら...。ありがと、ガルブ。じゃ、仲間の助けも借りた事だし、もうちょっと頑張ってみるか!」
「おう!!その意気だぜ!!!といっても、客が来なきゃお前頑張る事も出来ねえけどな!!!」
そう煽るガルブはにやにやしながら駆けていった。
「あのやろ、こっちの気合の入れ直しを...ッ。覚えてろよ~!!」
そう怒ったように言いつつも冗談だと分かるくらいのテンションで睨みつけるライツェル。なんだかんだで楽しんでいる日々が、今日もまた過ぎていくのだ。
次の日に騎士団長が直々にとある騎士を連れてくるまでは。
ということでようやく本題、求職の救世主に入れそうです...。長かったというか、更新が遅かったというか。とにかく、見て頂いている皆様ありがとうございます。よろしければリアクションや評価等お待ちしております。




