14話 植物魔法
マル秘情報:ガルブの好物はダイガオウグループの骨付き肉・通称「ダイガオウプレミアムチキン」。
「ああ、いや、大丈夫かと言われると正直.........辛いですね。あまり最近上手く行くことが少なくて......。」
そうライツェルは返した。ジョブの消失から始まった彼の不運。その流れは最近特に上手く行っていなかった。自分の辛いことだけではなく、他の人の辛いことも考えてしまいどうにも上手く行かないのだ。
そして隣の男もまた、同じであるようだった。ライツェルの返事に、思わず頷き疲れたように顔を下げる。
「そう、ですか。私も同じです...。最近、何もかもうまくいかず......。お兄さんと同じですね...。」
そんなボロボロローブの男を見たライツェル。上手く行かないのは誰も一緒かなどと思いつつ、興味本位で聞いてみる事にした。
「その、差し支えなければ何が上手く行っていないのか教えてくれませんか?傷の舐め合いとは言いませんが、もし同じような悩みなら共感できるかと思いまして...。」
そう言うライツェルに、顔を向けるローブ男。彼は言いづらそうにしていたが、やがて自然と話し出した。
「......分かりました。確かに、このまま誰に相談しないのも問題がありそうですし...。私は魔法使いのウィーム。といっても、低級ではありますが...。」
彼の名はウィーム。北区ワドーム街生まれの22歳。生まれてからずっと平凡な毎日を過ごしている男性である。
「そんな私も、成人してからもう4年が経ちます。元々私は魔法学校に通っていたのもあって、暫くはそこでアルバイトをしていたのです。ですが、私も私の魔法を生かしてみたくて、就職しようと奮起しました。でも、現実は甘くありませんでした。行く先々で私は悉く落とされ、いつも1次面接止まり。そんな私も応援してくれる家族がいましたが、私が成人して1年後くらいに父は戦いで、最近病気で母親が息を引き取りまして...。それで、頼れる先も無く必死で頑張ってきたのです...。でも、それもどうしようもなくて...。こんなことならバイト先としていた魔法学校の塾でそのまま就職すればよかったと思うも最早後の祭り。もうそこも定員オーバー。もはや何処にも頼れず、今はこうして職ナシの笑われ者になってしまったという訳です。...ほら、現にあそこの人たちだって私も笑うでしょう?」
そう言う彼の視線の先には、先ほどの子供たちの母親と思われる人たちがひそひそと何やらこちらを見て話をしていた。
「基本的に私と関わるものは居ません。地域の弾きものですからね。だからこそ、私に話しかけてくれた貴方に先ほど驚いたわけです。」
そう話す彼は一息つき、そして笑った。それは嬉しそうに。関わるものが最近居なかった彼にとって、話しかけてくれたライツェルというものは英雄だった。まさかその相手が本当に英雄だとは知る由もなかったが。
「そう、なんですね。やっぱり、就職って大変なんだな...。いや、私も最近就職を頑張っていまして。ただ、全然何も採用されなくて困っていたんです。」
そう言うと、彼は驚いたような顔をしてこう言った。
「貴方もですか!?......やはり、私だけじゃなく他にも居たんですね。そう言う人が。なんというか、同じ境遇を分かち合える相手がいたというのは素直に嬉しいです。まさか近くには居ないだろうと思っていたので。」
ベンチに腰掛けている二人は、やはり少し浮いている。子供たちこそ気にはしないが、周りの大人はあの無職に話しかける奴が居たなんてと噂していた。
そこでライツェルはふと思いついた疑問を口にする。
「あの、失礼かもしれないのですが、一つ質問いいでしょうか?」
すると、ウィームは笑ってこう言った。
「なんでもどうぞ。というか、私たちはもう一つの問題を分かち合える相手。敬語はやめましょう。もう仲間、だよね?」
それを聞いたライツェルは少しだけ驚きつつも、すぐに笑って返す。
「...ああ、そうだな!サンキュ、俺はライツェル。よろしくな!」
「ライツェル......?何処かで聞いたような...。」
首を傾げるウィームを横目に、ライツェルはとある質問を口にする。
「あのさ、ウィームは魔法使いなんだよな?魔法使いなんて花形じゃん。よっぽど上の役職じゃない限りは何処にだって就職できるだろ。戦闘に使える魔法だってあるし、生活とか工業とか農業とかだってある。魔法は人だって救えるんだぜ?そんななのに、何でウィームは落とされてるんだ?」
すると、ウィームは悲し気に目を伏せ、そして恐る恐る呟く。
「......それは、僕の使える魔法がとんでもなく使えないからさ。...僕には基本魔法の才能は無いらしい。魔法使いってジョブを半成人の日に貰った割に、才能が無いってどういう事だよって当時は何度も思ったよ。でも実際僕は魔法使い以外何もできなかったんだ。職を与えられただけマシ。そんな存在だった。家族は応援してくれたし、魔法学校にだって入った。でも僕は最終的に使える魔法はたったの3つだった。どういう魔法かわかるかい?」
「...うーん、といってもどんな魔法も基本的には役に立つからなぁ。そんなにいう程なのか?...うーん、わからん!俺の仲間......元か、の中に魔法に詳しい奴が居たんだが、ソイツが言ってたのは「蛇口をひねる魔法」だったかな。マジで使えないってな。半径5メートルの中にある蛇口をひねるだけの魔法。確かに、そりゃキツいなって思ったよ。こんな感じか?」
すると、ウィームは
「そんな魔法もあるのか...。まあ、それよりはマシ...なのかな?僕の魔法1つ目は、「土が無い場所でも花を咲かせる魔法」。2つ目は「花の花粉を飛ばす魔法。」3つ目は、「萎れた・枯れた花を再度咲かせる魔法」。どうだい?使えないだろ。」
と言った。それを聞いたライツェルは、少し考えてからこう言った。
「いや...。まあ...。でも、一応土が無い場所に咲かせることが出来るなら最悪サバイバルフードになるかもしれないし、花の花粉を飛ばせるなら花粉症の敵が居たら倒せるチャンスが出来そう。枯れた花を咲かせるのだって、もし自分のお気に入りの花が枯れちゃったら頼むかもしれないし。」
それを聞いたウィームは微笑む。困ったような顔だったが、笑いは浮かんでいた。
「君は優しいね。...でも残念ながらそんな便利じゃない。土が無い場所に咲かせられるけど、何が咲かせるかは分からない。食べられる花が来ればいいけど、毒のある花だったらお終いだ。次に、花粉を飛ばせるとは言ったが、付近しか無理だ。精々1mが限界だ。そんなに近づいていたら僕なら倒されてる。そして枯れた花は僕も正直使えると思ってた。でも、とある就職希望先で言われてしまったんだ。お前に金を払って花を回復させるくらいなら、花屋で買うか育てるかする!...てね。だから、ダメなんだ。」
「そんな酷ぇ事を言う奴が居るのか...。そりゃ確かに、買えばいいし植え替えればいいかもしれない。でももし形見の花とか、何か思い出がある花だったら植え替えなんて出来ないし、そうじゃなくても一々掘って差し替える手間を防ぐことが出来る。そしてそれはウィーム、君にしか出来ない筈だ。なんでこう、酷いことになるんだ。俺もウィームも決して働く気が無いとか、適当に働こうとしているとかじゃないのに。」
ライツェルは顔を歪め、ウィームの心に同情する。そんな事を言われてしまえば自信も喪失するし、そうじゃなくても就職にも迷いが出る。きっとそうやって彼は苦しんできたんだとライツェルはウィームを慮った。
「そういう訳で、僕は就職が出来ないんだ。はは、やっぱり辛いけどどうしようも無いんだ。...それより、ライツェル。君はどうなんだい?君は何故、就職できない?」
しかし、その言葉を聞くライツェルの意識は別の方を向いていた。最近、こんな感じの需要があったような......?
「あっ!!!!」
気が付いたライツェルは大声で叫んだ。そしてその後周囲の視線を受けて沈黙する。
「ど、どうしたんだい?そんな急に大声を出して。」
「いや、思い出したんだ!今のウィームでも役に立てる場所を!」
嬉々としてそう語るライツェル。しかし、ウィームは怪訝そうな顔になる。
「え?僕が役に立てる場所。.........確かに僕は君の目から見て不憫だろうし、誰だって同情するかもしれない。でもね、いくらそんな僕でもそんな美味い話がある訳ないと思っているよ。君には悪いけど、急に知り合ったボクにいきなりそんな事を言うのは流石に信用できないな。」
そう言うウィームには、明らかな不信感の募る表情が顔に浮かんでいた。
「ああ、まあそうなるよな。でも、確かに最近こんな感じの需要があったんだよ。そうだ、これなら行ける!よし、よし!、よし!!、よし!!!」
「ええとね、一人で盛り上がってるところ悪いんだけど何でそんなに喜んでるのか僕には分からないよ。君は今、疑われてるんだよ?実際僕は君を友達から、急に仕事を進めてこようとする変な奴に格下げしそうになってるし。」
ウィームの困惑を他所に立ち上がり、そしてウィームの肩を掴んで力説しだすライツェル。彼には明確なヴィジョンが見えているらしい。
「ああ、じゃあ説明するぜ。俺の元仲間の1人は僧侶...もっと言うならシスターだな。をやってるっていうかそのものっていうかなんだが。彼女のいる教会の中の施設に、病気の子供がいるんだ。その子はちょっと事情があって、外に出られないんだ。しかも、彼女は病気のせいであらゆるものに触ることが出来ない。当然、花もだ。彼女は必死で病気に抗っているが、それもだんだん希望が失われて行っている。そこでウィーム、お前だ!」
「え、僕?...っていうか、教会に友達が居るなんてすごいね...。で、その病気の子供を助けるのに何で僕なんかが役に立つわけ?」
「あぁ、そうだ。ウィームは花を咲かせることが出来るだろ?それで彼女に花を見せて欲しいんだ。彼女はずっと外に出れていない。だからこそ、本物の花が部屋の中にあるってのに驚くぞ。それに、その回復の魔法があれば魔力が続く限り花を見せられるんだろ?きっと、彼女は喜ぶ。」
ライツェルはそう言って笑った。たった十数分話しただけの仲だが、それだけで信用した訳では無い。彼がどんな経歴で、どんな思いをしてきたか。それが分かるからこそ、彼を信用して一緒に頑張ろうと思っているのだ。
しかし、ウィームは違った。彼だって馬鹿な訳ではない。美味い話だと思う心が誘いに乗ろうと囁いてくるが、それをガンと心で押しのける。
「.........そんな事をして、何になるというんだ?僕は確かに花を咲かせることが出来るし、きっとその子を喜ばす事も出来るだろうと思う。でも、だからどうした?その子に何か変化があるのか?それとも、体調が良くなる?...そんな訳が無い。僕の回復は花にしか効かない。病気が治る訳じゃないのに、そんな事を言われたってしんどいだけだよ。君を疑う気持ちもあるけれど、単純にその子と会った所で糠喜びさせるだけじゃないか。」
「そんな事は無い。その子が笑顔になって、闘病を頑張れるようになって、外にある花も見てみたいからと回復力も伸びるかもしれない。人の精神力って意外と凄いんだぜ?それに、ウィームだって役に立つぜ。絶対だ。どうだ?」
笑顔で進めてくるライツェルに一瞬揺らぐウィーム。しかし、だからといってそれで快く返事できるほどまだ信用できていない。即座に彼は否定した。
「......嫌だ。僕は、もうこれ以上誰かにがっかりされたくないんだ。ずっと、何だ。それだけか?って、言われ続けてきたんだ。戦いなんか出来っこなかったけど、せめてモノづくりならって思ったよ。でも、果実じゃなくてあくまで花だから農業する事も出来ない。何もできず、いつも家族以外からはでくのぼう扱いされてきた。それで、今回は?きっとその子だって、それだけ?ってなるに決まってる。花がある、だからどうした?って。むしろ、病気の私をバカにしてるのかなんて思われかねないよ。」
それは、彼なりの防御反応だった。今までずっと蔑まれ、腫れもの扱いされてきた彼の想いが爆発した形であった。彼も我慢してきただけで、ずっと不満はあったのだ。それを言える環境も無ければ支えも無かった。今更誰かが支えようとしてくれたところで、信用など出来る筈もなかった。だが、ライツェルは違った。伊達に勇者をやってきてないのだ。彼はウィームを諭す。
「なあ、ウィーム。確かに、ずっと辛かったのは理解するよ。俺も最近じゃずっとそんな感じだしな。でも、それで本当にいいのか?このままずっと止まってるままでいいのか?ここで誰かの言葉を信じて行動しなければ、いつまで経っても変われないぞ。いきなり会った俺を信用してくれって言っても、出来る訳ないのは理解してる。でも、厳しい事を言うならここでやらなきゃいつまで経っても変わんないぞ。」
「そんなこと.........。そんなこと、分かってるよ!!!なんで、今日会ったばかりの君にそんなこと言われなければいけないんだ!!!!.........そりゃ、僕だってこのままで良くない事くらい痛いほどわかってる。でも、どうしたらいいんだ?今更誰かを信用なんて出来ないよ。」
「......ウィーム。お前、さっき言ってくれたよな。病気で亡くなった家族が居るって。病気の苦しさとか、分かるだろ?その時、お前は支えてやったんだろ?!なら、どれだけ精神的なサポートが大事かくらいわかるよな!!??」
叫んだ後に項垂れて頭を抱えてしまうウィームに、思わず怒鳴るように言うライツェル。辛い道を歩んできたウィーム。だからこそ、ここで再起させてやらなければとライツェルは思った。
「なあ、ウィーム。俺はお前がきっと彼女の役に立てるって知ってる。その花の魔法、まさに彼女にぴったりだ!力を貸してくれないか?」
「..................分かったよ。君は頑固で、ちょっとだけ誰かの心に土足で踏み込んでくるような奴で、でも熱くて、一生懸命で、それでいて思いやってくれる奴だって。...僕だって、僕だって役に立ちたいとは思っていたんだ。もし今変わることが出来るっていうなら...。僕、やってみるよ。あの時母にやったように、その女の子の気持ちも救ってみせる!」
顔を上げたウィームは妙に冴えた顔つきで言った。その彼は確かに少し頼りないかもしれないが、雰囲気は強くなり、そしてその瞳には覚悟が映っていた。彼も就職をしたかったもの。その覚悟を決めるまでに、時間をあまりかける事は無かった。
その言葉を聞いたライツェルは嬉しそうに頷いた。この前のあのベティの寂しそうな顔。これをどうにか出来る、笑顔にしてやれると意気込んだ。
ライツェルはウィームと共に、再びアーリエの居る教会へと向かう。途中、ウィームは目線を上げ、ライツェルに対し質問をした。
「あのさ、ここまでしてくれて、その上この教会の、勇者パーティに入っていたアーリエさんと友達だなんて事を聞いた上でこういう事聞くのも何なんだけど...。君って何者なんだい?」
それを聞いたライツェルはニカッと口角を上げて言った。
「ん?...俺はライツェル・ガリウス・ビットリーグ。元、勇者だ!!」
何処の世界も就職は大変なんですね...。




