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求職の救世主  作者: こしあん大福
就職編
10/17

10話 暗殺来襲

ま~た更新が遅れる人間です。どーも。

てことで10話、どうぞ。

夜中、ライツェルは帰宅していた。といっても、帰宅扱いにしている我が家は誰も管理していない荒れ果てた朽ちた家であるが。老朽化が進みあちこち壊れたそこに住んでいる彼は、ため息を吐きつつ冷めた肉の串を食べる。


「これ美味いんだよなぁ。といっても、今のままじゃその内食べれなくなる......というか、そもそもメシを食えなくなるかもしれないけど...。はあ、考えてもしょうがないな。とりあえず頂こう。」


もぐもぐと肉を頬張りながら、最近の自身への悪辣な攻撃を振り返る。事の発端は間違いなくあのギルドでの一件だろう。何者かが自分が勇者ではなくなったと広め、そこから今に至る。少なくとも今のこの王都ではちょっと歩けば自分の情報を知る奴が現れ、そして石を投げられたり暴言を吐かれたりする。


とても耐えきれるような事では無いが勇者としてのかつての戦いでのメンタリティからこれを耐久していたのだった。といっても彼も人間。今回は魔族ではなく本来敵ではない人間の為苦しんでいるのだった。


「はぁ~~、俺こんな嫌われるか?実質世界を救ったのは俺だぜ?仲間がいてこそだけど、俺が決着をつけたんだ。なのにジョブは失うわ家は無いわ職は無いわ平和になったと思ったら人の方は荒れてるわ報酬は無いわ国王は亡くなるわなんかしかも多分裏切られてるわ最悪だなコレ。」


鬱憤が止まらない。本来の彼はここまで何か憂鬱気な言葉を言うようなタイプでは無いのだが、流石に近頃の暴言や暴力を受けてもはや反射的に口から出るようになっていた。


それと、先ほど口からも出たように彼はこの騒動の原因は間違いなく王家にあるとみている。それもその筈、そもそもこの話は王家と仲間たちしか知らない筈である。仮に神が他の人間に言ったなら今頃もっと大胆に騒動が起きている筈である。今はまだ噂が広まっている程度、しかも神の話は一切出てこないので恐らく神が発端では無い。


その次に仲間たちはライツェルの事を喋らない。これには彼に絶対の自信があった。ゆるぎない仲間たちへの信頼がそれはあり得ないと彼の心を否定するのである。実際に行けば真実は分かるのだろうが、流石に今行けば迷惑になるだろう。彼らの事を信じ、今はただやっていないと信じ切るだけであった。


そうなると残りは王家となる。更に言うと今王家はてんやわんやの大騒ぎ、しかも元々自身の事をが嫌いであった第一王子が王になっている。間違いなく彼の仕業であろうとライツェルは踏んでいた。彼の従者の女に命じて自分の情報を流すように言われたのだろう。情報があまり出回っていないのはあまりやり過ぎると今度はライツェルの仲間たちが察知してくることや、単純にジョブが無くなったとか言う情報を信じる人と信じない人が居るからだろう。


王子が自分を嫌う理由が判明した今、この街にまだ残っていると思わしき自分を排除しにかかるのは当然だろう。だが殺してしまうと厄介な事になる上、俺が落ちぶれる姿が見たい彼からすれば興覚めもいいとこだろう。だから殺さない程度の悪事をしている。


そう考えれば彼の行動に辻褄があう。釈然としたわけじゃないが、少なくとも理由もある以上対策をとらないと今度はこの場所まで特定して住民を寄こしてくるだろう。自分を攻撃する為の情報を持った人間を。


「といっても、人間を攻撃するわけにはいかないしな。仮に攻撃したらしたで身分証明の出来ない俺は間違いなく死罪になるだろうしな。迂闊な事は出来ないか。考えやがったなあのクソ王子。」


何とかするしかないとは言え、八方ふさがりになってきている彼にはもう考える頭のリソースは残っておらず、ひとまず今日は寝ようと気持ちを改めるのだった。


この家に住み始めてから用意した草のベッドで寝転がり、そして欠伸を一つ。もうどうでもいいか、とりあえず寝ようと彼は目を閉じた。
















丑三つ時。


凄腕のヒットマンでありとある女性から勇者抹殺の依頼を受けたR・ファルコスは街の外れにある朽ちた家屋まで来ていた。


「ちっ、よりによって姿を隠しにくい所に住みやがって。なんてったってこんな壁も削れてるわ穴は空いてるわ、挙句扉もねえような壊れかけに住んでやがるんだ。...って、そらそうか。今奴ジョブねえんだった!いや~面白れぇぜ。まさか人生絶好調のやつがここまで落ちぶれるとはなァ。けけ、そんじゃ始めるとするかね。」


彼は現在その家屋の隣、すぐ近くにある林の木の後ろに隠れていた。彼の得意分野は隠密、気配消しである。彼は特段戦闘が強い訳ではない。何か得意な武器が有る訳でも無い。だが、姿を消すことの出来るスキル「透明化(インビジブル)」のお陰で誰にもバレずに対象の直近まで近づくことが出来る。そうなったらもはやどうする事も出来ず、ただナイフで首元を斬られるだけであった。


そんな彼のジョブは「忍」。このジョブとして生きてきた彼は幼い頃から暗殺を叩きこまれた。その過程でこのスキルを手に入れており、圧倒的に名前が売れた。裏の世界で彼を知らない人間などいない。


だが彼とて敵わない人間がいるのは理解している。その中の1人が勇者だった。最初、依頼者の女性に頼まれた時は正気か疑った。勝てる訳が無いと。勇者というのは規格外の存在だ。そんなのに喧嘩を売って今まで得てきたあらゆるものを失いたくはない。命さえも惜しくはなかったつもりだが、あくまでそれは自分の強さの中での話。自分じゃどうしようも出来ない災害のような存在である勇者に勝てる訳が無いと彼は断った。


しかしその女性はその勇者はジョブを剥奪された。なので勇者としてのあらゆるものは使えない。スキル「透明化」でも十分に通じる相手になっていると告げた。


当初はそれを信用できず断ったファルコス。しかし、実際の噂やその勇者と呼ばれた男が街中でよろけて歩いている姿、更には弱り切って森の中で休んでいるところなど様々な所を目撃し、信じる事が出来る情報だと踏んだのだった。


報酬も法外な値段で、とても悪い話には見えなかったファルコスは依頼を引き受けた。今の勇者なら自分でも殺すことが出来ると確実に思った。


自分の能力である透明化が使えるのは15秒だけ。回復には3分かかる。だが、それさえあれば奴の喉元を引き裂くのは容易だと彼は考えた。だが腐っても勇者、どんなスキルがあるか分からない。そこでとあるモノをあらかじめ用意していた。それは露店の買収だった。


ライツェルが買った肉の串焼きの店の店員に金を握らせ、その串焼きに睡眠剤を塗り付けたのだった。毒物無効化はあれど、睡眠剤無効などそんなスキルは聞いたことも見た事も無い。睡眠剤は毒では無い上、無味なため多少多く塗りつけてもタレもあってかバレる事は困難だった。


その完璧すぎる状況に満足し、これならば勝てると認識したファルコスはここまで来ていたのだった。


「けへへ、これほど楽な仕事もそうそうねえぜ。勇者と聞いたときゃぁ俺ォ殺す気かと思ったがァ、蓋を開けてみればとんだ案件だったな。勇者というジョブを失うとただの弱っちい人間と変わらん奴を殺すだけ。しかも、ジョブの転職などではなく失職なのだから身分も証明できず殺されても誰も分からない。おいおい、最高じゃァねえか。そして俺ァあの莫大な金を貰ってトンズラするのさ。仮にバレてもあの女に行くよう手回しは済んだ。あとは実践するだけだ。」


彼はにやりと笑うとスキルを宣言する。


「透明化!」


身体が透け始め、あっという間に景色と一体化する。彼の身体は人から見えなくなり、彼が居た筈のところには木が生い茂っているのが見えるのみであった。そのまま大股の速足で家へと乗り込む。家の中では物音を立てないよう、つま先のみで移動する。この時点でまだ4秒、楽勝であった。


勇者が居たのは真ん中の大きな部屋、しかも現在いる廊下のすぐの部屋。当然廃家屋の為扉など無く、彼はあっという間にターゲット・ライツェルが居る部屋へと侵入した。


透明化は存在自体が見えなくなる魔法の為、罠などにも引っかからない。罠が検知できなくなるのだ。


部屋の中ではライツェルが草のベッドの上で寝ていた。すやすやと寝ておりとても起きるようには思えない。そしてそんな彼は無防備にも首元をさらけ出していた。ファルコスはあまりにカンタンに行った事に拍子抜けしながらも、無事に終わりそうだと心の底から安堵した。


心の中で彼は、


(へへ、コイツぁ傑作だ。まさか自分が殺されると思ってもみないんだろうなァ、馬鹿な奴。魔王が死んで気が抜けてんのか知らねえけど、こんな所に住む以上警戒が足りなかったようだなァ。何かスキルが飛んでこねえか内心びくびくしてたんだが拍子抜けだぜ、スキルも罠もねえし起きる事もねえ。少し気の毒だがもうこの世界に勇者は要らねえし、もうてめえは勇者ですらない。無価値なカスなんだからせめて俺ン金の為に死んでくれや。)


と思った。


そのまま腰に付けたナイフを手に取る。このナイフはよくあるものだが、その刃に塗られた毒は彼自身が調合したもので血管に少しでもこれが入れば即死というとんでもない代物であった。しかも乾きにくいという特性もある。これを彼は必ずナイフに塗っていた。


そんなナイフを手に持ち、そのまま振り下ろす。ライツェルの白く綺麗な首にナイフが接近し、そのまま突き刺さる。ファルコスの脳内には突如首を突き刺されて苦しむライツェルの表情や声が浮かんだ。


.........しかし、そのナイフの刃先がライツェルの首に入ることは無かった。


ライツェルの首にナイフの刃先の先端がぶつかってはいるものの、一切中に食い込んではいなかった。そのままただナイフの先端が彼の首を突く謎の光景が生まれた。


ファルコスは勝利を確信していたが、ナイフを持った手に鋼鉄とぶつかったかのような衝撃が送られ思わず腕を戻す。あまりの衝撃と痛みで骨が砕けたかと思う程であった。


ファルコスは現実を直視できず、あまりに意味が分からない事態に目を白黒させる。


(な、何だァ?!今のまるで鉄を殴ったかのような痛みと衝撃は!?鋼鉄、いやそれ以上だ。どうなってやがるゥ!?)


彼は慌てふためいたが、そんな訳が無い。自分は今確かに彼の首を狙ったのだと思う頭を否定し、再度首にナイフを当て切った。


だが、一切傷は付かずただナイフの刃先は首を素通りした。それを見たファルコスから血の気が引く。


(おいおいおいおい!!!!話が違ェぜ!!コイツぁ勇者じゃねえんだろ?なのにじゃあ何でこんな硬ぇんだよこの首はァ!!!くっそ、あの女パチこきやがったか!?だが、俺の見立てでもすぐ傷をつけれていた。石を投げたら血が出たとも聞いた。どうなってやがる?!)


この確認の一連の流れで既に10秒は経過している。もう11、いや12になっているかもしれない。


ひとまず急いでここを離れなければ。まだ起きてはいないが、こんな首を持つ奴がそうカンタンに逃がしてくれるとも思えない。まだ正体が見えておらず、且つ起きても居ない今の内にこの家を出て近くの森まで姿を隠さねば!!


そう思った彼は即座にナイフを持った手を引っ込め、後ろを向いて大股で走ろうとした。


しかし、そこで彼は無意識にこう思った。寒い。何だか凄く冷ややかで恐ろしい気配を感じる。久しぶりに感じる殺気に気づいた彼は同時にその殺気の方向に意識を向ける。その殺気とは自分の後ろから出ているものであった。冷ややかだが少しばかり恩情を感じるような、真逆の要素を持つ殺気。思わず身震いした彼は後ろを振り向く。













「なあ、急に来て何の用なんだ?そんな物騒なモノ持ってさ。」


そこに居たのは紛れもなく目の前で呑気に寝ていた筈の勇者だった。そんな馬鹿なと言いたい心を抑え、目を丸くしながらも立ち止まる。


「な、なななななな!?!?!?......ま、まさかっ」


そう言いつつ振り向くと草のベッドは既にもぬけの殻。この一瞬で起き、一瞬で自分の後ろに入り込んだこのライツェルという男に戦慄を覚えながらも平静を装い問う。


「あぁっ、その、、えっと......。」


(落ち着け、俺。兎に角一旦冷静になれ。コイツは先ほども思った通り紛いなりにも勇者なんだ。これくらいは出来て当然だろう。ならば、今やれる事は何だ?とても戦いで勝てる訳が無いコイツが目の前に居る今、ミッション達成の為に出来る事は..?そうだ、一旦逃げる事だ。ここは一度退避し、改めて作戦を練り直す。そうしなければ奴には勝てんだろう。ともかく、死なない為にここは退くのが賢明だ。............待てよ、姿を見られている?透明化が切れたのか、やはり潮時だな。)


ライツェルは眠そうな目をしているが、紛れもなく起きて目の前に居る。もし彼から逃げるとするならここを言い訳し、何とか外へと出なければいけない。魔王を倒した男から逃げる方法があるのかは分からないが、兎に角自分の命を繋げる為にここは何か策を浮かべなければいけない。


「あ、ああいや。......まさか一瞬で移動されるとは。ただの乞食かと思ったが中々の技術持ちらしいな。」


そう言いつつ半歩後ろへと下がる。だがライツェルはこちらを一瞥しただけで特に近づいては来ない。


「まあそうだな。色々あって今は職ナシだが、昔は凄かったんだぜ?で、アンタは何者なんだ?何でこんな深夜にココに来た?」


ライツェルは疑惑の目を向けながら問うてきた。当然ここを考えなければ命はない。暗殺者であるファルコスは今まで何度もこう言った言い訳、理由を考えてきたプロである。これくらいは朝飯前であった。


「俺はこの家の管理者だ。この前ここを通ったらしい奴から何者かが住んでいるとの情報を受けて来たんだ。勝手に住んでる奴が居るなら追い出しにくるのが管理者としては当然だろ?」


「あー、なるほどな?ここに勝手に住んでるって噂を聞いて俺に話に来たのか。でもさ、だとしてそのナイフは何だよ?そもそも何で抜いてんだ?」


彼は逃げようとした際慌てた為ナイフを持ったままの状態だった。しまう時間も捨てる時間も無かった。だがこれしきのミスで失敗するようなそんじょそこらの暗殺者とは違うファルコスは慌てない。むしろここで冷静に話せる奴こそ優秀だと話を続ける。


「それは当然だろう。お前のような不審者、何をしてくるか分からんからだ。もし貴様が俺より強く、武装していたら俺に勝ち目はないからな。少しでも警戒するのは当然だ。だが、大体の浮浪者はそんな大した武器は持っていない。大体山の中でたまたま遭遇した貧乏商人から奪い取ったボロナイフくらいなモンだ。だから、ナイフに留めたって訳だ。まさかこんな実力を持つ奴がここに居るとは思わなかったからな。」


「あー、まあそうか。確かに俺がもし悪党だったらアンタをここで攻撃して脅して家を奪い取るなんて事も出来るからな。確かに正しいか。むしろ夜中にナイフも持たずに行動するのはいくら魔物が出なくなったとはいえ不用心だよな。」


「そういうことだ。分かったならもう話は終いだ。とっととここから失せろ。」


(ふっ、決まったな。少なくともこれで俺がどんな役割かをコイツは認識しただろう。まず勇者だからいくら怪しかろうと管理者であるかもしれないという情報があれば俺を襲う事は出来ない、そしてこの家の管理者の情報も完璧に調べ上げた。俺に間違いはない筈だ。)


そう思い、勝手に勝ったと認識するファルコス。少なくともすぐに斬りかかってくることは無いだろうと思いつつ、次の手を考える。


(そうカンタンに出ていくとも思えないし、そもそもまだ何か聞いてくる可能性もある。勿論結局は出て行かせて、それで奴がここから居なくなろうとしたタイミングで一斉に森へ逃げ込めばいい。いくら勇者とはいえ、あの広い森の中に逃げ込まれたらひとたまりも無いだろうからな。)


するとライツェルはこう聞いてきた。


「あのさ、ここって管理者一人じゃなかったか?俺かなり前にこの家に招待されたことがあったんだが、その時見たのは別の人だったぞ?確か貴族だったような気がする。アンタは本当に管理者なのか?あともし本当だったとして、じゃ管理者なら知ってるだろ?俺はあの貴族からここを使っていいって言われてるんだ。あの人は管理者ではあるが、実質管理者は居ないって話にするからもし何かあったら使いなさいって言ってくれたんだ。共有されてないのか?」


その発言に泡食ったのはファルコスの方である。彼はここの家について確かに調べていた。


この管理者不在とされている家は本来町はずれに住む低級貴族のものであった。その低級貴族である爺は家を管理する費用を出すのが厳しくなり、結果管理を手放したのだと調べではなっていた。特にその中で怪しい部分も無く、よくある理由だと思っていた。しかし今のライツェルの話が本当なら自分が管理者であると疑われてしまうのも無理はない。管理を手放した本当の理由が、勇者を気にかけたからだというのを知らないと言うのは。


ちっ、あのエセ情報屋め。毎回胡散臭いとは思っていたが、遂に嘘を掴ませてくるとは。後で覚えておけよといつも利用している情報屋を恨みながらひとまず考える。が、よく考えれば自分はここから逃げられれば後の事はどれだけでも誤魔化せると気づいた。何せ、ここさえ何とかなればあとは森の中へと逃げ、そのまま姿をくらますだけで充分だからだ。ならばと彼は次の理由を話し出す。


「それはいつの話だ?まさか知らんのか?俺はその貴族から権利を買ったんだ。奴は金に困っていた。俺が相場の十倍の額を出すと言ったらすぐに売却の手筈を整えてきた。そう言う男だ。そして権利は俺に譲歩された。お前との約束はあくまでも奴との約束であって俺の約束ではない。よってその話はもう無効だ。分かったならすぐに消えろ。いいな?」


実際にはその管理者と話した事も無ければ権利など興味もない、そもそもこんな家を相場の10倍で買った所で何の価値があるというのか。しかし口から出まかせレベルで良ければいくらでも吐くことが出来た。


「...そうか。そうなってたんだな。じゃあ確かにアンタが正しい。権利がアンタにいったんなら俺は確かに侵入者でしかない。悪かった。謝るよ。」


そう言いつつ、部屋の中を動くライツェル。


「何をしている?分かったなら早く出ろ。」


「いや、俺の荷物くらいまとめさせてくれよ。俺だって元々の約束があると思ってたんだからさ。これくらいは良いだろ?」


もうすっかり出ていく雰囲気になっているライツェル。それを見たファルコスは勝利を確信した。顔に出したいのを堪え、無表情のままじっと彼を見る。


いや~いい場所だったんだけどな、確かに十倍出すのも分かる。のどかだけど森の恵みもあって、悪くないよな。などと宣う勇者の顔は困り果てていたが、兎にも角にもあと少しで逃げる事は出来そうだった。


その事実に安堵しつつ最後までやり遂げようと意志を堅くする。


と、そこで荷物を纏め終えたらしいライツェルがこちらを見ていう。


「まとめ終えたよ、待っててくれてありがとう。...最後に一ついいか?」


「なんだ?」


彼は一瞬だけ間を置き、そして言った。


「地下室を知ってるか?」


その質問に一瞬だけ固まるも、すぐに調べた内容を思い出すファルコス。


(あ?地下室だ?んなもん無ぇよ。部屋の間取りも調べたが床に扉も無く、そもそも地下室自体設計されてない。間取りの資料全てに無かったんだからある訳が無い。まさかかまを掛けるつもりか?はっ、舐めるなよガキの勇者風情が。本職から人を騙してきたこの俺に勝てるとでも?)


考え込んだが、すぐに自分を引っ掛ける為の嘘だと考えたファルコスは舐められていると思い少しだけ機嫌が悪くなる。だがこんなことでバレる訳にもいかないとすぐに元に戻した。


「またまた冗談を。地下室なんてある訳が無いだろう。誤魔化さずとっとと出て行ってくれ。」


するとライツェルは目を顰め、そしてこう呟いた。


「だとしたら他に場所があるって事なのか?......まさか、な。」


その一言に疑問を持ったファルコスは聞いた。


「どういう意味だ?」


「ん?ああ、いやこの家、あちこちに魔物の召喚紋があるんだ。もう魔物は少なくなったとはいえ、完全に全滅した訳じゃない。だからてっきり俺は地下室があって、そこに魔物を飼ってるんじゃないかと思ってたんだ。黙ってたが俺は元勇者でな。ここに来てからというもの何かとあの召喚紋を見かけたんだ。だからひょっとして何かあるのかと全ての部屋を見たが何も無い。となると、地下室があるか、或いはパイプ役が居るのか。どちらかしか無いと思った。」


その話に再度驚くと同時に怒りを持つファルコス。


(ふざけるなよ、よりによって何でこんな時にそんなモンが見つかるんだ。おかしいだろ!俺はこの家を調べたが、そんな隅の隅まで見た訳じゃない。クソッ、これは俺への罠なのか?......いや、待てよ。そもそも、何の証拠があって魔物の召喚紋だと言える?普通に何かの落書きかもしれないだろうに。コイツ、わざと召喚紋をあらかじめ書いておいて俺を騙そうってハナだな。舐めてんのかクソガキャァっ!!!)


「そんな話、聞いたことも無いし俺が来た時にはそんなものは無かった。第一、本当にそんなものがあるのか?出まかせを言ってるのではあるまいな?」


ファルコスはそう言いながら目くばせすると、ライツェルは答えた。


「あぁ、あるよ。すぐにでも見せれる。ここだ。」


そう言って草のベッドを避ける。すると、そこには誰もが見覚えのある魔王軍のマークが真ん中に描かれた召喚紋が現れた。流石のファルコスもこれは想定外、苦虫を嚙み潰したような顔をしながら呟く。


「マジ、かよ......。い、いやそもそもだがな、俺はここに来るのは久しぶりなんだ。半年前以来来てない。確かに買い取ったが、色々俺だって他に忙しいものもあって中々観に来れないし、こういうお前みたいな変な奴が現れた時くらいしか見に行くことも無い。まだこの家の改築なんかは考えていないからな。だから俺はそんなもの知らん。お前が勝手に書き足したんだろう?」


焦りつつも平静を装いライツェルに問うが、ライツェルは困った顔をしてこう言った。


「誰かが書いていたと分かるなら問題はなかったんだが、書き手が分からないのは困るな。管理人ならもっと管理をした方がいい。俺が言えた事じゃないが召喚紋がもし魔王が生きていた頃に使用されていたらここら辺は火の海だったかもしれないぞ。気を付けろ。あと俺が書いたというが、俺は行くあてが無くてここに泊ってるんだぞ?何で自ら行き場を無くす必要があるんだ?俺が怪しいのは認めるが、俺がやる理由は無い。むしろさっきからあまり言動がよろしくない管理人のアナタの方が怪しく見えるよ。」


それを聞いて更に焦るファルコス。


(何でこんなもんがあんだよ、畜生。ちと予定が狂っちまったじゃねえか。......さっきみたく咄嗟に訳を考えても中々上手くはいかねえか。ただ半年は来てないことにすれば召喚紋は俺のせいじゃないことになる。召喚紋は半年経てば消える。今消えてないということは俺が書いてないという事に出来る。俺には実際半年前他の地域で色々と仕事をしていた実績がある。騙せるぞ......。しかしクソ、安易にぼかすべきじゃなかったか。書き手だと、知るか!!!貴様だろうこの大ぼら吹きめ。何が魔王が生きていた頃だ、恩着せがましく言いやがって。大体お前が書いてお前が糾弾している自作自演の可能性が高ぇってのに何でこんな強気になれるんだよ。)


「ちっ、うるせえな。あーあー分かりましたよ。そんじゃ管理してやるからとっとと消えろ。」


そう言いつつもイライラを隠せず、脳内でライツェルを罵倒する。


(出鱈目も大概にしておけよクソガキがッ!!!)


しかし、ライツェル側は負けじと返事をする。


「話は終わってない。地下室が無いと言うのなら、この召喚紋はアンタの管理の責任になる。俺は侵入罪かもしれないが、アンタは情報秘匿の罪か或いは国家転覆の罪になるぞ。魔族の生き残りのパイプなのか、アンタが?」


「なんでそうなる!?俺はそんなチンケな存在じゃない!!!いい加減にしろやコラァっ!!!!」


半ギレで詰め寄るファルコスを手で制し、ライツェルはにやりと笑う。


「まあ仮に本当だったら放置し過ぎで大問題だが、そもそもアンタが言ってるのは嘘八百だから放置問題では無いんだよな。そしてこの召喚紋は偽物だ。見ればわかる、魔力の痕跡が0だからな。このフェイクの召喚紋は間違いなくここに俺のような放浪者が住まないようにするためだろうな。」


「な、何!?嘘八百だと、てめえこそそうだろうが!!!何人様に嘘つき呼ばわりしてくれてんだこのクソ野郎!!!っつーか、今さらっと自白しやがったな、偽物じゃねえか!!偽物を本物と言い張って嘘を吐いてこの俺を騙そうって腹だったよなこの野郎がっ!!!」


激昂するファルコスに対し、更に煽るような顔で続けるライツェル。


「嘘は嘘だろう。何せ言ってることに無茶苦茶な部分があるし。それに、そもそもずっと俺を見張ってる気配を今日感じてたんだ。だからすぐわかったさ。でも嘘で良かったとも思う。ひとまず誰かが管理を怠ったせいでここに召喚紋が出来ていた訳では無くて、あくまでも人間社会での問題を解決するためにフェイクで用意した偽物だった。そこだけは元勇者として安心できる。実際にまだ魔の手が迫っている訳じゃなかったんだからな。そして今俺がアンタを騙そうとしたって言ったが、そもそも本当に管理者ならばアンタが知らないのが本来悪いんだ。そして理由が分かって安堵するならともかく激昂した。その時点でおかしいんだよ。本当に管理者だったらむしろそこで罪に問われなくてよかったと安心するポイントだ。お前にはそれが無い。そこが大きな違いだ。」


「なっ、何だそれは!!!どういう意味だ!!!」


「もうそうやって話を伸ばそうとするのは辞めよう。もう埒が明かない。君の嘘は見破った。即席にしてはそこそこイイ言い訳だったんじゃないか?...まあいいや、とにかく何処の差し金か正直に答えてくれ。俺だって問答無用で人を斬りたくない。だからといってここで逃げようとかするなよ?俺はもしアンタが本当に悪意を持って潰しに来た悪党なら逃げても追いかけて倒すからな。俺がジョブの無い奴ってのは割と広まってしまっている。なのにも関わらず、今更俺を着け狙うなんて余程の馬鹿か何か企んでるのかのどっちかだ。言えよ。」


ライツェルはやれやれと言わんばかりにこちらを見てくる。その事により焦りを抱いていくファルコスは焦りながらも思った。そもそもこいつが確証を得ているのだって俺が色々とやらかしたからだが、そもそも本当に証拠という証拠も出ていない中で詰められても意味なんて無いんじゃないのかと。今ならシラを切れば誤魔化せるのではないかと考えた。


「な、何の話なのか分からんな。俺は嘘なんて吐いちゃいないし、言い訳でもない。お前のジョブに興味なんて無いし、誰からも指示されていない。俺が俺の独断で行っただけだ。そもそも俺は何度も言うが、ここに住む不審者を見に来ただけなんだ。」


それを聞いたライツェルはため息を吐き、そして言った。


「あのさ、じゃあ聞くが何で地下室を知らないんだよ。半年前以来来てないんだよな?なら、逆に半年前のこの家を知って居なきゃおかしい。この家の実情を知らずに買う馬鹿なんて居ないだろ?」


「どういう意味だ?!」


「この家は地下室があるんだよ。ただ、アンタが見ていなかったこの半年間の間に扉が隠されたんだ。俺がここに招待された時、中級魔物が地下室でこっそり住んでいたんだ。で、俺たちがそれを退治した。その時にいつかここは入れないようにする。埋め立てるのは難しいが、入れないようにするのは容易だと言ってたからな。恐らくそれをお前が来てない半年内にやったんだ。お前の話なら半年前には買い取ったってことだよな?ならお前がここの扉を隠したはずだ。なのに何故知らないんだ。ある訳が無いなんて言い切れるのは何故なんだ?」


その言葉を聞き、焦りが酷くなるファルコス。しかし彼は思い出す。設計図にはそもそも地下室自体載っていなかったことを。どうなってる?と考えるも、すぐに答えは出た。自分が情報屋に掴ませたのは現時点での設計図であり、過去のものではない。扉を隠してなかったことにしたなら設計図自体も変えてしまうだろう。少なくとも、表に出るモノに関しては。まさかここがこんな風に繋がるとは夢にも思っていなかったため、ファルコスは苦虫を噛み潰したような顔で答えた。


「く、くそ。だがだからって俺がここを知らない理由にはならない筈だ。どちらにせよ来ていなかったんだから、そんなすぐに地下室が何処だったのかも覚えていない。本当に扉なんてあるのか?俺に嘘を吐いているだけなんだろう!?」


するとライツェルはよいしょっとと掛け声を出し、そのまま袋から棒を取り出す。よくあるヒノキの棒である。それを床に叩きつけた。床からは箱を叩いたかのような、響く音がした。


「今の聞いたか?普通の床はさ、こんな感じで響く音ってしないんだよ。見てろ?」


そう言うと彼は今度は違う部屋の床を叩いた。今度はゴン!という音が鳴った後、響く事はなくそのまま静かになった。


「な?分かっただろ?この下から響くような音がするんだ。これが地下室がある証拠、そしてそれを一切知らないお前がここの管理者では無い証拠だ。分かったか?」


ファルコスは今、自分の部が悪い事を明確に理解した。そしてそれと同時に恐怖した。このままでは無敗の暗殺者がここで終わってしまうと。ライツェルはファルコスに近寄ると呟いた。


「なんでこんな嘘を吐いたんだ?誰からの指示が言ってくれれば、今回のことは水に流すよ。実際俺も管理されている家に勝手に住んでたのは事実だからな。前に許可を貰ってはいるけど、今は違うかもしれないってのは考えなかった。俺も最初は忘れててさ、街の外れの管理の無い家だと思い込んでたんだよ。それも良くなかったからこの件は内密にするよ。それでいいだろ?」


しかしファルコスは素直には謝れなかった。ここで喋ってしまえば、あの女......正確に言えば、あの女のバックに消されると思ったのだ。かといってライツェルと真っ向で戦って勝てるとは思えない。どうしたものかと考えるが、ここは素直に逃げた方がいいと心が叫ぶ。


「い、いや...確かにそうですね。はい、素直にここは話します。............なんてな!!!!!!」


そう言うと粉を投げつけるファルコス。彼は暗殺者。色々な装備を常に持ち合わせているのだ。今投げたのは毒の粉。元とはいえ勇者に効くわけが無いのは承知の上で、目くらましの為に実行した。


しかし逃げようとした彼はすぐに立ち止まった。彼が投げて前を向き走る事たったの1秒。その間にライツェルは彼の前へと移動していたのだ。


「そんな攻撃が効くわけ無いってわかってるだろ?いいからもう逃げるなよ。」


そのライツェルの少しだけ怒りが籠った目つきを見て観念したファルコスは座り込んだ。




















「なあ、何であの時寝てたのに俺に気づけたんだ?俺は暗殺者の中でも殺気を隠せるほうだぜ?...そして、問答無用で斬らなかったのも何でなんだよ。急に斬りかかられたら反射的に倒すだろ。」


そう聞くファルコスにライツェルは告げる。


「まあ殺意は多少しかなかったけど、こんな感じより殺意を感じない敵は魔物に沢山居たからなぁ。ソイツらに比べればそんな小さい殺意でも無かったよ。...それと斬らなかったのは今までもそうだったからかな。魔物討伐中に人に襲われる事もあったしね。勘違いした村人とか、他の王家護衛中の騎士とかね。それにそんなに脅威とも思わなかったし。......あとは俺が今ジョブ無しで信用されないってのもあるかも。」


そう言って笑うライツェルに伏せた目を向けるファルコス。コイツぁ強ぇと感じさせる振る舞いと今までの過酷な戦いを感じさせる話で、ファルコスも流石に最初から無理な話だったと認める他無かった。コイツは間違いなく怪物だと。


「で、君の処遇はどうするべきなんだろう。俺はさっき逃がすべきだって思ったけど、そもそも暗殺者も仕事ではある訳だ。命を狙われたから仕方なくこうなったのであって、本来ならば君も仕事の最中だったわけだ。山賊とかそういったものだったらしょっぴくか殺すかの2択だったし、もしそういった類ならガルブに頼んで処刑コースかラズの実験台コースだったけど暗殺者だからなぁ。どうしよう。」


迷っているライツェル。それを見て、俺は山賊じゃなくてよかったと心の底から安堵したと同時にこれならば案外悪い処分にはならないんじゃないかと希望を持ち始めるファルコス。


「しかし君も驚いたでしょ?まさか元とはいえ勇者ともあろう奴がこんなところ住んでるの?って」


「まあ、それは思ったよ。俺ぁ勇者として世界を救ったんだからめっちゃいい家住んでるんだろうなと思ってたしな。だから驚いたは驚いたが、だからといって別に仕事に影響する事も無かったしな。」


ファルコスは当初確かに驚いたが、しかしだからといって特にその後何かある訳でも無い。普通の民衆ならどうしてと思うだろうが、下手な所に首を突っ込むと大変なことになると暗殺者なら分かる。だから何も思わない事に決めたのだった。


「なあ、アンタ。俺を見逃してくれねえか?今回は本物の勇者様にこうやってやっちまったのは俺のミスだし、普段ならとっくに始末されちまってるのは分かってる。だがアンタは別に俺を始末しようって訳じゃねえんだろ?だったらよ、逃がしちゃくれねえか?俺ももうここから逃げたら金輪際勇者様関連の仕事は断る。絶対だ。俺に二言は無ぇ。だから頼む、俺だって今まで築き上げたものをそうカンタンに奪われたくねえんだ。勇者様だってムヤミヤタラに噂を出したくないだろ?頼むよ。」


「そうだね、そうしようかな。でも、その前に一つだけ聞いておきたい。それさえ聞ければ俺は解放するよ。いいかな。」


ライツェルはそこで言葉を止め、ファルコスの言葉を待つ。基本的に彼は余程悪党という悪党じゃなければ殺しも逮捕もしたくはないのだ。そんなライツェルではあったが、自分も害そうとした奴を野放しには出来ない。それ故の考えだった。


「......それは依頼人を話せってことか?さっきから言ってるもんな。だが俺はそれだけは言えない。言ったら俺は終わりだ、間違いなく消される。それ以外なら何でも言う、だから依頼人だけは勘弁してくれ。」


「悪いが、もし言わないならここで君を攻撃しなければならない。俺だって自分を殺そうとする存在を無視するわけにはいかない。俺は最悪戦えるが、俺の近くにいた人が巻き添えを喰らうなんてことはあっちゃいけない。だから言ってくれ、頼む。」


「捕まって赦しを乞う側が言うのはお門違いなのはわかってる、だが俺らとて言ってはいけない事はあるんだ。ここで殺されたって依頼人だけは言うもんか。死ぬのは嫌だが、仕事のプライドを放棄するのも嫌だ。依頼人への守秘義務も俺らの契約にあるんだ。そうほいほい言えるかってんだ。それにもし俺を殺してみろ、俺を大事に思ってる客は多いんだ。その客たちからお前は恨まれる。一生平和な人生は過ごせねえぜ。」


座って目を瞑っていたファルコスは急に眼を開けそう脅す。彼にも覚悟があった。暗殺者という職を選んだ時に出来た覚悟が。その覚悟がギリギリの彼の心を奮い立たせ、依頼人だけは言うものかと視線を厳しくさせる。


するとライツェルはこう返した。


「確かに守秘義務を律儀に守るのは悪い事じゃない。仕事のプライドなのもわかる。けど、命がかかってる状態でやったらお終いだと思わないか?例え泥水を啜ることになったとしても、誰に蔑まれても、生きていれば何かあると俺は思ってる。死んだらそこで終わりだ。続きなんて無い。それに、俺を殺したら恨まれて平和な人生を送れなくなるなんて言うが、例えそうなったとしても君はここでもう終わる訳だ。だとしたら、そこは関係ないな。別に俺の人生がどうなろうと君の命には直接関係ない。言わないなら、そこそこの苦しみを負ってもらうまでだ。」


そう言って剣を抜くライツェル。それを見て血の気が引いたファルコスは咄嗟に言った。


「クソっ、本当にやる勇者が居るかよ!!!!そんなに聞きたきゃ言ってやる!!!!!!俺に依頼したのはな、王家の第一王女、リンネ様だ!!!!!」


そう言ったファルコスは再び袋をライツェルに投げつける。ライツェルがその袋を咄嗟に躱し、目の前を見るが誰も居なかった。それもその筈、ファルコスの「透明化」の待機時間はとっくに完了していたのだ。ライツェルは剣を抜き廊下を出る。確かに居る気配はするが、どこに居るのか分からない。更に言うなら先ほどから妙に眠い。それも有ってライツェルは起きた時ほどの警戒が出来ずにいた。透明化を使われたならもう外に出られているかもしれないが、この家の中で隠れている可能性もある。そう考え、一旦部屋に戻ろうと廊下を抜けようとすると、森の方からがさがさと音がした。


「そこか!」


ライツェルは一瞬で外へと抜け、そして剣を森へと振り上げ、素早く振り下ろす。迸るエネルギー波によって木は揺れ、草が刈られていく。しかしそこにあったのは石とロープだった。何だこれは思う前にライツェルは自分がやらかした事を気づいた。慌てて森から家を振り返ると、その家の延長戦上に小さな影が映っているのが見えた。必死に走るその影はどう見ても先ほどのファルコスのものだった。


逃がしてたまるかとライツェルが走り出す。勢いをつけ走っていくライツェルだったが、その小さな影に追いつく前にその影は別の森へと入ってしまった。ライツェルは身体能力が高い為、すぐにその影が入った森へと追いついたがもう既に深い森に同調して彼の姿はなくなってしまっており、最早見つける事は出来なかった。


「クソっ、逃がしたか!!」


そう言い剣を振り下ろし、静かにしまう。そして先ほどの最後の言葉を思い出す。


<王家の第一王女、リンネ様だ>


彼のいった事が本当だとしたら、かつて王が自分と結婚させようとした王女が犯人だったことになる。そんな馬鹿なと思いつつも、否定が出来ない。何せ第一王子フィリウスも自分を嫌っていたのだから。案外王が元勇者と彼女をくっつけようとしているのに腹を立てて、俺を亡き者にしてしまおうと思っているのかもしれないとすら思う。あるいは王子の差し金か。どちらにせよ、自分を彼女もまた嫌っているらしい。あまりにも報われない結末となった魔王討伐。その中で救いかもしれないと思っていた結婚すら厳しいと知ったライツェルはゆっくりと膝をつき、そのまま項垂れた。


「どうしてだ、どうして俺ばかり!!!.........く、そ。」


そして倒れた。


それもその筈、いくら勇者でタフといえど睡眠剤が全く効かない訳では無いのだった。ファルコスが串に塗っていた睡眠剤がライツェルが動き回った事で循環し、現在ライツェルを蝕んでいた。


彼の直近の疲労と、その睡眠剤の効果もあって彼は気絶してしまった。仰向けでぐっすりと眠りこけるライツェル。その顔には涙が浮かんでいた。




















その時、そこに影が現れた。その影は、ゆっくりとライツェルに近づく。そして............。

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