1話 魔王討伐
という事で新連載開始します。
同時進行で進める作品があるので遅い進みになるかと思いますが、温かい目でご覧ください。
「はぁ......はぁ......」
息を切らし、目の前の敵を睨む者。その名はライツェル・ガリオン・ビットリーグ。「勇者」のジョブを持つ彼は、聖国サンスタリアで獲得した聖剣ヴァルキリーを手に構えをとる。
近くにいる3人の仲間たちが見守る中、戦いは終わりを迎えようとしていた。
そしてそのライツェルの目の前に居る「敵」。それは当然魔王である。魔王ガレンダーグと名乗るその男はその顔に刻まれた皺に年季を感じさせる年齢であった。その魔王は今まさに敗れようとしていた。
魔王を倒す事は全人類の悲願であり、魔王が今までやってきた悪事は数えきれない。ライツェルの故郷も焼かれ、殺され、嬲られた。だが彼はその復讐心すらも心に隠し剣を振るう。
黒い鎧に赤黒いマント。更に禍々しい紫のツノを頭に生やしているオールバックの魔王のツメが妖しく光るが、すぐにライツェルの持つ聖剣によって破壊される。
そして対照的に白く輝く鎧に青空を模したマント、胸には母のお守りを着けたセンター分けの好青年ライツェルは更に剣を振るい、魔王に肉薄する。
お互い既にやりやった後なのもあり剣技はふらふらだが魔王の回避もままならない、そんな状況だった。魔王が繰り出す蹴りは勇者の盾で防がれ、勇者の剣は魔王の額には通らない。
そんなどちらが先に終わってもおかしくは無いような戦いの末、最初に限界を迎えたのは魔王・ガレンダーグだった。彼は膝から崩れ落ち、そのまま息を吐くと、
「もはやこれまでか。......ふふふ、まさか今代の勇者がこれほどまでに強いとはなぁ......。ふん、敵ながら天晴よ。」
そう呟き首を下ろす。それは、白旗の印であった。
そして勇者ライツェルもそれが何を表すかは分かっていた。
例えこちらに対して降参してきた相手でも、それが魔王であれば油断ならない。
ましてやこの諦め方。何か考えていてもおかしくは無いのだ。
ライツェルはナケナシの魔力を剣に込め、一歩前に出る。
「...俺が強かっただけじゃない。みんなが強かったんだ!ここに居る仲間も、あちこちで一緒に戦った友人たちも、平和を祈る人々もっ!お前は、この世界に生きる全ての人の怒りに触れた...。それだけだ。」
そう言い残すと、彼は剣を高く振り上げ、宣言する。
「...........これで、全て終わる。大地償魂斬!」
その声に合わせ聖剣に黄金のエネルギーが集まる。これは彼のジョブ「勇者」による専用スキルで、大地の力を極限まで彼に集めて放つ究極奥義である。その黄金の輝きは、あらゆるものを断絶しチリ1つ残さないという。
聖剣に宿る黄金を見届けたライツェルはそのまま一発、魔王に剣を振り下ろす。あの魔王の硬く遠かった首がその一太刀で切断され飛んでいく。そのエネルギーは勢い余って魔王城の床ごと突き破り、そのまま城の外へと飛んでいった。魔王の首は満足げに微笑んだ後、そのまま粒子となって消え去った。
ライツェルはその体制のまま動かない。
まだ、終わったという実感がないのだ。無理もないが戦闘の状態を継続している。その戦闘を近くで見守っていた戦士ガルブ・ディコダイン・ロンガはしばらく固唾を吞んで見守っていたが流石に飽きたのかそろりそろりとライツェルへ近づく。
僧侶アーリエ・ベル・フォスティアはただ神に祈りをささげた。例えどんなに最低最悪の事件を犯してきた魔王とはいえ命は命。ただ彼女はせめて命だけでも尊重されるよう祈りを込め黙祷し続けた。
魔法使いラズリーベ・ミラ・クリーチェインは興奮で一杯だった。勿論魔王を倒した事は嬉しいが、そんな事より魔王を倒すまでは見るなと言われていたこの城にある魔法本を読めるのだ。これが興奮しない訳が無い。彼女は一人、関係ない理由で盛り上がる。
ライツェルがその姿を維持したまま数分が経った。そこでようやく彼は姿勢を正し、感慨深げに後ろに振り返る。そこには今日の今日まで一緒に旅を続けてくれた仲間の姿があった。
「ちぇっ、何だよ。後ろからくすぐって驚かせてやろうと思ったのによ。......ま、そんな事どうでもいいか!!遂に、遂にやったんだよな、俺たち!!」
酷くつまらなさそうな顔を浮かべた後、すぐ切り替えて顔を綻ばせる筋骨隆々、短髪で人の良さそうな表情を浮かべた斧使いの戦士・ガルブが笑いかける。
「そうですね。...本当に、長い道のりでした。これで今までの犠牲者も少しは浮かばれるでしょうか?...何はともあれ、皆様、そして勇者様。本当にお疲れ様でした!」
静かな声だが確かに芯のある声を持つ少女がため息と共に顔を出し、仲間たちに回復の呪文を唱える。祈りを終えた彼女は修道服に身を包み、金剛石を填めた杖を持つ聖女にして僧侶・アーリエであった。
「本当お疲れーっ!いや~疲れたわね。でも、何とか魔王を倒せてよかったわ。私もアーちゃんも、バカルブもみ~んな魔力もアイテムも使い果たして死にそうだったもんね~。さてさて、それじゃまずは此処の本から~。」
そう言うのが早いか本棚に手を出そうとするこの女性はラズリーベ。先の長い帽子を身に着け、緑の生地に黄色のラインが引いてあるローブを着込んだ魔法使いだ。
「なっ、誰がバカルブだよ!?この期に及んでまだそんな事言いやがって!!......まぁでも、この余韻に合わせて許してやるよ。」
「全く。この中で落ち着いてらっしゃるのは勇者様だけですか。ラズリーベ様、その棚には禁呪がかかっているのでお触れにならないよう。あとガルブ様はそうやってすぐ大声を上げないでください。いくらもう魔物も出ないからって浮かれすぎですよ!」
「はいはい二人とも落ち着いて。ていうかここ禁呪がかかってるんだ~、気づかなかったわ~ありがと~。でもね、アーちゃんだってそう言いながらいつもより声高くない?興奮してるんでしょ?」
そんな軽口を叩き合いながらも、彼らはお互い認め合った仲間である為気にも留めた様子は無い。そしてその中の1人・ガルブはずっと固まったままのライツェルに声を掛ける。
「ライっ!お前いつまでそこで寝てんだよ!!お前が喜ばなきゃあそこで役に立たなかった俺たちが喜べねえだろうが!!早くしろよ!」
言葉は乱暴だが、確かに心のこもった言葉。それにようやく勇者は反応する。
「..................あぁ、そう、だな。うん。...いや、というかみんな役に立ってくれたぞ?ガルブが居なけりゃ四天王の突破は無理だっただろうし、城に入るまでの軍団はラズの魔法が無ければ防げなかった。最終決戦の最後までバリアを張ってくれていたアーリエのお陰で皆無事だったしな。誰か一人でも欠けたら勝てなかったよ。」
全員を褒めつつようやく笑顔を取り戻すライツェル。彼はこのパーティのリーダーにしてまとめ役。
綺麗な黒髪。経験値増大スキルのお陰で強くなった身体。そして朗らかだが勇敢さを併せ持つ顔。
皆が期待を寄せる勇者はそこで初めて仲間の声に気づいた。そして、そこでようやく事実を認識する。
「そうか。.........俺たちは、魔王を倒したんだな。そうだ。そうだよ!あぁ、長かった!!父さん、やったよ!!俺ッ!.........よっしゃぁ、みんな、世界のみんなぁ......。俺たちの、勝利だッ!!」
その叫び声は魔王が消え、魔物が湧かなくなった城に響き渡る。そしてその声を聴いた仲間たちはいっせいに駆け寄り、円陣を組んで盛り上がる。普段は盛り上がらない僧侶も、本に興味のありそうな魔法使いも、普段からノリのいい戦士も、そしてずっと真面目だった勇者も。
皆が踊りに踊り狂い、そして夜が明けていく。
本来であれば厚い雲でその城に差し込む事のない筈の太陽光が、疲れた英雄たちに賛辞を贈る。
その眩い光はまるでこの世界の未来を照らすようだった。
ライツェルたちはそんな光に希望を持ちながら、帰路へと着くのだった。
しかし、ライツェルたちは知らなかった。
これがまさか幕開けだったことなど。
そして、壮大な物語が始まる事を。
という事で始まるライツェル君たちの物語。
はてさて、どんなストーリーになるんですかね~。