第七話 私を選んだ理由
お久しぶりです・・・
仕事のほうが忙しく、更新が滞りました。
作りながら作品を掲載する弊害ですね・・・
何個かエピソードを貯めようとして執筆するも考えているうちに設定を変えたくなったりして更に時間がかかりました。
再びゆるく、更新していきますので何卒よろしくお願いいたします。
「そういえば」
『ん?』
「結局私を選んだ理由を聞きそびれていたんだけど」
ノワールの住処にて、あらかた必要な物資を回収したカレン達はノルンへと向かっていた。行きは世界樹を垂直に登って行ったわけだが、ノルンへ戻るには世界樹の頂点から滑空するだけであったため、ずいぶん楽な空路であった。その道中、カレンは自分の投げた質問の返答がなかったことを思い出した。
『あぁ、それはな。理由はいくらかあるが、主が「リージュ家」の子孫だからかな』
「……リージュ家の?」
『先祖代々、優秀なテイマーを輩出してきた、聖都ノルンの貴族の中でも特に力を持つ貴族だろう。確か、侯爵位だったか』
「えぇ。今は父がリージュ侯爵よ」
聖都ノルンは国を治める国王を中心に、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵と続く。公爵家はほぼ国王に所縁のある王家の親族が占めているため、侯爵位とは実質、国王関係者である王家を除く中では最上位といって相違ない。最上位に至るには、それだけ王家に貢献をする必要がある。リージュ侯爵家は代々、テイマーによる知識でノルンの王家に貢献してきた。貢献度の内容はスキル取得に関するものであり、【従属】や【送還】などテイマーに必要不可欠なスキル群の取得方法の確立は、テイマーを聖騎士に並ぶ存在へ押し上げた要因の1つでもある。
「確かにリージュ家は、テイマーたちを支えてきた由緒ある家柄。私も実家小さい頃からテイマーたちをたくさん見てきて、こんな風になりたい、と思ったから今の仕事をしているわけだけど」
カレンはまだ齢18でありながら、世界樹の森の討伐対の伝令要因に選ばれるほど、テイマーとしての能力は群を抜いていると言える。だがそこはまだ18の少女であるため、先ほどの対氷虎のような正面戦闘はまだまだ経験が足りていないと言わざるを得ない。
「リージュ侯爵家とノワールに何か関係があるの?」
『過去に、リージュ家の者と意気投合してな。テイムされていたことがあったんだ』
「え」
本日何度目かわからない驚きをあらわにしたカレンを咎めることはできないだろう。そこから明かされるノワールとリージュ家の過去。曰く、初対面はお互い殴り合いの喧嘩のようなものであったこと。喧嘩の後に互いを認め合い、【従属】したこと。戦闘方面で意気投合した両者はそのまま世界漫遊の旅に出たことなど。一種の武勇伝を聞いているようであった。
「ご先祖様にそんな凄い人がいたんだ」
『これらの装備一式も、その時に拵えたものだぞ』
「そんなに有名なご先祖様がいたなら伝承にでも残っていそうだけど、聞いたことないよ」
カレンはうんうん唸ってその人物を思い出そうとしたが、生憎カレンの記憶には存在していなかった。
『それもそうだろうな。確かあいつは貴族の仕事が面倒で家出した、と言っていたな』
ノワールが当時を思い出しながら語るが、「家出」という単語を聞いた途端、カレンの方がビクリと揺れる。それはほんのわずかな動揺からくるものであったが、目ざとくノワールは気づいてしまう。そして、温かい笑顔を作りながら、なにか納得したようにうなずく。
「な、なに」
『どうやら、主にもその心当たりがあるようだな。反抗期とは大いに結構ではないか』
「べ、べつにノワールには関係ないでしょう?!」
『さしずめ、貴族が嫌になって冒険者に転向した口か。その様子では、両親の承認は得られていないようだなぁ』
くっくっくっ、とノワールがかからうように話していたのも、影響したのであろう。カレンの言葉がだんだん大きく、止められないものになっていく。
「そうよ!あんな鳥かごみたいな空間で、ドレスの仕立てだの、化粧品の話だの、どこぞの跡取りがかっこいいだの、どうでもいいの!私は小さいころから憧れたテイマーになって、心躍る冒険がしてみたかったんだから!」
オーラがあるとすれば犬、であろうか。今にも「ガルルル」と聞こえそうになるくらいカレンは苛立っていた。
その背景にはカレンの兄姉たちが絡んでくる。カレンの実家であるリージュ家は、カレンのほかに二人の兄姉がいる。一番上である姉は研究者として大成しており、リージュ家の柱であるスキルの研究に従事している。姉の1つ年下である兄も、次期リージュ家当主として父親と一緒に政務に取り組んでいる。つまるところ二人ともすでに立派に働き始めていて、カレンはそんな二人を尊敬しつつもどこか劣等感を抱いていたのである。そんなカレンが見つけたのがテイマーとして冒険者になることであった。ただし、正体を隠して。そうでもしなければ、貴族の令嬢に世界樹の森の任務など、割り振られるはずもない。なまじ実力があっただけに、質の悪い話ではある。
「ふぅ~っ!!ふぅ……。ごめんね。ノワールにあたっても仕方がないのに」
『構わんさ。そうこう話しているうちに見えてきたぞ』
「なんか濃い一日だったわ……」
ノワールはどこか楽しげに、それでいて寂しげにも見える笑みを浮かべながら飛翔する。
家出貴族の冒険者と異世界転生を果たしたドラゴン。二人の出会いを歓迎するかのように、ノルンの街灯りが近付いてくる。二人の冒険譚が今、幕を開ける。