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テイマー世界のドラゴン転生  作者: ruki
序章 竜とテイマー少女
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第六話 vs氷虎

 二人の準備が整ったその時、茂みから魔物が飛び出してきて、カレンとノワールに襲い掛かってきた。その正体は虎のような魔物であった。片方は首元が氷で凍てついており、近づくだけで冷たい空気を発している。さながら氷の(たてがみ)とでも言うべきか。もう片方は小柄だが四肢の筋肉が発達しており、鬣ありよりも運動神経が高いことが察せられる。


『奴らはこの世界樹にて、我と縄張りを争っている氷虎種の魔物だ。この住処を狙っているらしい』

「とりあえず、敵だね?」

『あぁ。【障壁】と【念力】をかけておくが、奴らの攻撃から目を離すな。行くぞ!』


 ノワールが飛び立つと同時に、小柄の氷虎が、鬣の氷虎を守るように前に出てくる。鬣の氷虎は氷の槍を生み出して、穿つ機会をうかがっている。これもまたスキルの一種である。カレンはあずかり知らぬところではあるが、彼らのもつスキルは【氷操作】【氷作成】をはじめとした、氷の扱いに長けた種族なのだ。空気中に含まれる僅かな水分を操作して、それを槍や壁にして戦うのが基本戦術だ。また、番で行動する種族であるため、コンビネーションによる挟撃に注意する必要がある。得意分野は番によって異なるが、雄が遠距離、雌が近距離で戦うパターンが多い。

 しばらくにらみ合っていた両者だが、先に動いたのは氷虎だった。氷槍を構えていた雄が、ノワール目掛けて槍を放ったのである。この攻撃を、右半身を軽く捩って回避するノワール。そこへ雌が驚異的な跳躍で、ノワールの背面より肉薄してくる。先述したパターンの雌の場合、爪や牙に氷を纏わせて攻撃に使用することが多い。その際、先端は鋭く尖り、相手の肉を切り裂くような攻撃を多用する為、人間が相手にすると厄介な魔物である。そんな致命の一撃とも言える、爪に纏わせた氷刃がノワールを襲う。しかし。


『効かんなぁ!!』


 氷刃は適格に、標的の翼を捉えていた。にもかかわらず、ノワールは身体を無理やり横向きに回転しながら、前脚である翼の爪で弾く。大きさでいえば氷虎の爪の方が大きく、傍目からみるとノワールの爪の方が押されそうな印象になる。そこを回転の勢いとドラゴン由来の硬質な爪でカバーすることにより、氷は易々と砕かれたのであった。とはいえ、氷虎たちに焦燥感は見られない。幾度もなく、ノワールへ戦いを挑み続けていた彼らは、この程度で勝てるとは考えていないからだ。そのため、すぐさま次の行動を開始する。

 攻撃を弾かれた雌の氷虎は、追撃を受けないよう勢いそのままに着地。その隙をついてノワールが竜の息吹(ブレス)を撃とうとするが、雄の氷虎から氷槍の、文字通り横槍が入る。氷槍がノワールの腹や顎など、致命傷には至らないが戦闘継続に支障をきたす箇所へ打ち込もうとしている。ノワールは雌への追撃を中断して、雄から放たれる氷槍を急上昇で回避する。回避した先で再び雌の奇襲が発生。またもや背後の死角からであったが、【竜眼】で常に位置を把握しているため、隠れていようが丸わかりである。此度もまた爪による相殺を以て、迎撃する。先ほどは竜の息吹を防がれたため、回転の勢いのままに尻尾で薙ぎ払うが、氷虎はこれを回避。氷虎は空中であっても足場を氷で生成できるため、機動力に陰りは見えない。


『油断したなぁ!』


 一進一退の攻防が続く最中、ノワールは尻尾を器用に扱い、再度迎撃する。爪と異なり、尻尾は飛行中でも無理なく力を発揮できる部位である。先の迎撃より強力な一撃を返された氷虎は、たまらず体制を崩す。ノワールはその隙を見逃さず、そのまま尻尾で拘束する。直後、至近距離での竜の息吹を顔面目掛けて発射する。今度は雄の援護も間に合わず、竜の息吹が直撃する。ドラゴンの代名詞ともいえる攻撃の直撃を喰らい、雌の氷虎はたちまち気絶してしまう。ノワールはそんな氷虎を地面に置き、雄と地上で対峙する。2対1の時は種族的優位を活かした戦い方をしていたが、1対1であれば純粋な力勝負をカレンに見せようと考えてのことだろう。ノワールはホバリングしながらの蹴りを、氷虎は極大まで拡大して鋭利に研いだ氷爪をぶつけあう。ぶつかった瞬間、衝突したエネルギーが拮抗して周囲へと撒き散らされる。その余波で木々が折れてしまうほど強力な一撃を、しがしながら互いに引くことはなく、せめぎあっている。

 そんなカレンと言えば。


「うぅ……、速っ」


 ノワールの背に賢明にしがみつきながら、戦いの行方を必死に追っていた。【障壁】の防御と【念力】での身体の固定で多少まともとはいえ、そこは空竜種。飛行しながらの戦闘はアクロバティックな動きが多く、戦闘スピードも今まで行っていたどの戦闘よりも速い。カレンにできることは、必死にしがみついて、新たな仲間の戦闘をただ見守ることしかできなかった。高速戦闘で発生する衝撃や風の抵抗はノワールのスキルによって皆無に等しい。ただし急加速や急停止が頻繁に行われるため、目まぐるしく変わる景色にカレンは徐々に酔ってきていた。そこにきて、地上に降りての1対1はまだ救いであったといえよう。

 ノワールの地上での戦闘スタイルはホバリング状態により低空飛行を維持したうえで、後ろ脚での蹴りが主体の近距離格闘が基本となる。9mの身体を支える強靭な脚による蹴りは、木々を容易く薙ぎ倒す力を秘めている。それに付随して、尻尾による打撃も警戒しなければならないため、地上に降りてきたからといって決して油断は禁物なのである。さらに、異世界転生したノワールだからこそ知りうる知識が、より凶悪さを引き立てる。生物の構造上、脚の部位で最も固い膝を中心とした攻撃を用いるのである。所謂、飛び膝蹴りを空中から勢いよく繰り出すことが可能なのだ。通常はジャンプして放つその一撃を、ノワールは空中からタイムラグなく行える。反面、地面と衝突する危険性はあるが、ドラゴンの硬度な鱗に阻まれるため脅威たりえない。実質、ノーリスクで飛び膝蹴りを使用可能ということもあり、ノワールの必殺の一撃と化していた。

 そんな飛び膝蹴りを、氷虎が体制を崩したタイミングで放つのだから、たまったものではない。無理に回避しようとした結果、氷虎は身体のバランスを崩してしまい、地面に倒れこむ。その間、流星の如く地面に激突したノワールは、土煙を息で軽く払いのけてから、氷虎を正面にとらえる。そしてこれまた必殺の竜の息吹にて、氷虎の意識を刈り取るのであった。


 戦闘が終了し、一息つけるタイミングでカレンは胃の奥底から込み上げてくる”もの”を必死に抑えながら、独り言のようにつぶやく。

 

「世界樹の魔物の縄張り争いがこうも激しいとは……」

『より良い生活にするためには、時に争いも必要不可欠だ。いい狩場、いい水場、いい寝床、資源が潤えば生活はより豊かになり、健康体に生活できる。さらには生き残れる可能性があがるからな。そこは人間も同じだろうさ』

「そうね……」


 自然の一環を垣間見たカレンではあったが、当然何も知らなかったわけではない。自力で学び、時には教えを請い、知識を蓄えてきた。それが自身の生存に繋がる情報であると理解していたからだ。だが話だけを聞いているのと、実際の様子を直接見るのとでは訳が違う。そこは正に大自然の中で繰り返される生存競争があった。そこに人間が足を踏み入れていいのかと逡巡するも、そこは世界樹の森へ派遣される冒険者だけあり、すぐさま思考を切り替える。この生存競争に人間も加わらなければならないのだと。


「私自身、もっと強くならないと」

『その調子だ。お互いより高みを目指そう』


 どこか楽しげにする二人の親密さは、戦闘の前より幾何かは深まっていた。

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