第九話 ようこそ。冒険者ギルドへ!
エシューと別れ、冒険者ギルドを目指すカレンたち。
「ここが冒険者ギルドよ」
『うむ、なかなかに広い造りになっているのだな』
「国にとっても重要な施設だからね。防御にもかなり力が入っているらしいわ」
外観は荘厳な造りとなっており、中央にはアーチ状の入り口がある。ノワールが通っても十分な高さの入り口であるため、扉というより門といったほうが正しいだろうか。その扉の横には一般人サイズの通常の扉もあるため、平時はそちらを利用することが主流というよりも、門の入り口を使うほうが稀である。
今回はノワールがいるため、門の入り口にてギルド内へと進む。ギルドの中も広々とした空間が確保されており、カウンターが複数設置されている。ノワールの前世でいう所の市役所といったイメージか。
「数がそんなに多いわけじゃないけど、テイマーが大型魔物を使役している場合もあるからね。それに準じた運搬業なんかも扱っているから、施設は結構広いのよ」
『なるほどな。我が把握している冒険者ギルドよりも随分と多機能になったものだ』
窓の外の中庭らしき箇所に目を向けると、飛行可能な魔物に荷物を持たせたテイマーが飛翔する様が目に入る。主に移動速度に特化した魔物や一度に大量の荷物を運べる魔物が主流のようだ。パッと見渡した限り、ドラゴンテイマーはいない。
「それじゃあ一緒に向かいましょうか」
入口とちょうど対面する形で大きめのカウンターが並んでおり、何人かの受付嬢が冒険者相手に話し込んでいる様子が見受けられる。今は混雑していないのか、いくつか空いていそうな受付嬢がいたので、カレンはそちらを利用することにする。カウンターにいる受付嬢は冒険者への依頼斡旋と依頼達成の処理はもちろんのこと、街の案内や教習訓練、パーティ斡旋なども行っている。服装は青色のシャツとズボンを着用しており、同色の羽根つき帽子を被っているのが特徴的である。なお、これは世界共通のギルド員の正装であったりする。
「あの」
「はい!ようこそ。冒険者ギルドへ!」
「ギルドマスターへの取次ぎを依頼できるかしら」
「依頼内容を確認いたします。ギルドカードのご提示をお願いします。」
ギルドカードは冒険者ギルド所属の冒険者に配られるカードであり、身分証明としても使用できるカードである。冒険者カードをギルド内にある魔道具に読み込ませるとカード所有者の達成した依頼や依頼内容を確認することができる。その機能を利用して冒険者を格付けしたものが、ランク制度である。
ランクは依頼を熟すごとにギルド員が判断して昇格する。駆け出し冒険者は青銅級となる。そこから銅級、鉄級、銀級、金級、白金級、魔銀級、魔金級、魔鋼級とランクが上がっていくシステムになっている。ランク自体の識別は容易であり、カードの色がそれぞれの等級を表す色となっている。
「確認できました。銀級冒険者カレン様、街道を襲う空竜種の討伐ですね。先に帰還した騎士団からの報告の真偽確認の為、ギルド併設の闘技場でお待ちくださいとのことです。ギルドマスターの準備が整い次第、そちらへ向かわれます。」
受付嬢が右手で、ギルド奥へ続く扉を案内する。カレンとしては報告を行わなければならないため、断る選択肢はない。受付嬢に了承の返事をして、カレンとノワールは闘技場へと進む。
闘技場は冒険者ギルドに併設されている施設であり、冒険者の戦闘訓練として利用されている施設である。古の賢者が残した魔道具により、闘技場の舞台に上った者は即死無効となり、場外に出れば傷は回復するといった優れものである。その舞台の広さはかなり広めに作られており、観覧席の用意も整っていたりする。
「闘技場……。まぁ仕方ないか」
『なぜそこまで落胆しているのだ』
「ギルドの闘技場はね、基本的にはスキルの練習だったり、連携訓練を行う為に使用する場所なんだけど。」
『ふむ』
「ギルド側から、得体が分からない冒険者の見分に使われたりしているのよ」
『つまりは我だな?』
「そういうことね」
カレンとしては、あまりギルドマスターの世話になりたくはないのが本音である。リージュ家から半ば家出のような形で冒険者業を行っているカレンからすれば、お偉いさんと深く繋がるのはよろしくない。今回は事が大きくなったため、カレンの正義感が我慢できずに依頼を受けたのが発端であるため、自業自得ではあるのだが。
『それにしても冒険者も随分と様変わりしたな。案内していた女子もなかなか強そうではないか』
「受付嬢のこと?なら当然ね。彼女らは冒険者ランクでいうところの銀級にあたるのよ」
『ふむ、主と同格か』
「私の場合、任務および偵察任務に限り白金級なのよ?探索や逃走に関しては彼女たちより上よ」
『であるか。世界樹で活動する冒険者であるなら、何かに特化していた方がよいのも生存戦略と考えれば納得だな』
ノワールと語らいながら、闘技場の入り口で待つこと数刻。
「待たせたな!」
大きな張りのある声とともに、大柄な女性が現れた。背には自身の背丈と同じくらいの両刃の大剣を背負っている。燃えるような真っ赤な頭髪がややカールがかかっており、前髪はアシンメトリーで右目側が長い。服装自体は他のギルド員が着用している服装より少し豪華になっただけであるが、特筆すべきはその胸部であろう。他のギルド員とは一線を画すほどであり、衣服がはち切れんばかりに悲鳴を上げていそうだ。つい、カレンが自身の胸に手のひらを当てて比べてしまうのも無理はないほどに。
「カレンよ、討伐任務の伝令に任命したはずなのだが、まさか件の竜を使役するとは思わなんだぞ!」
「それは、まぁ……成り行きで」
「成り行きでドラゴンテイマーになるのは後にも先にもおぬしだけだろうな!」
豪快や女傑といった言葉がこれほどよく似合う冒険者もそうお目にかかれるものではないな、と思いつつも肩をバンバン叩かれているカレンは苦笑いを浮かべる。この力強さでありながら、現場ではなく事務中心のギルドに携わっている人を探すのも難しい。というのもここは世界樹を真正面に構える聖都ノルンであるから、屈強な人物が多いのも納得できよう。
『主よ、こいつが……?』
「そう、この聖都ノルンの冒険者を束ねるギルドマスター、ジューナ・メラーズよ」
「ほう!【念話】を使えるのか、珍しいな」
『我以外にも使えるやつはいるだろう』
「そうだな。正しくは【念話】を使う友好的なドラゴンが珍しいな!」
はっはっは!と豪快に笑うジューナ。一般的なドラゴンテイマーが使役しているのは、卵の時から育てた竜だったり、人間によって繁殖した竜である。そのため、野生個体のように自然の厳しさを知らずに育った竜は、野生個体よりスキルが一辺倒になる傾向がある。また最初から人間に育てられたとはいえ、高位の魔物たる竜は人間の言葉を理解できる。そのため、命令を聞くだけであれば【念話】は必要としないのである。その点野生個体はスキルの種類は豊富だが、プライドが高く使役しにくい。野生個体であるノワールを使役しているカレンは、テイマーの標的となったといってもおかしくはない。
「さて、世間話もこれくらいにして本題に入ろう」
ゴホンと咳払いをして、空気を引き締めるジューナ。その眼には確かな闘志の炎が揺らいでいる。
「薄々気付いているだろうが、カレン。」
「はい」
「その竜と模擬戦をしてもらうぞ!相手はもちろん私だ!」
「やっぱり……」
呆れ半分。諦め半分。カレンの心境はそのような気持ちだった。とはいえ、ノワールとの戦闘訓練を行いたいのはカレンとしても願ったりである。氷虎との戦闘では、ノワールに任せきりでとてもテイマーとは言えなかったからだ。端くれとはいえテイマーである以上、戦闘を魔物におんぶにだっこでは、外聞が悪い。ここでノワールとの連携強化を図って更なる力を身に着けたいと考えるのは自然な流れであった。
戦闘の前準備として、ノワールへジューナの手ごわさを伝えねばと判断したカレンは、ノワールを打ち合わせを始める。
「ギルドマスターはね、現役時代は魔銀級の冒険者だったの。得物は背に背負っている大剣ね。格闘術もたしなんでいると聞くわ。怪我の影響で長期的な冒険や戦闘ができなくなったそうだけど、短期的な戦闘なら現役時代と変わらない強さを発揮できるとか」
『人間としておかしくないか、それ』
思わず。カレンとノワールの視線がジューナへと向けられる。視線の先には、不満そうな顔をしたジューナが。
「御年45の大先輩に対して失礼じゃないかね、君たち」




