第一話 初除霊
俺は昔から霊感が強くて、幽霊を見ることができた。
こんな話をすると大抵の人には冗談だと受け取られるが、一部の人には、同情されたり、あるいは好奇心を持たれたりする。
まあ最近では、誰かに話すなんてことは滅多にしなくなったが。
とにかく言いたいのは、俺にとって、幽霊とは珍しいものではなく身近な存在であるということ。
身近とはいっても、俺と幽霊はもうずっと互いに不干渉を続けている。
幽霊と目を合わせず、あたかも霊感がない人間のように振舞えば、あいつらはちょっかい出してこないからな。
そんなふうに、もうかれこれ16年過ごしてきたが、昨日から、俺と幽霊との間に新たな関係が構築された。
どういうことかというと、俺にとって幽霊は、「除霊する」対象になり、俺は幽霊にとって「呪われる」対象になったのだ。
* * *
先ほど、幽霊とは互いに不干渉である、ということを話したと思うが、不干渉だからといって、実害がないわけではない。
鬱陶しいのだ。
俺の体を勝手に通過して不快な気持ちにさせたり、夜中に叫び声をあげて眠りを妨げたり。
幽霊は声を出せるのか、と疑問に思う方もいるかもしれない。
なるほど確かにその通り。
正確には、幽霊が発した思念を、霊感の強い俺はくっきりと感じ取ることができる、というのが正しいだろう。
悲しい出来事でみんなの気分が下がってる時ほど、あいつらは元気に、そして活動的になる。
それは、俺が落ち込んでいる時も例外ではない。
そうなるともうダメで、俺はさらにイライラが募り、あいつらは余計に盛り上がる。
その繰り返し。
なんて悪循環。
俺はもうダメだ。
幽霊だけに、疲れたのだ。
......。
俺は普段、とてもポジティブである。
なぜなら、気分が落ち込んだりすると、幽霊どもが煩わしくなるからだ。
幼い頃から、とにかく嫌な気分にならないようにしようと思っていたので、大抵のことは笑って受け流せるし、実際ある時から気にならなくなった。
だが、あの日は違った。
高校初の中間テストを翌日に控え、勉強していた夜。
俺は、足の小指を箪笥の角にぶつけた。
普段通り、ああやっちまったなと自虐的な笑みを浮かべながらも軽く流した。
流せた、と思った。
すると、俺の目の前を影が一つ通過した。
その幽霊は、顔だけこっちに向けながら、スィーっと流れるように去っていった。
その顔は、終始、無表情だった。
翌日がテストなのに、ほぼ勉強してないという焦り。
高校から始まった新しい人間関係のストレス。
それらのせいだろうか。
俺はキレた。
生涯において、あんなに怒ったのは初めてだった。
これまでは、どれだけ腹が立っても、自分を落ち着かせることだけを考えていたので、怒りを表面に出したことはなかった。
だからだろうか、俺は、怒りを沈める方法がわからなかった。
手当たり次第にものを投げつけ、怒鳴り散らす。
幽霊がわらわらと集まってくる。
視えてないふりも忘れ、俺は幽霊に殴りかかった。
すると、どういうことだろうか。
幽霊が、ジュっと蒸発した。
俺は一瞬、怒りを忘れた。
が、すぐに興奮が訪れた。
とにかく、この憎き幽霊どもをぶっ殺せる、という喜びだ。
そもそもなんでそんなことができたのか、とか、幽霊は元々死んでるので殺すという表現はおかしいんじゃないか、とか、そんなことを考えることもなかった。
気づいたときには、周囲から幽霊がいなくなっていた。
俺は拳を突き上げ雄叫びを上げていた。
ドアの隙間から妹が、怯えた目をしてこちらを見ていた。




