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考えすぎるカンナさんは勘違いしている

作者: 京極かずら
掲載日:2022/11/26

初心に帰ってラブコメを書きました。学園ラブコメ(?)です。

 2012年4月。日本某所にて、一人の少女が目を覚ます。


 そこは何処かの室内であり、真っ暗な暗闇の中に、一台のノートPCが置かれた場所だった。


 奇妙なことといえば、そこにいるのは少女独りであることと、PCからの声が絶えず聞こえているということだ。


「……聞こえていますか? 目覚めてください……」


 声を聞き、少女はゆっくりと目を開けた。

 少女の瞳は深いブルーで、髪はロングの薄いオレンジ色をしており、服装はパジャマ姿だった。


「目覚めましたね。気分はいかがですか?」


「…………」


 声の問いかけにも、少女は答えない。突然、知らない声に話しかけられれば、警戒したり戸惑ったりするのは当然のことではある。


「そう、その反応は予測していました。おそらくは、警戒していることでしょう。しかし私はあなたの敵ではありません。それだけは理解してください。"神崎カンナ"」


 その名前に、少女は視線をPCへと移す。

 神崎カンナ。それが少女の名前だった。


「それは、私の名前ですね……?」


「そうです。良かった、その記憶は持っていましたね」


 声の主は安堵した様子だった。


「なぜ私の名前を知っているのですか? それにその記憶、というのは……」


「そのままの意味ですよ。思い返してみてください」


 カンナは自らの記憶を探った。しかし、自分の名前以外の記憶はどうしても浮かんでこなかった。


「……ダメです。思い出せません、何も」


「そうでしょう。なにしろ、私はあなたの情報を全て存じ上げているのですから」


 声の主は、どこか得意げな調子で言った。


「全て、ですか?」


「全て、です。神崎カンナ、16歳。血液型O型、身長165センチ等々……」


「人にはプライバシーというものがあり、すべからく保護されるものだと思うのですが。……まさか私は、実は人間ではないとでも……!?」


「そのような事実はありません。安心しなさい」


 カンナは一人で考え込み、声はぴしゃりと否定する。


 だが、カンナは考えることを止めない。顎に手を当てて俯き、ひとりでに想像を広げていく。


「もしや、記憶がないのは私が人間ではないからでしょうか……? 私は宇宙人? 秘密結社の改造人間? それとも……」


「記憶がないというのに、どこでそんな知識を得たのでしょうか……? カンナ。私の話を聞いてください。あなたは普通の人間です。二度は言いません」


 声は再びはっきりと否定した。カンナは顔を上げ、PCの画面を見る。そこには相手の顔も体も映っていない。


「それならば安心です。しかし……。あなたは何者なんですか? 顔も姿も見せずに」


 声は加工がかかっており、聞いただけでは男か女かもわからなかった。


「私のことに関しては詮索は無用です。仮に呼び名をつけるとすれば、そうですね…………」


 声はしばらく途切れた。通信が切れたのかと思ったカンナは、そっと声をかけた。


「あの、もしもし?」


「失礼。私の呼び名ですが、"Y"としておきましょう」


「あくまで素性は明かさないということですか。それで、そのYさんが私に何のご用なのでしょうか?」


「はい。それでは本題に入らせていただきます。単刀直入に申しますと、あなたにはこれから、私の指示に従っていただくことになります」


 Yははっきりと伝えた。カンナの意思の有無を言わせずに。


「ずいぶんと強制的なご要件ですね。もし、私が拒否した場合は?」


「それはできないはずです。なぜなら、私の協力がなければ、あなたは生活できないのですから」


 カンナはそこで、周囲を見渡した。何も変わった所がない部屋ではあるが、人がいなかった。


「ひとつ、いえ二つお尋ねしてもいいですか?」


「どうぞ」


「ここはどこなのですか? それに、私以外に誰かいないのですか?」


「この場所についてお答えします。ここは『可暁町(かぎょうまち)』。都市開発が進み、近年目覚ましい発展を遂げています。メディアにも取り上げられることの多い町なんですよ」


「はぁ……」


 カンナは気の抜けた返事をした。自分が聞きたかったことはそこではない、と言いたかったのである。


「それから、この部屋に住む人間ですが……」


 カンナは身を乗り出して続きを聞こうとした。


「申し訳ありませんが、今はお答えできません。理由は聞かないでください」


 再び長い沈黙の後、Yは言った。カンナは気分が落ち込み、大きなため息をついた。


「きっと、何をしても答えてはいただけないのですね。もう、けっこうです」


 カンナは絶望したかのように、仰向けに寝転んだ。彼女の目には、真っ暗な天井が映る。


「あまり悲観的になりませんように。私はあなたの敵ではありません。むしろ助けになるために、今こうして話しているのですから」


「助けに? 姿も見せない人がですか?」


「嘘だとお思いですね。では簡単に証明をしてあげましょう。右側の部屋の窓を開けて来ていただけますか?」


「窓を? なぜそのようなことを?」


「私のことを信じていただくためです。さぁ、四の五の言わずに早く」


 Yの指示にしぶしぶ従い、カンナは重い腰を上げた。

 長い時間立ち上がっていなかったのか、彼女はふらふらと近くの柱にもたれかかり、なんとか窓の方へと向かった。


(……体が重いです。しかしなぜにこのようなことをさせるのでしょうか。まさか、窓には罠が仕掛けられているのでは? 弱っている私を始末するために……?)


 窓の前に立ったカンナ。しかし彼女の脳裏には次々と疑念が浮かんでいた。



 カンナが部屋に戻ってくる時には、室内は眩しい日差しが差し込み、ほとんど見えなかった机や椅子、その他の家具が照らし出されていた。


 しかし彼女が窓の鍵に手をかけるまで、30分もの長い時間を要していた。Yは待ちくたびれたような口調で迎えた。


「遅かったですね。ちゃんと、窓は開けられたようですが」


「体が思うように動かなかったものですから。それで、何を証明していただけるので……」


 ピンポーン。


 カンナは言葉を切った。玄関からチャイムが鳴り響いたのだ。


 もたつく足取りで扉を開けると、一人の配達員が外に立っていた。


「こんにちは。神崎カンナ様ですね?」


「はい。そうですが……」


「こちら、あなた宛のお荷物です。判子かサインをお願いいたします」


「はい……」


 カンナは言われるがままサインを書き、小さめのダンボール箱を受け取った。


「確かに。ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」


 配達員は呆然と立ち尽くすカンナを置いて、去っていった。


「お届け物を受け取りましたか?」


 部屋へと戻ったカンナに、Yは声をかけた。彼女の行動が全て見えているかのようなタイミングだった。


「ええ……。これは一体?」


「今のあなたに必要な物です。これより、外に出ていただくのですから」


 カンナが荷物を開けると、そこには長袖のシャツとスカートが入っていた。


「そちらに着替えて、外に出てください。それからしていただくことは……」




 それから数分後、渡された私服に着替えたカンナは、部屋の外へと出た。


(あのYという声の指示に従ってしまいましたが、本当に大丈夫でしょうか? 私の助けになるという言葉は信用できるかもしれませんが)


 歩く間も、彼女の疑念や想像は止まらなかった。


(しかし、次の指示は一体何なのでしょう。"この町に住む、私と同年代くらいの少年に接近しろ"と言っていましたが)


 当てもなく、町中を彷徨うカンナ。すれ違う人々の中には、まだ条件に合う男はいない。


(それにしても接近、とはどうすればいいのでしょうか? ただ声をかければいいのか、後をつけて、自宅を特定すればいいのか……いえ、それはいけませんね)


 あれこれ考え、ふと視線を上げたカンナの前には、一人の男が歩いていた。


 男の背丈はカンナとほぼ同じ。カンナは意を決して、少年の目の前に躍り出た。


「あの、少しよろしいでしょうか?」


「……はい、何か?」


 突然現れ、しかも間違いなく自分に向けて言われた少年は面食らった。


(どうしましょう、何と言えばいいか全く考えていませんでした。謎の声に導かれて、あなたに接近することになりました。などと言っても理解されるはずはありませんし……)


 声をかけてから、カンナは考えにふけってしまっていた。

 ずっと黙ったままの彼女を不審に思ったのか、少年は逆に声をかけた。


「あのー、大丈夫……?」


「はい、私は問題ありません」


「それならいいけど。俺、用事あるから。失礼するよ」


 少年は踵を返して、来た道を引き返そうとした。


「待ってください」


 チャンスを逃すまいと、カンナは再び少年の前へと立ち塞がる。


「何? 変な宗教の勧誘なら、お断りなんだけど……」


(シュウキョウ? カンユウ? よくわかりませんが、そんなことは今はどうでもいいです。とにかく、何か言わないと。この方に接近しないと……)


 カンナは考える。そして、考え抜いた答えを口にした。



「あなたと、お近づきになりたいのです」



 少年は一瞬固まり、我に返った時にはまごついていた。


「あの、それはどういう、意味……?」


(意味? どういう意図でそうお尋ねなさっているのでしょうか? もしかしたら、こちらの言葉がよく伝わらなかったのかも……)


 またしても熟考するカンナは、次の行動に移した。


「ですからあなたとお近づきに」


「へっ?」


 カンナは一歩踏み出す。少年は思わず、半歩下がった。


「なりたいの」


「ちょっ」


 カンナはまた一歩踏み出す。少年は動揺して、今度は動けなかった。


「です」


 少年との距離、約10センチの所で、カンナは足を止めた。視線はお互いの瞳を見つめている。

 涼しい顔をしたカンナと対象的に、少年の顔は紅潮し汗が頬を伝っていた。


「そ、そういうのはなんていうか、お互いのことをよく知ってからじゃないと……」


「お互いをよく知る? 私は神崎カンナですが、あなたは?」


「いやそういうことじゃ……。あっ、ヤベ遅れる。悪いけどこれで!!」


「あっ、待って……」


 しかし少年は、一目散に去ってしまった。



「おかえりなさい。いかがでしたか?」


 少年が去った後、カンナはYのいる部屋へと戻り、結果を報告した。


「それが、お声をかけましたが、逃げられてしまいました」


「逃げられた?」


「はい。言われた通りに接近し、お話もできたのですが」


 Yは話を整理しているのか、しばらく黙った。


「どんな話をしたのかわかりませんが、とりあえずよしとしましょう。それで、あなたがであった人はどういう方でしたか?」


「背丈は私とそう変わりませんでした。なので同年代かと。髪は癖毛で、黒髪でした」


「それは……こんな人ですか?」


 画面には、まさしくあの少年が映し出されていた。やや冴えない顔も、そっくりそのままだった。


「この方です。間違いありません。でも、なぜあなたがこの画像を……?」


「詮索は無用。首尾は上々です。感謝しますよ、カンナ」


 Yはそれ以上の質問はさせまい、といった調子で言い切った。カンナは黙ってしまった。


「それでは次の段階へと移ります。もうすぐ届け物が来ますので、それからお伝えします」


 ピンポーン。


 その言葉通り、再びチャイムが鳴った。



 数日後。可暁町の私立高校『可暁第一高等学校』、通称可暁一高にて、新学期の始業式が執り行われた。


 可暁一高、二年三組。そこに、カンナが『接近』して逃亡した少年がいた。黒板を正面に、一番右側の最後尾の席で、誰とも話すことなくボーッとしている。彼の隣は空席だった。


 その時、ガラリと戸が開き、担任の教師が入ってきた。がっしりした体格の男教師だった。


「えー、ご機嫌ようみんな。今日からこのクラスの担任を務めさせていただく大山です。よろしくな」


 大山は全員の前で挨拶した。パラパラと拍手が起こった。


「新学期早々だが、三組に新しい仲間が入ることになっている。仲良くしてやってくれ。今呼んで来るからな」


 大山は廊下に出た。途端に、教室内がざわつき始める。


「ねぇねぇ、編入生ってことだよね!? どんな人だろう……」


「イケメンがいいな〜。可愛い女子でも良し」


「期待しすぎない方がいいな。ぶっさいの来るかもしんねーぞ」


「それな。そんな漫画みてーな展開、あるわけねぇっての」


 ガヤガヤとする中でも、かの少年は静かに頬杖をついている。


 そして、もう一度戸が開く。


 大山に連れられた編入生は、薄いオレンジ色の髪に深いブルーの瞳をしていた。

 紛れもなく、神崎カンナである。


(あ、あいつは……)


 少年は声を出すのをなんとか堪え、心の中で呟いた。


「えー、編入生の神崎さんだ。詳しくは本人から。できるかな?」


「はい。神崎カンナと言います。よろしくお願いします」


 教室内が、またざわつき始める。カンナの容姿が整っていたことや、清楚な雰囲気に男子のみならず女子までもが魅了されつつあった。


 室内を見渡すカンナと、少年の視線が再び合った。その瞬間、互いに昨日の記憶が蘇った。


「よし、それじゃあ席は……」


「あの、あの方の隣がいいです」


 カンナは少年の隣の空席を指さす。


「ん? ああ、そうだな。そのつもりでいたからな。じゃ、席についてくれるか」


「はい、わかりました」


 カンナはつかつかと少年の隣まで歩き、静かに座った。その間も、クラス内の視線はカンナに注がれ、ざわつきは収まらなかった。


「……わざわざご指名とはどういうつもり?」


 少年はカンナに小声で尋ねる。


「しめい? 私の氏名は神崎カンナです。先ほども昨日も、言いましたよね?」


 カンナはきょとんとした表情で尋ね返した。


「いやその氏名じゃなく……」


「おーい。ホームルーム始めるんだから、静かにしろー」


 大山の一声で、教室内は静まり返った。


「とにかく、お近づきになれましたね。これからよろしくお願いします、お隣さん」


「……キセキ」


「え?」


「俺の名前。"霧山キセキ"。よろしく」


 霧山キセキはぶっきらぼうに言うと、カンナから目を逸した。


「ええ。よろしくお願いしますね、キセキさん」


 キセキは目を逸したままだった。


 黒板に何かを書く大山を見ながら、カンナは脳内で思考を駆け巡らせていた。


(高校に編入学しろと言われた時には不安でしたが、ちゃんと制服も届きましたし、Yにはとりあえず感謝ですね。学校の皆さんは良い人ばかりで安心しました。キセキさんもおそらく照れていらっしゃるのでしょう。きっといいお友達になれる気がします。これから楽しみですね)


 勘違い少女の、おかしな学校生活が始まろうとしていた。

読んでいただきありがとうございました。この続きは出来ていたり出来ていなかったりなので、今の連載が終わる頃に書き始めるかもしれません。感想等いただけると励みになります。よろしくお願いします!

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