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第一章 第5話 最後の晩餐は丸焼肉

 

「よしっ! これからが勝負だ」


 ドアを勢いよく開けると納屋へと入る。普段片づけられることのない納屋の中は、祭典の準備も相まって、道具が散乱している。まともに整理すればグルが帰ってくるまで片付けに時間をとられてしまうであろう。しかし、今はグルを納得できるようにさえすればよい。片端から部屋の奥に荷物を投げ込むと、必要最低限の荷物を取り出し、入り口付近のみを片づける。


 入り口の空いたスペースにアルフレドが用意したのは祭典用に使う石剣が二本。ちなみに石剣が二本あるのはグルが無くしたと勘違いし、もう一本購入したためである。実際には納屋の奥深くにしまわれており、それをアルフレドが見つけ、こっそりと隠しておいたものである。


 更には、先ほど汲んできた大量の水、過去に住人が捨てたであろう大量の陶器である。陶器は質が悪いのか凹凸が激しく、全体的にザラザラとしている。アルフレドは石剣の一本を手に取り、鞘を外す。


 改めて剣をじっくりと眺める。重厚な剣は撲殺に適しているのだろう。しかし、アルフレドの細腕で石剣を振ることはできない。仮にアルフレドが石剣をもって真正面からグルに向かっても剣を奪われ、逆に殺されてしまうだろう。


 しかも、グルは家に武器の類は持ち込まない。素手だけでアルフレドを嬲り殺せる力を持ちながら、万が一のアルフレドの反乱に備えているのだ。さらには、就寝の際にはアルフレドの足に鎖をはめる念の入れようである。


「すべてはこれが手に入ったところから計画が始まったんだよな」


 手には簡易魔法発動紙【スクロール】がある。裏表を確認し、問題がないことを確認する。以前、行商人がこの村に来た際にどさくさに紛れて手に入れたものだ。ちなみに、簡易魔法発動紙は魔法が使えない庶民が使うもので、大した効力がない上に一度きりしか利用できない。しかし、誰にでも魔法が使える便利さからこの世界では比較的ポピュラーに使われている。


「道具は揃った。後はあいつが帰るまでに準備をしなくては」


 桶に入れた水に石剣を浸す。次に大量の陶器を木箱に割ると水に浸した石剣をその箱の中に入れ蓋を閉める。蓋には剣の刃先のみ入るように細工されており、アルフレドが剣を差し引きするとゴリゴリと陶器と刃先が擦り合わさり、ごく僅かではあるが剣先が削れる。


「いいぞ、ここまでは順調だ。あとは、奴が帰ってくるまでに仕上げるのみだ!」


 箱に足をかけると愚直に剣を削る。二年間殴られ続けた恨みを込め、人間としての尊厳を踏みにじられたことを思い出しながら。やがて、陽が傾き始める頃になるとアルフレドの持つ石剣は鋭角な剣となり、鏡のように磨かれた表面は陽の光を反射していた。


 ※※※


「フヒヒッ」


 卑猥な笑いが漏れる。今年は近隣の人間の村が豊作だったようで、村の特産品の魔光の酒が高く売れたようだ。住人の懐も豊かなようで、例年に比べ、革袋はずっしりと重い。明日の祭典を無事に終わらせられれば更なる寄付も望めるだろう。


「帰ったぞ」


 テーブルの上に革袋を投げると部屋のはじに座るアルフレドを見つける。アルフレドは納屋の片づけと祭典の準備で疲れたのか汗をかき、ぐったりとしている。


「作業は終わったのだろうな?」


「はい。お食事の用意も済ませてあります。ご希望であれば今すぐお持ちします」


「そうだな。明日の祭典の為に英気を養っておくか。納屋の中に葡萄酒があっただろ」


「ぶ、葡萄酒ですか?」


「そうだ。納屋の奥に寝かせておいた葡萄酒があるはずだ。納屋の整理をしてあるならすぐに取り出せるはずだ」


「もちろん。すぐにお出しすることは可能でございます。しかし、明日の朝は早うございます。今日は控えてはいかがでしょうか? 今日の疲れを明日に残すと明日の酒の味が落ちます」


 奇妙な間に一瞬、違和感を覚えたグルではあったが、アルフレドの進言も的を得ている。明日の祭典は動きっぱなしだ、疲れを残すのはまずい。


「そうだな。今日は食事だけにする。早く用意しろ」


 アルフレドは心の中で息を吐きつつ、素早く食事の用意を始める。香草で臭みを取ったフォレストボアの照り焼きに、残りの骨を使い出汁をとったスープ。脂が乗った肉は出汁にも使用し、米と共に炊き上げたパエリアも用意してある。


「おおっ。気が利くではないか。私の好物のフォレストボアを用意するとは! よし、お前も食べるが良い」


 焼きあがったフォレストボアの足を一本引きちぎると、こちらを見ることなく床に投げつける。グルは凄まじい勢いで食事にむさぼりつく。前かがみになり、皿に顔を近づける様子はまるで豚のようで、品の欠片さえも感じさせない。アルフレドは床に落とされた肉の上に覆いかぶさると顔を下にむけたまま肉を口に含んだ。


「いい…ちょうど良い角度だ」


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