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時間だ




……



「おい、虐殺聖女。言い残したことはあるか」


「ああ……」


自分が声を掛けられているのだとハッと気が付き、エーレは掠れた声を出した。


言い残したことなんて、山ほどある。

あの第一王子にもう一言言ってやりたい。

私は何もしてないと言いたい。

自由にしてと言いたい。


それだけじゃなくて、こんなことになるのならマリーと買い物にでも行っておけばよかった。

側妃さんに、綺麗な花の育て方について質問があったんだった。

それから、グラディウスにもっと好きな景色とか好きな場所とか好きな季節とかもっと聞いておけばよかった。

またとかじゃあなだけじゃなくて、もっときちんとお別れを言って、話をしておけばよかった。


……あーあ。

それは今更叶わない。ならせめて、私は……



「私は、」


私は、薬師だ。

ただの旅の薬師。

薬が好きで、旅が好きで、特別な力なんてないただの薬師。

だから聖女なんかとして死にたくはない。


でも、声が出なかった。

涙が出てきて、奥歯を噛んだら何も言えなくなってしまったのだ。



「時間だ」


冷たい声が脳内に響いた。


これで、終わり。

薬師として終わる事すらできなかった。




涙でとりとめのなくなった目の前の処刑台が、ギラリと光って見えた。

処刑台が舌なめずりをしたのかと思った。


だが、違う。

光ったのは、人込みの向こうにあった何か。


耳の横で、空気が切り裂かれるような音がした。

エーレを拘束していた男の力が弱まったので後ろを見れば、処刑人の男の肩に矢が刺さっていた。


ヒュン!

まただ。

空を切る矢の音がした。


牽制のように処刑台に突き刺さった矢を見て、エーレは前方に目を凝らした。

何か、黒いものがこちらに向かって駆けてくる。

視界はぼんやりしているが、群衆が騒ぎ出したのは分かる。


真っ黒の塊が人の波を割るように走ってきて、その大砲の弾のような勢いのまま振り上げた剣で鎖を強引に断ち切った。

エーレの拘束具の鎖が断ち切られた。


「エーレ!」


目の前に手が差し出される。

はじめて名前を呼ばれたと感動する間もなく、必死に手を伸ばしていた。

エーレの手を捕まえたその手はとても大きくて、力強かった。


半分強引に走りだす黒い馬の背にエーレを引き上げて、初めて会った時のように乱暴に自分の前に載せたのはグラディウスだった。



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