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マントの下から出てきた生き物



エーレは側妃の治療を第一に考えて、よく眠る暇もないくらいの忙しい日々を送っていた。

でもどんなに大変なことも、患者の為に動くことに生きがいを見つけられるエーレの苦ではなかった。

むしろ回復の見込みが大いにある患者の世話は、どんなに大変でも楽しいまである。


そんなこんなで忙しい日々の合間のある日のこと。


ふんふふんふーん。

薬を調合するごりごりという音を立てながら、エーレは鼻歌を歌っていた。



「お前、生き物を診る事は出来るのか」


「ふんふふんふーん……え?」


唐突に。

側妃の発作に対処する合間に厨房で薬を作っていたエーレの横に立ち、開口一番そんなことを言ったのがグラディウスだ。

しばらく北の戦線にいたが、塔に帰ってきたらしい。

相変わらずの高身長でエーレを見下げてくる。


「え、ではない。二度も同じことを言わせるな」


「なんです、今のはちょっとした相槌です。聞いてましたって。生き物って言いましたよね?私は獣医ではないんですけど、怪我くらいなら多分」


「なら藪医者でもいないよりはマシか」


グラディウスが長いマントの下から手を出し、その大きな手のひらに載っているものをエーレに見せた。

火山地帯でよく取れる石と同じような色をした、大きめの爬虫類のようなその生き物。


「きゅう」

クリクリの目をした、ワイバーンの子供だった。

大人しくグラディウスの手のひらに腹を付けて座っていて、きゅうきゅうと鳴いている。


見れば、片方の翼の骨が折れているようだった。


「どうしたんですか、この子」


「北から王都に帰ってくるまでの間に見つけた……というか、これを食べようとしていたキツネが俺の目に飛び出してきたんだが、驚いて俺の目の前で落としていった。目の前のこれを捨て置くのも何となく気分が悪くてな」


「きゅう」

ワイバーンの子供はグラディウスの手の上で、前足を使って頬の脇を掻いていた。

大人ワイバーンは迫力があって恰好いいが、小さな子供は愛らしい。


「可愛いなあ。ここが痒いのか~。掻いてあげよう、うりうり」


「うきゅう」

エーレが人差し指でワイバーンの頬を擦ると、ワイバーンは驚いたような顔をしていた。


「お前、何してる。これは骨が折れてるんだぞ」


はっ。

つい可愛くてうりうりと構ってしまったが、ワイバーンの翼は変な方向に曲がっていて、固まってはいるが血も出ている。

いけないいけない。

薬師たるもの、怪我と聞けば真っ先に治療しなければ。



「じゃあ、タオルを敷くのでここに……ここにおいてあげてください」


洗い立ての白いタオルを二枚重ねて果物籠に突っ込み、はいどうぞとグラディウスに示す。

彼は思いのほか慎重な手つきで、ワイバーンをタオルの上に載せた。


パタパタと大急ぎで薬箱を担いで帰ってきたエーレは、早速傷口の消毒から始める。

消毒液を染み込ませた綿を傷口に当てると、案の定ワイバーンはバタバタと嫌がって暴れだした。

そしてそのまま、果物籠から転げ落ちて逃げようとする。


「仕方がない。俺が押さえておいてやる。その間にやれ」


言うが早いか、ワイバーンはグラディウスの大きな両手で拘束され、押さえつけられた。

子供ワイバーンがこれに抵抗できる力はなかったようで、成すすべなく鳴いただけだった。


「ああ、やりやすくなりました。ありがとうございます」


では、処置の再開だ。

見れば、グラディウスの両手の隙間からは折れた翼だけが出ている。

それも器用にグラディウスの指で動かないように固定されている。

別に指示をしたわけでもないのに、なんとも治療しやすい。

グラディウスは偉そうな時もあるが、偉そうでも許されるほど何をやらせてもそつなくこなす人間なのかもしれないとふと思ったエーレだった。




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