虐殺聖女の処刑
薄暗かった地下の小さな牢から引きずられるようにして外に出た。
久しぶりの光が目に眩しい。
「おい、早く歩け、虐殺聖女。もう広場ではお前の処刑の準備はできている」
手枷に付けられた鎖がグイッと引っ張られて、危うく転ぶところだった。
何回急かされても、足に力が入らなくてそんなに早く歩けない。
……あーあ。唇が切れて血の味がしてる。
前が、見にくい。視界があんまりよくないなあ。
食事が一日に一回だったから、貧血起こしかけてるのか。
あ、手錠に擦れて剥けた傷も悪化してる。
牢の中は衛生的じゃなかったから。
……でも、もういいのか。
今日処刑されちゃうんだから、怪我が酷くなっていようが体調が悪かろうが、もう関係ないのか。
結構あっけない人生だったな。
本当はもう少し生きて、もう少し色々な国に行って、もう少し知らないものを見てみたかった。
でも、もうそれも無理か。
……あーあ。
霞む目で上を見上げて最後の空を瞳に映したエーレが、聖女と呼ばれた期間はたったの一週間。
そして今の彼女は聖女などではなく、罪人。
虐殺聖女なんて不名誉な名前で呼ばれる罪人。
処刑日は、今日。
罪状は、このエーガルディア王国を謀った罪。
聖女を騙り、多くの兵を虐殺した罪。
たくさんの兵士が命を散らしたのは、褒賞に目がくらんだエーレが力も無いのに自らが聖女だとホラを吹いたからだそうだ。
エーレは引きずられるようにして、目的地に到着した。
背中を押されて、台の上に立たされる。
周りに人だかりができているが、目が霞んでしまって、一人一人の表情を窺うことはできなかった。
でもきっと、皆エーレが罰を受けるのを望む目をしているんだろう。
「おい、虐殺聖女。言い残したことはあるか」
「ああ……」
声を掛けられて、エーレは小さく唇を小さく動かした。
「私は……」