第一話 ハッピーバースデイ
ぼんやり。
今、この頭の中を表すにこれほど適切な言葉はない。
目も開かないし、体が動かない。
なんというか金縛りのようだが、多少体は動く。
まるで全身麻酔をかけられたような感覚だ。
なんでこんな状況になっているんだろうか。
ふと疑問に思う。
「*********」
何か声のような音が聞こえるが、何を言っているか分からない。
そもそもここはどこだ。
なにをしていたっけ。
思い出せない。
急に体が軽くなる。いや、俺は持ち上げられたようだ。
「*+‘*+‘*+*+*」
また何か声のような音が聞こえる。
よく俺を持ちあげられるな、と感心していたが、気が付くとなんだか体が濡れているし服も着ていない。
目が見えないから気が付かなかったが、素っ裸だ。
なんてことだ!
俺は生まれたままの姿で、知らない誰かに持ち上げられている!
この状況に急に不安になり、思わず目を開けたが眩しい。
何も見えない。
突然、いきなり体を傾けられ背中をバンバンと叩かれた。
「いめぁあああ!」
いてぇな!といったつもりだが舌が上手く回らず、言語でない言葉になってしまった。
麻酔は効いないぞ。というか、いつ麻酔を打たれたのだ。俺は病気なのか怪我なのか。叩かれた背中が痛いぞ。
そんなことを考えているうちにゆっくりと体が下がっていくのを感じ、お湯の中に入れられ布のような感触のもので拭われている。
いったいこの状況はなんなんだ。俺は何かしたのか。全然、身に覚えがない。
どっかの裏方の人たちに攫われて内臓を取られたのか。不安な想像しか出てこない。
そして、よくわからないうちに、拭い終え、乾いた布らしきものに巻かれた。
そしてその後、何やらモコノコしたベッドらしきところに寝かせられた。
スプリングはついてないな、と贅沢なこと考えているが、周りは眩しくてよくわからないし、よくわからない言葉のような聞こえる。体は動かない。
もう、状況が把握できない。
ええい、ままよ。
そう思い俺は流れに任せることにした。もうヤケクソだ。
どうせ、考えたってぼんやりして眠いし、目は見えないし、体は自由が利きやしない。そのうえ声がうまく出ない。助けだって呼べやしない。
今のところ、さっき背中を叩かれたくらいで、これから本格的に暴行に入る険悪な雰囲気は今のところ感じられない。そして脅しにくるような罵詈雑言や映画で定番の付近で何かを壊すような騒音もない。
つまり、なんら問題もなく静かな環境である。今この状況になっている理由はわからないままであるが。
それならば・・・甘んじてこの状況に受けてたとうではないか。
なによりこのスプリングのないモコモコベッドで横になるしかできることがないのだ。
そう頭を切り替えて俺は不貞寝をすることにした。
今は麻酔バッキバキだし、殺されるならもう手遅れだ。文字通り今は手も足も出ない。
明日になれば運が良ければ麻酔もとれて状況がわかるはずだ。
今はもう寝よう。そう考えていくうちに意識が薄れていった。