六つの村
古渡城での話し合いを終えて少し経った天文十一年の秋のことだ。
欲しい物をまとめた書類を、順次提出していくと、いつの間にやら私が管理している村が六つに増えてしまった。
その際にそれぞれ米、綿、蜂、鶏、芋、そして茸を村の前に付けて差別化を図った。
ちなみに未来では当たり前に食卓に並んでいた椎茸だが、松茸よりも高級品だとは思わなかった。
いや、食卓に並ぶ頻度から何となくそうかなとは思っていたのだ。
しかし父が干し椎茸が高級品なので、人工栽培に成功すれば上洛して大樹や朝廷の献上品にちょうど良いと一も二もなく乗り気だったことで、そういうものかと納得した。
確かに高級食材を量産して銭に変えれば、尾張の国力増強にも繋がる。
良いことなのは確かで、やれることはわかっているが、自分はホームセンターの栽培キットぐらいしか見たことがない。
あとは育成方法に原木と菌床があることと、菌の一種で肉眼では殆ど見えない胞子を飛ばして増えるぐらいだ。
そして何よりも、村一つだけでも管理にいっぱいいっぱいだったのに急に五つも増えて、もはや正直急展開すぎて何がなんだかわからなくなる。
それでも父が信頼して任せてくれるのは理解できたし、同時に必ず成功させろという重圧がヒシヒシと伝わってきた。
だがしかし、私は昔から負けん気が強い。
売り言葉に買い言葉で、できらぁと啖呵を切った以上は、どれだけ達成困難であろうと、絶対にやり遂げるつもりだ。
まあ、元々綱渡りの人生なので何処にも逃げ場はないし、失敗は許されないのはわかっている。
なお、六つの村を細かく分けても本業は稲作である。
各村はあくまでも手の空いている人材や時間を使って、兼業で他の作物や家畜を育てていくのだ。
その中で米村は例外ではないどころか責任重大であり、品種改良や病害虫の対策、戦国時代の経済の基盤にしているだけはあり、味や質や効率的な栽培方法等、やることは多岐に渡る。
それと関係あるのかないのかは不明だが、ゲームで使用される田植え歌と、米は力だという言葉が、新農具と一緒に六つの村中に広まっていた。
言い出しっぺは私なのは明らかだが、何でやねんとツッコミを入れたい衝動に駆られる。
現在では揉み消すことは不可能なほど浸透しているため、黒歴史を作ってしまったと、内心で悶えるのだった。
それから少し時が流れて、天文十一年の秋が終わって冬になった。
冷たい風が身に染みる季節となり、私は古渡城下から近い距離にある茸村に、護衛を引き連れて馬を走らせやって来た。
そして村の入口を通過して、時代を先取りして設立して建設した施設の前で、よっこいしょと馬から飛び降りる。
見た目は何の変哲もない平屋の日本家屋だが、古渡城下の武家屋敷ほどの広さを確保している。
周りには高い壁で囲まれていて、警備も厳重。
入り口の大きな表札には美穂協同組合茸村支部と、私が現代日本の漢字で書いた木板が、外からよく見えて目立つ位置にかけられている。
もっと字が上手い人に書いてもらえば良かったのだが、村民は創立者である美穂様が書かれることに意味があるのですと強く主張した。
なので仕方なく筆を持ったのだが、私は昔から勉強をサボって遊び回っていたため、戦国時代で当たり前に使われている字が書けなかった。
そこで遠い未来の日本語を使ったのだが、この世に二つとない表札だと、村民たちは大いに喜んだのだった。
なお美穂協同組合、略して美穂協を六つの村に作った時に、寺院とかなり揉めた。
だがそこは稲荷神様の化身だとゴリ押ししたり、成果が出なければ一年と少しで解散すること、あとは袖の下で何とか納得してもらった。
ただし、向こうは引き下がるにしても渋々だった。
つまり期限内に、何の成果も得られませんでした! となった場合は、それ見たことかと罵倒して、二度と舐めた口が聞けないように徹底的に叩かれるのは間違いない。
何にせよ、面倒な輩に目をつけられたと内心で大きな溜息を吐く。
(やっぱり中間搾取や特権階級をまとめて排除したのは、やりすぎだったのかしら?)
農民と領主の間には、その土地の権利や特権を持つものが多数組み込まれていた。
昔は重要な役目を果たしていたのかも知れないが、私から見れば今の時代には不要だった。
なのでいきなり管理対象が六つに増えて、少しでも仕事効率を上げるために美穂協同組合を立ち上げて村民を強制加入させて、旧組織を解体してなかったことにしたのだ。
おかげで農民たちは自らの取り分が増えて大喜びだが、中間搾取をしていた者たちからは、大いに恨みを買うことになったのだった。
なお、美穂協同組合は特権階級の締め出し以外にも、最新技術や情報の提供、さらに様々な道具を借り受けることができる。
まだ生産体制が整っているとは言い辛いので、試作品を貸し出して改善点を洗い出して、代わりに少額の年会費を取るのが精一杯だが、今の所は上手く回っている。
それはともかくとして、馬から降りた私は警戒厳重な美穂協同組合の正門を顔パスであっさり通過する。
そして林さんたちと一緒に、施設内へと足を踏み入れた。
「ようこそいらっしゃいました! 美穂姫様!」
「こんにちは、村長」
あらかじめ先触れを出しておいたので、村長以外にも農業協同組合茸支部の関係者が、一列に並んで頭を下げる。
根っこが永遠の小市民なので内心では少々恥ずかしいが、今は織田信秀の娘で管理対象の最高責任者だ。
なので現状を受け入れて簡単な挨拶をした後、草履を脱いで正面玄関から屋内に上がらせてもらう。
そのまま廊下を歩いて、奥の会議室へと案内されるのだった。




