2 最強に出会った!?
(どうしてこんなに嫌なことが連続で来るのぉーー!?)
どうも、A級(もう少しでS級)パーティーから追放されたマイカです。
ただいま禁忌の森で鬼ごっこやっています。
逃げるのはもちろん私。
鬼役は現在進行形で後ろからものすごい勢いでやってくる準A級モンスター『マガイ』です。
何でこんなやつに追われてんだろ私? 正直死にそう。
あぁー……こんなことだったら、お気に入りのパフェいっぱい食べておけば良かったな。
(って! 現実逃避してる場合じゃないやー!!!)
『まぁぁぁぁぁああああでででででででて!!!』
荒い化け物の声が私の意識を元に戻す。
自分のマガイの鬼ごっこが始まった時は200メートルほど離れていたのが、今では目と鼻の先だ。
単純に追ってきているモンスターが早いだからだろうが、もう一つ原因がある。
(私! ほんとに運動雑魚なんですけど!?)
走り始めてから1分足らずで汗ダァダァな私。運動が良くない自分は当然、速さも持久力も全然足りていなかった。
「あっ――」
しかも疲れからか、足が木の根っこに引っかかってしまう。
全力で走っていたから前に倒れて転んでしまいそうになるが、
バコンッ!!
転ぶ前にモンスターの体当たりを喰らってしまった。
そのままマイカは吹き飛んだ先にあった木をたくさん貫通して、そのまま地面に転ぶ。
「いったぁぁい……」
身体中に激痛が走っているが何とか意識は保てている。寝ている体を起こして上半身だけ立たせるが、足が動かない。
(ヤバイ、マガイがくる……!)
このままじゃあ死ぬだけ、手で足を殴ってみるがうんともすんとも言わない。
そんなことをしている中、奥からドスン、ドスンと化物の足音は近づいていた。
私は人生で一番のため息を吐く。
「本当に死んじゃうな〜……」
考えてみれば私の過去はひどい物だった。
幼い頃に両親を亡くしてしまい、ルイスの家に引き取られた。
そこで仲良くなった私達は将来、同じSランクパーティーになって戦うことを約束した。
そして冒険者を夢見る人たちが集まるミラレス学園に私達は入学して、夢の物語が始まるはずだった。
わかっていた。私に才能は無いことを。
幼い頃から天才のルイスに力の差を嫌と言うほど感じ取って、それでも私は諦めないと知識やサポートの方で全力で頑張っていた。
だが学園に入ったルイスは次第に私以外の人と話すようになって、無能と色んな人から馬鹿にされるようになった。
いつからだったろうか、あのルイスが冷たい目線を向けるようになったのは。
(もう嫌だ……私)
ああ、思い出しだけでまた泣いてしまった。
死にたくない。
『君はとっても強い! 才能があるぞ!』
死ぬ前の父親と話した過去を思い出す。
死にたくない。
死にたくない思いが強くなっていく。理由なんてとくにない。本能がそう訴えていて気がついたら叫んでいた。
『いっっっだだだだぁぁぁ……』
聞くだけで気持ち悪くなるような化物の声がすぐそこから聞こえてきた。声の方向を見るとすぐ目の前にバケモノはいた。
気持ち悪い。何でそんなにも私を追いかけてくるのか。もしかして私の事が好きだとか? うんものすごく気持ち悪い。ないだろうけど。
(なんかムカムカしてきた……)
自然と体に力が入る。相変わらず下半身は動いてくれないが、今は目の前のコイツに文句を言いたい気分だった。
遅いながらもこちらへ一歩ずつ近づいてくるマガイ。
(いいわよ、どうせ死ぬんだったらこいつに一矢報いてやる!)
そして手を出したら届くところまでマガイはきた。
自分は緊張して額から冷や汗が出てくる。
(やってやる! やってやるぞ!)
心で怯えながらもマイカは魔力をこねる。
放つのは下級魔法のファイア。この短期間での三回目、つまりは私が出せる最後の魔法だ。
これに全魔力を投入してこのブサイク顔にぶっ放す。
『ぁあぁぁあ、いだっっっあ』
胴体と思われる黒い丸から生えている手をこちらに伸ばしていく。まるで頬を触るという人間らしい行動を予感したマイカは気持ち悪いと思いながらも、左手に持っている杖をマガイに向けた。
「火の玉進め! ファイア!!!」
そして小さい火の玉がマガイに当たって終わり―――
爆炎が起こった。
「え」
驚いたのは詠唱した本人。
小さい火の玉が出るだけだと諦観していたマイカは、目の前で起こった、マガイとその周辺を燃やす炎の光景が信じられなかった。
「あれ……? もしかして私、思った以上に才能ある?」
あまりにも発覚するのが遅すぎる衝撃の事実。
それに気づいたマイカは口を開けてポカンとしていた。
「ああ!! いた!!」
空から声が聞こえて見上げると、高さ100メートルの箒から飛び降りてくる人が見えた。
(ちょっ、それは!?)
いくらなんでも無謀すぎる。魔力で身体強化を行ってもあの高さから飛び降りてしまったら、地面でミンチが出来上がってしまう。
唐突の出来事に目を閉じることすら出来ず、ただ目の前で人が落ちていくのを見て―――
「よっと」
地面に当たる直前、時の流れが遅くなったのかと感じるほどに落下スピードが落ちていき、そぉーと地面に着地した。
「やっぱり外に出て行った子ね。だめでしょ、こんなところに来たら」
その女性は私と同じ魔法使いの服を着ていた。全体が黒で統一されているローブを着て、その服は彼女の足首あたりまで伸びている。
「え、えぇーと……その私を追ってここへ?」
「そうよ。禁忌の森の方に急いで走ってたから追跡しちゃったわ。それはいいんだけど森に入った瞬間あなたをみうし―――――」
『がぁぁぁぉぁぉああああ!!!』
彼女の後ろで化け物が叫ぶ。
(あの化け物ピンピンしてる!)
炎の中から現れたそれは、叫び声だけで周りの炎を吹き飛ばしこちらを睨んできた。目立つ外傷は無い。
そしてそのままこっちに突進してくる!
「なっちゃって、それですごい魔力反応が来たからここに―――――」
「ちょっと!? 後ろからやばいの来てる!?」
だがこんな危機的状況でも彼女は呑気に話し続ける。
頭でもイカれてしまったのだろうか? とにかく後ろから敵が迫ってくると教えるが、彼女は振り向くこともしない。
そのまま、突進してきたマガイが彼女に当たり吹き飛ばそうとして、
「火の玉進め。ファイア」
その直前に彼女がマガイに向けて、一瞬で杖を出した。
マガイの顔と彼女が出した杖の先端の間に小さな火の玉ができて―――――
マガイ含めたそこら一帯を全て炎の海で包み込んだ。
まるで地獄のような光景の中にマガイの死体が転がっていた。
「よぉーし、良く燃えてるねぇ〜」
「ぇ」
さっきからえとしか言ってない気がするが仕方ないだろう。目の前でこんな人離れした芸当を見せつけられたら。
(いや、でも待って?)
確かに人離れしてはいるがミラレス学園には一人こんなことが出来る学生がいると聞いたことがある。
その人は女性で一年生。私と同じ魔法使いで、
「あ」
驚きの続きで顔を意識していなかったが、今ははっきりと彼女の顔を鮮明に思い出せる。
髪は白色で左目の左下には黒子があった。
(間違いない、彼女は学園史上最短でSランクになった人……!!)
曰く、彼女はこの学園の魔法において右に出るものはいないという。
曰く、彼女の治療魔法は切断された腕を元の体に戻せるという。
曰く、あまりの強さに学園の創始者「ミラレス」の生まれ変わりではないかと言われている。
ルイスやキノウチを遥かに超えるまさに伝説そのもの。
頂点のカフィリス。
彼女が目の前にいるのだ。
「それじゃあ一緒に学園へ戻りましょう……って」
振り返ったカフィリスは話すのを止めた。
「うへぇー、最強が目の前にい、いるぅ〜……」
振り返った先に、仰向けになって目をゴロゴロさせているマイカがいたからだ。
既に頭がオーバーヒートを起こしており、こちらが何か言っても独り言を言うだけ。
「どうしましょう、これ」
頂点カフィリスはどう学園に戻ろうかと、苦笑いしながら考えていた。
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