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 朝のホームルームが終わると担任教師がついに切り出した。

「皆知ってると思うけど、今日から転校生の方が来ます」

 クラス中がザワザワとする。担任が「静かに」と一声入れると、一木さんどうぞ、とドアの方に声を掛ける。名前一木っていうのか。

 皆ドアの方へ視線を集中させる。そして入ってきたその転校生の姿に、おそらく殆どの者が息を呑んだ。

 背はすらりと高く、伸びた背筋。けれど顔のラインはシャープで小さく、肌は雪のように白い。

 黒く艶のある髪は背中ぐらいまであるだろう。クセもなく、動くたびサラサラと擬音がつきそうだ。

 何一つ無駄のない体型だが制服のブレザーからでも膨らみが多少とも分かるということは、出るとこは出ていて、締まるところは締まっている。

「一木アザミです。よろしくお願いします」

 凛とした声が教室に響く。声量は然程でもないが、よく通るその声は、耳に心地良い。

 一木の短い挨拶の後に担任が紹介する。

「一木さんはこれまで名古屋に住んでいましたが、ご家族の都合でこちらに引っ越してきたそうです。皆色々教えてあげてね」

「すみません先生、私の席は……」

「一木さんはあそこの、後ろに一席空いているでしょう? そこ座ってね」

「はい」

 上履きのペタペタという音だけが残る。一木が席に座るまでクラスメイトは殆どがその様子を見ていた。数人は一木の動きに合わせて視線を動かすことをしていなかったが。

 この数人というのは、ジョウと小野木も入っている。ジョウはこういう時間は静かなので分かるが、小野木もそのタイプなのは意外だった。

 カバンを机の横に引っ掛けて一木が着席する。座っているときも姿勢がとても美しく、サマになっていた。

 俺は一木の方を見て小声で「俺朽木イヅル、よろしくな」と声を掛けたが、一木は目を合わせただけで特に返事はしてくれなかった。

 ショックではあったが、まあこの見た目タイプのキャラってクール系多いもんな……と勝手に納得した。

 ちなみにその後の授業で分かったが、一木は成績も優秀で、ノートの字もとても綺麗だった。俺はよく授業で寝落ちしかけるのでこんなにきれいに字はかけない。大体ミミズが踊ってるか心電図みたいになるので、コソッと教科書見せるついでにそれを一木に言ったら、

「どうでもいいことは喋らないで。気が散る」

 などと言われた。一木がこういうタイプだって俺がすぐ判断できなかったら俺普通に傷ついてへこんでただろうな、ラノベとアニメに感謝だぜ、などと思った。

 最初の授業が終わり、チャイムが鳴る。先程まで静かだった教室は騒がしくなり、女子軍団が一木の座席までくる。

「ねぇねぇ一木さん! すっごい髪綺麗だね! シャンプー何使ってるの!?」

「肌も超綺麗~! スキンケアも聞きたい!」

「名古屋ってどんなところ!? 何美味しかった!?」

 軍団が一斉に一木に質問する。しかし一木はそれに困ってる様子もなく、使っているシャンプーの名前や日々のスキンケアの話や名古屋のことについて回答していく。

 答えているのはいいが、あまりにも素っ気なく淡々と返すものだから、軍団もペースを乱されている。

 名古屋の台湾ラーメンが美味しかったと本人は言っていたが、とても美味しかったとは思えない顔してたぞ一木……。

 軍団が一度退散した後、ジョウと小野木が後ろを向いて揃ってよろしくと言っていた。

「一木さんのことアザミちゃんって呼んでいい?」

 そう言ったのは小野木だ。小野木腐女子なのに陽キャ感すげぇな……。羨ましい……。

 本人から腐女子と明言されたわけじゃないが、あそこまで話の展開が来出てそうじゃないわけがないと思うので、勝手にそう思うことにした。

 一木はどんな反応をするのだろうとちらりと見やると、少し目を細めて、それから口の端が上がった。

「いいわよ。私は……何と呼べばいい?」

「トウコって呼んで」

「分かった。よろしくね、トウコ」

「うん! お昼も一緒に食べない?」

「いいよ」

 さっきの塩対応が嘘のように、小野木と一木の間にはゆったりと穏やかな空気が流れていた。

 名前呼びの流れにジョウも乗っかり「じゃあ俺はジョウって呼んでくれ!」などと言っている。その声が結構大きく、教室中に響いてしまった。女子も男子も注目している。イケメンのジョウと美人の一木ならそうだろう。初日からジョウを名前呼びなんてしたら、一木は明日から軍団からひっそりライバル認定だろう。ギラギラとした視線が集中する。

 その空気を瞬間的に察知したのか、一木は一呼吸して答えた。

「じゃあジョウくん……と、朽木くんもイヅルくんって呼ぶわね」

 おいおいおいおい!!!!

 こいつ俺のこと巻き込みやがった!セットで呼べばいいわけじゃねぇけど、まぁ俺を一緒に呼ぶということはジョウだけを特別に名前で呼ぶということにはならない。

 名案だとは思うが、別に二人とも名字呼びすりゃあ解決だろうが……。

「……イヅルくん?」

 はぁ、と嘆息したところで一木が俺の顔を覗き込む。表情はさして変わらないように見えるが、眉が若干下がっているので多分心配しているのだろう。

 ……いや、お前のせいだよ!!!!!

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