20
結局、サ○ゼでは一木と小野木がオーダーしたものがくるまで、仲良く間違い探しをしていた。
小野木が言っていた、一木は頭がいいからすぐに解けそうという見立ては本当だった。というか、見分ける力が長けているのか、あの激ムズ間違い探しを秒で解いていた。
間違い探しをしている小野木は、本当にずっと笑顔だったし、一木も楽しそうだった。
……先ほどのアレは一体何だったのか。正直、余計に不気味さを感じてしまう。
俺がスマホをいじる振りをして二人を見ていることにジョウは気付いたのか、軽く俺の腕を小突いた。
「……んだよ」
思わず不機嫌な声をだしてしまった。別に全てがコイツのせいではないのに、どうにも当たりたくなった。
声で俺の虫の居所の悪さに気付いたのか、ジョウは俺の耳元で囁いた。
「さっき何かあったか……?」
これがまたいけなかった。ジョウの声は基本的にボリュームが大きく分かりづらいが、実はかなりいい声をしている。
低いのに地を這うような聞き取りづらさなんてなくて、耳を優しく通り抜ける。
なので、要は囁かれた方はとてもゾワゾワとする。何だったら顔のいい男が至近距離で囁いてくるのだ。ジョウに恋をする女なら卒倒するレベルだ。
俺は男だし幼馴染なのでどうにかなったが、それでも心臓の音がかなりうるさい。
「イヅル?」
「……何でもねえ」
「そういう顔ってか、そういう雰囲気? じゃね?」
「今は気にすんな。後で話す」
そのまま俺もジョウに顔を近づけて囁き返す。正直メチャクチャ緊張したし、若干ジョウも赤くなっていて、珍しいものが見れて嬉しいがいたたまれない。
更に正面に座っている女子二人の目線も痛い。
「あのさあ……」
痛い視線と共に刺すような冷たい声を発したのは、意外にも一木だった。
小野木は何もないかのようにスマホを見ている。
「イヅル君達って距離近すぎない?」
「そ、そうか……?」
「幼馴染で同性って言っても限度があるんじゃないかなと思うし、何ならそれ以上に見えるのだけれど」
一木はまた少し冷めた目で俺とジョウを見つめる。こういう時に、小野木に一切同意を求めないところは、きっと彼女を気遣っているのだろう。
……いや、そんな分析してる場合じゃないけど。
「俺とイヅルは確かにただの幼馴染だ。だけど、親友でもある。だから距離は近くなりがちもしんねえ。もしそれが見ていて気に障る部分があるなら、気を付ける。ごめんな」
……驚いた。
どうしようかと思っていた矢先、ジョウが至極冷静な口調でそう答えた。
ジョウからしたらボウリング場でのやり取りは気付かれていないと思っているから、今ここでは親友と答えたのだろう。
一木は話を聞いていたせいか、納得をしたという様子はなかったが、ジョウの圧倒的なものに折れたのか、「そう……」とだけ言ってドリンクバーを取りに行った。もちろん、小野木も誘って。
小野木は会話に参加こそしていないものの、スマホを触る手は動いていなかったので、きっと全部きちんと聞いている。そのうえで二人は席を立った。
ジョウは小野木を見てどう思うんだろうか。その赤い目には、何が見えているんだ?
「……ジョウ、ありがとな」
「別に礼を言われることしてねえよ」
「俺が言うだろうなってことを、お前が全部言ったから」
「……マジ?」
「マジ」
そう、ジョウは俺が思ったこと―というか、俺が取り繕うとしたらこう言うだろうな、という言葉を一字一句漏らさず言ったのだ。
だからとても驚いた。
考えることに似た点があるのはまだわかる。付き合いだって伊達ではないのだから。
しかしそれにしたって、全く同じになるとは思わなかった。
「何はともあれ、お前と考えが一緒なのは安心だな!」
「安心してどうする……。ていうかお前、小野木のこといいのか?」
ジョウがいつもの笑みを浮かべて安心なんて言ってきたが、俺は即座に切り返した。
するとジョウは少し表情を曇らせた。
「……それだけどさ、俺トウコに何かしたか? 急に距離を置かれた気がしたんだが……」
「何もしてないといえばしてないが……」
この場合のジョウはおそらく物理的に何かしたか心配しているのだろう。
それでいうなら確かに何もしていないが、心理的な部分であれば最悪だろう。
「お前は今のままでいればいいんじゃないか? 小野木のことはまあ、俺から言えることはないし。むしろ気を遣うお前とか何か違うだろ」
俺がそう言うとジョウは目を丸くして、ふは、といつものように笑った。
ちょうどその時、ドリンクバーを取りに行っていた一木と小野木が戻ってきた。
小野木はジョウの表情を見ていたのか、少し足を止めたが、優しい顔をしていた。
……小野木をこういう表情にできるのは、きっとジョウだけなんだろうな、となぜかその時は思った。




