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その後の一木と小野木は本当に何事もなかったかのように、ボウリングを楽しんでいた。それはもちろんジョウもそうだった。。
一方で俺はボウリングは確かに楽しみつつも、何かがのどにつっかえた様な感覚を残したまま行動していた。
ボウリングは昼過ぎごろに終わり、そのまま近くのファミレスで昼食をとることに決まった。
「昼飯どうする?」
「ボウリングでお金使ってるし、できれば安い方がいいかな」
ジョウの問いかけに対し、そう答えたのは小野木だ。
「だよなー! 俺も金欠だし、サ○ゼだろやっぱり!」
「○イゼ……」
「アザミちゃんサイ○行ったことある?」
「一度きりだけかな。ほとんど行ったことない」
「ならなおさらサ○ゼだな! 間違い探しやろうぜ!」
「間違い探し?」
「すごい難しいって有名だよ! 一緒にやろ!」
「うん」
アザミちゃん頭いいからすぐ間違い探しクリアできそう~!と言っている小野木に対し一木はそんなことないよ、と微笑む。
「イヅルもそこでいいよな?」
「おう」
最後に一応俺の同意も得て、ゾロゾロと目的地のサ○ゼまで向かおうとした時だった。ぐいっ、と誰かが俺の服の裾を強めに引っ張った。
何だ誰だ、と振り返るがそこには誰もいない。不審に思い周囲をキョロキョロとしたが、分からなかった。
三人のうちの誰かだと思ったが、前を歩いているし、何なら会話もしている。
わざわざ俺の服を引っ張る必要などないのだ。
「……こわ」
背筋がぞわりとした。そして思わず口からそんな言葉が出たが、俺は気にしないように三人に追いつくよう早足で向かった。
大股で歩けば数十歩だというのに、追いついた時にはとても安堵した。
「みんな何食べる?」
「俺ミックスグリルと大盛ライス!」
「あたしはたらこパスタかな。アザミちゃんは?」
「私はこの……ドリアにしようかしら」
「俺はパエリア」
「イヅルお前サ○ゼのパエリアめちゃくちゃ好きじゃね? 毎回頼んでるよな」
「この値段でムール貝食えるのは嬉しいだろ」
「アザミちゃん、あたしサラダも頼むけど一緒に食べる?小エビのサラダおいしいよ」
「うん、そうする。ありがとう」
「ドリンクバー頼むか?」
「お、そうだな! せっかくだし頼もうぜ!」
俺とジョウ、一木と小野木の二人で四人掛けテーブルに座りメニューを広げる。
あれこれ話をしながらメニューを決める。
そういえば、女子こういうことをするのは初めてな気がする。大体はジョウと二人きりだし、合コンみたいなことをしたことはないからだ。
これはこれで楽しいな、と思いつつ俺は三人にメニューが決まったか問い、注文票を記入して呼び出しボタンを押した。
店員が来てメニュー確認が終わると、通路側手前に座っていた一木とジョウが先にドリンクバーを取りに行き、俺と小野木が残った。
正直言って俺は一方的に気まずくなっていた。小野木はいつもと変わらずにいるが、俺はこういう時にボロをだしそうで迂闊に話しかけられない。
どうするか、と俺が悩んでいると小野木から話しかけてきた。
「ねえイヅル君」
「おう、なんだ」
「もしイヅル君はさ、この世にいないはずの人がいるってなって、しかも成長してて……ってなったらどうする?」
「……は? 言ってる意味が分かんねえんだけど」
「分かんない? 本当に?」
「それはその……。死んだはずの好きな女の子が少し成長して主人公の前に現れたあ○花的な話か?」
「違うけど……。そっか、分かった」
その時の小野木は、無表情だった。何を考えているか分からない。全く考えが読めない感じだ。
そこにも恐怖を少し感じつついると、ちょうど一木とジョウが戻ってきた。
「戻ったぞ~」
「二人も取ってきなよ」
ジョウはメロンソーダ(これはいつもだ)、一木はおそらくアイスティーだろう、茶色の液体がコップに注がれている。
「お~。じゃあ取ってくるか小野木」
「うん」
そう言って席を立ち、ドリンクバーコーナーへ向かう。座席がドリンクバーがある位置とは反対の端へ案内されている為、少し歩く。
俺も小野木も無言だった。何か言うべきか迷ったが、小野木は無言の圧が強く、俺は何も言えない。
その気まずさを残したままドリンクバーのコーナーでそれぞれ飲み物を入れる。ちなみに俺は、オレンジスカッシュと決めている。
小野木はどこか冷めた目つきでアイスコーヒーを淹れていた。その姿は、同じ高校生とは思えない雰囲気を醸し出していた。
何というか、もっと年上だし、こういうファミレスよりス○バの方が通いなれているし、何ならそこで薄型のノートパソコンで作業していても遜色なかった。
大人っぽいのだ。洗練されたものを、どこかに感じて、俺は素直にそれを口に出した。
「小野木ってさぁ」
「うん、なに?」
「無表情でコーヒー淹れてるとこ、すげー大人みたいだな。高校生とは思えねぇ」
しかしそれが何か触れてはいけないものだったようで。
俺がそう伝えると、小野木は今までに見たことのないような目をしていた。琥珀色は、今にも割れそうなほどきつく俺を睨んだ。
それは怒りそのものだった。
アイスコーヒーが入っているコップは今にも割れそうなほど強く掴み、小さな声で何かつぶやいている。
「え、お、小野木……? 何か悪いな……」
何がいけないのか分からなかった俺はただおろおろとするしかなく、しかし一頻り強く俺を睨んだ小野木は、少し歩幅を広げて俺をおいたままドリンクバーを去った。
俺は焦ってテーブルに戻ったが、着席している小野木はいつものようで、俺は今日何度目かの恐怖を感じていたのだった。




