表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/23

17(side:トウコ)

(恋に落ちたあの日から、ずっとずっと、彼だけを想い続けていた。)

(一度たりとも忘れたことなんてなかった。)

(……忘れられるわけもなかったのだ。)

(彼以外は好きになれそうになかったし、実際なれなかったのだから。)

(たとえ彼があたしを見ていなかったとしても。)

(彼が幸せならそれでよかった。)

(彼があたしの隣にいなくても、笑ってくれるならそれがあたしの幸せだった。)

(けれど、彼はいなくなってしまった。)

(もう戻れないはずの場所にいってしまった。)

(……そう思って、あたしはあの日あの時あの場所で、あの選択をしたっていうのに。)

(あの始業式の日、あたしは驚かずにはいられなかった。) 


(もういないはずの彼が、この世に成長して存在してしまっていることに。)


 あたしとアザミちゃんは、二人のやり取りを見てしまった。

 何ならあたしは耳が実はすごく良くて、会話もそれなりに聞こえてしまった。

 アザミちゃんはどこまで聞こえているか分からないけど、きっと表情とかである程度察しはついているのだろう、どうしよう、と言ったような顔であたしの方を見ている。

 気付いてはいたけど、できればもう一度伝えるまでは目撃もしたくなかった。

 もう少し飲み物買うのに時間を掛ければよかったし、もっと言えば二人のどちらかも無理やり連れていけばよかったかな。

 ああ、苦しい。視界もぼやける。

 今日はいつもはダマになっちゃうマスカラもきれいにできて、アイラインも一発ですごくきれいな線が引けたのに。

 しかもまだ午前中で、ランチもしていないのに。

 どうしてこういう日に、見ちゃうんだろう。

 流れてほしくないな、嫌だな。

「……トウコ、メイクポーチ、今日持ってきてるって言ってたよね?」

 アザミちゃんが聞いてくる。あたしは、今日という日に万全を期すため、アザミちゃんには持ち物の話もしていた。

「……うん」

 声がうまく出せない。色々我慢しているせいか、こもった変な声で返事をした。

「じゃあ、私が飲み物おいて、トウコの荷物持ってくるから、少し待ってて。そしたら、トイレでメイク直ししよう?」

 ねっ、とアザミちゃんがあたしに優しく微笑みかける。

 それだけで、心に刺さったとげみたいなものが、ちょっぴり抜けた気がした。

「ありがとね、アザミちゃん」

「気にしないで」

 アザミちゃんはあたしのところを足早に去った。

 きっとすぐ済ませようと思っているのだろう。本当によく気が付いて、優しい子だと思う。

 アザミちゃんだけが戻ったからか、二人はどうした?なんて言ってて、それに対してアザミちゃんはメイクなおすだけ、と伝えてくれているのが聞こえた。

 二人が質問するスキを与えずすぐにアザミちゃんは戻ってきてくれた。

「お待たせ」

「……ほんとありがとう」

「ううん」

 一番近い化粧室へ向かう。個室も化粧直しの所も誰もいなかった。

 それが分かると、自分の中の何かが少しずつ揺れが大きくなるのが分かった。

「……アザミちゃん」

「……トウコ」

「なんで……」

「うん」

「ずっと、ずっとなの」

「うん」

「ずっとずっとずっと、すきだったの」

「うん。知ってるよ」

「……あたしの、なにが、だめ、だったの、かなぁ……?」

「トウコはダメじゃないよ。元気で、明るくて、とっても可愛くて……。私だったら、トウコ選んじゃうな」

「アザミちゃん……」

「個室入って、一回好きなだけ泣こう? 私は絶対、トウコのそばを離れないから」

 お水もちゃんともってるから、とアザミちゃんはあたしにペットボトルを見せる。

 アザミちゃんはとことん優しくて、ついに我慢の限界を迎えたあたしは、ひたすらに泣いた。

 そりゃあもう、こんな泣いたことあったっけ、というくらいに。

 アザミちゃんの腕の中でひとしきり泣いていて気付いた。

 分かっていたのも、きっとつもりだけだったんだ。なんとなくだけど、今回は報われるとどこかで勝手に思っていた。

 そんなわけ、なかったのに。

 全部諦めたわけじゃないけれど、その前にアザミちゃんにはあのことを話してもいいだろうか。

 息を整えて、水を飲んでから口を開いた。

「アザミちゃん、あのね、あたし……」

「うん」

「……で、……なんだ」

「え……?」

「それで……を……したんだけど、ね。だめだった」

 アザミちゃんは目を丸くしている。そりゃあそうだ。

「信じなくていいよ。ただ、知っておいてほしかったんだ」

「びっくりはしたけど、信じないわけじゃないよ」

「本当に……?」

 どんなに優しい子でも、この話を信じられるとは到底思えなかったから、逆に私が驚いている。

「トウコ、それなら逆に質問していい?」

「うん」

「もしそれなら、……はひょっとして……」

「……それは」

「私も気になってたんだ。でもみんな違和感なくそこにいるから、言えなかった」

 そう言ったアザミちゃんの腕は、あたしの頭を撫でていたものの、少し震えていた。

「アザミちゃん、気付けなくてごめんね」

「……ううん。いいの。トウコはもう落ち着いた?」

「うん。だいぶ。本当にありがとう」

「そろそろ出ようか。メイクなおしたいしね」

「そうだね」

 二人で顔を合わせ、笑ってから個室を出た。幸い泣いている間待っている人もいなかったようで、そのまま一度顔を洗い、メイクを直した。

 メイク直しが終わるころには、目撃する前のいつもの顔に戻っていた。

 そしてあたしは、隣にいるアザミちゃんを見て、やるべきことは想いを告げる以外の別のことだ、と決心したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ