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結論から言うと、一木は本当に初心者か疑わしいくらいボウリングが上手だった。
投げるまではそれこそおずおずとしていて、直前に足の甲にボール落とすんじゃないかと思ったが、そんなことはなかった。
ただし、一木の投げる球はメチャクチャ遅かった。とんでもなく遅い。どれくらいかというと、老人の歩くスピードくらいには遅かった。
ピンにぶつかるまで、四人全員同じタイミングでゴクリと唾を飲み込んでいただろう。
そして中央手前のピンにボールが当たった時、十本全てのピンが倒れた。
「ねぇ! 当たった! これストライクよね!!」
一木が興奮して席に戻ってくる。小野木とジョウはポカンとしていた。多分、俺もそうだったと思う。
「……どうしたの?」
しゃべらない俺たちを見て興奮が少し落ち着いたのか一木が聞いてくる。
「……い」
「え?」
「……え」
「え、何? ジョウくんもトウコもどうしたの?」
「すごい!」
「すげえ!」
「え!?」
「すごい! すごいよアザミちゃん! 初球があんなに遅いボールで! ストライクとか!」
「あんなん普通はできねえ! ほんとすげえな!」
「ハイタッチしよ!」
「う、うん!」
「いえーい!」
一木が小野木とジョウ、それぞれとハイタッチすると俺の所にもやってくる。
「イヅルくんも! ハイタッチ!」
「おう! すげえなほんと」
「そうかな? 初めてだからよくわかんないけど……。意外とボールも重くないし、楽しいね!」
とても眩しい、屈託のない笑顔で一木は答えた。
きっと今まではこの笑顔を見た人物もそう多くはなかったのだろう。そう思うと何だか嬉しい。
ジョウたちもそう思っているのか、二人とも一木の笑顔を見てとても嬉しそうにしていた。
この後ジョウ、小野木、俺の順番で投げた。
俺以外の二人は言うまでもなく上手だった。
だが一方で俺はというと、ジョウのあの声が離れなくて、ほとんどガーターだった。
これまで結構ジョウとボウリングをしてきたこともあって、ジョウは俺のあまりのスコアの低さに逆に驚いていたりもした。
「イヅルお前ガーター多すぎじゃねえ? 前より下手になってんじゃねえか」
「うっせ!」
お前のせいだわ! と寸前まで出かかったがやめた。俺はこういう時我慢ができる男なのだ。
ちなみに小野木も中々上手で、一木とハイタッチしているところなんかは最高に目の保養だ。これにはニッコリしてしまう。
片方が恋敵であったとしても、美少女二人ののツーショットというものはいいものだ。
あまりにも絵面が良すぎるせいか周囲の男たちもナンパしてこない。ジョウが同じところにいる、というのもあるが。
当のジョウは逆ナンを何人かにされていたが、それでも連れ二人の可愛さと美しさに負けて引き下がっているのがほとんどだった。
この場合俺は大体無関係だ。べ、別に悔しくねーし……。
そうこうしていると小野木と一木が飲み物を買うと言って席を立った。
またジョウと二人きりになったタイミングで、話しかけてくる。
いつもより、真剣な顔をして。
「なあ、さっきの話だけど」
「ああ? さっきのって……」
さっきの話。あんまり聞きたくないが、多分こいつは小野木なのだろう。
俺はお前以外、見ていないのにな。
「俺はさあ、トウコも一木も、イヅルには選んでほしくねえんだ」
「……は?」
自分でも分かる、俺は今きっととんでもなくアホな顔をしているだろう。
「な、何言ってんだよジョウ、お前こそ……」
お前こそ、の続きが言えない。
「……お前こそ、なんだよ」
「いや、その……」
「言っとくけど、俺が狙ってんのトウコでも一木でもねえぞ」
「え?」
「お前こそ、の続きは多分俺がトウコのこと好きなんじゃねえかってことなんだろうけど、違うからな。別に狙ってる奴いるし」
「……初耳なんだが。誰だよソイツ」
衝撃の事実過ぎるしメチャクチャ嫌だ。なんでずっと相談しなかったんだよ。
「そりゃそうだろ、今ここで初めて言ったんだからな」
「い、いつから、そそそそいつのこと、すき、なんだよ」
「噛みすぎだろお前……。そうだなあ、自覚したのは中学くらいか? それよりも前から一緒にいたし、散々遊んだし家族ぐるみの付き合いだけどな」
「お前俺以外の幼馴染いたの……?」
「は? いるわけねえだろ」
「え、じゃあ、まさか……」
俺がまさか、と言ったタイミングでジョウが俺から顔を逸らした。
今まで起きたことのない現象に、俺はただただ二人の帰りを待つのだった。




