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そして迎えた土曜日。俺は服装に気合を入れるべく、クローゼットから服を取り出す。休日のジョウはシンプルな私服でありながらオシャレだからだ。
それに小野木ももし告白するなら気が抜けた見た目にはしないだろうし、一木は分からないがあそこまでの美人なら何を着ても様になるだろう。
同行するメンバーを考えて服を選ばなくては。一人だけダサくて浮くのは避けたいのだ。
服を何着も引っ張り出して選ぶ様はさながら女子の様だが、俺はこの時間が嫌いではない。
そこから三十分ほど経過しただろうか。ようやく決まった服装は、ネイビーのカラーシャツとブラックのテーパードパンツ、ショルダーバッグと腕時計も黒系のものにした。
天気予報を確認すると気温は高くなるようだったので、長袖のシャツは若干暑いかもしれないが、袖まくりをすればいいだろう。
着るものを先に決めてから、シャワーを浴びて下着姿のまま朝食を摂る。
トーストを食べながらテレビを眺めるが、いまいち頭に入ってこないし、心臓もいつもより速い。
「……何でこんなに緊張してるんだ俺は」
つい、声に出てしまった。いつもならもう少し浮かれ気分の方が高くて、テンションも上がるのに。
いつもと違いジョウと二人きりではないし、何なら小野木とジョウのことがあるからだろうと結論付けたか、それでもピースがしっかりとハマるような感覚にはならなかった。
「まあいいや」
身支度を整え、いつも通り戸締りのチェックをする。駅まではそう遠くないが、いつもより服選びとヘアセットで時間を割いてしまった。
鍵をきちんとかけてから、すぐに家を出た。
駅へ向かう途中、音楽を聴きながらぼんやりとジョウと小野木が付き合ったらどうなるか想像した。
きっと二人とも態度を急変させることはないだろうが、ジョウと二人の時間は確実に減るのだろうし、何ならお互い料理もできるから弁当とか用意してくるようになるんじゃないかと思う。好物入れて弁当箱ごと交換的な。
放課後は手を繋いで帰ったりとか、テスト前に教室で勉強とかでも距離が近くなったりするのだろう。
果ては、どちらかの自宅で……。
「アアーッ!!!!!!!」
道のど真ん中で大声を出してしまった。不幸にも通行人が何人かいて、こちらを見ながらギョッとしている。
そりゃそうだよな。俺も目撃側なら普通に引くわ。
「す、すんません……」
声のトーンを落として謝罪しながら歩く。外にいるときに良くないことを想像してしまった。
……妄想は自宅だけで行おう。
「出だしから最悪だな」
はあ、と溜息をついて若干肩を落としながら歩いていると駅が見えてきた。待ち合わせは改札前だ。
集合時間まであと五分程度はあるが、もう誰かいるだろうか。改札口の方へ向かうと、一木と小野木の二人は来ていた。
二人とも話し込んでいるので周りに気付いていないが、相当注目を集めている。
「あの二人、すごい美人だね」
「モデルかなあ? どっちもスタイル良いよねえ」
俺の近くにいた見知らぬ人がヒソヒソとそんな話をしている。
モデル……。確かにそういわれたらしっくりきそうな二人だった。
一木はその身長を生かした(一木は女子の中では高身長の部類だ)パンツスタイルで、グリーンのカラーパンツとロゴ入りシャツを着ている。いつもは下ろしている黒のロングヘアも、今日は無造作ポニーテールにしているし、派手すぎないネックレスやリングが一木の存在をよりうまく引き立てている。
そして一方の小野木はスカートだ。真っ白なワンピースにベージュのシャツを羽織っている。小野木は大きなヘアチェンジはないものの、ボブヘアをいつもより遊ばせて、耳には大ぶりなイヤリングをつけている。
普段の雰囲気であれば二人の系統は真逆にも思えた。しかし今二人の姿はあまりにも違和感がなく、むしろ魅入ってしまう。
思わず声を掛けずに少し離れたところで眺めてしまったが、小野木がこちらに気付き、大声で俺を呼んだため二人の所に向かった。
「おはよう!」
「おはよう」
「はよ、二人とも」
「なんかメッチャ見てた割には近づかなかったけど何で?」
「あ~、いや……」
二人が画になりすぎてて見惚れてました、とは流石に素直に言えない。こちとら思春期の男なのだ。
俺一人で来たことに違和感を持ったのか、一木が言った。
「ジョウくんも一緒じゃないんだね」
「ああ、休みの日は集合だけ別にしてんだ」
「へぇ……」
何だその含みのあるへぇ……。は! 心臓に悪い!
「あ、ジョウ君きたよ! おはよー!!」
一木の猫みたいな目でじろじろと見られている間にジョウが少し遅れてきた。
「遅れて悪ぃ! はよ!」
「はよ」
「おはよう」
「おはよ! ジョウ君の私服、メッチャ爽やかだね!」
小野木が興奮気味で言う。その気持ち、俺もよく分かるぞ。
今日のジョウはボーダーシャツの上にホワイトのオーバーサイズシャツを羽織り、ジーンズを履いている。ヘアスタイルは若干髪をアップにしている程度だが、それがまた主張が激しすぎず、イイ感じにジョウの顔の良さを引き出している。
大体休日のジョウはこんな感じで、自分の気持ちに自覚してからはむしろ誰かに毎回セットしているのかと聞いたほどに、それはジョウの良さを引き出すスタイリングだったが、本人曰く全て自分でしているということだった。天然でここまで自分の良さ引き出せる奴は、そういないと思う。
「ジョウくんお姉さんとかいるの?」
「何でだ?」
一木も最初のころの俺と同じことを考えていたのか、似たような質問をしている。
「ここまで素材を引き出すのって、第三者が選ばないとできないと思うんだけど……」
「服も俺が好きなブランドだし、髪型も自分でテキトーにやってるぜ? あと俺は一人っ子だ!」
「そんなことあるんだ……」
一木が驚愕している。でもそれ多分お前が驚けることじゃないと思うぞ……。お前もジョウ側だろ……。
「んなこと言ったらここにいる奴らみんなそうじゃね? 一木も小野木もすげぇ似合ってるぜ! もちろんイヅルも!」
「ほんと? ありがとう」
「おう」
「……」
「トウコ?」
「どうしたんだ?」
小野木は似合っているの一言で処理落ちしているのだろう、彼女は顔を真っ赤にしたまま、瞬きも一つせずフリーズしている。
一木が慌てて肩をゆすり小野木にかえってくるよう促している。
「トウコ、トウコ。まだここで……。終わっちゃいけない……」
言い方がラスボスを目の前にしたそれにしか聞こえないが、まああながち間違いではないだろう。
ちなみに固まらせた当の本人はICカードのチャージをしている。ひどく呑気なものだ。
その間に小野木もこちらに戻ってきたのか「ハッ……!」と声を上げて体を大きく揺らした。そのタイミングでジョウもカードのチャージをし終えて小野木に声を掛けていたが、もういつも通りだった。
そこの場面だけでも、俺は正直胸が痛くなったが、二人の邪魔はしないと決めているのだ。
気持ちに気付かないふりをして、話をしながら改札を通った。




