13.5
気が付くと、学校の前にいた。けれど何の違和感も抱かず、校舎へ行ったのは桜舞う四月のこと。
ワクワクなどしない。希望の一ミリも感じない。
また、これを繰り返すのだ。今度は商業高校らしい。前は外国語が堪能な高校だった。その前は、何だったか。もう覚えていない。
何度目かの高校生をしなくてはならない。ずっと同じ高校でやるよりかは幾分かマシだろうか。
それに、今回は違うことが二つある。一つは、校舎の一部分がくっきりとしていて、他はぼやけていること。
そして、もう一つは。
「なんでアイツが……」
あの氷みたいな―もっと言うなら純度の高い氷だろうか。色のないソレはガラスにも見える―。そんな目が、まっすぐこちらを見ている。
ガラスみたいな目のやつは、男の姿をしていた。長く伸びた銀髪を下の方で緩く括り、服装はなぜか着流しだ。
こちらをまるで目だけで殺すように、じっと見つめている。
けれどされるがままの自分ではない。本人に向かって大股かつ、早足で進む。そうすると、向こうはそれを望んでいたかのように、口端を吊り上げる。その笑みは妖しさしかない。
ゾッとした。ぼやけた学校を背景に一人はっきりくっきりとした姿で、奴は妖しく笑う。現実とは思えない絵面とも言える。
大股で向かったおかげで、自分の目の前には奴がいる。今自分がどんな顔をしているかは分からないが、おそらく
いい顔をしていないだろう。
「久しぶりだね」
「……何の用? 今まで下界に降りたことないだろ?」
そういうと奴はまたより一層口端を吊り上げる。目が笑っていないそれは、本当に気持ち悪い。
「最後に会ったのはいつだったかな? ってくらいなのに、覚えていてくれてとても嬉しいよ」
「そんなことを聞きたいんじゃねぇんだわ。要件を言え」
「え~そんなこと言わないでよ。もっと喋ろうよ~」
「誰がお前と喋るか!」
「はぁ、もう冷たいなあ……」
しょうがない人だなあ君は、と奴がため息をつく。
「……ここだよ」
「は?」
「ここが、ぼくらが求めるもののある場所」
「それじゃあ……」
「うん」
「だからお前は降りてきたのか?」
「そうだね。まあ、後は宿主と接触する下準備もあるけど」
「そうか……」
「想定とは違う人物に宿っていたんだ。探すのに時間がかかったよ」
「あっそ。もうその話は良い。それで、今度はどうしろと? 男か? それともまた女か?」
「今回は君の自由でいい。好きなように三年間過ごしてくれよ」
「……どうせ無理だろ」
「いやあ、今回はどうかな? 宿主サマ、どうにも隠し事があるみたいだし、この能力のことは完全に無自覚だから分からないよ」
「そんなことあるのか?」
「確か宿主が十三歳ころだったかな、能力が繋がれたのは。それまでこの地域が崩壊していないってことは、無自覚だよ。大抵の場合は一年もしないうちに壊れるからねえ」
「……そうだな」
沈黙が流れるが、もう特に言うことはなかった。
多岐の人間を通して繋がれていく能力。今度の宿主は、それが自分にあることに気付いていない。そしてそのまま、この春高校生になったそうだ。
あの時から時間の概念がとうに消えている自分にとって、この春なんて、どの春でもないのだが。
「まあ、学校ではよろしく頼むよ。特異点が現れたその時は、ぼくも観察するからさ」
「……お前と仲良くするの嫌なんだが」
「そんなこと言わないでよ!」
もう! と奴は頬を膨らませる。別に可愛くないので、しっしっと手で追いやる。
「はあ、ぼくはみーんなと仲良くなりたいのになあ。ひどいや」
「その気がなけりゃしょうがねえだろ」
「まあ、そうだよね。じゃあね」
「ああ」
最後の挨拶くらいは返してやると、奴は目を丸くしてから喜び、消えた。
それを見届け、校舎を見ながら呟いた。
「これでやっと、終わる……」




