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「はよ」

「はよ!」

「おはよう」

 いつも通り下に降りるとジョウがいた。もちろん今回はその隣に時枝もいる。

 ジョウと時枝がツーショットの構図はイケメン二人ということもあり、朝から無駄に眩しい。しかもシャツのボタンを多めに開けて緩く着崩しをしているジョウに対して、時枝は制服を崩すことなく着ている。あまり関わりの無さそうな二人が楽しそうにしている、という印象を与えるのがまた良い。

 しかし朝からイケメン過剰摂取に胃がもたれそうだ。

 道行く女性たちもどことなく色めきだっている気がする。モテたいわけではないけどなんかムカつく……!!

「クソッイケメン共め……!!」

 思わず俺がそう呻くように言いながら二人を軽く睨むと「何だコイツ?」みたいな反応をされた。

 いたたまれなくなったので少し先を歩いたが、二人とも心配しながら後を追って来てくれた。揃ってイケメンで良い奴なの何なんだ? 前世で恵まれない子供たちの為に学校十個くらい建てたのか?

「そういやさ、時枝なんで朝一緒に行きたいって思ったんだ?」

 俺が変なことを考えているうちに横に来ていたジョウが、その更に横にいる時枝に話しかける。

 確かにそれは気になっていた。方向が同じとかそういう話もしたことはなかったのだ。

「特に深い理由はこれといってないけど。ただ二人ともっと仲良くなりたくて、それで。……ダメ、だったかな?」

 ちょっと泣きそうな顔でそう言う時枝は破壊力抜群で、背景にしゅんとした子犬の画像が出てくるようだった。

 女相手にしたら年上のお姉さんなんか全員一撃じゃないだろうかこれ……。

「そうだったのか! 全然構わねえぞ! なあイヅル!」

 ジョウはいつも通りだった。そりゃそうだよな、そういうやつだもんなお前。

 一方俺は秒で絆されていた。チョロい自覚は正直ある。

「お、おう。よろしくな時枝」

「ありがとう二人とも……!」

 男にしては大きい目をキラキラさせて時枝は喜んでいる。ミステリアスクールとか言われてるけど本当はそうでもないんじゃないだろうか。

 こうして今朝の登校は俺たちの中では平和に過ぎていると思われたが、学校に近づくにつれ、注目されていることに気が付いたのは、俺だけだった。二人はスポーツの話から昔流行した超次元サッカーの話題に移っている。何でだよ。ていうか時枝、お前も好きだったのか……。俺も好きだぞ……。

 そしてそこにおいて俺だけは注目されていないだろう。ジョウと時枝とかいう目の保養みたいな二人が並んで登校していることが問題なのだ。

 ジョウが俺以外の人間と登校するのは初めてなので、そりゃあそうだろう。きっと今日の放課後、漫研あたりで二人を題材にした創作BLが熱くなるんじゃないだろうか。

 そんでもって俺がモブポジションの当て馬になるんだろ……。

 一人でギリギリとしていると時枝がそれに気付いたのか、こちらを見ながら控えめに唇を動かしていたが、何を言っているのかは分からなかった。

 だが表情はいたずらっぽい笑みを浮かべているので、ろくでもないことだろう。

「……なんだよ時枝」

「後で言うよ。ここじゃ多分君も嫌がる」

「そーかよ」

「え、何だ? 急にどうした?」

 ジョウが真ん中であたふたしている。時枝はニコリとして「なんでもないよ」とジョウに伝えた。胡散臭い笑顔だった。

 その笑顔で安心したのか、ジョウはまた「そうか!」といつも通りだ。

 時枝の胡散臭い笑顔にコロッと信じてしまったジョウを見ていたら、胸の奥がチリチリ、モヤモヤとした。

 その後学校に到着し、下駄箱で上靴と履き替えていると後ろから声を掛けられた。

「おはよう。イヅルくん、ジョウくん。と、えっと……」

「おーおはよ一木」

「おはよ!」

「おはよう一木さん。ぼくは時枝。時枝アカツキ」

 後ろから声を掛けてきたのは一木だった。まだ時枝の名前を憶えていなかったらしく少し戸惑っていたが、時枝が自ら名乗ったことで「時枝くんね。うん、覚えた」と小さな声で復唱している。

 イケメン二人と誰もが振り返るような美少女の組み合わせは、周囲を圧倒している。それぞれ普通に履き替えているだけなのだが、どうにも色が違って見える。

 他クラスの連中はそれを見ながらヒソヒソしていた。でも聞こえてくるのは眼福だの朝から幸せだの、そんなのばっかりだったので放っておいた。

 教室に入ってもそれは変わらずで、おはようと言いながら四人で入ってもクラスメイト達は、三人とも顔が良くて最高だの、尊いだのやばいだのと言っている。多分今俺はモブキャラで完全に存在が消えている。

 俺除く三人の話しかクラスメイトがしていなかったからか、途中でジョウが「イヅルもいるんだぞ!」と言ってくれていた。お前、本当良い奴だな……。

 まあまあ、と宥めながら時枝も自席へ行く。そういえば時枝は小野木の右隣、つまりは俺たちの席の近くだった。どうして気付かなかったのか。

「みんなおはよー」

 小野木は既に席に座って神妙な面持ちでスマホを見ていたが、俺たちが来るのが分かると顔を上げて挨拶をしてくれる。

 この時ばかりは、まとめて挨拶をしてくれた小野木に感謝した。本人はそこまで考えちゃいないかっただろうけど。

 カバンを机の脇にかけて席に着く。今日は一限から移動教室でしかも選択授業の会計実務だ。正直今はそんなやる気ないから自習にならねえかなと思う。

 なんなら一日全部自習が良い、などと考えているとチャイムが鳴った。しかししばらくしても担任は来ない。皆先生来ないね、と話をぽつぽつしている。

 すると担任とは違う別の教師―この教師の担当教科は確か倫理―が来て、なんでも先生はケガをしてこられないそうだ。

 大丈夫かなあという心配の声をよそにその教師は続ける。

「で、なぜか他の先生もみんなケガや病欠で……。運動部の大会付き添いもいるが。このクラスの今日の授業は?」

 その問いに対しクラス委員長が回答する。教科と選択授業の話をすると、「おお、その先生たち、今日は全員休みだ」などと冷静に言っている。

 全員休み、ということは。

「悪いけどこのクラス、今日は一日自習な」

 しばしの沈黙が教室に流れた。

「ヤッター!」

 教室に響き渡る歓声。一日自習などということがあるのかと驚愕する。

「じゃあ後はちゃんとやるんだぞ~。帰りのホームルームはないから六限終わったら掃除当番はちゃんと掃除して帰れよ」

 それだけ言うと教師は教室を出て行った。最後の言葉をクラスメイトはちゃんと聞いていたとは到底思えないが、まあ別に自分が掃除当番じゃないからいいだろう。

 チャイムが鳴ると少しざわつき始める。ジョウも椅子ごと俺の方へ向きを変えているのでおそらくやる気は微塵もないのだろう。一木は本当に自習するつもりなのかノートを広げようとしているが、小野木にスマホの画面を見せられながら何か話をされているので多分できないだろう。時枝はこちらを一瞥することもなく本を読んでいる。

「ずっと自習なんて初めてだよなー! やったな!」

 ソシャゲの周回できるな!と可愛くないことを言ってはいるが、その笑顔は、とても。

 太陽の様なソレを見て、先ほどの何もしたくないという気持ちは、少しずつ溶けていくのだった。

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