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授業が終わりチャイムが鳴り響く。あとはホームルームをやったら終わりだ。
いつもなら俺とジョウはまっすぐ帰る。しかし今日からは、一木がいる。
ということは、もしかしてもしかすると、隣のよしみということで、俺が一木の学校案内をしたりするかもしれないッ……!
黒髪ロング美少女と放課後の学校案内なんて楽しさしかない。今時ゲームでもそんなイベントないのでは? などと思ってしまう。
担任は特に案内について学級委員にいうこともなく、いつものように連絡だけしてホームルームが終わった。そうだ、それでいい。それでいいんだ。
「それでは今日はここまでです」
担任がそれだけ言って教室を去った。教室がざわつき始め、各々が帰り支度をしている。俺はとっくに帰れる準備は出来ていたが、隣の一木はまだの様だ。
「なぁ一木、この後時間あるか?」
「あるけど……」
それが何か、と言わんばかりに一木は顔を顰める。小野木とかジョウに対しては普通に物腰柔らかい感じなのに、なんで俺にだけそんな冷たいんだよ……。
「いやさ、今日来たばっかだし学校の案内してやろうかなって」
「ああ、そうなの。それならお願いするわ」
「それならってどういう意味だよ……」
「この後時間あるか、って男子に聞かれるときは十中八九告白だったから。つい身構えちゃって」
「俺たちは今日知り合ったばっかりだろうが」
「そうだけど、私結構一目惚れされるし……。告白されると何かと面倒だから」
普段の俺であればこの言葉は嫌味しか聞こえなかっただろう。でも今回ばかりはそうは聞こえなかった。それにそう話す一木の横顔は本当に嫌なことがあったというのを物語っていた。爽やかな新緑の様な目が揺れている。
「まぁ、何があったかは聞かねぇよ。それに安心しろ、この学校は幸いにも男子が少ない。そういうイベントも減るぜ」
一木が女子にもモテる分類ならこれは何のフォローにもならないのは分かっているが、せめてもの、という意味を込めてそういった。
すると一木は少し目を丸くして、それからふふっと、とても柔らかく笑った。
「そうだね。……うん、ありがと。イヅルくん」
「お、おう……」
全てのやり取りを見ていたのか、絶妙なタイミングでジョウと小野木がニヤニヤしながら乱入してきた。
一木はそれを気にしていないのか、いつもの表情に戻ってスマホをいじり始めた。
「イヅル~、お前にしちゃ随分やるじゃねぇか!」
ジョウが勢いよく俺の肩を抱く。痛い、とても痛い。背も高ければ力も強いジョウは、こういう時に同性相手には加減を失う。
「イヅル君やるねぇ~」
それに続いて小野木も肘でつついてくる。
距離が近い。お前ら、ホント近いっ……!!
「何なんだお前ら!!」
「え~だって、ねぇ」
「なぁ?」
ジョウと小野木が顔を見合わせながらニヤニヤしている。クソっ、小野木はともかくジョウまでそれにノッてくるとは……!
「俺はこれから一木を案内すんだよ!」
「へぇ~そうなんだぁ~」
「それ案内だけか~?」
「当たり前だろ! 今日のお前らなんかおかしいぞ!?」
「おかしくない、おかしくないよイヅル君」
「そうだぞイヅル、俺はお前が珍しい表情してるの見てテンション上がってたりしないぞ?」
「全部言ってんじゃねぇか……」
自分がどんな顔をしているかなど分かりはしないが、幼馴染が言うのであれば多分先程のやりとりでの顔は相当レアだったのだろう。確かに俺自身、いつもは感じないむず痒さみたいなものはあったと思える。
「まぁ、とりあえず案内行ってきなよ。アザミちゃん待ってるよ」
小野木が俺の背中を押して一木の方へ押す。
「俺はトウコと帰るから」
「おう……。って、は?」
「どうした?」
「あ、いや。なんでもねぇ。じゃあな」
「おう! じゃあな、また明日! 一木もまた明日!」
「アザミちゃん、イヅル君また明日~!」
ジョウと小野木の掛け声に気付いた一木が顔を上げて「また明日」と言いながら小さく手を振る。
「……待たせたな」
「うん、待った」
「悪いな」
「冗談だよ。……一日見てて思ったけど、二人とイヅルくんとっても仲良しだね」
「だろ? 行こうぜ」
「うん」
お互いカバンを持って教室を出る。
いつの間にか教室は俺たち以外誰もいなくなっていた。




