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暇がない

 


 ……追いかけたい。


 おそらく相手は智徳法師。

 2人の戦いを見たい。


 周りを見渡せば、暗闇をうっすらと赤く染める光が見える。

 その場所で、戦いの火蓋が切られているのだろう。



『なぁ、ソラ――』


『あちきの魔塵粒子は空っぽにゃ』



 くっ。

 私がここを離れれば青山陽子の警護は誰もいませんよ、と暗に言われてしまった。


 ソラだけを置いて、更なる襲撃があればアウト。

 だが見たい。


 私の脳内で青山陽子と陰陽術が天秤にかけられ揺れている。


 そして閃いた。



『ソラ、青山陽子を呼んできてくれ』


『どうする気にゃ?』


『ようは()()()()問題ないわけだ』


『……そこまでするかにゃ』



 呆れたようにブロック塀、屋根へとジャンプした黒猫は、窓ガラスを前足で叩く。

 窓が開けられ、中に入るソラ。


 1秒が1分にも感じる。

 早く出てきてくれと念を送り続けていると、玄関に灯りが灯り、中からパジャマ姿の青山陽子が顔を出した。



「教祖さん、どうしたんですか?」



 サンダルを履き外に出てきた青山陽子の額に、トンと左手を当てる。


 睡眠魔道だ。


 スッと瞼が落ち、倒れようとする青山陽子を支え背中におぶる。



「すまない、説明している暇が無い」


『暇が無いのはリクの欲望にゃ』



 私の呟きにフーッと、ため息を吐きつつも私の肩に乗っかるソラ。私の行動に不満があるようだ。


 依頼者の身を守りつつ、陰陽師の戦いをみることが出来る最適解だと思うのだが。








 辿り着いたのは、砂利が敷かれた広い更地のような場所だった。

 一見何もない場所のようだが、私の目は隔絶するように舞い上がる赤い光を捉えている。


 私がさっき閉じ込められた結界の何倍もある大きさだ。


 手を伸ばして触れようとすると、やはり見えない壁が侵入を防いでくる。



『どうするにゃ? ぶち壊すのかにゃ?』


『壊せないことはないが、作った人に失礼だろ? ちょっと穴を開けて入らせてもらう』



 もう要領は得ている。

 両手を合わせ魔塵粒子を集めると、そのまま貫手で結界に突き刺す。


 砂に手を突っ込んだような感触。

 掌まで入ると手首を返し、魔塵粒子を放出しながら開くように結界を掻き分けると、激しくぶつかるような音が聞こえてきた。


 中に入り穴が塞がるのを確認し、青山陽子を地面に横たわらせる。

 魔塵粒子の壁を作り、私もそのまま腰を下ろして座り込む。


 月保はあの白い虎を。

 筋骨隆々の大男は空飛ぶ蛇を式神として使っている。



『分が悪いな』


『虎より蛇の方が強いにょかにゃ?』


『まぁ、相性の問題だ』



 月保の式神はおそらく白虎(びゃっこ)。五行でいうところの金だ。

 智徳法師だと思われる大男は火の騰蛇(とうしゃ)


 火剋金(かこくきん)の関係。つまり火は金を溶かすという意味だ。五行思想でいう相剋(そうこく)で不利なのだ。

 2人が十二天将を使うのであれば、月保は騰蛇に有利な玄武を呼び出すべきなのだが、余裕がないのか白虎しか使役出来ないのか。



 騰蛇の尻尾が白虎を捉え、大きく後ろに弾かれる。

 大男は不敵な笑みを浮かべると、こちらを一瞥した。



「ほう。お目当てのものが向こうから差し出されに来おったわい。手間が省けて何よりじゃ」



 月保も私と青山陽子に気づくと、視線は大男に向けたまま大声で叫んだ。



「なぜ連れて来た! 俺が時間を稼ぐうちに逃げろ!」



 なぜって、連れてこないと見れないからじゃないか。


 腰を上げない私に苛立ちつつも、月保は人差し指と中指を立てた刀を()した印……刀印(とういん)を作ると、目の前の空間を縦四本、横五本に切り払う。


 格子のような白い斬撃が智徳法師を襲うのだが、騰蛇の尻尾によって弾かれてしまう。



「賀茂の小僧。ワシとの力の差に気づかぬわけではあるまいて。今なら軍門に降ると誓うならば、命までは取りゃせんぞ」


戯言(ざれごと)を言うな! 一族の悲願、俺の命に換えてでも果たしてみせる!」



 月保はポケットから取り出した呪符の束を頭上に放り投げると、腰から短刀を取り出した。



「ほう、賀茂の霊刀理切丸(りせつまる)か。これはよいコレクションが増えそうじゃな」



「――朱雀・玄武・白虎・勾陣・帝久・文王・三台・玉女・青龍」



 半身で短刀を下段に構える月保に騰蛇が襲いかかるが、白虎が身を(てい)して行く手を阻む。



「九天、邪気を攘斥(じょうせき)し、宮比羅(くびら)の力を御刀(みはかし)に宿し、魔を祓う」



 周りに漂う呪符が1枚、また1枚と煙に消えるたびに短刀が紫光(しこう)を帯び、その輝きが増していく。



(りん)――(びょう)――(とう)――(しゃ)ーー(かい)――(じん)――(れつ)――(ざい)――(ぜん)



 先程と同じ九字。


 だが何倍にも膨れ上がった斬撃は、騰蛇の体にめり込み、切り刻んでいく。

 大きく(いなな)くと騰蛇は倒れ、破れた形代へと姿を変えていった。


 騰蛇を倒したものの、片膝をつき地面に短刀を突き刺したまま肩で呼吸をする月保。



「ほう。騰蛇を破るか。くっくっくっ、大したモノじゃ。そうじゃの、頑張ったお主に褒美をやらぬとなぁ。絶望という褒美をなぁ!」



 智徳法師は小刀のようなもので自身の両掌をかき切り血を撒き散らす。

 そのまま両手を地面につくと、何やら呪文を唱え始めた。


 地の底から這い出るような黒いモヤが智徳法師の両手を中心に広がる。

 モヤから現れたのは、4メートルはありそうな巨大な鬼だった。


 悠然と額からそびえ立つ一本角。

 碧色の体に白く長い髪。

 今までに見た鬼と醸し出す雰囲気が違う。



「ま、まさか! 禁呪か!?」


「くっくっくっ。どうじゃ? 茨城童子(いばらぎどうじ)を拝めるとは幸せ者じゃなぁ」



 茨木童子……羅生門の鬼と混同されがちだが、伝説の鬼、酒呑童子が最も信頼した家来だったとか。

 この国の伝承でいう伝説の鬼だ。


 月保は膝に手を置き立ち上がるが呼吸は荒く、今にも倒れそうな状態だ。



『もしかして助けないつもりかにゃ?』



 ソラにしては珍しく厳しい口調だ。


 分かっている。

 このままだと月保は殺される。

 更に奥の手があるとか、急に青山陽子が目覚めて月保がパワーアップするなんて都合のいい展開は漫画の中での話だ。


 横槍を入れるのはまずいなどと、言ってる状況ではないだろう。



 私は右の掌を上に向け、意識を集中させる。


 せめて幾分かダメージを与えて月保が有利になればと思い、さりげなく茨木童子に微小爆発魔道を放ったのだが……。


 轟音と爆風を伴って、茨木童子は爆散した。


 ……またか。


 やはり魔道の真髄は奥深く、修練が必要だと感じてしまう。





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[一言] 無双ガッカリ……新しい!!wwww
[良い点] おお、陰陽師バトルだ! いいっすねえ。九字を切るとかたまらんすよね。 浪漫ですねえ。 そしてそれをハッパ一発で文字通りに吹っ飛ばすリクやん。(笑)
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