怪しさ満点
「それでは説明します。実は俺の作ったウェブサイトに依頼がきました」
うぇぶさいと?
あぁ、そういえば海斗が教団を周知させる為に作ったとか言って、見せてくれた気がする。
この世界では情報伝達が恐ろしく発展しており、パソコンやらスマホなるもので簡単に発信出来るのだとか。
私のいた世界にも遠距離の人間と話をする技術はあったが、使えるものが少ない希少魔道だった。
こちらでは話すどころか映像を送ることさえ、誰でも簡単に出来ると聞いて驚いたものだ。
「で、こちらがそのサイトです」
海斗がクルリとこちらに向けた四角いL型の物体、パソコンのディスプレイには
【あなたのお悩み陸道教が解決します!】
と、可愛らしい文字が大きく映し出されていた。
『なぁ、リクやん』
『アカさん、分かってる』
なんと言えばいいのだろうか。
私が書物で得た知識とかけ離れた教団像である。
むしろこれは……。
『怪しさ満点にゃ』
復活したソラが私の心を読むように言い切った。
さすがに疑問を投げかけようとしたが、海斗の言葉は続く。
「これを見て下さい」
カチカチと音がすると画面が切り替わる。
私と共にソラとアカさんが身を乗り出す。
〜〜〜〜
はじめまして。私は府立栗見ヶ丘高等学校に通う青山 陽子と言います。
とても困っていることがあるんですが・・・でも、誰にも相談出来なくて。
私見ちゃったんです。
――鬼を!
5日前の夜でした。マラソン大会に備えてジョギングをしていた時です。
奇妙な声が空き地から聞こえました。不思議に思い、足を止めてのぞいてみると、草むらの中で男と見たこともない生き物が話をしていたんです。
毛むくじゃらの大きな体に、額から飛び出ているツノ。牙の生えた大きな口。
それは鬼でした!
私はすぐに逃げ出しました。
そう、これは見間違いだと何度も自分に言い聞かせて。
一晩がたち、あれは夢だったと思っていたのですが・・・・。
朝になり学校に向かうと、突然声を掛けられました。
隣のクラスの賀茂君です。
その時、私は夜の記憶を思い出しました。
鬼と話をしていた男は賀茂君だと気づいたのです。
私はとっさに逃げました。
その日の夕方から私を狙う鬼が間違いなくいるんです。
電柱のかげから、こちらを見てるんです。
親にも、友達にも、学校の先生にも、警察にも相談なんて出来ません。
ここだけが頼りなんです。
助けて下さい。お願いします!
〜〜〜〜
『この子は漫画の読み過ぎとちゃうか?』
『超リクやんとか言ってるやつには言われたくにゃいと思うにゃ』
『リクやんは実演しとったやろ? なぁ、リクやん』
確かに現実味のなさそうな話だが、そもそもそれを言い出せば私にアカさん、ソラも現実味のない存在だ。
私のいた世界など地球人にとっては空想甚だしいだろうし。
チラリと海斗を見れば目を輝かせている。
私の存在を知ってるだけに信じているのだろう。
まぁ、それはいい。
問題は……。
「海斗……それって教祖の仕事なのか?」
「えっ!?」
大きく目を見開く海斗。
私の問いに驚きを隠せていない。
「だ、だってめちゃくちゃリクさん向けの仕事じゃないですか! 鬼ですよ、鬼! 教祖とは世を忍ぶ仮の姿。その正体は悪を滅する超能力者。カッコいいじゃないですか!」
いや、ある意味現時点で世を忍ぶ仮の姿なのだが、色々間違っているだろう。
親分さんに教団作りの根本から見直してもらうよう、進言する必要があるかもしれない。
『それは……ちょっとカッコええな』
何!?
アカさんが海斗派に移ったようだ。
もちろん私も鬼がいるのなら見てみたいとは思う。だが、そんないるか分からない事に時間を費やすより、海斗の魔道化計画の方が……。
『せっかく海斗がとってきた仕事にゃ。何にもしないのはまずいにゃ。あちきは留守番してるから頑張ってくるにゃ』
ソラまで造反してくる。
いや、私が出かける事で修行から逃れるつもりなのだろう。
「リクさん……ダメですか?」
「ふぅ。分かった。出来るだけの事はしよう」
海斗は笑顔をみせ両手を突き上げ喜んでいる。
魔道化計画の世話にもなっているし仕方ない。
海斗はすぐさまパソコンのボタンを巧みに叩き出す。
確か瞬時に手紙のやり取りが出来る機能も備えているといっていたな。
「あっ、返事きましたよ! すぐにでも会って話がしたいらしいです。えーっと道連公園に2時間後に待ち合わせです」
「その場所は近いのか?」
「結構近くですね。同じ西京府ですよ」
近場なのか。
偶然にしては出来過ぎだな。
「じゃあ、早速青山さんに会いに行きましょう。道連公園なら車で30分もあれば着きますよ!」
嬉しそうに立ち上がる海斗に反応したのはアカさんだった。
『車!? あかん。ワイはパスや。どんだけおもろそうなことでも、もう2度と車には乗らへんと心に決めたんや』
『ならリク1人で行って来るにゃ』
しかし私はソラの首根っこを掴み上げる。
『なに言ってるんだ、ソラも一緒に行くぞ。車酔いしないだろ?』
『あ、あちきはいいにゃ。ほ、ほらリクも1人の方が気が楽にゃ』
必死に足をバタつかせるソラ。
もし鬼がいるのなら……ふふっ、鬼対猫の戦いも面白いはず。
こうして私とソラ、海斗は車に乗り込み、いるかも分からない鬼退治へと向かうことになったのであった。