プロローグ
んっ? なんや自分、どこから入ってきたんや?
ここか? ほやな、意識の狭間とでも言うとこか。
あぁ、ワイ?
ワイはここで世界を見とんねん。
それを記録するのがワイの使命やからな。
なんや興味ありそうやな?
自分もちょっと見てみるか?
なに? 可愛い女の子の入浴が見たい?
あかん、あかん。そんな性欲を満たすようなもん覗いたっておもろない。
しゃあない、ワイのとっておきのオススメを見したろ。
あそこに髪が黒ーてボサボサで、顎髭のある男がおるやろ?
あれな、ワイの親友のリクやんや。
本名はリクアスラ=バッジアン。
ここだけの話やけど、リクやんは今見とる世界の人間とちゃうねん。
異世界から来た男やねん。
人間には珍しく、ワイとコンタクトが取れる男でな、めっちゃおもろい奴やねん。
あぁ、リクやんの横に黒猫がおるやろ?
ソラはんいうんやけど、ソラはんも黒猫の姿やけど中身は他の世界の住人や。
なに?
ワイの話じゃ突拍子が無さすぎて分からんやって?
ほんなら、『なぜ異世界から地球にやってきたら教祖になるんだ?』っちゅう記録がそこにあるやろ?
それ見たら、ワイの言ってることが分かるんちゃうかな。
リクやんが今置かれてる状況もちゃんと記録されとる。
えっ、見るには長い言うんか?
仕方あらへんな、ワイが分かりやすく記録をかいつまんで引っ張り出したるわ。
リクやんはな、魔道の求道者や。
あー、自分には魔法って言うた方が分かりやすいかもしれんな。
空想かと思うかもしれへんけど、知らへんだけで魔法が使える世界もあるんや。
リクやんはその世界では問題児やった。
もともとの才能に努力家や。どえらい魔法を編み出しては実験しとった。
地球でいうところの環境破壊やな。
あんまりにも地形を変えるもんで、リクやんのところにはプラカード持った人がようあつまっとったわ。
まぁ、似たようなんでミズはんって魔女もおったけど、それはそのうち話したるわ。
んでな、あまりの苦情にリクやんは、瞬間移動の実験に切り替えたわけや。
もう分かるやろ?
リクやんは地球に瞬間移動したわけや。
そこでソラはんと会って、言葉も分からず彷徨ってた時に助けたのが、とあるヤクザや。
あー、名前は海斗や。海やんや。
助けた海やんに連れられて親分さんの世話になることになったんや。
そこでワイがリクやんとソラはんに日本語と文化を教えたんや。
まぁ、その過程でワイも猫の体に入ることになったんやけどな。
あん? ほんなら、自分の目の前におるワイは誰かって?
あのな。ワイは精霊や。どこにでも存在するし、どこにも存在しない存在や。
まぁ、ええ。話進めるで。
親分さんの世話になっとるうちにオレっ子の風吹はんと出会ったり、リクやんが風邪で倒れたりしたんや。
あんなに弱ったリクやん見るのは初めてでおもろかったわ。
んでな、リクやんが瞬間移動した時に、代わりに誰かが地球からリクやんの世界に飛ばされたんや。なんの偶然か風吹はんの婚約者の大地ってやつや。
まぁ、今はどうしようもないんやが。大地を保護したのがさっき話に出たミズはんでな、多分大丈夫やろう。
偶然にしては出来過ぎやって。
ほやな、誰かの意思が介入しとるかもしれんな。
あー、ワイやない。
きっともっと上の存在ちゃうかな。
んでな、それからリクやんは親分さんのお願いで地球人を魔道で治したりしたった。
それに目をつけた親分さんがリクやんに教祖になってくれと頼んだわけや。
何? 話が突飛すぎて分からんやと?
やから『なぜ異世界から地球にやってきたら教祖になるんだ?』の記録を見ろて言うたやろ?
ワイもかいつまんで話すのはこれが限界や。
ほやな、自分今時間あるんやったら、一緒にリクやんを見いへんか?
リクやんは持って生まれた運命か、おもろい連中を引きつける才能があるんや。
絶対おもろいで!
そか、一緒に見るか。
ほんなら、いい情報を教えたろ。
ワイは記録を司る精霊や。
その記録からある程度の未来を予測することも可能や。
ここだけの話やで。
じつはワイ、リクやんに嘘ついとる。
この世界の記録も分かっとるし、この猫の体から出ることも出来る。
あらゆる世界のことも手に取るように簡単に分かる。
でもな、ワイは世界に関わったらあかん存在や。
中立っちゅうと変やけど、世界が変わるような行動を起こしたらあかんのや。
未来に起こりそうなことを喋ったらアウトや。
いわゆる歴史を変えてもうたら消える存在や。
じつはな、信じる信じへんは勝手やけど、この地球って星はな、5年後に消滅するねん。
理由はさすがにまだ教えられへん。
でもきっかけは2年後に起こる、くらいは言うても大丈夫やろ。
でな、ワイはリクやんをここに連れて来た。
ワイに出来るギリギリの範囲やな。
もちろんそれでこの星の運命が変わるかは分からへん。
リクやんの行動は色んな運命を巻き込みすぎて、ワイでも読めへんからな。
あえて未来予測もしとらん。
おもろそうやろ?
予測にない未来を記録する。これはワイの存在をかけた楽しみや。
つまりこれから先のことは記録やなくて、進行形の物語や。
きっとドキドキワクワクするで。
ここは特等席や、ゆっくり見てってや。