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小さな手

作者: トレセン

子供の頃の記憶がほとんどない。生きているのか死んでいるのか分からない学生時代。何の目標も生きがいもない社会人時代。ただ、死ぬことが怖くて、それから逃れるために生きていた。生きるためにではなく、死なないために。そんな人生を一遍させる出会い。彼女と出会い、色んな楽しみを教えてもらった。喜びも悲しみも。出会わなければ多分、同じ毎日の繰り返しで死んでいくのだろうと思った。それが悪いとは思わないが、寂しいと思った。出会ったことで、色んなところへ出かけ、いろんな体験をした。運命だと思った。にこいちだと思った。時間が経つと彼女は変わった。嫌いになったのではない。ただ、にこいちではいけない、一人前に成長しなければと。私と居ると甘えてしまって、ぬるま湯の心地よさに溺れて、ずっと一人前にはなれないのだと。最初は反対した。別れるなんて考えられなかった。でも時間が経つと彼女の言い分も理解できた。そして別れが訪れた。誰がこのときを予想できたろうか。これも運命なのだろうか。時間が経つと悲しみが膨れていった。そして記憶の無かった頃に戻ったような、日々の生活が記憶に残らないというか、なにをもって生きているのか。自問自答しては眠り、その記憶を消して日々をすごす。そのうち大病を患い、日に日に弱っていく。死ぬことは怖くなくなっていた。年のせいかそれが成長の証か分からないが。ただ思うのである。もともと体格のよいほうではなかった自分は、その手も小さく、そしてそれは今も小さい。こんな小さな手で何をつかもうとしていたのだろうか。本当に小さなこの手で一体何を。彼女の手を一旦はつかみながら、自分の意思で離して、いまさらもう一度彼女の手をつかみたいなんて。でもそれが答えだなと思った。自分の手を組んでみる。彼女のぬくもりを感じようと試みる。あったかいその手はここには無いけど、感じることはできた。少し涙が出て、そして笑顔になって、幸せとはこういうことだなと思った。そして静かに目を閉じた。

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