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最終話:君に幸あれ♪

前回の続きです。

 

 我が家ではお節は毎年手作り。そいじゃあ、レッツクッキング。

 高い棚にしまってある重箱をルシフェルに取ってもらい、ついでに軽く洗ってもらう。


「すごい箱だ。真子、これ、弁当箱ではないよな?」

「こんなにいっぱい食べきれないでしょ」

「えっ、余裕なんだが!?」


 なんて会話をしつつ、諸々の材料を用意。魚、海老、黒豆、かまぼこ、伊達巻エトセトラ。もう買ってあるのです。

 さあ醤油醤油……と探していたら。


《ピンポーン♪》


 またお客さん?! 忙しいのに……。


「ルシフェル、出てくれる?」

「ああ」


 と玄関に向かったルシフェルだったが、


「うわぁ?!」


 ドアを開けるなり声をあげた。どうした?!


「な、何をしてる黎香!」

「にゃはー♪ 秘密兵器登場っ!」


 来たのはどうやら黎香のようです。


「お邪魔します真子ちーん」

「お邪魔します、真子さん」


 とアシュタロスさんも。あたしがリビングを振り返ると、


「な、何やってんの黎香……」


 ルシフェルの悲鳴の理由を理解。早速こたつに入った爆弾娘は、手に……“カニ”を持っていた。素手かよ。


「何って、鍋パーティーやるんでしょー? 材料持ってきてやったんだぜー!」

「は? 鍋パーティー?」

「うゆ? ルーたんから聞いてないの?」


 無言で堕天使様の方を見ると、彼はツー……と視線を逸らし。


「……すまん、言うの忘れてた」


 うおーいッ!! お節とか作ってる場合じゃなかったよ!


「いいよ真子ちん、黎香様は適当に遊んでるから。ゆっくり仕事してくれたまえっ」


 あんたが言うな。いや、でもこっちにも準備ってものが……


「あの、真子さん?」


 アシュタロスさんが静かに挙手。ニコニコと微笑みながら首を傾げる。


「そろそろ他の方もいらっしゃるかもしれませんよ」

「他?」

「はい。ウァラクやベルゼブブ様も呼んでおきました♪」


 ダメ押しに黎香も挙手。


「あとあとっ、そうたんと圭君も呼んであるよ!」


 い、家の広さを考えろー!


《ピンポーン♪》

「お邪魔しまーす」


 あ、うわ、もう来ちゃった! どうしよー!



***



 結局、宣言通りに全員集合。黎香、アシュタロスさん、奏太、池田君、ベルゼブブさん、ウァラク君。あたしとルシフェルも入れたら全部で八人。狭い!


 三時くらいには全員いたのだが、みんなにはリビングでテレビでも見ててもらって、あたしとルシフェルはとにかくお節料理を完成させた。その後も持ってきてもらった食材の下ごしらえをして、鍋の用意。もちろん出汁とかはあたしがとったけどね。


 そんなこんなで、ちょっと早いけど夕方には鍋パーティー開始♪


「熱いから気をつけてねー」

「おー! 旨そうだぜ」

「カニだって! 豪華ね」

「すげー!」


 全員で『いただきます』。こたつにのせた鍋をみんなでつつく。楽しいねっ。


「シメはうどんだよ真子ちん!」

「はいはい」


 こんな賑やかな食事は夏のバーベキュー以来か。

 カニの取り合いがあったり、池田君とベルゼブブさんの“上司と部下の縮図”を見たり、色々あったけどさすがは全員食いしん坊、すぐに鍋は空っぽになった。よく入るね……。


「ところで、」


 口を開いたのは、アシュタロスさんの膝の上に座ったウァラク君。


「今日は人間の皆さんにとって節目の日だと聞きました。明日からは気分一新だとか……。皆さんは何か目標ってありますか?」


 真っ先に手を挙げたのは黎香だった。


「世界征服!!」


 まだ諦めてなかった!


「じゃオレと一緒だな。オレぁそろそろ本気で魔王目指すぜ」


 とベルゼブブさんものっかる。


「ぬぅ、ライバルか!」

「みてェだな。ギャハハ!」


 現魔王様は苦笑していたが。二人なら実現しかねないよね。


「アシュタロス様は?」

「僕ですか? そうですねえ……僕はもう、誰にも負けない強い力が欲しいですね。精神的にも」


 微笑みながらそう言った堕天使さんは、既に最強だと思う。あたしの中のアシュタロスさん最強説は有力なのだ。


「ウァラクはどうなんです?」

「え、えーっと……」


 ウァラク君は一生懸命考えて、


「もっとたくさん、皆さんの力になれるようにお仕事頑張りたいです!」


 と、はにかんだ。可愛いなー少年。


「ウァラクは今でも頑張っていると思うぞ」

「あ、ありがとうございますルシフェル様!」


 ルシフェルは静かに笑った。ウァラク君は照れを隠すように、今度は男子二人へ。


「俺は空手で世界一になりてぇなー。ほら、外国でも武道は人気だったりするだろ。海外に道場開けたらカッコいいじゃん」


 意外にグローバルな夢を持つ池田君。


「とりあえずはインターハイ出場! 最後の試合まで部活頑張るわ!」


 奏太はバスケにかけると宣言。二人共、きっと叶うよ!


「真子ちゃんは?」


 あたし? あたしは、そうだなー……


「今みたいな毎日が続いてくれたら幸せだな」


 と言うと、


「真子ちんつまんねー!」

「老成してんなァ進藤」

「大人びてますね……」


 何やら総ツッコミ。う、うっさい! あたしに面白コメントを期待するな!


「ほ、ほら、ルシフェルはっ?」

「私?」


 笑っていた堕天使長は暫し考え、ひとり得心したようにうなずいた。


「主に料理、だな。不可能をなくすことが目標だ」


 なるほどね。まあ料理下手も含めて、ルシフェルは完璧なんだろうけど。


「じゃあ黎香様が教えてしんぜようー!」

「え、黎香が?!」

「てめえの料理なんて恐ろしくて食えねぇよ」

「なぬ~!?」……



***



 ……ふう。

 嵐のような集団はそれはもう大騒ぎして、すっかり暗くなってから帰っていった。みんな、良いお年を!


「すごかったね……」

「ああ。食べて、飲んで、騒いだ」

「ははっ」


 で、今あたし達は後始末。ウァラク君や池田君がやると申し出てくれたんだけど、ゲストを働かせるのは悪いからね。堕天使長もそこは納得してる。

 テーブルを拭いて、ゴミを片付けて。後は鍋を洗うだけだ。


「ルシフェル、先にお風呂に入ってきたら?」

「しかし、」


 ルシフェルは充分頑張ってくれたし。ここからはあたしだけでも大丈夫。

 躊躇いつつも、押しに負けたルシフェルは洗面所へ向かったのだった。


「では、そうしよう」

「はいはーい」


 あたしはというと、洗い物を済ませてから、今度はお雑煮の準備。元旦はお節とお雑煮! 結構お餅好きなんだよねー。

 シャワーの音を聞きながら、野菜を切ったり煮たり。ああ、明日は初詣に行くのかな。でも天使は神社に行かないよね、きっと。まあ黎香とかに誘われるだろうけど。


 ぼんやりと思いを巡らせていたら、洗面所のドアが開いて、頬を上気させた湯上がり美人が登場。意外と時間が経ってたみたいだ。


「湯冷めしないようにね」

「あ、ああ……」


 けど、どこか変。ルシフェルはなんだか落ち着かない様子で、あたしの方をちらちらと見る。


「何?」

「いやっ……別に」


 こほんとひとつ咳払い。彼はあたしに背を向け、テレビのスイッチを入れた。


「ほ、ほら、真子も入ってきたらどうだ?」


 ……変なの。何かあったのかなあ。

 

「うん、そうする」


 不審に思いながらもお風呂へ向かうと、慌てたように呼び止められた。


「あっ、真子!」

「ん?」

「その……後で、ちょっと言いたいことがある、から」


 言いたいこと?


「今じゃダメなの?」

「ちゃんと言いたいから。後でだ」


 何だろう、改まっちゃって。

 気にはなったけど、それよりお風呂! 今日は疲れたんだよ~、と体を洗って浴槽へ。これぞ日本人の心だね!



 ……静かな空間でお湯に浸かっていると、何だか色んなことが思い出されてくる。

 もう少しで、堕天使様がうちに来てから一年が経つのか。すごく濃くて楽しかったこの一年。あたしは、ひとりじゃなかった。


 ……。

 

 ひょっとして、っていうか、もう確実に。


 ――あたし、ルシフェルのことが好きなんだ。


 ……

 ……は、恥ずかしッ! え、何、今更カミングアウトしちゃってんの?! キャー!

 べべべ別にルシフェルとはそういう関係じゃ……


 あれ?

 じゃああたし達って、どういう関係?


 普段はこんなこと考えたりしない。恥ずかしいし、自惚れだったら嫌だし。そんなマンガのような展開、あり得ないと思ってるし。

 だけど、クリスマスのキスが。あの日からだ、色々と意識してしまうのは。ルシフェルにとっては特別なことじゃなかったのかもしれないけど……でも向こうからされたら、ちょっと期待してしまうじゃないか。


 結局は。聞くのが怖くて、あたしは何もできないのだけど。今の関係が崩れる方が嫌だ。


 悶々としながら、風呂から上がる。ぼーっとする気が……って入り過ぎた?!



***



「長かったね。大丈夫か?」

「うん、まあね」


 水を飲んで、言われなくともルシフェルの隣へ。

 こたつに入ってテレビを見る。そろそろカウントダウンとかやるんだなー。今年も起きていられそうだ。


「……真子」


 しばらくして、漸くルシフェルが口を開いた。あたしはテレビから隣へと視線を移動。うわ、相変わらずきれいな横顔……。

 彼はややうつむいて、あたしと目を合わせずにぼそぼそと口を開いた。


「私、色々考えたんだ。ここへ来てからのこと」


 あ、ルシフェルもだったんだ。


「あたしもだよ。たくさんのことがあったなあって。長く生きてるルシフェルにとっては、一瞬に過ぎなかったのかもしれないけど」


 ルシフェルはいつになく神妙な顔で首を振る。


「私にとっても充実した日々だった。お前と出会ったのが始まりで……全ての日々は、真子がいたからいとおしい」


 緊張して動けずにいたあたしを、ルシフェルの紅い瞳が捉える。そして彼はわずかに、でも確かに頭を下げた。


「“ありがとう”」

「……!」


 びっくりした。初めての言葉だったから。今までその一言を聞いたことがなくて。

 すると彼は小さく肩を震わせ、一瞬だけ顔をしかめた。


「ルシフェル?」

「っ……何でもない。ただ少し、勇気と覚悟が要るだけで。私は、人間に頭を下げないんだ」


 心なしか具合が悪そうな堕天使長。何か、嫌な記憶でも思い出したかのように。


「大丈夫?」

「大丈夫。その……とらうま、なんだよ」

「トラウマ?」


 照れくさそうに小さく笑って、ルシフェルはうなずく。そうなんだ。だったら……あたしも勇気を出して言わないといけない。


「ルシフェル、あのね、」


 すう、と深呼吸。ルシフェルだけが頑張るのは不公平だ。結果がどうであれ、気持ちはちゃんと伝えないといけない。


「あの……きっと、ずっと前からそうだったんだけど」

「うん」

「今更言うのも恥ずかしいんだけど」

「うん」

 

「……」

「……」

 

「……好き、です」


「…………」


 ……ち、沈黙が苦しい。

 ややあってルシフェルは「うん」、とうなずいた。そ、それだけ? あたしの一大告白は?!……と思っていたら。


「……この我が儘を、どうか、」

「え?」


 頭上から降った声に顔をあげると。


「…………」

「?!」


 “お許しを――”。

 そう祈るように呟き、くいっと顎を掴み。奴はまたしてもあたしの唇を奪ったのだった。ほんの一瞬だけ。

 それから顎を持ち上げたまま、至近距離でまっすぐに見つめて。

 

「――好きだ、真子。食べてしまいたいくらいに」

 

 真面目過ぎるくらい真面目な、だけどどこか泣きそうな顔で彼は言う。呆然とするあたしに対し、自分の表情を隠すかのように小さく笑った。


「ひょっとして……ディープの方が良かったか?」

「こ、こらッ!」


 思わず手が出た。器用にルシフェルが首を反らしたから、むなしくも空を切っただけだったが。

 

「残念。私、結構上手いんだよ?」

 

 ったく、そういう問題じゃないんだよこのキス魔! 変態! 乙女キラー! でも……好きって聞いて、とっても嬉しかったぜ馬鹿っ!



 

「もー、あんまり怖いこと言わないでよっ」

「すまないすまない。今日は思い切ったな、私も真子も」


 疲れたような笑顔。なんだ、どっちも緊張してたんじゃん。変なことばっか言うから心配したよ。


「ま、まあ、普段よかテンション上がってるからね」

「違いないな」


 ひょっとしたら、もうこんな会話なんてしないかもしれないけど。あたしは気持ちを伝えられただけで満足だったりする。


「実は私もあの時、真子と同じようなことを言おうとしていたんだ」

「あの時?」

「目標発表の時」


 ああ、あれか。


「真子が突っ込まれていたから、やめた」


 卑怯者っ。ちくしょー。


「ふふ。私も……この日々が続くといいと思うんだ。私は、皆に生きていて欲しい。誰も失いたくない」


 あの場でこんなこと言ったら、空気が微妙になりそうだったもんね。自重したの?


「全てを背負う私に託されたものは多い。その中には真子、もちろんお前も含まれている。だから、」


 ――そう、だから。


「私がお前を守る。何があろうと、どこにいようと」


 今更ながら、気付いた。初めて会った時から、ルシフェルはあたしのことを想ってくれていたんだ。多分お互いに気が付かなかっただけで。あたしは本当に嬉しくなった。


 ふと見ると、もうカウントダウンが始まっている。


《10、9、8、7……》


「ねえルシフェル」

「ん?」

 

 とっても美人で、優しくて天然で、色っぽくて。ちょっぴり自信家だけど憎めない。そんな素敵な堕天使様。

 少しだけ変化があった関係。けどあたし達の日常は、きっと変わらない。


《……3、2、1》

《ハッピーニューイヤー!!》


 あたしは心から笑えた。

 

「明けましておめでとう。今年もよろしくね!」


 そして返されたのは極上の笑顔。


「ああ。よろしくな、真子!」


 今までありがとう。これからも大好きだよ、ルシフェル!


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