第63話:堕天使と雪山
「……ねえ黎香」
「むぅ?」
なんで……
「なんでせっかく雪山に来たのに“雪男探し”しなきゃならないの?!」
「にゃは~♪ 一攫千金☆」
あたしと黎香と池田君、ルシフェルとアシュタロスさんとベルゼブブさんは、雪山――というか雪原にいた。ニコニコ笑う爆弾娘の背には大きなリュックサック、堕天使さん達も荷物持ちをさせられている。
彼女はガチで雪男探しをするつもりなのだ。
「燃えるなァガキンチョ!」
「そうッスね兄貴ぃ!」
「ふふ♪ 是非とも手合わせ願いたいものです」
「雪男、っておいしい?」
……しかも普通の感覚を持っているのはあたしだけのようです。つーか最後の発言した奴誰だぁぁ!
「あ、私私♪」
……。
こりゃあ奏太やウァラク君は来なくて正解だったかもね。(奏太はバスケ部の友達と遊びに、ウァラク君は地獄のお偉いさんに用事を頼まれたのだとか。)
「だぁって仕方ないじゃん真子ちん! スキーとかスケートとか、時期的に縁起悪いんだもん! “あの言葉”が!」
ああ、まあね……。
「諸君っ、装備はオッケーかね?!」
と、黎香隊長。防寒具に包まれたあたし達。見渡す限りの真っ白な絨毯に、異様なほど重装備の集団。
「「おーっ!」」
その熱気は雪をも溶かしそう。あーあ、せめて普通にハイキングとかなら良かったのに……。
***
だが実際に林へと分け入ってみると、散策しているのとほとんど変わらなかった。ぞろぞろと木々の間を進むあたし達。
「落ち着くなぁ……」
「あっ、面白い形の木!」
「足元注意ですよー」
しん、と静かな冬の山。音がみんな雪に吸収されちゃったみたいだ。
そんな中でも黎香は何かせっせと用意している。木と木の間に網を張ったり、ロープを変な形に結んだり、表に“BAKUDAN☆”と書かれた箱を置いたり。
「ホントに捕まえる気なの?」
「もっちろん!」
黎香は更にリュックサックから“TAKUAN☆”と書かれた箱を取り出した。……って、たくあん? 漬物?!
「おいおい、」
池田君もさすがに不安になったのか、辿ってきた道を振り返る。……トラップがいやでも目に入るなあ。ま、道には迷わないだろうけど。ヘンゼルとグレーテルかい。
「こんな好き放題しちまっていいのかよ?」
「いーのっ。だって黎香のものだしぃ」
「その道具みんな?」
「じゃなくてっ、“この山が”黎香のものなんだよ」
あまりの金持ちっぷりに池田君も口をあんぐりと開けた。なるほど、道理で人が見当たらないわけだ。貸し切りのようだと思えば、本当に独占だったのね。
「ちなみにねぇ、この山は八歳の誕生日プレゼントだったよ」
スケールでけぇー!
っていうか、八歳の子供に山ひとつ与えてどうするんだ黎香の親御さん!
「……おっ?」
すると、急にベルゼブブさんが立ち止まった。
「み、見ろよこれ!」
興奮気味に地面を指差す。みんなで覗き込むと、そこには大きな足跡。ま、まさか。
「こういう足跡を辿るンだろ?! ヒャハハ、わくわくすンなァ!」
……どうしよう、本当に雪男がいたら。そもそも堕天使を前にして、雪男の存在を疑う理由はないじゃないか。ぎゃー。
喜ぶべきかわからないが、巨大な足跡は点々と続いている。言うまでもなく、みんなそれを追いかけてしまった。
「雪男!」
「雪男!」
「ちょっ、待ってよ!」
どんどん林の奥へ行き、見えてきたのは大きな洞穴。……嫌な予感。
「この中に雪男が……」
まっしぐらに続く足跡を見て池田君が呟く。
「食らえーい!」
止める間もなく黎香が“BARIKAN☆”と書かれた毛剃りを穴の中に……って、コラー!!
《バガァァン!!》
ああ、変な音したよ……めっちゃ煙出てるよ……。
更に、命知らずなベルゼブブさん、ひょこひょこと穴の中を覗き込む。
ぱたぱたと煙を払い――と、やさぐれ堕天使さんはいきなり爆笑。
「ギャハハハハハ!」
「ど、どうしたのベルゼブブさん?」
「ギャハハ! わりィ、ミスったわ」
楽しそうなベルゼブブさんは、笑いながらも回れ右。走り出したその背後に……黒い影。
「雪男じゃなくて、クマだったぜー!!」
《グォォォ!》
ピーーンチ!!!
逃げなきゃ逃げなきゃーっ! え、死んだフリ?! そんな余裕ねぇわッ!
「かかってこいやクマ公ー!!」
「違うぞ池ぽん、先手必勝ぉぉ!」
バカかあんたらー!!
クマにメンチを切る池田君と、飛び掛かろうとする黎香の首根っこを捉まえ、無理矢理に方向転換させる。人間がクマ様に歯向かうんじゃないよ!
……はっ! 堕天使さん達は?!
「ベル、ベル」
……麗しの堕天使長様が、うわごとのように喋りながらクマへと近付いて行きます。って、オーイッ!
《ウゥゥ……》
あまりの無防備さに、クマも戸惑っている様子。だってルシフェルってば、唸られてもニコニコ笑ってるんだもん。正気の沙汰とは思えん。
「ベ……」「アホかてめえはっ。あの野郎がここにいるわきャねえだろーが!」
すっとんできたベルゼブブさんが、ルシフェルをずりずりと引きずっていく。堕天使長様は、やはりそうかー、と緊張感なく笑っていた。
「ったく、危ねえなァ! しっかりしろよ。てめえは仮にも堕天使長なんだからよ」
「いや、もしやと思ったのだ。ふはは。大丈夫、私は死なない」
なんかもう、誰も信じられないぜ。
や、いや、とにかく逃げなきゃ!
すると、走り出したあたし達の横を……
《ばさっ》
黒い風が通りすぎ……
「雪男ではないのが少し残念ですが、」
ざくっ、とブーツが雪を踏み締める音。慌てて振り返ると、黒衣の銀髪貴公子・アシュタロスさんが、クマの前に立ちはだかっていた。
「一度、貴方とも手合わせ願いたかったのです。起こしてしまい、申し訳ないのですが……いかがですか?」
武人は花も零れんばかりの笑顔で首を傾ける。ああ、もう、また訳のわからんことを……。
「さすがに“マサカリ”は持っていませんけどね。素手で“キン・タロー”に互角かと」
堕天使さん、金太郎知ってた! っていうか彼は日本人だよ多分!
「いざ尋常に勝負です♪」
《グオォォッ!》
***
「ジンジンジーン、ジンジンジーン、小指痛ぁい♪ タンス~の角に、足ぶつけたぜ♪ イェイ☆」
帰りのバスの中、黎香は上機嫌で歌っていた。あ、ジングルベルのメロディで。
もちろん行き帰りのバスも三ノ宮家の所有物だから、車内はあたし達の貸し切り状態。ちょっとしたバス遠足ぐらいの騒がしさだ。
さて、あの後クマとアシュタロスさんがどうなったかというと……
「大丈夫ッスか兄貴?」
「ええ、何も問題はありませんよ」
勝負はあっさりついた。宣戦布告するや否や、アシュタロスさんはクマを投げ飛ばしたのだ。それこそ金太郎も顔負けなくらいの力で。
でも、その後にはちゃんとクマの心配もしてたんだよ。すぐに駆け寄り、「大丈夫ですか?」とさすってあげていた。さすがは元天使というか、ちょっとやりすぎたと思ったのかもしれない。
「ふふっ、今度はキン・タロー本人と戦いたいです♪」
……。向上心、とは違う気がするよね。
「しっかしよォ、結局雪男には会わなかったなー」
前の座席に足をのせた姿勢のまま、ベルゼブブさんが言う。うーむ、あれだけの仕掛けをしたのに残念。……って、
「ねえ黎香、あの仕掛けってどうするの?」
山に設置した無数の罠罠罠。黎香は相当頑張っていたが。
「むー? あれは後で取るよぅ。ちゅうか、現地スタッフに取ってもらう。だって、野生の動物さんとか引っ掛かったら危ないっしょ」
なるほどね。良かったー。
「でもさぁ、仕掛けておいたらツチノコとか捕まえられそうだよねー!」
未確認生物キター! いるの?!
あたしが絶句していたら、ふと池田君が呟いた。
「……そういやさ、そろそろアレだな」
「アレ?」
「その……」
茶髪の不良少年はあたしを見、すぐに視線をそらす。
「アレだよ、ほら、クリスマス」
おっ! ああ、そうだねえ!
つーか池田君、ちと可愛いと思ってしまったよ。ホントは純粋な少年だからねっ。
「進藤さん、クリスマスは……」
「ん?」
「い、いや! なんでも……」
?
あー、でもクリスマスかあ。去年は家にひとりだったから特に何もしなかったけど、今年は食いしん坊な居候さんがいますからな。パーティーとかやるかもっ?!
「クリスマス! ちょー楽しみなんだぬー!」
ははっ、目が輝いてるぞ黎香。
「黎香は家族からプレゼントがいっぱいもらえるのだぁ☆ あっ、みんなにもあげるよ!」
いや遠慮するよ! 三ノ宮家のプレゼントなんて怖いよ。しかも黎香の家族の皆さん、結構過激な方々だと聞いているし。
そういえばクリスマスって知ってるのかな? と堕天使三人衆を見ると。
「なァ、キン・タローって誰だよ」
「んー、スモウという競技を極めたと聞いていますが。あと、薪を背負いながら読書してたらしいですよ」
「ほう、勉強熱心だな」
聞いちゃいませんでした。っていうかそれ、太郎じゃなくて次郎のほう! 二宮金次郎!
「ねえねえっ、帰りにラーメンでも食べて行こうぜー!」
おっ、いいねえ黎香!
「いいけどよ、まともな店に連れて行ってくれよ」
「や、やだにゃぁ池ぽん! 普通のお店に決まってるじゃにゃぃか~」
……その後、途中で立ち寄ったラーメン屋にて、黎香が胡椒と偽り“砂”を池田君のラーメンに振り掛けていた、というのはまた別の話。
皆様こんにちは、お久し振りな作者の笛吹です(笑)。いつも読んで頂き、ありがとうございます!
さて、この「堕天使がうちにやって来た!」ですが、寂しいことにそろそろ完結へ向かいます。そこで少々大事なお知らせです。実は今までのご愛顧に感謝して(というか私が調子に乗って)、続編(!)の執筆なぞを少々考えております。伏線をバラまきまくったので、それはちゃんと回収せねばと(笑)。
まだ予定でしかないので確実なことは言えず申し訳ないのですが、もしも万が一にも続編があったら読んでやるよ!、という寛大な方がいらっしゃいましたら、一言頂けると大変ありがたいです。メッセージでも感想でも構いません。読者様の声は本当に私の活力源です!
需要を確認しないと不安なチキン作者ですが、どなたかお一人でも読んで頂けるならば、もちろん喜んで善処致します。何より彼らの物語は私自身も大好きですから。
……ということで、笛吹からのお願いでした♪
しかしまだこの作品も完結してはいません。12月といえばあの行事ですよねっ。どうぞ最後まで拙作にお付き合いくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
ちなみに23日・24日は連続更新を予定しております。お楽しみに!