第59話:万魔殿にお邪魔します
今回は《彼女》に視点をお願いしました♪
今日のルージュはローズにしようかしら、それとも久々にパールピンクかしら♪
……あら?
って、やだ何これ! アタシ視点なわけ? んもう、せっかくネイル塗ってたところだったのに! 作者もついにネタ切れかしら?
……え? アタシの美貌に惚れたから?
……知ってたわよそんなこと。
……。
はぁい皆さんこんにちは♪ 万魔殿幹部の紅一点、超絶セクシーなレヴィアタンお姉さんよ♪
うふふ、アタシ視点だって。ベルフェゴールに自慢してやるわ。アイツの方が登場回数多いはずなのにねぇ。
んー、もう少し早く来ればレヴィお姉さんの生着替えが見られたのに~。あ、これ? この紺のドレスは普段着よ。髪色とマッチしてるでしょ?
今行くから、マニキュアが乾くまでちょっと待っててくれないかしら?
***
ふふ。お・待・た・せ♪ 今日はいい感じに色が出たわ。
……で、アタシは何をすればいいの? え、決まってない?
人任せ? 仕方ないわねえ……
いいわ、じゃあアタシが万魔殿の中を案内してあげる。感謝しなさいよー?
え? まさかアタシの部屋を見せるわけないじゃないの。レディのお部屋に気やすく入っちゃダメよぉ。
代わりにね、ふふ、見たいでしょ?――“堕天使長のプライベートルーム”♪
いいのよ別に、入ったって。アタシも何回か招かれたし。彼には見られて困るようなものなんてないわよ。
じゃ、早速行きましょ♪
まずは長い長ーい廊下を歩くの。この宮殿――まあ、巨大なお屋敷ね――は、ホントに広いわよー。新入りのレムレースはまず必ず迷子になるわね。
『おはようございます、レヴィアタン様』
「おはよ」
早速そのレムレースがやって来たみたい。スーツからシャツから黒ずくめってことは、彼はアタシ達の身辺の世話担当のレムレースね。仮面は着けてるけど、今さら変だなんて思わないわよ。
『レヴィアタン様、たった今、仕立て屋様が参りまして。お洋服が出来上がりましたそうです。お届けしようと思って居りましたが……』
「あ、いいわ。部屋の入り口にでも置いといて頂戴」
『かしこまりました』
お辞儀の角度も完璧。さすが、紳士同盟の指導が行き渡ってる。
ただねえ……胸元で視線が止まるのは、ねぇ。まだまだ教育が足りないようね。後であのメフィストフェレスのオヤジに文句言ってやるわ。
同じ紳士同盟でも、アガレスちゃんは好きよ♪ ミステリアスな雰囲気がすっごく素敵。会長も嫌いじゃないんだけど……たまに“熱い”わね。
っと、別に紳士同盟の話はどうでもいいわ。ルシフェルの部屋に行かないとね~。
もー何が面倒かって、彼の部屋、宿泊棟の最上階なの。ここの最高権力者だものねえ。まあなんでも自分で選んだらしいんだけど、その理由が“眺めがいいから”だったらしいわよ。何考えてるのかしら?
あ、宿泊棟って分からない? じゃあアタシが説明してあげる。
この万魔殿っていう建物は、広い敷地に立つ“塔”と“屋敷”から構成されているのよ。その屋敷も、
・来賓を迎えたり“王”と謁見したりする《迎賓の間》
・主に幹部の執務室や会議室がある《執務棟》
・悪魔や堕天使、レムレース達の自室がある《宿泊棟》
……とかに分かれてて、更に衛兵レムレース達の詰め所、パーティーや舞踏会の時に使う《大広間》なんかもあるわ。……そういえばパーティー、あったわねぇ。またやりたいわ♪
まあ、万魔殿自体はそういう複合施設みたいなもんなのよ。で、ルシフェルの部屋は宿泊棟の最上階ってわけ。もちろん、レムレース達よりはアタシ達の部屋の方が上の階にあるけどね。
……まさか階段なんて使うわけないじゃなーい! そもそもないわよ、そんな疲れるものは。アタシ達はワープで――
何? ワープの仕組みも知らないの?!
しょうがないわねえっ。ちゃんと説明しておきなさいよルシフェルってば!
こんな広い建物、いちいち歩いてたんじゃ大変でしょ? だから各階にはワープ専用の場所があるのよ。ちょうど人間界のエレベーターホールみたいなのを思い浮かべてくれればいいわ。指定した棟・階に行けるように、魔方陣が敷いてあるの。
本当はそんなの使わなくても、アタシ達悪魔や堕天使は移動できるんだけど……ルシフェルがね、禁止しちゃった。建物内での自由な空間移動ができないように、彼が一種の結界を張り巡らしてるのよ。
うふふ……確かに少し不便だけど、だって自由にワープできたら、もしかすると勝手に部屋に入られるかもしれないじゃない。入浴中とか困るわよぅ。
あ、ちなみにね、空間移動が不可能って言っても、ルシフェル本人は例外なの。
個々の魔方陣を媒体にして移動するアタシ達と違って、ルシフェルは自分の存在そのものに干渉できるから。自身がそこに《ある》という事実を生み出すことが……って、難しいわよね。ゴメンなさいね♪
まっ、とにかく! 階段を使う代わりにワープができるのよ。
魔方陣がある場所は……こんな感じ。今日は比較的空いてるわね。
淡緑色に光る、幾何学模様の円が何ヶ所も並んでるんだけど。あれが魔方陣よ。時々激しく光ってるのは、書類の束を抱えたレムレース達を吐き出すためね。
『あ、おはようございますレヴィアタン様』
「……おはよ」
だから胸を見るなっちゅうに! まあレムレースって、“みんな男だから”仕方ないのかしら。それにアタシ、結構胸ある方だと思うしー♪
鼻血を垂らしてる通りすがりの悪魔は気にせずに。アタシは魔方陣のひとつにのる。目指すは、
「宿泊棟、最上階まで♪」
***
……ふう。到着ー。
そうそう、すごいついでに言っておくけど。あの移動用魔方陣を敷いてるのもルシフェルよ。ぜーんぶ、たったひとりで。……才能の違いよね。やっぱり彼はずば抜けてる。
さぁて、アタシの目の前に伸びているのはこれまた長い廊下。人気もないし。そりゃそうよね、ルシフェルは暫く帰ってきてないわけだから。
さてと……あ、あったわ。このドアね。
鍵は――うん、かかってないわ。彼、昔から滅多にかけてなかったもの。部屋の外に誰かがいたら、あの能力ですぐにわかるって言ってたわね、確か。便利ねぇ。
では、本邦初公開! 堕天使長様の私室。広すぎて腰抜かさないでよ?
それではどうぞー♪
……。
……そう、そうよね。見えないんだものね。
えーと、そうねえ。人間界の豪華ホテルの一室を想像して頂戴。もちろんスイートの。で、それを更に二倍して。
……どう? イメージできたかしら。小さい子供なら余裕で駆け回れるくらいの広さよ。この階には、もともと部屋が少ないからっていうのもあるんだけど。
でも内装はアタシ達の部屋とあまり変わらない。天蓋つきのベッドに鏡台、文机とか……シャワールームもついてる。
当然小物は絹や本物の金銀。フフン、アタシらは幹部なんだから当たり前よ! 《トロイメライ》の品もあるわよ。
壁際には背の高い本棚。うわ~、分厚い本がいっぱい。……でも蔵書数で言ったら、噂ではアシュタロスの部屋がすごいらしいわよ。アタシは見たことがないけど。
他にアタシの部屋と違うところは……窓ね、窓。壁一面がガラス張りみたいな感じ。バルコニーもデカいのよ、これが。彼はそこから万魔殿全体を見渡すのが好きだと言ってたわ。ちょっと行ってみましょうか……
「……?」
――ん?
今、何か違和感があったのだけど。匂い……ルシフェルとは違う匂いがした。アタシ達とも違う……気のせいかしら?
……まあ、いいわ。
ほら、彼が気に入ってたのもわかるわ! パンデモニウムが一望できるんだもの! 改めて見ると広いわぁ。
……ふふ♪
いやね、ちょっと思い出しちゃって。あの日――ルシフェルが人間界へ行った日も、このバルコニーから飛び立ったらしいのよ。
誰にも言わないで、みんなが寝静まってる時に勝手に出て行ったみたい。翌日はもう万魔殿全体が騒然。空っぽのこの部屋と全開の窓を見て、気を失ったレムレースもいたくらいなんだから!
これまでにもあったわよ、そりゃあ。“査察”とかなんとか色々理由をつけて、堕天使長様は時々逃げ出していたわ。
けどねぇ、今回は長い。彼があの人間ちゃんと暮らし始めてから、もう人間界でいう半年が経つものね。……彼、なんだかんだで人間は嫌いじゃないと思うのだけど。
ふふっ。ま、彼が戻るまでにはまだかかりそうね♪
《コンコン》
ノックの音に振り向けば、ひとりのレムレースが入ってくるところ。スーツ姿ながら、手にはバケツと布巾を持っている。
『失礼致しますー……って、レヴィアタン様?! はうあっ、もっ申し訳ございません!』
「いいのよ。別に、特に何かをしにきたわけじゃないから」
あたふたと頭を下げるレムレースに、アタシは半ば苦笑いで笑いかける。とって喰いやしないっての。
「ご苦労様。ここの掃除?」
『は、はい。殿下が何時お戻りになられてもいいように、定期的に掃除をしているんです。万が一にも、殿下にホコリだらけのお部屋を使っていただくわけには参りませんので』
……泣ける話じゃないの。早く戻って来なさいよルシフェル。
「……ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。アンタ達レムレースの他に、この部屋に出入りした悪魔か堕天使っている?」
『いえ、特には……あっ、あの、ベルフェゴール様やベルゼブブ様が大分前にいらっしゃったくらいです。どうかなさいましたか?』
「んー、ちょっとねー」
……おっかしいなぁ。あの感覚、絶対にアタシ達幹部とは違う気配だったんだけど……。やっぱり気のせいかしらね。
とはいえ、何となくっていうだけだし。掃除の邪魔しちゃ悪いから、この辺で出ましょうか。
『お帰りですか?』
「ええ、もう済んだから。掃除、頑張ってね」
『……! あ、ありがとうございますっ』
アタシの流し目は一撃必殺なのよ♪
じゃあ今回はこのくらいで……
と思ったのだけど。
部屋を出たところで“アイツ”と出くわしちゃった。
「――ここにいたか、レヴィ」
不機嫌そうな声音。視界に入ったのは涼しげを通り越して、寒々しいくらいの白銀の髪。これまた機嫌の悪そうな端正な顔。笑えばいいのに、勿体ない。
「どうしたのベルフェゴール?」
「貴様を探していた。俺ひとりでは手に負えん」
あらあら、一体何かしら?
「あのアスモデウスの奴……また大量に装飾品を買い込んだようだ。お陰で執務室が領収書と荷物でいっぱいになってしまった」
「あー、また? 彼、派手好きだものねえ」
でも気前がいいから、アタシにもアクセサリーを譲ってくれるのよ♪ 大きな声では言えないけど。
「……誰と話しているんだ?」
「内緒よ、内緒♪ ――それよりちょっと聞きたいんだけど。ルシフェルの部屋から、何か感じない?」
「何かとは……なんだ?」
ベルは首を傾げる。んー……。
「違和感、っていうか。変な匂いよ」
「さあ? 俺は何も感じないが」
……それなら気のせい、だったのね、きっと。
「何かあったのか?」
「ううん、なんでもないわ」
「そうか。では、早く来い。そして手伝え。ルシフェルに加えてベルゼブブまで人間界に留まっているし、肝心のアスモデウスまで居なくなる始末……本当に忙しいんだからな」
「わかったわよぉ」
はあ……。ま、仕事だから仕方ないか。
アタシもまた人間界行きたいなぁ。
「……っていうかアンタ、いいの?」
「何が」
「あんまりボヤボヤしてると、あの人間ちゃん、ルシフェルにとられるわよ?」
「……とられるも何も、興味などない」
またまたぁ。これだからベルをいじるのはやめられないわ。
「……ベルってさ、意外とウブよね。奥手?」
「やっ喧しい! 大体、俺は女が嫌いなんだ。つまらんことを言うな」
「じゃあアタシはー?」
「貴様は悪魔だろうが」
「女として見てないってこと? うわ、ひどーい! ベルはもっとレディに優しくした方がいいわよ」
「知ったことか。というか貴様、その名で呼ぶなと言ったはずだぞ!」
「アンタだってアタシのこと、レヴィって呼ぶじゃない! おあいこよ、おあいこっ」
ベルは軽く舌打ちして顔を逸らす。フフっ、またアタシの勝ち~♪
じゃあ気分もよくなったところでお仕事に行きましょうか。今日は楽しかったわ♪ またいつでも遊びに来てね。
「あ、ところでベル。アスモデウスは何を買ったの?」
「聞きたいか?」
「ええ、まあ」
「……《純金の歯ブラシ》と《純銀の植木鉢》、各々、千個だ」
あンの馬鹿ーっ!!