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第57話:堕天使と交換!

コメディにお約束なアレをやってみました(笑)。

 んー……もう朝?

 いま何時かな。休みだってのに、早起きするのは悔しいからね。時間次第では二度寝に突入……

 って、あれれ? 目覚まし時計がない。


 ……?

 目を開けて、驚いた。あたしリビングで寝てたっけ?

 というかあたしがソファーで寝てたら、ルシフェルはどこにいったのか。


 ……??

 立ち上がって、首をひねる。なーんか視点が高い気がするぞ。寝る子は育ってしまったんだろうか――


「……あれ?」


 あたし、こんな男物の服着て寝てないよね。そしてこんなに声低くないよね。


 ……。

 あー、と。待って、これはアレか。コメディにお約束のアレなのか。


 洗面所へ行って鏡を見る。

 …………うん。待ってね。ちょっと待ってね。


「……っ!」


 痛い! 頬っぺ痛いよ! 夢オチの可能性が消えた。ということは、うん。



 ――あたし、堕天使長になっちゃってました♪


 ……。

 いやいやいや! 何、これ?! なっちゃった♪、じゃねぇし我ながら!

 え、普通こういうのって、“ぶつかって”とか“雷に打たれて”とか、何かしらの前兆があるもんじゃないの?! ある朝、目が覚めたら……なんてどうしようもないじゃん!


 ……よ、よし。とりあえず落ち着こう。大丈夫、もはやあたしの周りにはファンタジーなことばかりだし。超常現象には慣れた慣れた。悲しいことですけどねっ。

 あっ、もう一回だけ鏡を見させてくれ。……やっべ、めっちゃイケメンじゃん。ナンパし放題みたいな? あ、でも女かー。いや、この見た目なら男も口説けるかも。危うい道を踏むことになるけれども。


 と、邪心を抱きつつ自分の部屋へ。

 扉を開けると……いた。寝てるよ、“自分”が。

 軽く揺すってみる。む、なかなか起きないなぁ。ってかこんな寝顔なのかあたしは。


「ん……朝……?」


 あたし(の姿をしたルシフェル)がゆっくり目を開け、そしてルシフェル(の姿をしたあたし)を見た。


「…………」

「…………」

「…………」

「……ああ」


 って、コラー! また寝ようとするな! 現実を見ろぃっ。


「ルシフェル、でしょ?」


 と自分に聞く奇妙さ。傍から見ても滑稽に違いない。


「うん、そ……――え? ええ?!」


 ようやく事態の深刻さに気付いたらしい。


「あれ? 私、が私に? 二人? あっ、えっ、真子の体? 私は、どこ?! あれっ?!」


 もう堕天使長が大混乱。「ふわぁー?!」とか言いながら自分達の体を交互にキョロキョロ。


「入れ替わったのか?!」

「らしいね」


 やっと結論が出たか。パニクってる他人を見ると、逆に自分自身は落ち着けるから不思議なものだ。

 が、堕天使長は叫ぶでもなく額に手を当てて。


「な、なんたる屈辱……!!」


 と呻いた。本当にショックだという顔で。く、屈辱?


「この私が人間の体を、その上人間が私の体を……ああ、主よ……!」


 何やらぼそぼそと呟き、彼はあたしの方を見ずに


「少し、ひとりにしてくれ……」


 と言った。別にいいけど。

 ちょっと様子が尋常でなかったので、大人しく部屋を出ることに。寝起きにこれはそりゃ混乱するよね。まあ少ししたら落ち着くだろうさ。



***



 台所で朝ご飯を用意していたら、しばらくしてルシフェルがリビングへと出てきた。ルシフェルが、というかあたしがだけど。


「不可抗力、不可抗力……」

 

 怖っ。

 

「だ、大丈夫?」

「……よし。これも運命、受け入れよう。さっきはすまなかったな、えーと……真子?」


 虚ろな目をして不可抗力なんて呟いてるから、ちょっぴりホラーだったよ。運命だなんて、んな大げさな。


「いいよ全然。あたしもびっくりしたもん」


 するとルシフェルはなんとも言えない表情でこちらを見る。あたしはあんな顔もできるのか。


「……自分が自分に語りかけてくるなんて奇妙だな。しかも真子の口調で」


 それはお互いにね。


「…………」

「どうしたの?」


 尚も凝視してくるから、理由を問うてみると。


「私が料理してる……!」


 確かに。ルシフェルが料理してるのをあたしが座って待ってるなんて、これ、かなり貴重な画だよね。

 しかしルシフェルって手足が長いんだなー。高い所にも手が届くし。羨ましい体だ。


 もちろんあたしが作ったので、食べられるご飯が完成。さて食べよう。なんだかお腹がすごい空いた気がする。


「いただきます」

「いただきます」


 あっ。あたしの体のままで、ルシフェルがいつもの調子でご飯を食べたら……まずいよね?! きゃーっ。

 ……と思っていたのだが。


「ごちそうさま」

「えっ、もう?!」

「ああ。すぐに腹が膨れるな、真子の体」


 ……そう。ルシフェルが少食なわけじゃない。逆に、ルシフェルの体を使っているあたしの食欲がものすごいのだ。なんか食べても食べても平気な感じ。だからいつもあんなに食べられたのね!


「全然お腹いっぱいにならないんだね」

「人間がこうならば、そのようだな」


 多分、とルシフェルは首を傾げる。


「エネルギー変換の仕組みが違うのだろう。お前たち人間は、動いたり思考したりするために食事をする。我々堕天使にとって食事は単なる娯楽のようなものだが、得た栄養は体の器官で消費する分と、魔力の足しにする分に分けられる。つまり、単純に人間の倍は容量があるということだ」


 な、なるほど。勉強になります。


「……ま、私の場合は力も強大だからな。更に消費も激しいのかもしれない」


 冗談ぽく言ってルシフェルは笑った。

 そういえば――“魔力”。堕天使長の体を使っていると、確かに何かできそうな気がするのだ。なんと言うか……第六感というか、感覚の糸が周囲の空間に張り巡らされているような感じ。

 あたしがそう言うと、ルシフェルは少し考えて。


「どうやら意識だけが入れ替わったようだな。精神……いや、能力は肉体に属するものではない」


 む? んーん、難しい話になってきた。しかも語ってるのは自分だし。違和感~。


「でも、ルシフェルはいつもこんな感覚で世界を見てるんだね。《存在干渉》だっけ? あたしにも物を瞬間移動させたりってできるかな」


 その、感覚の糸みたいなのを感じるってことは、意識を集中したらできそうな気もするんだが。


「かもしれないな。しかし慣れないことはやらない方がいい。特に私の能力は危険だから」

「危険?」

「ああ。簡単に瞬間移動と言っても、少し特殊でな。少々複雑な説明になるが……聞くか?」


 あたしは黙ってうなずいた。せっかくの機会だし。


「そうか。私の体を使っている今ならわかるだろうが、まずは物がそこに“在る”ことに触れる。触れる、としか言いようがないのだが……伝わるか?」

「うん、なんとなく」

「良かった。それから物を“分解”する。分解した物の存在を私が握るわけだが、その時にその物は世界から“存在しなくなる”。だからこの段階で私が解放してしまえば……永遠にその物は消滅する」


 ……う、うん。


「掌握した存在を意識の中に“再構築”すれば、いわゆる瞬間移動のような状態になるな。例えるなら、パズルか。ピースに分けて、そのピースが再び組み立てられるか、それとも喪失されてしまうかは、私の決定次第ということだ」


 恐ろしい能力じゃないか。永遠に消滅するだなんて。

 けどなんとなく、堕天使パワーの仕組みは理解。分解したピースを他の場所に組み立て直すから、外からは瞬間移動のように見えるってことなんだろう。


「言葉にしてみると大変だな。……して、真子」

「ん?」

「私達は何故入れ替わってしまったんだ?」


 あっ、ですよね! すっかり忘れるところだったよ。


「原因がわからない。昨夜は何も特別なことはしていないし……まさか夕食に変なモノが入っていたわけではあるまい?!」


 ぅおいっ。普通に食べられるものを作ったはずだよ。ルシフェルも美味しいって食べてたじゃん。

 うーん、原因ねー……。強いて言うなら《誰か》の気まぐれだよね。タブーだから言わないけど。


 しかしずっとこのまま、は困る。ホントに!

 今日は休みだったからいいようなものの、明日からまた学校だし。どうにか今日中に戻らなければ!


「このままだとあたしもルシフェルもまずいよね」

「無論だ。おまけに、慣れない体は動きにくいことこの上ない」


 どう考えてもルシフェルの方が身体能力やら諸々は優れてる。あたしの体を使うルシフェルは……相当戸惑ってるはずだ。

 もちろんあたしも戸惑うことばかりだけど。しかもルシフェルの体、なんだか軽い気がする。更に肩胛骨の辺りに何かある感覚。いつも翼が生えるところだ! ……あ、いや、まあいいんだけど。ちょっと興奮。


「どうすれば戻るんだろう?」

「うむ……」

「…………」

「…………」


 わっかんねぇー。そもそも原因不明なのだ。あたし達にどうしろと?!

 ……い、いや落ち着け。どうにもならなくても、やらねばならないことがあるのだっ。さもないと手遅れ、に――?!


「ル、ルシフェル」

「うん?」

「……なんか“来そう”」

「えっ?」


 いつもの直感より確実。堕天使パワーかな、何か来るのがわかるのだ。

 間もなく床に魔方陣が出現。しかも見覚えのある模様。


 やがて出てきた黒衣の青年。


「――こんにちは、ルシフェル様に真子さん♪」


 さ、最悪の展開キター!!

 まずいよまずいよ。アシュタロスさん来ちゃったよ! うわぁ心の準備がッ。

 しかもちゃんと着替えてもいないし。だって、ほら、裸を見るのも見られるのも恥ずかしいなあって。でも寝巻き姿でお出迎えは失礼?


「あ、もしやお取り込み中でしたか?」

「いやいやっ、大丈夫だよ!」

「……?」


 銀髪美青年は訝しげにあたしを見た。そうか、今のあたしはルシフェルだった!


「あ、あーっと……よく来たなアシュタロス」


 呼び捨てごめんなさいぃ。

 慌てたように(あたしの姿をした)ルシフェルも口を開く。


「そ、そうそう。全然オッケー……ですわよ、みたいなっ?!」


 何キャラだあんたー!

 こ、これはあたしがフォローしなきゃ!


「ど、どうして今日はうち……じゃなくて、ここに?」

「ああ、いえ、また黎香さんの発明品を届けに。しかしなんと言うか……」


 アシュタロスさんはふっと首を傾げ。


「何をなさってるんですか、ルシフェル様?」


 そう言った。

 

 ……あたしの姿をした“ルシフェル”に向かって。



「……ん?!」

「……へっ?!」


 ぽかんと固まるあたし達を見て、アシュタロスさんは不思議そうな表情を浮かべ、手で差し示してくる。


「ですから。こっちが真子さんで、」


 見た目はルシフェルのあたしを見、


「こっちがルシフェル様、ですよね」


 それから、見た目はあたしなルシフェルを見た。

 な、なななんでわかったの?! エスパー?!


「ど、どうしてわかった?」


 と、あたしの姿のルシフェル。アシュタロスさんは小さく息を吐いて苦笑する。


「僕を見くびらないでください。一体どれほどの付き合いだと思ってるんです? それに、」

「それに?」

「真子さんはともかく――ルシフェル、貴方は誤魔化すのが下手過ぎです」

「……」

「まあそれが素直な貴方の良い所でもありますけど」


 あ、ルシフェルが凹んだ。アシュタロスさんはあまり気に留めていないが。


「まったく、一体何があったんですか?」


 この質問には首をひねるしかない。だってそれを一番聞きたいのはあたし達だもん。

 アシュタロスさんは床に座りながら、嘆息。


「あまり楽観的に考えてもいられませんね。早くしないと真子さんの体が危ない」


 え、あたしの?


「もしルシフェル様が入れ替わっていることを忘れて、いつものようにベランダから飛ぼうとしたら……」


 い、いいよ! えぐいからその先は言わないでくれ!


「おいアシュタロス」


 ボケ扱いされたルシフェルは当然不満そう。


「いくら私でもな、それはさすがにないぞ」

「どのくらいの確率でですか?」

「ん、まあ……三割くらい?」


 低ッ!

 思わず仰け反ったあたしと、再びため息を吐いたアシュタロスさん。ルシフェルはルシフェルで、深刻そうな表情で腕を組む。


「何かいい案はないか? このままではあれだ、真子がボケねばならなくなる」


 だからといってあんたにツッコミができるとは思えん。


「……わかりました。少し試してみましょう」


 とアシュタロスさん。


「試す?」

「ええ」


 堕天使様はニッコリ笑い、ピッと指を一本立ててきた。


「大抵こういう状況に陥った場合は、何かしらの“衝撃”を与えれば元に戻りますよね」


 まあ、うん。


「ですから……」

 

 おもむろにルシフェルを見て笑みを深めたアシュタロスさん。そこから先は一瞬だった。

 

「こうしてみるんです――!」

「ッ!?」

「わぁぁぁ!?」

 《ひぅん!》《べきっ☆》

「ぎ、あッ!」


 ……これらの音は全て一気に発生。ちなみに「わぁぁぁ!?」はあたしの、最後の悲鳴はルシフェルのものです。


 どういう状況だったかというと。

 多分、アシュタロスさんがあたし……じゃなくてルシフェルを殴ろうとし、多分、それをルシフェルが首を反らして避けた。その拍子に首を痛めたルシフェルが悲鳴をあげた。と、こんな感じ。

 “多分”、とつくのは実際に見てはいないから。空を切る音と、腕を振り切ったアシュタロスさんの姿を見て判断しただけ。つまり……このルシフェルの動体視力を以てしても目視できない速さだったのだ。まさにマッハ。


「お、おまっ、お前……ッ」


 何よりすごいのは、そんなパンチを回避したルシフェル。目視できない程の拳を察知し、一瞬の攻撃を更に上回る速さで避けたということになる。身体能力も使い手次第なのかな。


「あ、危ないだろうがぁっ!」


 今は首を押さえて肩で息をしているが。グッジョブだルシフェル! 危うくあたしの顔が、放送禁止な福笑いになるところだったね!


「中身が私じゃなかったら確実に当たっていたぞ?!」

「わかっていますよ。ルシフェル様じゃなかったらやりません♪」


 ルシフェルは何か言おうと口を開閉していたが、言葉が出てこない様子。


「アシュタロスさん、何してくれちゃってんのさ。仮にもあたしは女の子だよ」

「う、その姿で“さん付け”されるとは……。いや、別に真子さんの体を傷つけるつもりはありませんよ。拳を当てて軽い脳震盪(のうしんとう)を起こしたらどうかな、と」

「……」


 悪気が全くなさそうで、責める気なんて毛頭起きない。なるほどね、善意だもんね。例えどれほど威力のある“軽い”でもさ。


「どうですか? お二人の頭をぶつけてみます?」


 あたし達は全力で首を振った。怖くて無理!


「こっ、ここはさ、古典的に原点に戻ってみようよ」

「原点に?」

「無駄かもしれないけど、最初と同じ状況を作ってみるの」


 なるほど、と堕天使二人はうなずく。


「もう一度眠ってみる、とそういうことだな」

「ではそのあいだ見張っておきますよ。僕はここにいますから、お二人はゆっくりお休みください」


 ……ということで。あたし達はこたつに入ったまま寝ることに。アシュタロスさんは傍らに座っていてくれるみたいだ。お休みなさーい。



***



 ……ん、……

 …………んん?!


 目の前にルシフェルが眠っている。あたしが眠っているルシフェルを見ている、ということはあたしはルシフェルじゃなくて、ということは、ということは……!


「やった! 戻っ……た?!」


 お?


「あー、あー、こんにちはこんにちは」


 あら?? 声、が?


「ん……おはよう真子……? あ、首痛い……」


 はわわわ!? あたしの前で“あたし”が起きた! 中身はルシフェル?


 ……えー。あたしはルシフェルの体と自分の体を見てるんだよね。これ、誰の視点……?


「……ああ、寝てしまいました」


 目を擦りながら起きた“ルシフェル”。敬語。

 彼があたしを見る。あたしも彼を見る。次第に見開かれる紅い瞳。あたしの姿をしたルシフェルが、何とも言えない呻き声を発した。

 ……これは、つまり――

 

「今度は僕がルシフェル様で?!」

「私は真子のままで?!」

「あたしがアシュタロスさんだって?!」


 め、めんどくせぇーっ!!


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