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第52話:文化祭二日目!

前回の続きです。


 文化祭二日目です。


 昨日と同じく玄関前で堕天使さんと待ち合わせ。今日はルシフェルだけが待ってるらしいから、あたしひとりで来たんだが。


 ……。

 ……見当たらない。昨日と同じ場所って言ったのになー。

 と、キョロキョロしていたら。


「(……真子!)」


 ?!

 突如響いた声は頭上から。……玄関脇の桜の木の枝に、麗しの堕天使長様が腰掛けていた。


「何してんの?」


 彼はひらりと飛び降りて軽やかに着地。


「いや、本当は昨日のように待っていたのだが――」


 ……ルシフェルの話によると、玄関前で立っていたら女性に取り囲まれてしまったのだそうで。もうすっかり有名人だ。


「次から次へと来る者が皆、“お一人ですか?”と聞いてくるものだから煩わしくて。面倒だから避難したんだ」


 あ、そ……。

 まったく、モテる男は辛いねえ。木の上にいるところを誰にも見られてなきゃいいけど。


「今日も真子と二人だね」


 ふわりと笑う堕天使長様。照れるって!


「で、アシュタロスさんとベルゼブブさんはどうしたの?」

「アシュタロスは用事があるとかで、私より早くに学校へ来ているらしい。ベルゼブブは今日は来られないそうだ」


 ふーん、残念だな。昨日楢崎先生とどうなったか、後で聞こうっと。


「まあとにかく早く行こう、真子」

「うん」



***



『おはよう真子!』

「おはよー」


 擦れ違う友達の中にも他校の友人や彼氏を連れてる人がいて。それでもルシフェルは一際目立っていた。


『あ、昨日の女装大会見ました! きれいでしたよ』

「そっ、そうだろうか」


 顔を赤くしてうつむいたのも可愛くて! でもルシフェルは女子が悶えてるのに気付かない。


『(く~! 羨ましいよ真子。こんなきれいな従兄さんがいて!)』

「(あ、あはは……。あたしにもその血が流れてれば良かったんだけどね)」


 ……絶対にないけどね。



 ところで、あたし達の学校には中庭とは別に裏庭もある。ビオトープ、って言ったりするのかな。池もあるんだよ。

 で、そこで茶道部による“お茶会”が開かれています。といっても和菓子をご馳走になるだけで、別段、作法とかは気にしない。


 まあ食い物となれば、うちの食いしん坊が黙ってないわけで。


「まずはあそこを制覇だ!」


 マジで全種類食べる気だよ堕天使長!


 裏庭に出てみると、既に人がたくさん。池の傍に設置された長椅子ではお客さんが休んでいた。赤い傘がそれっぽい雰囲気を醸し出している。風流だねえ。

 和服を着て歩いているのは茶道部の皆さん。文化祭期間中、茶道部だけは和服での行動が許されているのだ。


『――こんにちは。おひとついかがですか?』


 ぼーっとしていたあたし達に声をかけてくれたのは、薄紅色の和服を着た女子だった。か、可愛いぞ……。

 どこの学校にもいるでしょ? ホントに同い年かよって感じの大人びた子。目の前の彼女がまさにそれ。……君は茶道部に入って良かったと思うよ、うん。

 茶道部員さんはお盆を差出し、にこりと笑う。小桜模様の黒塗りのお盆の上には、小さな生菓子が乗っかっている。


「あ、それ、練り切りってやつですよね」

『はい。よく知ってますね』


 恐らくタメなのに、ついつい敬語を使ってしまう。可愛いんだもん。

 堕天使様はというと……


「……う、美しいっ!」


 は?! と慌てて見上げたら。


「美しいよ!」


 大興奮な彼の視線は……彼女、ではなくお菓子に向かっていた。そっちかよ!


『あ、はは……』


 茶道部員さんも苦笑していた。ごめん!

 くそう、女の敵だなルシフェルは! ど天然め。


『良かったらおひとつどうぞ?』

「いいのか?! 真子、ご馳走になろう!」


 はいはい、と答えてやりながらあたしはまだドキドキしてた。

 さっきルシフェルが「美しい!」と言った瞬間、ちょっとびっくりしてしまった。まさか茶道部の子に惚れたのかなあって……


 ……はっ。これは“嫉妬”なのか?! 不覚!!


「美味しい♪」


 堕天使長はご満悦。良かったね。


「真子も食べなよ」


 ならお言葉に甘えて……。

 おおっ。きれいなピンク色。甘さも優しくていい感じだ♪――



***



「次はどこへ行くんだ?」

「そうだなー」


 お茶会を後にしたあたし達は校内をうろうろ。祭りって雰囲気だけでも楽しいよね。

 堕天使長はお菓子を食べたからか、心なしか上機嫌だった。美味しかったね!


 あたしはパンフレットに目を通す。えーと、今やってるのは……


「おっ。体育館で劇やってるみたいだけど行ってみる?」

「面白い?」

「んー……。あ! 絶対面白いよこれ。ほら、見てよここ」


 演劇部による出し物である劇の紹介文の一番最後。


「えっ?!」


 ルシフェルも思わず声をあげた。

 そこには、


“なお、前日の女装大会優勝者の方にも特別出演をお願いしています。”


 の文章。優勝者ってことは……


「……それであいつは早く学校へ来ていたのか」


 ルシフェルが納得したようにひとりごちた。もちろんこの劇は見るしかないでしょー!



 体育館の入り口は劇を上演している間、常に開放されている。だから出入りは自由。でも私語は慎んで!


 そっと中へ入ると、暗い館内の座席は結構埋まっていた。ステージ上にはふたつのスポットライト。どうやらちょうど良く物語の佳境らしい。

 ちなみに題材は『ロミオと七人のジュリエット』とか書いてあった。“絶世の美男子・ロミオは貴族の息子。彼に言い寄る女性達。彼女達は金が目当てか、それとも愛故か? その全てを手玉にとる罪な美男子は、愛憎の果てに本当の愛に気付くのか気付かないのか?!”……って、もう訳がわからん。誰だよ考えたのは。


 ……さて話を舞台に戻すと。立っているのは一組の男女。男の方が多分ロミオだろう。で、女役はドレスを着てるからきっと七人のジュリエットのうちのひとりだ。

 美男子、とかハードル上がるよね。あたしには女役のが美人に見えるけど……なんてね。にしてもスタイルいいなあ、あの人。銀色の髪もとってもきれい……ってぇ?!


「(あれ、アシュタロスだよな?!)」

「(た、多分!)」


 堕天使さん、普通に出演してた!

 いやぁ浴衣だけじゃなくドレスも似合うねー。どうせならロミオ役でも良かったかも。

 

 静かな会場の中、ロミオ役の男子が大袈裟に両手を広げる。


『ああ《ジュリエ》、君はどうして僕の傍に居てくれるんだい? 僕はこんなにも汚れているというのに』


 あ、なるほど。ジュリエットがやたらいるから、名前はそれぞれ違うのね。


『答えておくれジュリエ! 君は《ジュリ美》や《ジュリ子》に比べたら、由緒ある血筋の娘だろう。お金には困っていないはずだ』


 えー?! ジュリエって、《ジュリ江》とかなわけ? 脚本家連れて来ーい!!


『お金なんて!』


 ジュリ江ことアシュタロスさんは胸に手を当て叫んだ。


『名誉も地位も、何もいりません。私が欲しいものはただひとつ、貴方だけなのです!』

『ジュリ江……なんで……』

『わかりませんか? 私が貴方を愛しているからです。貴方のためならば、私は喜んでこの命をも捧げましょう』


 は、迫真の演技だ……。とても女装した堕天使には見えない。アシュタロスさんの姿はまさしく“愛に生きる女性”だった。

 ……っていうか一日の練習でこの演技って。天才か!

 ちらっと隣を見たら、堕天使長様はぽかんと口を開けて固まっていた。


「(ルシフェル、口開いてるよ!)」

「(……えっ? あ、うん……)」


 慌てて口を閉じたルシフェルは、それでもまだステージ上を凝視している。今は、去ろうとするロミオをジュリ江が引き留めているところだ。

 アシュタロスさんの女装、それなりにショックだったのかなあ、と隣を気にしていたら、唐突にルシフェルはポツリと呟いた。


「(……私はどうすれば良かったんだろうな)」

「(へっ?)」

「(あっ、いや。私はあの男の気持ち、わからなくはないなーと)」


 ロミオ役の? そりゃあんたはモテるでしょうけど。


「(あんなに何人にも言い寄られたの?)」


 と小声で揶揄ってやれば、


「(言い寄られた……というか。“貴方の子供を生みたい!”とか言われた)」


 と眉根を寄せながら、堕天使長は同じく小声で返事をしてきた。ってそれ、完璧に言い寄られてるよっ。


「(……で、ルシフェルはその中から誰か選んだの?)」

「(誰も)」


 ……ん?


「(多分、誰も。あるいは皆選んだってことになるのかな……)」


 ……。

 拝啓レヴィ様。彼は本当に女の敵です。下手な優しさは相手を傷つけるよ!

 ……あたしもそんなに経験ないから、なんとも言えないけど。


「(まあ安心してよ真子。私はまだ独身だから)」

 

 そーなんだー。良かった~。

 ってあたしは何に安心してるんだろうか。別にルシフェルはそういうんじゃない……よねっ、うん。

 つーか堕天使も結婚ってするの?



 さ、劇はというと。

 (恐らく優柔不断であったろう)堕天使長様と違い、劇の中でロミオは無事幸せに結ばれました。その……ジュリ江と。ジュリ江って言うの結構恥ずかしいよ。

 アシュタロスさん、特別出演でまさかのヒロインかよ!


「面白かったねえ」

「ああ。特に“他の女を蹴散らした”シーンが」

「あれかー」

 

 ロミオに言い寄る女性達は様々な主張&アピールをしていたのだが、その彼女達をジュリ江ことアシュタロスさんは、


『何 か 仰 い ま し た?』


 の一言で撃破。恐ろしいくらいの爽やか笑顔と異様なオーラ……あの瞬間は素だったよアシュタロスさん。


 終了後、あたし達はちょこっと楽屋に顔を出してみることに。役者さん達にご挨拶したいなあと。


「いいのか? 裏まで私達が行っても」

「いーのいーの。他の人も来てるし。それに、ほら」


 ゆるーい感じの舞台裏、というかステージ裏には、演劇部員や助っ人の他にもたくさんの生徒がいた。みんな友人を茶化したり、労ったりするために来てるのさ。

 

『おっ、真子じゃん。見てくれたー?』


 青いドレスを着た女子が声をかけてきた。彼女はあたしのクラスメイト、且つ演劇部の新部長なのだ。

 するとルシフェルがいきなり消えた。……じゃなくて、あたしの後ろに隠れようとした。


「ど、どしたの?」


 答えたのは堕天使長ではなく演劇部長。


『あーっ! 昨日の!』

「ひっ」


 え、二人は知り合いなの?


『本当は出演してもらおうと思ったのに、断られちゃってさあ。真子からもなんか言ってよ』

「……ルシフェル、そうなの?」


 あたしが聞くと、堕天使様はこくんと頷いた。


「昨日、話があったのだが……」

 

 何時の間に……!

 部長さんは腕組みしながら軽くため息。


『もったいないじゃん! めっちゃ美人なのに』

「だ、だってまたあんな格好をするんだろう?!」


 ルシフェルはあんまり女装はしたくないらしい。……だからさ、ロミオ役で出してあげれば良かったのでは?


 まあ、なんかルシフェルが大変そうなので、あたしは助け船を出してやることに。


「あ、ねえ、アシュタロスさんは?」

『アシュタロスさん……って、ああ、ジュリ江役の人? その人なら奥にいるよ』

「ありがとう!」


 あたしはそそくさとルシフェルを連れて部長が指差した方へ。ふう。


「……助かった、真子」


 歩きながら、ルシフェルはちょっと安堵した様子で言った。


「いやいや。っていうか、出演依頼きてたなんて初耳だよ」

「話したら、出るように言われるかなと思って」


 ……。

 まあ確かにルシフェルのジュリエットも見たかったかも。


「お疲れー」

『あっ、お疲れさん』


 知り合いに声をかけつつ……いたいた。メイクを落としたアシュタロスさんは、椅子に座ってお茶を飲んでいた。


「お疲れ、アシュタロスさん」

「おや、真子さん。それにルシフェル様まで」


 銀髪美青年は慌てて立ち上がった。笑顔が爽やかっ。


「僕の演技、どうでした?」

「すごい上手だったよ! 絶対センスあるって。ね、ルシフェル?」

「ああ、まあ……」

「ははっ、ありがとうございます」


 その時、笑うアシュタロスさんの後ろから、


「――それはあちきのおかげでやんすよーっ!」


 謎の口調で飛び出してきたのは黎香。神出鬼没だな爆弾娘!


「……黎香、出てたっけ?」

「ううん、黎香はアッシュのコーチ! 演技指導さ☆」


 そーなの?! じゃああの演技は黎香の指導の賜物?


「黎香のアドヴァイスはすごいんだから!」


 無駄に発音いいな。


「それはねえ……」

「うん」

「ずばりッ! “役になりきること”!」


 おおっ!


 ……ってなるかコラ。普通過ぎるだろ。


「それは素晴らしいな!」

「でしょー?!」


 うんうんと頷くアホ堕天使長がひとり。くそっ、あたしの周りにはボケしか居ないのか!

 頼みの綱のアシュタロスさんは……


「…………」


 ニコニコ笑って聞いてました。心優しいアシュタロスさんのことだ、やんわりと全面スルーのつもりなんだろう。ツッコミはいねぇがぁぁ……。


「……でもね、役になりきったのは本当ですよ」


 するとアシュタロスさんがそっと囁いてきた。


「愛する人を思い浮かべましたからね」

「え?!」


 うわぁマジか。昨日からだけど、気になるなぁ。アシュタロスさんって意外と情熱的?


「ちょっと気になるんだけど、それって誰なの?」

「んー。真子さんも知っている人かもしれないし、知らない人かもしれません。いずれわかるかもしれないし、わからないかもしれません」

「へ?」

「要するに、今は秘密ってことです♪」


 アシュタロスさんはくすくすと笑う。うむぅ。

 

「そうだ。今日の夕方に演劇部の皆さんと打ち上げがあるんですよ。良かったら真子さんとルシフェル様も来ませんか? 色々お菓子を用意してくださるそうですし」

「お菓子っ?」


 ルシフェル反応早いなー。


 うちの文化祭は、終わった後も片付けしながらみんなでプチ宴会を開く。某Mドーナッツやら某Sピザやらを中庭で広げて、上下の区別なく楽しむのだ。


「でも、まだ全部の模擬店まわってないよな真子?」


 やっぱり食べる気か。えーと、残ってる食券は……


「まだ食べてないのは……フランクフルトと鈴カステラと玉こんにゃくと――」

「た“まこ”ん?!」


 ……うん、もう突っ込まないぜ。


「じゃ、アシュタロスさんに黎香、また後でね!」

「はい」

「バイビー♪」


 ボケを放置したままあたしが背を向けると、ルシフェルは慌ててついてきた。


「ね、ね、真子。私、真子を食べていいの?!」


 ……!


「発言が際どいからやめれーっ!」

「わあっ」


 そうか、堕天使長様の場合は素でボケだもんね。

 

「よし、その“たまこんなんとか”とやらも含めて、たくさん食べるぞっ」


 ……ま、後で訂正すればいっか。


 てことであたし達は再び中庭へと繰り出したのでした。さあ! 文化祭後半戦、楽しむぞー♪


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