第51話:暴走? 女装大会♪
前回の続きです。なんかもう……ごめんなさい(笑)。
いよいよ文化祭名物《女装大会》の始まりだ。
大勢の人で埋まった体育館の中央には、ステージから伸びるように通路が設置してある。まるでパリコレ。
大会には学校枠の他に一般枠があり、生徒以外も参加できる。そんな奴いるの?って思ってたけど、いるのだ、意外と。OBとか他校の生徒とか……こんな時しかできないから、と興味半分で参加するらしい。まあおかげで堕天使さん達も参加することになったけどね。
女装した出場者達はファッションショーのように観客の前を歩く。観客全員が審査員で、後で投票箱に投票することになっているというわけ。
あたしと黎香はなかなかいい席を確保できた。じきに、立ち見が出るほど混むだろう。
《はいはいはーい! 調子はどうだいBaby?!》
「「イエーイ!」」
舞台端に現れたDJ風の男にスポットライトが当たる。
《やってきたぜ本日の目玉・女装大会! 引き続きMCを務める守田ですヨロシクゥゥッ!》
テンション高ぇ……。あれも三年生だというから、ある意味尊敬だ。来年、あたし達はできるんだろうか。
「いいぞタモ○ー!」
違うぞ黎香!
《Everyone撮影は禁止だぜ。どーしてもな奴らは後で個人的に交渉してね♪》
と、準備が整ったようだ。体育館が暗くなり、通路を彩る電球が点灯。
大音量のBGMと歓声の中、幕が上がった。ついにスタートだ。
《そんじゃいくぜぃ! 男達の不思議ワールドへご招待だぁぁッ!》
―――――
《OK、こっからは俺が解説するぜ》
(お願いします、守田先輩)
【No.1:メイドだにゃぁ♪】
《おおっと、これは初っぱなから濃いぜ! 具合悪くなった人は早めに抜けてくれYo!》
(失礼だなオイ)
《さて女装の定番メイド服での登場だ。うーん、黒エプロンに白いフリルがなんとも絶妙に気色悪いな!》
(せ、先輩!)
《って猫耳なんて着けちまって! ……あれ? 野中じゃね?! てめ、そんなキャラかよ。意外と似合ってんのがムカつくぜ!》
どうやら最初に登場したメイドさん達は三年生らしい。一応みんな化粧してるから、それなりには見える。
守田先輩はしばらく彼らをいじり倒していた。
―――――
【No.2:ハジケろ! チアガール☆】
続いて出てきたのは大勢のチアガール達。
《男の憧れ、チアガールにむしろ自分達がなってみようなんて素晴らしいぜ! ぅおっと、ちゃんと技も決めてきたぁ! これは点数高いぞ》
(めっちゃ練習したんだろうね)
《……ん? まだひとりいるみたいだぞ!》
幕の向こうから軽く駆けて来たひとりのチアガール。彼……いや彼女は勢いをつけて鮮やかな宙返り、そのままステージ中央に着地。
《ヒュー! あっぶねぇ、お嬢さんそんなミニスカートでアクロバットしちゃダメだぜ!》
「あァん?」
(…………もしや)
「あははは! 真子ちん、あれって!」
隣で黎香が大爆笑。
チアガールは金髪(勿論、かつら)を掻き上げた。
「クロたんじゃーん!」
「るせー! オレ今むちゃくちゃ恥ずかしいンだっつーの!!」
ベ、ベルゼブブさーん!?
……いや、あながち笑ってもいられない。脚が! 無駄に美脚だよ堕天使さん!
《可愛いねお嬢さん! 今度俺と遊ばない?――》
「んだとてめえ……」
怖いって。
「もういっぺん言って欲しいなコノヤロー!!」
ちょっと喜んじゃった?!
―――――
【No.3:君がいた夏は……♪】
《さ、さぁ続いては……おっと、Cool downの時間がやってきたようだ。目の保養にHere we go!》
(あっ、あの銀髪は……)
《まだまだ夏は終わってないぜ。日本伝統の女力Up服、浴衣での登場だ。シックな黒地に桜模様が映えてるねぇ!》
「真子ちん、アッシュだよぅ!」
(……美人過ぎるだろ)
《下駄の鼻緒と髪飾りの赤色がキュートだ! ヘイ、ホントに男かい?!》
そう言いたくなるのもわかる。アシュタロスさんの浴衣姿は夏祭り以来だけど、今日は銀髪をアップにして更に化粧もしているので、もう……めちゃ可愛い。
《お祭りでこんな女の子が一緒だったら超Happyだよな。俺なら迷わずお持ち帰り――》
「アッシュは黎香の師匠だぞぉっ!」
先輩に飛び掛かろうとする黎香を必死で止める。
アシュタロスさんは、そんなあたし達をちらりと見て苦笑した。それからくるりと一回転して、ウィンク。
会場のボルテージは最高潮。今ので一体何人の男がおちたんだろう……。
『ぶふぁっ!』
数名の観客が鼻から出血。急遽、体育館の外へと運ばれて行った。
《セクシー過ぎるぜお嬢さん! 是非付き合ってくれYo!》
えー?! 先輩?!
アシュタロスさんは下駄にもかかわらず、タンッと床を蹴り……跳んだ。そして暴走MCの目の前へ着地し、ニコリと微笑む。
会場が冷やかす中、彼に向かって一言。
「すみません。僕には想い人がいますから♪」
さらっと爆弾発言をした浴衣美人は、固まるMCを置き去りに上機嫌で去って行った。……ってマジ?!
―――――
【No.4:正統派・制服で青春Enjoyしちゃおう☆】
《…………》
(あ、あれ。先輩凹んだ……?)
《OK、さっきはフラれたが俺はまだ諦めないぜ!》
(立ち直り早いよ)
《これからもっとたくさん素敵なGirl達が出てくるんだもんな。みんな、愛は必ず伝わるから諦めんなーッ!》
「「イエーイ!!」」
(……。いや、男だからね?)
《さあやって来ました制服! 男なら一度は着てみたいと思うだろ?》
続々と出てきたのは制服姿の男子。多分、女子から借りたんだな。
化粧と髪留めをしてれば、それなりに形になるらしい。中にはホントに可愛い子もいたりして。例えば……
《ようやく出てきたなチャンピオン! さすが、素晴らしい着こなしだぁ! 脚が細くて羨ましいYo!》
夏服で颯爽と登場したのは奏太。今日は前髪をピンで留めている。爽やかなスポーツ少年は女装しても爽やかだ。
『虎谷くーん!』
『いいぞ奏太ーっ!』
人気も上々。だって普通にカッコいいもん。
《すごい声援だ! これは今回も虎谷の優勝で決まりかぁ?!》
かもしれないな。一番しっくり来てる……っていうのは失礼か。
でも堕天使二人もかなり可愛かった! 今回はレベル高いぞ。
……で。
ルシフェルは……?
―――――
その後、生徒やらOBやら時には先生まで出場しちゃって、会場は熱気で大変なことになっていた。
黄色い悲鳴もあったが、大抵は普通の悲鳴……だった気がする。もうみんなのはっちゃけ具合に爆笑だ。
……ちなみに守田先輩は次々に女装した男子を口説いていた。そのたびにフラれていたけれども。……いや、男だからね!?
《ここで残念なお知らせがあるぜぇ。盛り上がった女装大会、とうとう次が最後のGirlだ》
『ええ~っ!』
あっという間だったなぁ。
……そして、ルシフェルがまだ出てないんだなぁ。ということは。
―――――
【Last No.……】
《今年のトリは超期待大だぜ。更衣室にいた男共がPerfectなBodyだと大絶賛! みんな、惚れるなよ?!》
幕から出てきた長身のシルエット。多分、いや間違いなく彼です。
けれど全身がフード付きマントで覆われていて、顔すら満足に見えない。
『……?』
『どうしたんだろ?』
ざわめく会場。彼(もう彼女かも……)は一度だけMCを振り返った。
「(……本当にやるのか?)」
《当然だぜ。自信持ちなBaby!》
はあ、とため息ひとつ。彼はステージ中央まで歩いて来て、ついにマントを――脱いだ。
バサッ、という布が落ちる音が静かな会場に響く。
誰も言葉が出ない。無論あたしも絶句。
しばしの沈黙。そして……
『――っ!!』
《ややヤバいっ、これはヤバいぜ~ッ! 俺としたことが、見惚れて解説するのを忘れちまった!》
一気に大歓声に包まれた体育館。
それもそのはず、ステージに恥ずかしそうに立つルシフェルは……あまりにも美少女過ぎた。いくらか想像はしてたけど、軽く越えたね、うん。
《うおおおっ! 俺にKissしてくれよハニー!!》
……。
守田先輩が解説を放棄したので、あたしが説明しますと。
想像してくださいよ。
黒髪をちょこんと二つに結って(この時点で超可愛い!)、頭にはサンバイザー、トップスは鮮やかな黄色のキャミソール(腕!)、ボトムスはデニムの短パン(脚長っ!)、そして足元はミュール。
……。
露出多過ぎ! 色んな意味でナイスチョイスだよ奏太!
《ギブミーKiss!!》
「だ、ダメだ! 私の《祝福の口付け》はお前達に簡単にできるものではない!」
すっかりキス魔と化した先輩に、ルシフェルはなんだかよく分からないことを主張していた。祝福の口付けって、何?
MCの暴走、黄色い悲鳴に揺れる体育館、奥からぞろぞろ出てきた出場者の皆さん。最終的にはグダグダな感じで、女装大会は幕を閉じたのだった。
混乱状態のお祭り騒ぎの中、ルシフェルは人混みでもみくちゃにされていた。
「や、やめろっ! 気分を害したならば謝るから! ちょっ、変なところを触るな貴様ぁぁッ!」
……多分彼はまだ勘違いしているんだと思う。色々と。
***
大会終了後、あたしは男達の控え室である教室へ行ってみた。何の係でもないから、周りが明日の準備をしてる時間は暇なんだよね。
後片付けと大会の余韻でざわざわしている中で、小道具を片付けている奏太を発見。
「お疲れ、奏太」
「あら、真子ちゃん! お疲れさま♪」
制服姿があまりに馴染んでいてなんだか面白い。いっそ毎日女装しちゃえ!
奏太は化粧道具を抱えて笑う。
「二連覇狙ってたんだけどな~。今回はレベル高かったぁ」
結局、女装大会の優勝者は言うまでもなくルシフェル……
ではなくて。なんと、優勝したのは同じ堕天使のアシュタロスさん。確かにありゃ美人だったぜ。ルシフェルは準優勝だ。
決め手はあの爆弾発言だったらしい。人気投票となるとインパクトが大事だからね。
アシュタロスさんの想い人ねえ……。気になるわ。
「奏太も十分可愛かったよ」
「ありがと♪ チャンピオンは報道委員会の取材受けてるわよ。ホント、美人さんだったわ~」
奏太はため息を吐く。
「ところで奏太、ルシフェルは?」
「ああ、あっちに……」
示された先に視線を移すと、目立たない部屋の隅にパイプ椅子がひとつ。そしてそこに腰掛けた“少女”。
「……大丈夫なの? あれ」
「……燃え尽きてるわね」
ぴくりともしない堕天使長からは異様なオーラが出ていた。まさに真っ白に燃え尽きた……ように見える。
ふう……。
意を決して隅の方へ。ぐったりしている堕天使様の肩を軽く叩く。
「ルシフェルー?」
「……あ」
!!
目が合った瞬間、思わずドキッとした。まだ化粧落としてなかったのね!
「真子~……」
美少女な彼は泣きそうな声をあげる。その様子が可愛くて、座っている堕天使様の頭に手をのせてぽんぽんと叩いてみた。
「お疲れ様、ルシフェル」
「うん……疲れた」
魔王のくせして超可愛いぞ! 母性本能くすぐりまくりなんですけど。
でも、よっぽど頑張ったんだね。すっかり疲れ果てちゃって。
近くで見ると胸なんてもちろんないし、手足も筋肉質で男性的だ。けど色っぽいことは確かで、女装も悪くないかな、なんて思ってしまった。イケメンは女装しても美人であるということが判明。
「あ、そういえばルシフェル、さっき言ってた《祝福の口付け》って何?」
そう言うと堕天使様は一瞬“しまった”という顔をしたが、すぐに苦笑しながら頬を掻いた。
「私、そんなことを言ったのか」
「う、うん」
「いや、既に堕ちた私があまりこだわることではないのだけど……。新しく誕生した天使達に《祝福》として口付けていたんだ。主のご加護がありますように、幸福が訪れますようにと」
あ……。なんか聞いちゃいけなかったかも。ルシフェルはあまり堕ちた理由とか言いたがらないから、ね。
「ごめん、変なこと聞いて」
「? 別に構わない――」
その時。
『いたっ! いたわ!』
『キャーかっこいい!』
『どこの人なんだろ?』
わいのわいのという声に二人で振り向けば。
「ひぇっ」
がたりと身を引いたルシフェル。
それもそのはず、教室の入り口には何人もの女子がたまっていた。まままさかルシフェルの追っかけ?!
「真子、帰ろっ」
その前にメイクを落としなさいっ。
彼は慌てた様子で立ち上がると、化粧落としを取りに行った。が、
「のわっ!」
《びたーん》
……コケた。
「歩きにくい靴だッ」
そしてミュールに悪態をついた。ちょっと前まで普通に歩いてたじゃん!
ていうかルシフェル、明日も来てくれるかなぁ。
前述の通り、文化祭は二日間にわたって開催される。堕天使さん達はどちらも来ると言ってたけど、この調子じゃ……
「ルシフェル、明日も来る?」
「当然」
即答!
「まだ全ての模擬店をまわっていないからなっ」
く、食いしん坊め……。
「で、明日は何があるんだ? 男装大会? 裸祭り?」
うちは変態学校じゃありませんッ!
……。
裸祭り?!
「明日は劇と吹奏楽部のコンサートがあるよ」
「ふぅん……」
今日みたいなハジケたイベントはないけれど、それでも盛り上がるものだ。ま、その分ゆっくり展示や模擬店を楽しめるしさ。
「私、普通の格好でいていいのだな?」
……。
「もう女装しなくていいんだからね?」
「よかったー……」
したければしてもいいよルシフェル。どっちにしろ美人なんだから、ねっ!
次回に続きます。




