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第50話:文化祭一日目!


 さて、今日は待ちに待った文化祭当日!

 あたし達の学校の文化祭は二日間にわたって開催される。一般開放は初日の午前九時からだ。


 いつもより少ない荷物を片手に校門を抜けると、玄関前の中庭ではもう三年生が模擬店の準備をしていた。色とりどりの看板の周りでは、首からタオルをさげた先輩方が忙しなく動いている。お疲れ様です。


 ……しかしまあ、先輩方の食券の売り込みは凄まじかった。

 文化祭の一週間ほど前から昼休みと放課後の売り込みが始まる。どのクラスも利益がかかっているので必死だ。


―――――


 連日、昼休みに弁当を食べ終わると既に廊下にいた先輩方。教室を一歩出た瞬間に、怒涛のキャッチセールス責めが始まる。


『ちょっといいかな? うちの食券買ってくれない?!』

『3組の白玉アイス食べて!』

『生ジュースと唐揚げ、今ならセットで10円引きだよ!』

『6組名物モッフルはいかが?!』


 もうすごいすごい。知らない人だろうとお構い無し。

 確かに食券を買っておいた方が、当日は並ばなくてすむからいいよね。使わなかったら後で換金できるし。


 あたしももちろん何枚か買わされた。先輩方の話術は巧みだ。気付けばみんなで財布を手に持っていたり。

 ただやっぱり時には断らないと。特にあたしは生活費がかかってるからね!

 一番有効なのは、


「あっ、それさっき違う先輩から買いました」


 だ。模擬店はクラスごとなので、こう言えば大抵の人は諦める。ジュースの券とかいっぱいあっても仕方ないしさ。

 そうして断られた先輩方が行き着く先は……


「にゃははは! この黎香様のところへいらっしゃーい!」


 ド金持ち・三ノ宮黎香。だからって、全種類買わなくてもいいと思うんだけど。


―――――


 今年は堕天使さん達の分も買ったのでちょっと多め。えへへ、何食べよっかな♪


 教室は展示で使われているので、普段とは違う部屋に登校。みんなテンション高い! あたしもだけど!


「はい、おはよー。お前ら燃えてるかぁぁ?!」


 楢崎先生もテンション高いぜ。彼女が教壇に立つと朝のホームルーム開始だ。


「あー、今日から文化祭だが。くれぐれも人に迷惑をかけないこと。二日間、全員が楽しめるようにな」


 たまには先生っぽいこと言うのね。


「携帯電話の使用は普段と同様。見つけたら没収するぞ。いいか、“見つけたら”没収だ」


 ……それは暗に見つからなければいいってことかしらん? まあ、みんな浮き足立ってるから、多少ハメをはずしても今日はオッケーだろう。


 続いて議長からだ。


「午後のイベントに参加する男子と手伝ってくれる女子は、お昼前にここに集合していてください。みんなで文化祭を成功させましょう」


 はーい。ってことは、ルシフェル達を連れて来ればいいわけね。


「そんじゃお前ら、二日間目一杯楽しめよ。文化祭スタートだぁ!」

「「おぉーっ」」


 楢崎先生の言葉が終わると、生徒達は一斉に教室の外へ。

 あたしもパンフレットと財布(と携帯電話)を持って流れにのる。向かうは体育館だ。


「楽しみだね真子ちん!」

「そうだね」

「でさ、九時に玄関前に行けばいいんだよね」


 道中黎香と話しつつ、廊下を歩いていく。

 これから体育館で行われるのは、生徒に向けたオープニングビデオの上映(By.生徒会)。その後、一般開放。玄関前で堕天使さん達と待ち合わせしているのだ。



 ということであたし達は、ビデオ上映、ステージ発表のMCの紹介、展示・模擬店の宣伝が終わった後、すぐに玄関へ。

 途中、もう既にカップルで行動してる人達をみかけた。憧れるけど、恥ずかしくないのかなあ? ……ルシフェルと歩いてたら、周りからそんな風に見られるんだろうか。


「めっちゃ人いるねぇ!」


 開放されてすぐだと言うのに、玄関前や中庭は大人や他校の生徒達で賑わっていた。油断するとはぐれてしまいそうだ。

 果たして堕天使さん達を探せるだろうか……と、思っていたら。


「いたよぅ真子ちん!」


 そう言って黎香が駆け出す。

 案外彼らは簡単に見つかった。……やっぱり何か違うオーラが漂っているのか、堕天使三人の周りには微妙な空間ができていたからだ。


「アッシュー!」

「あ、黎香さん。それに真子さんも。おはようございます」

「おはようアシュタロスさん。ルシフェルとベルゼブブさんもようこそ」

「ヒャハッ。楽しそうじゃねぇか!」


 三人とも今日は普通の格好だ。言うまでもなく……イケメンが三人。


「珍しいね。アシュタロスさんが人間の洋服着てるのって」

「はい。ルシフェル様にお借りしました」


 なるほどね。

 アシュタロスさんはハイネックのセーターを、ルシフェルはジャケットを着ている。ベルゼブブさんは、まあいつも通りレザー系のコートを羽織っていた。みんなスタイリッシュだぜ。


「午前中は色々見てまわろう。何か食べたりしながら」


 そんなことを話していたら。


『あーっ!』


 突然響いた叫び声。発したのは……茶髪の適当教師。


「おい、進藤! そこの男、紹介しろって言ったじゃん」


 玄関からつかつかと歩いてきた楢崎先生はベルゼブブさんを指差した。そ、そういえば言われた、かも。


「いち、にぃ、……ほら、私をいれれば人数もちょうどだ」


 そう言うと、若干ビビっているベルゼブブさんの腕をがしりと掴む。そのまま楢崎先生はあたし達に軽く手をあげて。


「じゃっ、そういうことで」


 行ってしまった。……意外に強引なんだな、先生。


「ぅおいッ! てめえら笑ってないでとめろよ!」

「いいじゃないかベルゼブブ。お前、その女性が気に入ってただろう」

「仲良くなさってくださいね♪」


 堕天使二人はひらひらと手を振った。


「薄情者ォっ!……」


 ……。

 多分、あの二人のことだから何かしら噂にはなるだろう。……どうしよう、ホントに付き合ったりしたら。

 ……それはないか。


「ぅあっはははは! クロたん連れて行かれてやんのー!」


 黎香は腹を抱えて笑っていた。

 さてさて、四人で取り残されたわけだけれど。


「二人ずつでいいんじゃないっ?」

「……ですね」

「うん、まあ」


 黎香の提案により、あたしはルシフェルと二人だけで校内をまわることになった。


「じゃあまたね真子ちん! アッシュ、黎香とデートだよぉ☆」

「はは、では僕がリードしなければなりませんね」


 紳士だぜアシュタロスさん。


「二人とも、お昼前には教室に行ってね」

「はぁい」

「わかりました」


 親子みたいな凸凹コンビは校内へ。楽しそうだな。


 ……デート、ねえ。


「私達も行こう、真子」


 ふと見上げれば眩しい笑顔。


「うん!」


 ――去年よりずっと楽しい文化祭になりそうです。



***



「どこから見る?」

「んー。私、この学校のつくりとかよくわからないから、真子に任せるよ」


 あ、そっか。


 文化祭ではいくつかの教室を使って展示が行われる。中庭では模擬店、同時進行で体育館では有志によるステージ発表をやっているはずだ。


 あたし達はとりあえず一通り展示を見ることにした。

 学年展示、図書局による古本の販売、美術部の似顔絵無料体験などなど。来年は模擬店の運営があって見られないかもしれないから、たくさん見ておこう。

 ルシフェルは文芸部の展示と、料理愛好会の手作りクッキーに興味を持った模様。でもそのクッキーを食べて、


「美味しい、けど真子の方が上手いね」


 と言ってくれた時は嬉しかった。ありがと!

 

 あと時折すれ違う男子生徒に、

 

『おはようございます兄貴、進藤先輩!』

 

 なんて何回か声をかけられた。よくよく考えたら、恐らく池田君が率いる空手部のメンバーだったに違いない。ちょっと恥ずかしかったよ。

 

 

 ……ところで、薄々視線は感じてたんだが。

 そろそろ中庭に移動しようとした時に、とうとう廊下で出会った友達に捕まった。


『ちょっとちょっと真子!』


 彼女達はあたしだけにヒソヒソと。


『何あの美形お兄さんは! 彼氏?』

「いや、従兄」

『えー! じゃあ《アレ》に出るっていう?!』

『めちゃくちゃきれいな人じゃん!』

『ね、連絡先教えてよ!』

『わたしもー!』


 色めきたつ彼女達を前に、あたしは苦笑するしかない。確かに廊下で出くわす人達の視線はルシフェルに向かっていた。

 罪なイケメン堕天使長はおずおずと口を開く。


「あ……真子? お腹空いたし、そろそろ行かないか?」

「そ、そだね!」


 ルシフェルは携帯持っていないんだという説明で、彼女達は渋々納得してくれた。


『じゃ、午後楽しみにしてるから!』

『もう、黎香も銀髪のきれいな人と一緒だったし……あんたら隅に置けないなぁっ!』

『っていうか聞いた? 楢崎先生が……』


 つ、疲れる。


「真子、大丈夫?」

「うん。……ルシフェル、美形は辛いんだね」

「ビケイ?」


 ルシフェルは首をひねりつつ、自分を指差した。


「私、ビケイなのか?」


 もっと自覚を持て堕天使長!



 中庭に出たあたし達は、食券で適当な昼食を購入。

 ルシフェルには足りないかなって思ったけど、明日のことも考えて軽食で我慢我慢。それでも堕天使長は喜んでいた。


「外で食べるというのも、なかなかいいな」


 暑くはないけれど、日が出ているのでいい感じの天気だ。晴れて良かった。

 ルシフェルは三年生からポテトやらアイスやらのサービスをしてもらっていたし。ついでにあたしもね。


「すごいんだな……」


 ルシフェルは、模擬店のマスコットとして動いている着ぐるみを見て呟いた。あの中身はもちろん三年生だ。


「なんだか午後、どうにかなりそうな気がしてきたから不思議だ」


 言って小さく笑う。祭りの空気ってさ、何やってもいいやって気分になるよね。

 座るあたし達の目の前を、不気味なメイクの男子数人が駆けて行った。

 午後、といえばもうすぐお昼。教室に準備しに行かなければならない時間だ。


「ルシフェル、そろそろ」

「ああ」

「……もう覚悟はできた?」


 恐る恐る聞くとルシフェルは不敵に笑った。


「やるしかなかろう。楽しんでやるさ」


 その返事を聞いて安心したよ。だってあのイベント、すごく盛り上がるんだから。


「しかし、まさかこの私が……」


 ルシフェルがちらと見た先にはメイド姿の三年生。


「……《女装》する羽目になるとは」


 午後の一大イベントである《アレ》、それは

 

《女装大会》

 

 なのです!

 最初に聞いた時は“?!”と思ったけど、実際見てみたら……案外楽しいのだ、これが。


 

 教室へ行くと、数人のクラスの男子と奏太がいた。奏太は既にマスカラをつけてたし。


「あっ、いらっしゃいルシフェルさん!」


 ルシフェルの顔が引きつっていたのは気のせいではないだろう。

 あたしは化粧とか不得意だから、もっぱら観客として見るだけだ。


「じゃあ真子ちゃん、楽しみにしててね。もとがいいから絶対大成功よ」

「頼むよ、奏太」

「まっかせなさい! だてに前回優勝してないわ」


 ちなみに奏太は去年、一年生ながらも優勝したのだ。彼曰く、


「別にそういう趣味があるわけじゃないからね!」


 だそうです皆さん。口調がそれっぽいだけで。


「……真子」

「なに?」

「……吐くなよ?」


 自信なさすぎだ堕天使長ー!


「大丈夫よ。さ、脱いで脱いで♪」


 奏太の際どい発言と共に、ルシフェルは不安げな表情のまま教室の中に引っ込んだ。可愛いじゃないか。


 それに比べて……


「あ、真子ちん♪」

「お二人共、早いですね。それでは僕も……」

 

 黎香と一緒にやって来たアシュタロスさんは、何の躊躇いもなく教室へ入っていった。さすがだ……。


「ほいじゃあ黎香達は体育館へゴー!!」

「おーう」


次回に続きます♪

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