第5話:堕天使とお散歩
あたしは焦った。マジで焦った。
寝坊した? いやいや違う。今日も休みだから。
宿題溜まってる? いやいや、それ、いつものことだから。
じゃなくて!
朝起きて居間に行ったら……
首吊り死体が!
……ごめん、嘘。
でも最初はホントにそうだと思った。
だってさ、ルシフェルってば“浮かんだままで”寝てるんだもん。手足をだらんと投げ出して直立姿勢で浮いてる人影見たら、誰だって焦るっしょ?!
まぁ落ち着いて見たら、背中に翼が生えてたんだけどね。
「ん……あぁ真子か。おはよう」
「おはよう……って“真子か”、じゃないよ。何してんの?!」
あたしが言うとルシフェルは音もなく床に降り立った。それと共に翼も消える。
「何って。睡眠をとっていた」
「浮いて?」
「そう。下で寝るのは体が痛いから、試しに」
そっか。いや、あたしも悪いけど……朝からすごいもの見たわ。目が覚めた。
「真子」
「ん?」
「……腹が減った」
言ってルシフェルは自分のお腹をさする。うわー、ルシフェル細ー、てか薄ーい……
はっ! いかんいかん。危うく女としてのプライドを自分でズタズタにするところだった。にしてもホント、長身痩躯って感じだわね。え? そのまんま?
「……すぐ作るから。いっぱい食べてね!」
「え? あぁ」
ふふん。今日は朝からヘビーな生姜焼きにしてやるわ。
***
「ごちそうさま」
いっぱい食べてね! ……と言った手前、なんともアレなんだが。
ルシフェルはすげー食べた。そりゃもうその体のどこに入るのかってくらい食べた。……まぁ作った分を残さず食べてくれるのは、作る側としてはとっても嬉しいのだけど。
「お腹痛くないの?」
「全然。もう一回朝食でもいい」
あんたの胃袋はブラックホールかッ。
呆れていると、ふっとルシフェルは笑う。
「だって真子の料理はおいしいから」
出たな乙女キラー! いつ言われても純粋に照れちゃうぜ!
……あ、でもこれだけ食べたらルシフェルも太るかな?
「真子、今日も休みなのか?」
「そうだよ」
「…………」
ん? なんだろ?
気になったけど、とりあえずあたしは片付けをしに台所へ向かう。
皿を洗い始めてしばらくすると居間から声が響く。
「真子、今日も休みか?」
「そうだよー」
「……暇だな」
「そうだねー」
「……昼までだいぶ時間があるようだな」
「そうだねー」
「…………良い天気だな」
…………。
「……外に行きたいの?」
「そう聞こえたか?」
そうとしか聞こえなかったよ。
ふむ。まっ、時間あるのも事実だし、たまには
「散歩でも行く?」
***
ってことで、あたしとルシフェルは近所を散歩することにした……んだけど。
色々あったよ、うん。
例えば……
・あてもなくぶらぶらするあたし達
・途中で木陰で一休みしているお婆さんを発見
・傍らには重そうな荷物
・ルシフェル、何のためらいもなく心配して声をかける
・(もちろん)あの爽やか笑顔で
・お婆さん、顔をあげる
・途端に顔を真っ赤にして走って逃げて行った
・ルシフェル首を捻る
・あたし、ひたすら呆れる
とか、
・公園の横を通りすぎる
・何人か子供が砂場で遊んでいる
・おもちゃの奪い合い勃発
・勢い余ってプラスチックのバケツが飛んでくる
・ルシフェルにヒット
・気付かない子供達
・なんか“プチッ”って聞こえる
・砂場だった場所に巨大なクレーター出現
・ルシフェル無表情
・子供大泣き
・あたし苦笑
…………。まぁ色々あったよ。
ルシフェルは子供嫌いなのかな? 聞いてみたら、
「いや……」
って渋い顔してた。ふーん。
あ、あとね。ちょっと珍しいことがあったんだ。
公園過ぎたあたりであたし達、巣から落ちちゃった雛鳥見つけたのね。
―――――
「あ! この子、まだ生きてるよ」
あたし、戻してあげようと思ったんだけど巣の位置が高い木の上で。
だからルシフェルに戻してって頼んだら……首を振られたのだ。
「真子、人の手で戻された雛はすぐに親鳥に殺されてしまう」
「な、なんで?」
「彼らは自分の子を、侵入者だと思ってしまうから」
でも……
「ここにいても死んじゃうよ。どうにかならない?」
彼は暫し考えていたが、やがてひとつ息をつくと、屈み込んでその雛鳥を両手で包んだ。
「あまりこういう自然の流れに介入したくはないが……」
ぶつぶつ言いながらも、既にルシフェルの背中には漆黒の翼が現れていた。
「人が来ないといいがな」
言うや否や、彼は翼を大きく羽ばたかせ飛び上がった。
結論から言うと、ルシフェルはちゃんと雛鳥を巣に戻してあげた。
そっと雛を戻した時、親鳥がすごく鳴いて威嚇してたみたいなんだけど……ルシフェル、その親鳥を撫でながら何か呟いて。そしたらびっくりするくらいおとなしくなったの。うーん、さすがだわ。
あの時のルシフェル、本当に優しい顔してた。天使なんだなぁって思ったよ。
…………そういえば、なんでルシフェルは堕天使になったんだろ?
「真子、行こう」
本人には、聞けないよね。
***
ま、そんなこんなで今日も無事一日が終わっ……てねぇ!
「うぅ……っ」
あたしが夜中に半ば泣きながら、必死で課題を片付けたことは言うまでもない。ぐすん。
読者の皆様こんにちは。作者の笛吹葉月です。読んで下さり、ありがとうございます!アクセス数やメッセージに大喜びしております(笑) よろしければ、是非感想など気軽にお送りください。 “こんなシーンが見たい!”とか“あの悪魔出して〜!”等々、随時受付中です。……ちなみに他の堕天使さん達は10話前後に登場予定です♪ では、これからもよろしくお願いします!