第43話:そんなこんなで準決勝
前回の続きです。
爆発に揺れる会場。響く大歓声。そんな中でもちゃんとメモをとるレムレースさん達……。
どうも、真子です♪
大会が始まってから結構な時間が経つけど、全然飽きることがない。こんな貴重な体験、普通はできないし。
見たことのない堕天使さんや悪魔さんの試合も面白いよ! ふと、みんな人間じゃないんだもんなーと思ったり。あんまりにもうちの居候が人間らしい生活してるから、ついつい忘れちゃってたよ。
《それではこれより準決勝へ移ります》
アガレスさんの美声が響きわたる。もう準決勝かあ。誰が当たるの?
《東よりアシュタロス様、西よりベルゼブブ様!》
おおーっ!
《優勝候補がここで激突かね。我が輩も楽しみだよふぉっふぉー!》
メフィさんが壊れてきた……。隣の黎香もはしゃいでいる。
「真子ちん! 黎香はどっちも好きだけど、でもアッシュを応援するよ!」
「あはは、どっちも頑張って欲しいね」
会場に入ってきた銀髪の貴公子は相変わらず、柔和な笑みを浮かべている。さすが武人、丸腰ということは体術で勝負する気かな。
対するベルゼブブさん、真っ黒な革の上下に身を包み、背中に長い銃を背負っている。ベルゼブブさんは比較的細身で長身だが、その身長くらいある大きな銃だ。
「よォ、アシュタロス。次期魔王候補のオレ様の実力、ナメんじゃねェぞ」
「ふふっ、僕が何度この大会で優勝してきたと思ってるんです? 気紛れで出たくせに、僕に勝てるとでも?」
アシュタロスさん……。一応、ベルゼブブさんも幹部なのに。結構な実力者なのに。
二人が火花を散らす中、笛の音が試合の開始を告げる。
《両者共、準備はよろしいですね。それでは……開始!》
《ピーッ!》
先に動いたのはアシュタロスさん。
「いきますよ!――」
アシュタロスさんは低い姿勢でベルゼブブさんに突進する。……は、速い。地を踏み込む音がまだ残っているうちに突き出された拳。
「うおっ?!」
体を反らせて避けたベルゼブブさん。しかしバランスを崩したところに下段蹴り。
足元をすくわれ、ベルゼブブさんは受け身をとりながらも転がってしまった。
「おいおい……ンな最初っから随分なことだな」
「当たり前です」
アシュタロスさんは朗らかに笑う。どうやらやはり素手で戦うつもりらしい。確かに、銃に剣では分が悪いか。
「戦を司る武人を、甘く見ないでくださいね♪」
またしてもアシュタロスさんの姿が消えた。と思うと既にベルゼブブさんの眼前にいる。
「チィッ」
今度ばかりはベルゼブブさんも防御するが、猛攻の前に圧され気味であるのは明らかだ。だんだんと壁際に追い詰められてしまう。
「どうしました? ベルゼブブ様ともあろうお方が」
アシュタロスさんの攻撃は止まらない。全ての動作が流れるようで、体の使い方に無駄がない。且つスピードが半端でない速さだ。
「……確かに!」
そんな中ベルゼブブさんは声をあげる。
「てめえは強ェ。オレも認める。だがな……」
ようやくベルゼブブさんは背中の銃に手を伸ばした。そして長い銃身を盾のようにかざすとくるりと回転させる。
「体術さえ封じちまえば、こっちのモンだろうが!」
「!」
瞬時にアシュタロスさんは跳んで間合いをとった。
ベルゼブブさんが銃を盾にしたのは、ちょうど蹴りを繰り出したところ。あのままでは足が回転に引っ掛かっていたことだろう。
やさぐれ堕天使様はニヤリと笑い、反撃とばかりに銃を構えた。
「――何故ならてめえは防御しかできねェんだから!」
《ドォン!》
光る弾丸が発砲される。
「展開!」
アシュタロスさんはすぐさま片手を突き出した。すると小さな結界が生じたが、衝撃は防ぎきれずにアシュタロスさんは吹き飛ばされる。
「っ……」
そうか。確かにアシュタロスさんは強い。けれど専門が結界である以上、攻撃にはなり得ない。
ところが、再び銃を構えたベルゼブブさんに向かって、アシュタロスさんは地を蹴り跳んだ。
「無駄だっつー……の?!」
何を思ったかベルゼブブさんの懐に突っ込んだアシュタロスさん。次の瞬間、今度はベルゼブブさんの方が後ろに跳ぶ。
見ればアシュタロスさんの手には光るものがふたつ。両手に握ったナイフを振り抜いたところ。
「ちょ、てめっ!」
更に勢いのままにナイフ投げ。慌てたベルゼブブさんが空中に飛ぶと、ナイフは彼が元居た場所に深々と突き刺さる。……洒落にならん!
「てめえ、あんなん当たったら危ねェだろうがぁぁ!」
「大丈夫ですよ。僕らは堕天使なんですから」
怖い。怖いよアシュタロスさん。
さすがにベルゼブブさんにも焦りが見え始め、続けざまに何発もの弾丸が放たれる。それらを器用にかわしつつ、アシュタロスさんは隙あらばナイフを投げていく。
弾丸の衝撃で会場が揺れるくらい。すごい地響きだ。
「めん、どく、せェっ!」
とうとうベルゼブブさんが、
「なっ?!」
……銃を放り投げた?!
驚くアシュタロスさん。ベルゼブブさんは隙を逃さない。
「もらったァ!」
「しまっ――」
ベルゼブブさんは至近距離で叫ぶ。
「爆ぜろ! 《火炎弾(弱めに調整版♪)》!」
手のひらから繰り出された炎の玉。弱めとはいえ、その火力はかなりのもの。
煙の中から吹き飛ばされたアシュタロスさん。その体は一撃でぼろぼろだ。
「ふ……ふふ。さすがですね、次期魔王様は」
「いやァ~♪」
試合中に照れるな。
むくりと起き上がったアシュタロスさんの顔には、それでも笑みが浮かぶ。ベルゼブブさんは腕を組み、そんな武人の様子を空から見下ろしている。
「言ったろ? オレの銃は媒体みてェなモン、なンもなくたって攻撃は撃てる」
「そうでしたね……僕もまだまだ甘い」
「つーことで、オレの勝ちだな」
再び手のひらを向けるベルゼブブさん。
が、その時、アシュタロスさんが翼を動かして猛スピードで飛んだ。そうして敵に背を向ける格好に。
……ベルゼブブさんの真後ろへ、足の下をくぐって飛んだのだから。
「はァ?!」
びっくりしたのはベルゼブブさんだ。意図が読めずに振り向けば、銀髪の貴公子は競技場の反対端。
「ンだよ。最後に何する気だ? てめえには結界しかねェんだぜ」
ベルゼブブさんもそちら目がけて飛ぶ。そして空中で手を構えた。
……あたしも妙だとは思ったけれど。アシュタロスさんが無駄な動きをするはずがないんだもの。
「混合弾……」
ベルゼブブさんに手のひらを向けられた瞬間、アシュタロスさんは素早く印をきる。彼がちょっとだけ笑った……ように見えた。
「《カオス・インパクト》!!」
「封破っ!!」
叫び声は同時。
ベルゼブブさんが巨大なエネルギー弾を撃った途端、瞬時に広がった、競技場を包み込むような光りの網。
それが結界だと気付いた時、ようやくあたしは地面に突き刺さっていた幾本ものナイフの意味を知った。アシュタロスさんは、がむしゃらにナイフを投げていたわけではなかったんだ!
「な――!?」
ベルゼブブさんを爆発ごと包んだ結界。結果、ベルゼブブさんは自分の攻撃を自分で受けることになる。……結界で攻撃したっていうのか、アシュタロスさん。
凄まじい爆音、そして地響き。それが止んだ時、相手の首に手刀を突き付けていたのは……
《勝者、アシュタロス様!》
地面に座ったぼろぼろのやさぐれ堕天使様。それを見下ろしたアシュタロスさんは、同じくぼろぼろながらも微笑んだ。
「チェックメイトですね♪」
「……ケッ、しゃーねェな」
二人共、ちょっぴり楽しそうな表情。激闘だったねえ。カッコ良かったよー!
「なはは! アッシュの勝ちぃ~♪ ってことで、レムレース君たちっ、賭けは黎香の勝ちだにょーん」
賭けてたんかい。仮面さんから金を巻き上げ、黎香はご満悦だ。あんたは十分金持ちでしょーが。
《ああ、見応えのある試合だった! 頑張った彼ら二人に乾杯だ! 我が輩取って置きの葡萄酒でな☆》
《落ち着いてください会長。お酒は、全て終わってからです》
《わ、わかっておるとも!》
アガレスさん、大変そうだな。
《ぅおっほん、次はどんな試合だねアガレス君?》
《はい。準決勝、第二試合は東よりルシフェル様、西よりマルコシアス様です》
《ほほーぅ。これは実に期待できる好カードだね!》
ついにルシフェルも準決勝か。しかしルシフェルってば強すぎ。悠々と試合場に入ってきた堕天使長は、危なげなく勝ち進んできている。
反対側から入場してきたマルコシアスさん……とかいう堕天使さんもとっても強かったはず。これまでの試合から、かなりの実力者だとわかる。
……何よりこの試合のもうひとつの見所は。
『キャー! ルシフェル様ぁぁ!』
『マルコシアス様こっち向いてー!』
観客席からあがる黄色い悲鳴。女の悪魔さんや受付嬢さんのテンションが!
まあ……この試合、所謂イケメン対決なのです。仕方ないか。
「見てよ真子ちん、あの筋肉ー!!」
筋肉フェチな黎香は、違うポイントに大興奮。はいはい。
けど、いつもルシフェルの美貌を見てるあたしでも、マルコシアスさんはカッコいいと思う。褐色の肌に青い目をした青年で、精悍な体つきの逞しい剣士様だ。ルシフェルとはタイプが違う美青年だね。
「ねえ真子ちん、あのマルコなんとかさん、“ヘルメス”に似てるね!」
隣で黎香がそんなことを言った。黒騎士然としたルシフェルとは対照的に、白布とサンダルというシンプルな出で立ちのマルコシアスさん。今まで見た中で、いちばん天使らしい服装をしている。ふむ、確かに“伝令役”っぽい?
「――ヘルメスたァ、面白ェこと言うなァチビ」
?!
「あっ、クロたん!」
振り向けば、さっきまで戦っていたやさぐれ堕天使様が後ろに腰掛けるところ。隣のレムレースさん達が、ぎょっとした顔をする。
『ベ、ベルゼブブ様!』
『どうぞ前列へっ』
「いんや、構わねェよ。オレはここでいい」
ひらひら手を振り笑うベルゼブブさん、しかしその服はぼろぼろだ。
「お疲れ様、ベルゼブブさん。大丈夫?」
「おうよ、大したことねえって」
言う通り、あれだけの攻撃を食らったにもかかわらず、ベルゼブブさん自身に目立った怪我はない。丈夫過ぎだぜ堕天使様!
「ああー! にしても、すげェ悔しいぜ~! いくらアシュタロスが武人だとしてもよォ」
ベルゼブブさんは茶髪をぐしゃっと掻く。表情は楽しげではあるけど、やっぱりちょっと悔しそう。
「オイてめえクロたん!」
すると黎香が半身ごと後ろを向く。何故喧嘩腰なんだ。
「あァン?」
「君、頑張ったじゃないか! この黎香様が認めてしんぜようー!」
「……お、おうよ」
予期しない言葉だったのだろう、ベルゼブブさんは虚を突かれたように口ごもる。が、やがてその大きな手のひらを黎香の頭にのせて。
「……フン。生意気言ってんじゃねェぞ、ガキが」
乱暴にわしわし。でも、嬉しそうだ。
「むぅー。ガキじゃなぁい」
「オラ、ぼさっとしてっと見逃すぜ」
促されて再び試合場に目をうつすと、ルシフェルが肩を回すところだった。
「久しぶりだなマルコシアス。お前と手合わせするのは何時振りだ?」
「それほど昔でもありませんよルシフェル様。人間の時間にして、たった三百年前のことです」
「ああ、そんなものだったか」
「ついこの間ですね」
な、なんつー時間感覚のズレ……!
《お二方、準備はよろしいですね? それでは試合開始です!》
アガレスさんのアナウンスが入り、笛の音は大歓声にかき消されてしまった。
試合は始まったものの、二人共動かない。んん?
「ルシフェル様、」
朗々としたマルコシアスさんの声が響く。剣士は背中へ手を伸ばす――背負っていた剣へと。
「これで、お願いできましょうか」
透明感のあるその剣は光をとてもきれいに反射する。レイピア、にしては太さがあるけれど……
「ありゃ《炎の氷柱》だな」
後ろから解説が入った。なるほど、確かに氷柱に見えるかも。
「マルコシアスの野郎はマジで腕のたつ戦士でよ、百戦錬磨の猛者ってヤツ? で、その相棒があの剣だ。あの武器は変幻自在な厄介な武器だぜー。飛んだり伸びたりってな具合に」
ほえぇー。すごそう。
「……まっ、今回はそんな特性は使わねェだろうがな。ヒャハハッ」
ベルゼブブさんは何やら意味深なことを言った。使わない?
炎の氷柱を前に、ルシフェルもまた腰の鞘から剣を抜くのが見える。この大会で初めてだ。だってルシフェルはここまで、ほぼ体術と覇気で勝ってきたからね。
「炎の氷柱か……。いいだろう、受けて立つ」
構える二人の堕天使。
「いざ!」「勝負!」
《ガギィィン!》
互いの剣がぶつかり合い火花が散る。
「く……!」
「ぬ……!」
力は拮抗。一旦離れた二人、そこから激しい打ち合いが始まった。
「せやぁっ!」
「はっ!」
連続的に高い金属音が耳に届く。
相変わらず軽い身のこなしで華麗に舞うルシフェル。対するマルコシアスさんは、大きな剣をものともせずに振り回す。一撃一撃が重いが、当然姿勢は全く崩れていない。
と、防御の構えをとったルシフェルに、マルコシアスさんの剣が叩き込まれた。
「く――!」
……ん?
「どうしたの真子ちん?」
「今一瞬、ルシフェルの手から剣が離れたような気がしたんだけど」
すると後ろのベルゼブブさんが軽い笑い声をあげた。
「ヒャハッ。てめえ進藤、目がいいんだなァ!」
「あ、え、どうも。でもなんで剣を落とさなかったのかな?」
「アイツの能力のおかげさァ。落としそうになった瞬間、ルシフェルは剣の《存在》に干渉したんだな。ちっせェ物体移動だと思えャいい」
ふむふむ。
「……だがなァ。アイツ、墓穴掘っちまったな」
「へ?」
「マルコシアスの野郎、卑怯くせェことが大っ嫌いなんだよ」
……卑怯?
「ルシフェル様ぁ~……」
間合いをとった二人。が、マルコシアスさんの様子が何やら変だ。
「今、能力を使いましたね?……」
うん、あれは。
「うひゃあ。あの戦士サマ、めちゃくちゃ怒ってるっぽいよぅ!」
隣の黎香が座り直す。あたしにもすぐわかった。彼、怒ってるね!
「剣術だけだと、申し上げたではありませんかぁぁ!」
褐色の肌の堕天使様は剣を奇妙に構え直す。逆手で柄を握り、軽くもう一方の手を刀身に添えた。
「いや、マルコシアス落ち着け――」
「秘技!……」
ルシフェルの言葉さえも遮り、マルコシアスさんの手は滑っていく。おわ、炎の氷柱がオレンジの光を放ち始めた。
顔を引きつらせる堕天使長。次の瞬間、
『《正断》!!』
《バアァァン!!》
「わっ……!」
あっつ! 熱いよ!
マルコシアスさんが剣を一振りすると、剣先から炎の渦が飛び出した。さすが“炎の”氷柱だね!
龍のようなそれはルシフェル目がけて一直線。
「マルコ、お前っ!」
しかしやっぱり堕天使長。気付けば、彼は既に頭上に飛び上がって躱している。
……んー。
「どしたの真子ちん?」
「いやぁ……」
ルシフェル、手加減してるんだろうか? なんて思ってさ。上手く説明できないんだけど、これまでの試合と覇気が違う気が……。
「にしてもさー、あの戦士サマ急に態度変わったよね〜。黎香びっくりしちゃったよ!」
黎香が隣でぱたぱた足を揺らしながら言うと、ベルゼブブさんは喉の奥でくつくつと笑った。
「そりゃァなー。……おいチビ、じゃんけんしようぜ」
お? なんだいきなり?
「っしゃぁ、勝ってやるわぁぁ!」
たかがじゃんけんで気合い入り過ぎだ。
「いくぜクロたん! 最初は……」「パー!!」
堕天使様ズルしたー?!
「ぬあぁぁっ! なんだよクロたんー!」
当然黎香はご立腹。まあまあ落ち着け、とベルゼブブさん。
「今オレのこと卑怯くせぇと思ったろ?」
「む」
「マルコシアスの前でこんなズルしたら“万死”だぜ」
たかがじゃんけんで?!
「そんくれェ正々堂々を信条にしてる野郎なんだよ、マルコシアスってヤツは。さっきルシフェルが一瞬だけ能力を使ったろ? マルコシアスとしちゃァ、剣士として許せなかったんだな。だからこっからは何でもアリってこった」
なるほど、と思いつつ改めて逞しき剣士様を見る。今や氷柱には完全に炎が纏われており、振るう度に赤い龍が踊る。
一方のルシフェルはというと……
「わぁぁ!」
……。
こちらも別人のように防戦しておりました。さ、さっきまでの威厳は?!
「おーおー、押されてらァ」
そんな戦いを眺めるベルゼブブさんは楽しそう。
「逃げてばかりではありませんかルシフェル様!」
「私の剣からは何も出ないんだよ!」
宙を飛び回るルシフェルと、追いかける炎。
そろそろ魔王様のイメージが崩れてしまうんじゃないかと思った――その時。
「……なんて、なっ」
唐突に静止したのはルシフェル。炎の追撃は剣の腹で弾く。
「お前と戦うからには、私とて力を出さねばなるまいな!」
叫ぶなりルシフェルは方向転換。マルコシアスさん目指して急降下を開始した。
剣を持っていない方の手は、胸元で印を切る。手のひらに光が集まっていくのが見えた。
「いくぞマルコシアス――《ルオフ・チャスカ》!」
初めて聞いたようなルシフェルの呪文詠唱。放たれた光弾は、炎の渦を切り裂いて進む。そしてとうとうマルコシアスさんの剣を弾き飛ばした。
「ヒャハ。ようやく本気かよ堕天使長サマは」
とベルゼブブさん。まるで、こうなることがわかっていたかのような口振りだ。
一瞬で逆転した形勢。試合場の地面を滑っていった炎の氷柱。それを見やると、マルコシアスさんは小さく笑って両手を挙げた。
「……やはり、ルシフェル様にはかなわないのですね。わかりました、降参です。剣を落とした戦士は戦場を去るべき」
あっさりと肩をすくめて首を振る。ルシフェルは安堵したように微笑すると、剣を鞘へと収めた。
それを合図にして、アガレスさんのアナウンスが響いた。
《……勝者、ルシフェル様!》
われんばかりの大歓声の中、二人の戦士は互いの健闘を讃え合う。
ルシフェル、あんな魔法も使えるんだー。小さな一発が逆転の切り札……やるな堕天使長!
「危ないところだった。本当に腕をあげたな、マルコ」
「いいえ、とんでもない。まだまだ修行が足りないようです」
しかしイケメンだなあ、マルコシアスさん。強いし。紳士だし。い、いや、そりゃールシフェルもだけどねっ。でもマルコシアスさんとも話してみたいな。
……おっ、気付けば既に。これでルシフェルが決勝戦に進出か。
すると次の相手はもしかして――




