第37話:みんなで小旅行 そのにっ!
第36話と同時更新です。
さて、サバイバル・バカンスの二日目です♪
ハムエッグやらコーヒーやらの軽めの朝食を済ませたあたし達は、午前中から山奥に向かって歩いていた。ほら、昨日黎香達が発見したっていう洞窟を探しに。
「ささっ、どうぞ兄貴」
池田君が先導して枝なんかを避けてくれる。
「ややっ、ありがとう圭君!」
「てめえじゃねぇよ三ノ宮!」
「ぬぁぁ! 黎香はお嬢様だぞー!」
……なんだかんだで二人は仲が良いんだろう。
「どうぞですー!」
更に池田君を真似するウァラク君。可愛いっ。
山奥と言っても、ジャングルとは違ってむしろ神秘的な雰囲気だ。となりの某妖精さんでも出てきそうな。
「つーか、魔力を感じたンだろ? 人間連れてきて良かったのかよ」
と、手を頭の後ろで組みながらベルゼブブさん。
「問題ない。それほど強大な力なはずがないし、仮にも私が一緒なのだから」
ルシフェルは自信たっぷりに言う。……魔力、ねぇ。
「あったよぅ!」
唐突に声をあげた黎香が指差した先。そこには……
「うおー」
「ホントに洞穴なのね」
木々に囲まれた場所に、岩でできた小さな山があった。真ん中には真っ暗な穴がぽっかりと口を開けていて、……秘密のダンジョンって感じは、確かにする。
「勇者と賢者と魔術師と聖職者と盗賊と、えーと……なんか色々! いざ出陣!」
色々って。でもこのパーティ、人数多いよね。というゲーム思考。
うむ、こうなると先の展開は……
・クマなどに襲われる
・脱出中に洞窟が崩れる
・誰かが道に迷う
……とかが予想されるんだけど。んーん、いずれにせよ災難☆、みたいなね。涼しい風が吹き付けてきていて、ちょっぴり怖い。
「涼しいー」
呑気! 扇風機じゃないよルシフェル!
あたし達はぞろぞろと洞窟の入り口をくぐる。奏太や堕天使さん達は、身を屈めなければならなかったが。
ああ暗い……懐中電灯とかないし、どうしよー……
ってなあたしの心配は徒労に終わって。ついでに事前の想像も杞憂になって。
「小さっ!」
「狭っ!」
そんな声があがるくらい、洞窟は規模が小さかった。道に迷う余地がない。
「ンだよ、期待外れだな。もっとこう化け物が出るとか、スリリングなことってねェのかよ」
変に期待しないでください。何もなくて密かに安心してたのはあたしです。
せいぜい雨宿りに使えるかなって程度の洞窟。生き物の気配もない。
が、ルシフェルはじっとして動かない。やがて小さく頷いて呟く。
「……微かに、魔力が感じられるな」
マジですか?!
ルシフェルはひとり奥へ。
「向こうに何かあるぞ」
どうやら更に奥へ通じる通路を見つけたらしい。ほんの少し、そこから風が吹いてくるようだ。
仕方ないのであたしもみんなについて行く。べっ、別に怖いんじゃないからね!
人ひとりしか通れないような道の先に、ぼんやりと明かりが見えて来た。出口かな?、と思いきや。
「なんだこりゃぁ……」
なんだこりゃー! と、池田君と言ってみる。
少しだけ開けた空間に出たのだが。その岩壁になんか、こう、……異世界への入り口みたいな穴が開いている。魔力、というのも納得だ。
「何故ここにこんなものが……」
「ルシフェル、これ何か分かるの?」
うん、と頷いたルシフェル。やはり堕天使関係なのか?
「この穴、多分地獄につながっている」
地獄?! あながちあたしの推理は間違っていなかったようだ。
「どうしてここに……」
「わけわかんねェな」
「危ないですねー」
他の堕天使さん達も呆れ顔。
穴の向こうには当然何も見えない。ただ虹色のような色をした、ぐにゃぐにゃした空間が広がっている。
「つーことはここをくぐったら地獄に行けるのかい?!」
「ダメですよ黎香さん。貴方じゃ通れません。死にたくないでしょう?」
「はぁーい♪」
相変わらず黎香はアシュタロスさんには従順だ。
「通れない?」
聞き返したのは池田君。……さては君もくぐってみようと思ってたんでしょ。
「ええ。恐らく僕らも通れません。この穴は確かに地獄へ通じているでしょうが、空間を無理矢理ねじ曲げて作った通路のようですから。実体を持つ僕達では、入った途端に体が内側から裂けてしまうかもしれません」
……ぞっ。
アシュタロスさんは穏やかな表情を崩さずに、グロいことをさらっと言ってのけた。
「じょ、冗談っスよね兄貴……?」
「いーや。オレらでも無理なんだから、てめえら人間が入ったら……一瞬で消し飛ぶかもな! ヒャハハッ」
悪魔ーっ!
「で、でもっ、このままじゃ危ないわよ」
ごもっともだぞ奏太。
あまり人が来ない場所とはいえ、放っておいていいものとも思えない。
「生憎だが、この穴は作った者にしか塞ぐことはできない。私達の誰も、空間を弄る能力は持ち合わせていないんだ」
珍しくルシフェルがあっさりと諦めた。じゃあどうすれば……?!
「だが、」
「だが?」
「封じておくことは可能だ」
堕天使長かっけえー!
ルシフェルがいつものように、すっと手をかざそうとしたら。
「僕がやりますよ」
意外にもアシュタロスさんがそう申し出た。
意外にも、というのは、あたしは今までアシュタロスさんの“力”を見たことがなかったから。あ、武術とナイフ投げは別ね。
「ルシフェル様に余計な力を使わせるわけにはいきません。それに、僕は結界を専門としてるんですよ?」
そ、そうなのか。
アシュタロスさんはどこからか、細い物体を取り出した。……ってまたナイフ?!
銀髪堕天使はそれを数本、ダーツの如く穴の周りの壁に投げつける。それから両手を組み、
「《展開》」
と一言。
すると、突き立てられたナイフの先から光る糸が幾筋も出てきた。まるで繭を作るように糸が組み合わさり完全に壁ができると、瞬時に何もなかったかのように透明になった。
「……完成です♪ どうぞ触ってみてください」
にこやかに言われて、あたし達はそっと手を伸ばしてみた。
《バチィッ》
うわっ、なんにもないように見えたのに弾かれた! こいつは確かに結界だよう! アシュタロスさんかっけえー!!
「さすがはアシュタロス様」
「これくらい造作もありませんよ、ウァラク。ついでに岩壁を崩してやろうとも思いましたが……」
思いとどまってくれて良かった!
「兄貴、俺にも教えて下さいよ!」
「ええっ?」
「是非結界とか張れるようになりたいんス!」
できたらそれはもはや常人じゃないよね。
「むぅ……。てん、かいっ!」
……。
「うわぁぁん!」
「れ、黎香さん?!」
無理だから! アシュタロスさん困ってるから!
***
アシュタロスさんのすごい力を見たあたし達は、再び小屋に戻った。日が昇って暖かくなってきたし。
「お昼だー!」
「昼飯だぜー!」
「昼ご飯よー!」
……というわけでお昼ご飯です。
「いよいよ薪を使うのら~♪」
アウトドアといえば
バーベキュー
でしょ!
あたし、奏太、アシュタロスさんは食材を切りに、ルシフェル、ベルゼブブさん、池田君は金網などの設置をする。黎香とウァラク君は皿を運んでくれた。
山盛りの野菜を外へ持って行くと、池田君が何やら探している様子。
「どうしたの?」
「あ、進藤さん。着火剤とライター知らない?」
えーと……
「そげなモンはねぇ!」
何故か訛りながら跳んできたのは黎香だった。ない?
「サバイバルをなめるでねぇ。火起こしじゃ火起こし!」
火起こし?! 弓みたいな道具使う、アレ?
「じゃ、じゃあその道具はどこにあンだよ?」
「馬鹿なこと言ってんでねぇど! そんくれぇ作れぇ!」
お前が馬鹿なこと言ってんじゃねぇよー!
黎香がケラケラと笑っていると、ルシフェルとベルゼブブさんが通りかかる。
「どうした?」
「兄貴、いいところにっ。この薪に火をつけることができなくて」
「ああそれなら、」
「オレがやろうか?」
必死にキュコキュコ火起こしする堕天使……ちょっと笑えるな。
と思っていたら、ベルゼブブさんはベルトに差していた拳銃を取り出した。……って、持ってたの?!
「うう撃つんスか?!」
「おうよ。オレだって見せ場欲しいし~」
冗談のように言いながら、やさぐれ堕天使は拳銃をくるくると回す。それから銃口を薪に向けた。
「あまり派手にやるなよ」
「わぁってらァ。つまんねェけどな」
撃って火花で点火ってことかな?
「いくぜ――《火炎弾!(超超超~弱バージョン♪)》」
《ボムッ》
小さな爆発音と共に銃から火の玉が発射された。ってマジ?!
「ナイス調節オレ♪」
無事薪に火がついて、ベルゼブブさんは満足げだ。
「それ、実弾が出てくるかと思ってたよ」
「んぁ? あー、こいつから実弾が出るこたァねェよ。あくまでこの銃は媒体。力を凝縮して放つための装置ってわけ」
そうだったんだ……。よくはわからないけど、魔力をぎゅーっとして弾にしてるってことかな。え? アバウト?
ベルゼブブさんの秘密(?)も分かり、セッティングも済んだところで!
「ブル(B)ブル(B)クエーカー(Q)の始まりだぜー☆」
“バーベキュー”の面影すらない!
けど確かに“クエーカー”ならブルブルだ!
最初はあたしが焼く係もやろうと思ったんだけど、
「真子ちゃんはあっち!」
「進藤さんは座ってて。俺らがやるから」
と男子二人が言ってくれたので任せることに。ありがとー。
ちなみにルシフェル達も申し出たのだが、池田君の超低姿勢の押しに負けて座っていた。兄貴に肉を焼かせるわけにはいかないよねえ。
……とはいえ、最終的には各自が金網のところに行って、自分で焼いて食べてしまっていたが。
「もぐもぐ……真子ちん、タレ取ってー」
「もぐ……あいよー」
「……ウァラク、火傷しないようにして下さいよ」
「わひゃりまひたぁ」
みんなでわいわい食べる外の食事は楽しかった。
まあ途中、ベルゼブブさんの尻尾みたいな長髪が燃えかけたり、最後の一枚の肉争奪戦があったり、ルシフェルが水とタレを間違えて飲みそうになったりはしたが。頑張れよ堕天使。
小屋に大量にあった食材は、食いしん坊な彼らの腹をちゃんと満たしてくれた。ふうー。
あ、最後にあたしがマシュマロで作ったデザート、みんないたく気に入ってくれたらしい。やったぜ。
マシュマロを焼いて、チョコビスケットにはさむだけなんだけど、美味しいんだよ。是非お試しを。
「食った食った~…」
「おいしかったぜー…」
大盛況のうちにバーベキューは終了した。あたしも満足♪
***
午後は持って来た遊び道具で体を動かしてみたり。バドミントンとか、バレーとかね。
……しかしまあ、堕天使さん達はスポーツ万能だった。初めてなのが嘘みたいに上手で。
「スマーッシュ!」
「飛ぶなんてずるいぜベルゼブブさん!」
「ヒャハハッ」
ま、翼っていうのは恐ろしいハンデだよね。
……あれ?
黎香とベルゼブブさん達が激闘してるのはいいんだけど、ルシフェルがいないぞ?
あたしは小屋の裏手に回ってみた。と、ちょっと離れた木立の中に堕天使長様を発見。
彼は何するわけでもなく、ただ木を見上げてひとりで立っていた。……うわぁ、むちゃくちゃきれいな画。
「どうしたの?」
「……ん? あ、真子」
ああ、爽やかな笑顔っ。
「あっちで遊ばないの?」
「それもいいけど、少しだけ。ほら、真子には聞こえるか?」
「え?」
「“森の声”」
……な、なんてメルヘンなことを言うんだルシフェル。
耳を澄ませば、鳥や虫の声、葉っぱが風に揺れる音も聞こえる。あー、癒されるー……。
でも堕天使様には、本当に木の声が聞こえているのかもしれない。
集中すればあたしにも……
『――いっしょに遊びましょうよ』
?! き、聞こえた?
「ルシフェル、あたし――」
言いかけると。
「抜け駆けはズルいですー!」
「うわっ」
ぴょん、と木の陰から姿を現したのは金髪の少年だった。もしやさっきの声はウァラク君?!
「ボクのトカゲさんがちゃーんと見てたんですよ! 二人きりで何をしようとしてたんですかぁ?!」
「「え?!」」
いや、何するとか、別に……っ。
なんだか気まずくなって、慌ててルシフェルから一歩離れた。ルシフェルも取り繕ったような咳払いをひとつ。
「いや別に……し、森林浴だ!」
……ん?
あたしは、まあともかく。なんでルシフェルまで照れてんのさ?
「じゃあボクと遊びましょう?」
ウァラク君はルシフェルの服の裾を掴んだ。そして上目遣いに見上げる。
「……ダメですか?」
あーんっ、超可愛い! 何あのくりくりおめめは!
「あ、ああ。構わない……」
「やったぁ! ルシフェル様大好きッ」
ウァラク君に抱き付かれたルシフェルは、苦笑いしながらもふわふわの金髪をポンポンと撫でた。モテるねぇ、ホントに。
……。
真子さん、ちょっと悔しいぜっ。
***
それから日が暮れるまで大騒ぎしたあたし達は、夕飯を食べて入浴後それぞれの部屋へ。今日の夕飯のメインは焼きそばでした。
……あ、部屋に戻る前に奏太に呼び止められたんだけど。
―――――
「真子ちゃん」
「なに?」
「……昨日の夜、何もなかったの?」
「え?」
「ほらぁ、ルシフェルさんと同じ部屋だったじゃない? 夜中にこう……」
「なっ?!」
「うふふっ♪ 冗談よ。何かするならとっくにしてるわよねぇ。ま、気をつけてね♪」
―――――
……。
な、なんか変に緊張するじゃないかぁぁ!
「ねえ真子、暑いから上着脱いで寝ても――」
「ダメですッ!」
……この天然お兄さんの場合、心配要らない気もするけどね。
***
結局夜中には何も起こらず(そりゃあね)、翌朝にはきちんと迎えのヘリコプターが飛んで来た。
少し名残惜しかったけど……楽しかったから良かったよ! またみんなで来たいなー。
「圭君っ、結界を張る練習するよ!」
「おうよ!」
……。
今回は堕天使様達の力も垣間見れたし。いい思い出だ♪
こうしてあたし達のサバイバル?なバカンスは幕を閉じたのだった。
「真子、今度は海行こう」
「海?」
「海に向かって叫ぶのが流行りなんだろう?」
「……」
すげー勘違いだ。けど訂正するのも……うん、放っておこう☆