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第24話:地獄の、幹部?


 うん。

 家に帰ったらね。


「だからこう、オレの銃みてェな感じ?」

「しかしインクはないぞ」

「やはり構成する物質が違うのでは?」


 堕天使が三人。我が家は集会所と化していた。


「感触も違う」

「そもそも羽根ではありませんしね」


 額を寄せ合い会議中の堕天使衆。なんていうか、みんなイケメンだからある意味壮観。逆ハーレムかしら。

 そして彼らはあたしに気付いてない模様。


「あのー」


 途端にガバッと振り向いたベルゼブブさんとアシュタロスさん。ルシフェルだけが、何事もなかったかのように顔をあげた。


「あ、お帰り真子」


 いや、お帰りって。


「なんでベルゼブブさんとアシュタロスさんがここに?」

「暇だったので」


 なんとも簡潔な回答をありがとうアシュタロスさん。相変わらずの朗らか笑顔だ。


「これについて話していた」


 と、ルシフェルが手の平に載せているのは。


「シャーペン?」

「しゃーぺん……?」


 シャープペンシルって言った方が良かったのかな。それがどうしたの?


「昨日学校とやらに行ってな、皆これで字を書いていただろう?」

「オレ達こんなモン見たことねェからさー。仕組みが不思議でならねェ」

 

 そうなのかー。まあ、あの中世風な雰囲気の地獄にシャーペンはないだろうね。


「私達は羽根とインクで書くんだ」


 な、なんか素敵!


 ……あ! そうだ、学校といえば。


「今日は大変だったんだから!」



***



 予想的中というか何というか。案の定、朝から楢崎女史に絡まれました。


「進藤ぉっ!」

「はいぃっ」

 

 慌てて先生のところへ行くと、彼女はいきなり声をひそめて。


「……おい、昨日の帰りに一緒に歩いてた男は誰だ」

「それは、えーと……」

「紹介しろ」


 えぇーっ?! 何その展開!


「なんだその顔は」

「いや、てっきりお咎めがあるかと」

「んなことはどーでもいいさ」


 適当だー!


「連絡先とか知ってんだろ?」

「そりゃまあ」 


 自宅です、なんてねぇ。


「むちゃくちゃカッコいいじゃん、あの男。強そうでいいよな」


 うんうん、と一人頷く楢崎先生。


「ヴィジュアル系バンドでもやってんのか?」


 ん? なんかおかしい。


「楢崎先生」

「なんだ」

「どっちのことを言ってるんですか?」

「どっちって。髪を後ろで束ねた野郎の方だよ」


 ベルゼブブさんの方?!


「黒髪の方じゃないんですか?」


 一応確認してみる。


「ああ。確かに整った顔してたけど、あれは私の好みじゃない」


 うわ。ルシフェルに惚れなかった人間って初めてだよ。


「それに黒髪の方は進藤の彼氏なんだろ?」

「違いますっ!」

「だってアイツのあの感じは……まぁ違うって言うんなら聞かないが」


 楢崎先生は何やらゴニョゴニョ言っていたが、やがてあたしの肩に手を置いて。


「まっ、そういうことだから。よろしく言っておいてくれ」

「いや……」

「……今度の試験の点数(ボソッ)


 了解いたしましたぁっ!



***



「……と、こういうことがあったんですよ」

「ほぉー」

「へぇー」

「え、オレ別に人間に好かれても、なぁ……」


 ベルゼブブさんはちょっと困り顔だ。対して、ルシフェルとアシュタロスさんは嬉しそう。


「他人の話は面白いな」

「ですねー」


 堕天使もこういう話は好きなんだね。


「まあ少し話するだけでもいいからさ。後で会ってあげてよ」


 あたしが言うと、ベルゼブブさんは渋々ながらも承諾してくれた。


「少しだけだぜ。ったく冗談じゃねェよ」


 ありがとうありがとう。あたしの点数は保証された。 

 ……楢崎先生のことだから、ホントかどうかはわかんないけどね。


 さてと。そろそろご飯支度しなきゃな。


「アシュタロスさんとベルゼブブさんも食べていくでしょ?」

「もちろんだぜ! だってオレはそのためにここへ来たんだからよ」


 そ、それは恐縮です。

 実は昨日、あの後結局ベルゼブブさんも一緒に夕飯を食べたのだ。


「あ、僕は帰ります。黎香さんが待っていますから」 


 と、アシュタロスさん。


「すみません、せっかくお誘いいただいたのに」

「いやいや、いいよ。黎香が何て言うかわかんないしね」

「ええ。彼女も一人で家にいるのは寂しいでしょうし」


 優しいなー。一人ご飯の切なさをよくわかってらっしゃる。


「おい、アシュタロス」

「何ですかベルゼブブ?」

「黎香ってガキとお前は一緒に住んでンのか?」

「はい」 

「羨ましいな!」


 ベルゼブブさん、黎香のこと気に入ってたもんね。


「あのチビと一緒なら退屈しねェだろ」

「それはもう」


 アシュタロスさんはニッコリ。


「毎食がロシアンルーレットで、お風呂はガスマスク装着、夜中に機械の起動音で目を覚まし、朝から武術の稽古という生活に耐えられれば、の話ですけど」 


 なんじゃそりゃ……! 何故微笑みながら言えるんだアシュタロスさん!

 ベルゼブブさんも呆気にとられたかのようにアシュタロスさんを見る。ルシフェルも流石に固まっているみたい。


「そりゃァお前なら耐えられるだろうな……」

「ええ、毎日とっても新鮮ですよ。では皆さん、そろそろ失礼しますね♪」


 アシュタロスさんが居なくなってからもあたし達は呆然としていた。 

 やがて沈黙を破ったのはやさぐれ堕天使さん。


「……アイツ、強ェな」


 あたし達は頷くしかなかった。


「真子」


 ルシフェルがふっと首を傾げる。


「前々から気になってはいたのだが、黎香の家は一体どうなっているんだ? 跡継ぎだから修行中とかなんとか」


 あー……うん、修行中なんだろうけど。なんと言うか、口で説明するのは難しい。 


「じゃあ今度黎香の家に行ってみる?」

「あ、ああ。そこまで危険ではないのだな?」


 珍しく不安そうな堕天使長。保障はしかねるよ。


「……んなことより、飯にしねェ?」


 ベルゼブブさんは話を遮るように声をあげた。


「オレもう腹減っちまって」


 そっか。ごめんごめん。


「今作るからねっ。堕天使さん達、テーブル拭いて、食器出してくれない?」


「心得た」

「あいよー」



***



「ふぃー。食った食った」

「……」


 ホントに食った。食いまくった。

 ちくしょー、堕天使はみんな大食いなのかよぉ!


「どうしたんだよ、進藤?」

「いや……」


 冷蔵庫が空だーとか、食費がぁぁとか言えないし。節約しなきゃな。


「やぁ~美味かったぜ。そうだ、礼と言っちゃなんだが、なんか面白ェ話してやるよ」

「面白い話?」


 ベルゼブブさんはにかっと笑う。


「例えば、ルシフェルの恋バナとか」

「死にたいかベルゼブブ」


 冗談だよ、と両手をあげたベルゼブブさん。なんかルシフェル必死。でもちょっと聞きたかった!


「じゃあ……地獄の仕組みについてちっと話すか」

「地獄の仕組み?」


 それはそれで興味深い。 


「お前は地獄に行ったことあンだよな」

「あぁえーと、パンデモ……?」

「パンデモニウムだな。あそこは一番“表”、つまり地上やら天界やらに近いとこなんだよ」


 そう、それそれ。確かに全然地獄って感じじゃなかったよね。


「地獄はいくつかの層に分かれてると思ってくれ。下の層に行けば行くほど辛く苦しい罰が……」

「ひぃぃっ」


 怖っ! やっぱ地獄は地獄なのね。 


「ベルゼブブ。あまり真子を怖がらせるな」

「悪ィ悪ィ」


 ルシフェルは腕組みしたまま小さく息を吐いた。ベルゼブブさんはけらけら笑っている。


「じゃ、パンデモニウムのことだけ話してやるよ」

「うん」

「パンデモニウムの最高権力者は、知っての通りルシフェルだ」


 その堕天使長様は頷く。


「最終的な決定権を持っているのは私だが、実際は幹部が等しく権力を握っている」

「幹部?」

「そこのベルゼブブも私も立場上は幹部の一員だ。以前会ったベルフェゴールもそうだな」


 ああ、あの怖い白銀の悪魔さん……。


「なんか会社みたいな感じだね」

「確かになー。ま、大した仕事はないっちゃないんだが。それらしい仕事といえば魂の審査とかくらいだし」

 

 重要な仕事じゃん。

 

「レムレース達の統率も私達の仕事」


 レムレースって……あ、あの何でも屋の仮面さん? 宮殿の門のところでジョークをかましてくれたっけ、懐かしいな。


「あとは……オレ達の中には私設部隊を持ってる奴もいるんだぜ。現にオレも騎士団ひとつ持ってるし」


 ベルゼブブさんすっげぇぇ!


「でも一番すげェのはルシフェルだろうな。コイツが命令したら堕天使全員が動く。オレも一応、立場上はコイツの部下ってことになってたり」


 ルシフェルすっげぇぇ!

 ……って、あれ?


「でもさ、大丈夫なわけ? そんなトップの堕天使さん達が地獄抜けちゃってさ」


 社長と副社長が不在の会社は成り立つんだろうか。ルシフェルは「自分の決定が全て」と言ってたけど。


「大丈夫だよ真子。私が黒と言ったら白も黒だ」


 ……堕天使長様はやっぱり自信満々だった。無茶苦茶な理屈だなオイ。


「そうは言ってもねー……大体、ベルフェゴールさんもちゃんと仕事してって――」

「ああぁッ!!」


 うわっ、びっくりした! 急に大声出さないでよベルゼブブさん!


「ど、どうした?」


 ルシフェルが首を傾げて問うた。ベルゼブブさんは頭を抱えて固まっている。


「……や、やべぇ」

「え?」

「やらかしたぁぁ……っ」 


 ただならぬ様子が感じられる。一体どうしたんだベルゼブブさん。

 やさぐれ堕天使様は、恐る恐るといったように口を開いた。


「……書類、出すの忘れてた」

「……えっ?」

「ベルフェゴールの野郎に言われてた書類、出し忘れてたあぁッ!」


 ぞっ。

えーと、それは、まずいんじゃないのかい? あのベルフェゴールさんに言われてたんでしょ?


「本当に?」

 

 ルシフェルも頬を引きつらせる。


「マジだっつーの嘘ついてどーすんだよっ! やべェよオレ殺されるよ……!」


 ベルゼブブさんもベルフェゴールさんは怖いらしい。ルシフェルの肩にすがりついている。


「どうすりゃいいんだよー!」

「おお落ち着けっベルゼブブ」


 ブンブン揺られて、ルシフェルは舌を噛みそうだ。


「と、とにかくっ! お前は今すぐ地獄に戻れ。そして正直に謝ってこい」

「オレがどうなってもいいのかよ?!」

「自業自得だろうが」

「ひっでえ! 鬼! 悪魔!」

「私は堕天使だってば!」


 いや、そこじゃないだろルシフェル。


「ほら、私が送ってやるから」

「う~……オレ、どうなっても知らねェぞ。これがオレとの最後の別れになっちまっても知らねェぞ~!」

 

 観念したかのようにベルゼブブさんはおとなしく手を離した。立っているベルゼブブさんに向けて、ルシフェルが腕を伸ばす。


「すっげえ行きたくねェ」

「仕方なかろう」

「だってよォ……」


 ルシフェルが指を鳴らすのと、ベルゼブブさんがため息混じりに呟いたのはほぼ同時。


「オレ、書類まだ書いてねェんだもん……!」

 《パチン♪》


 乾いた音が虚しく響く。 


 ……。

 まあ消えたってことは、ちゃんとベルゼブブさんは地獄へ行ったんだろうけど。

 ……地獄に、ね。


「……真子が一緒に行けば良かったかな」

「な、なんで?!」

「だってベルは真子を気に入ってたし」


 いやっ。いやいや!


「ベルフェゴールさん、人間嫌いだって言ってたじゃん」


 ルシフェルは肩をすくめた。


「……あいつも前はな……」

「え?」

「……いや」


 彼はそのまま首を振る。それから、うーん、と伸びをした。


「疲れたな…」


 腹! 腹が見えたっ。

 つーか腹筋やべー。とそんなところへ目がいくあたしは変人ですかそうですか。……ぐすん。


「お腹いっぱいになったら眠くなってきたよ」


 紅い瞳をこする堕天使さん。いや比喩じゃなくて本当に紅いんだけどさ。


「じゃあもうお風呂入って寝よう?」 

「ああ。掃除は昼間、私がしておいたから」

「ありがとー!」


 掃除上手がいると助かる。自慢じゃないけど、あたしは片付けが苦手です。


「そうだ真子」

「何ー?」

「アシュタロスから聞いたんだが……風呂に“蜂蜜”を入れるといいらしいぞ」


 おおー。さすがだなアシュタロスさん。


「何でも、針がでるとかなんとか。栗の実にでもなりたいのかと聞いたら呆れられたのだが」


 は?


「私、何か間違っているか……?」


 首を捻るルシフェル。必死に考えるあたし。


 ハリ? で、栗の実?

 ハリ……はり……


 ……!


「ルシフェル、“針”じゃなくて“ハリ”! 肌がすべすべになるってことだよ」


 あたしは出来る限り、イントネーションをはっきりと言ってあげた。誤変換だぜ堕天使長!


「はり? まったく、言葉というのは難しいな」


 針に無理矢理変換する思考回路が信じられないよ。


「まあとにかく入れてみないか。肌にいいのだろう?」

「うん」

「私には必要ないけれど」


 ルシフェルは台所から蜂蜜のボトルを持って来ながら、さらっとそう言った。

 ……確かにいらないだろうけどさ。全然悪気がなさそうで逆に悔しいわっ。 


「一本で足りる?」


 一本?

 見れば堕天使様はボトルの蓋をがぱっと開けて。

 ……って丸々一本入れる気かいっ。


「ちょっとでいいんだよ、ちょっとで!」

「だって体にいいならたくさん入れればいいじゃないか」


 ……。ルシフェルが料理下手な理由を見た気がした。


「だからってそんなに入れたらベタベタになるよ。人間と堕天使の蜂蜜漬けなんて嫌でしょ」 

「……!」


 ルシフェルは一瞬怯えたような表情をして、ぶんぶんと頷いた。


「美味しくなさそう」


 そこ?!


「ま、まさか」


 どうしたルシフェル?


「私達は食べられてしまうのではなかろうか」

「はっ?」

「もしくは体に蜂が(たか)るように仕向けているとか……。アシュタロスめ、恐ろしい奴だな! いくら私が仕事してないとはいえ――」 


 絶対違うと思うよ!

 っていうか仕事してなかったのかよ。やれよ。


「ちょっとだけだから大丈夫だって」


 あたしが風呂場に向かおうとすると、ルシフェルがあたしの服の裾を掴んで首を振ってきた。


「ダメ。やめよう」

「少しなら心配ないって」

「私達の命の危険だぞ」


 逆に可愛いくらい必死。でも大袈裟だから。


「何もそこまで……」 

「真子は食べられてもいいのかっ?!」

「誰にだよ~……」

「私はともかく、真子は多分美味しいんだから」

「んなわけ……ってなんで?!」


 ……結局ルシフェルを説得するのに10分くらいかかった。ふう。

 決定的な一言が

「あたしは肌に潤いが必要なの!」

 だったってことが切なすぎるぜ……。あたしに必要だってアピールしなきゃいけなかったからさ。うえぇーん! ルシフェルの美肌ぁ!

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