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第23話:堕天使と学校!


「弁当よーし」

「うん」

「宿題よーし」

「ああ」

「教科書よーし」

「おぉ」

「……」

「すごいぞ真子。完璧だ」


 何がそんなに楽しいのか、学校に行く準備をするあたしの手元を覗き込む堕天使長様。

 興味津々なルシフェルの視線を感じつつ、鞄に荷物を詰めていく。


「こんな荷物を毎日持ち歩いているなんて、人間は大変だな。私なら……」

 

 《パチン♪》


「こうするのに」


 のわー! 鞄が消えたー!


「ルシフェル!」

「ふふ」


 堕天使長が再び指を鳴らすと鞄が出現。自然法則を完全に無視かよ。


「いっつも思ってたけど、ルシフェルのそれってどうやってるわけ?」

「どう、ということもないが。物がそこに《存在》するだろう? それ自体を利用するんだ。そもそも空間や物には固有の―――」 

「あ、あ、いいわ。やっぱ後でね」


 朝は時間がない。後でゆっくり聞こうっと。


「そうか」


 特にこだわりなく肩をすくめるルシフェル。

 あたしは玄関へ。


「じゃあ消えた物はどこにいくの?」

「んー、“5次元ポ○ット”?」


 5次元?!

 さては貴様《天使型ロボット》だな!


「私はどら焼きよりエクレアが好きだ」 


 威張るな。そして堕天使様が某漫画を知っていることが判明。


「ポケットとか嘘でしょ」

「うん」


 あっさり認めた!


「説明してもいいが。朝は時間がないのだろう?」


 そうそうっ。

 あたし、残念なことに早起き苦手なんだよね。だからのんびりしてる時間はない。


 靴をはいて、っと……


「いってきます!」

「いってくるぜー」

「いってらっしゃい」 


 ………?


 ……二人目って――誰?


「何ボケっとしてんだよ。オラ、早く行くぜ」


「「べ、ベルゼブブ」さん?!」


 あたしと一緒に玄関から出ようとしていたのは、お久しぶりなあのやさぐれ堕天使。暑いのか、黒革のジャケットの袖を捲っている。


「何故お前がここに?」

「ん? いやさ、一旦地獄に帰ったんだけどよ、案外どいつも暇そうだったからまたこっち来たンだよ。で、コイツと会った辺りまで行って、堕天使の匂いを辿ってたらここに着いたってわけ」


 そう言ってベルゼブブさんはあたしを指さした。なるほどー。

 ていうか、


「いつからここに?!」

「あァっと……『宿題よーし』の辺りからだな」


 ほとんど最初からじゃねーか。


「つーか早く行こうぜ! 遅刻すんじゃねェか」

「え? 行くって……」

「決まってンだろ。学校だよ学校!」 


 えぇぇっ?!

 なんで? なんでなのっ?


「なんでも、人間も勉強するらしいじゃねェの。朝から集まってよォ」

「そりゃぁまあ……」

「だからオレも行く」


 何故そうなる?!


「楽しそーじゃん」


「いや、それは――」

「ベルゼブブが行くなら私も行く」


 だから何故そうなるルシフェル!?


「なんでてめえも来ンだよ」

「お前と真子だけだと不安だからな。私は真子を守るんだ」

「オレ信用ねェなー。てめえなら家に居ても守れンだろーが」

「……私だって学校とやらに行ってみたい」


 本音はそこかよ。

 でもちょっと嬉しかったり。


「あっ、真子。時間大丈夫?」


 うわ、ヤバいっ。これじゃホントに遅刻だよ!


「おっしゃ行こうぜーッ!」

「私達は見えないようにしているから、ね?」 


 うーん、なんか上手く丸め込まれた気が……

 けどまあ見えないならいっか。どうせベルゼブブさんをこのまま置いていけないだろうし。


「じゃあ行こうか。くれぐれもバレちゃダメだからね!」

「わぁってるって! な、ルシフェル?」

「当然!」


 先の展開がちょっと想像つくだけに不安だね!



***



 とりあえず遅刻は免れたあたし……達。後ろには翼を生やした堕天使二人が浮いている。


「お前、もう少し上手く翼をたためないか。ぶつかる」

「てめえこそ羽根がデカ過ぎなんだよ」

「仕方なかろう。私は堕天使長だぞ」

「オレだって蝿の王だ」


 不毛な口論をしてたらしい。


 無事誰にもバレることなく教室に入ると、そろそろ始業時間だからか人が結構いた。そんな中……


「おはようございマングローブ! 地球温暖化反対!」

「うぉぁっ」


 文字通り突っ込んで来た爆弾娘。んー、アシュタロスさんと暮らすようになってから、一層動きのキレが良くなった気がするぞ。


「おはよう黎香」

「うむっ、おはよう真子ちん、ルーたん! と……誰?」


 あ、ああ。この子は見えるんだったわ。


「てめえ、オレが見えンのか?」 


 ベルゼブブさんもびっくりしている。


「あたぼうよ! この黎香様に見えないものはない! ほら、君の肩に白い手が……」

「どこっ?!」


 騙されるなよ。ていうか堕天使が幽霊を怖がるな。


「うひょひょっ。冗談なり~☆」


 黎香はベルゼブブさんを見て笑いこけている。適応力すげぇな。


「てゆーか珍しいね! ルーたんが学校まで来るなんて」


 ルシフェルは腕を組んで頷く。


「まあな。これも経験だ」

「じゃあルーたんも勉強?」

「勉強、か……。ああ、そうだ黎香。お前、真子を傷つけたら容赦しないからな。前科があるのだから。……どうした? ベルゼブブ」


 ベルゼブブさんはまじまじと黎香を見つめている。


「なァ、さっきから“ルーたん”ってルシフェルのことか?」

「そうだよーっ」

「……ぶ」 


 ?


「――ぶはははッ! ルーたん?! コイツが?! 信じらんねーっ!」


 唐突に吹き出したベルゼブブさん。仕舞には涙まで流しながら大爆笑している。


「ル、ルーたんって! あー超おもしれェ!」

「そんなに面白いか?」

「傑作だぜ。だってお前、天界でも地獄でも“ルシフェル様”だの“堕天使長様”だの“殿下”だので呼ばれてんのに、“ルーたん”って! しかも人間が!」


 そういうことか。あっちの世界でのルシフェルを知ってる人にとっては面白いのかもね。あたし達はなんつー畏れ多いことを。


「やっぱ黎香のネーミングセンスは最高なんだね真子ちん!」


 黎香、多分それは甚だしい勘違いだ。


「おもしれェなー、そのチビ」

「チビっていうな!」

「小っせェんだからチビでいいじゃねーか」 

「ならお前は黒いからクロだー!」

「なっ?!」


 じゃあ堕天使はみんな“クロ”になっちゃうぞ。

 ……この光景、傍から見たら黎香があたしにマシンガントークしてるようにしか見えないだろうな。


「……真子」


 騒々しい二人を見ていると、ルシフェルがふわりと近づいてきた。


「誰か来た」

「え?」


 聞き返すと同時にチャイムが鳴る。刹那、


 《ガラッ》


 き、来たーっっ!


「……はよー」


 気だるそうな声を発しながら入って来たのは一人の女性。ライトブラウンの長髪はおよそ学校に似つかわしくないが、よくよく見れば涼しげな目元など、美人ではある。


「んっ?」


 すると彼女の鋭い目が未だに立ったままの黎香を見、そして――


「そこォッ!」

「うひょぁっ?!」 


 すっさまじい勢いでチョークが飛んだ。間一髪で黎香が避けると、空を切り裂いた弾丸は壁に当たって砕け散る。凶器だよ凶器!

 あたしはダッシュで座ってたから良かったものの、あれは避ける自信はない。黎香だからどうにかなったわけだけど。


「起立ー」


 何事もなかったかのように彼女は教壇に立つ。受け入れているクラスもどうかと思うが。


「なんだ、アイツは?」

「な、何者?」 


 受け入れられていない堕天使が二人。

 あたしはバレないように小さく囁く。


「……うちの担任の楢崎美江ならざき みえ先生」


 あたしが“悪魔のような”と形容し、描いた教師。ルシフェルが初めて我が家に来た時に持っていた絵。彼女こそがその楢崎女史なのだ。


「あー、今朝も特に連絡はない。つーか職員会議は寝てたからわからん」


 ……うん。悪魔のような、と言うよりは。 


「な、なんかアイツ適当じゃね?」


 ベルゼブブさんが言う通り、“適当”なのだ。

 放任主義とでも言おうか。教師のくせに、


“お前らの進路なんて知ったこっちゃない”


 が口癖のトンデモお姉さんなのである。


「お前らも私を見習えよ。居眠りする時は、その授業が自分にとって必要かどうか見極めてからにしろー」


 それでも人気があるのは、そのさばさばした性格と生徒目線の言動のおかげだろう。先程のお得意“チョーク投げ”も、回避できればそれ以上叱られることはないのだ。


「うっし、じゃあ今日も頑張るかー。仕事だし」


 うん、仕事だからね。

 彼女は颯爽と出て行きかけて、


「あ」


 立ち止まると、戸口であたし達を振り向いた。


「今日は私、放課後早く帰るからな。用事がある奴は早めに済ませろ」 


 へえー。なんだろう?


「見たいテレビがあるからな」


 適当だ!


「だってお前ら、“パンダの仮面舞踏会”だぞ? 見逃せないだろ」


 うわぁ、ならあたしもちょっと見たい!



***



 その後の授業はあたしにとって緊張の連続だった。

 だってイケメン二人(人外)がずっと後ろに控えてるんだもん。ずっと授業参観の気分。

 

 ベルゼブブさんは空中に胡坐(あぐら)をかき、ルシフェルは掃除用具入れのロッカーに腰掛けて、一緒に授業を受けていた。いや、受けていたとは言えないか。昼休みになった途端ルシフェルは、


「こんなことを学ぶために人間は金を払うのか」


 とか呆れたように笑ってたし。


「本質の見えぬ学習だな。これでは面白くなかろうに。なあベルゼブブ?」

「さぁて。オレは勉強好きじゃねェからなんとも。つーかアイツは? あの適当教師」


 今日は楢崎先生の授業はないよ。あんなトンデモお姉さんの授業が毎日あってたまるか。


「んだよー。つまんねェな」


 ベルゼブブさんがぶつぶつ言っていると。


「真子ちん! お昼一緒に食べようぜぃ」


 黎香がひょこひょこやって来た。


「もちろんルーたんとクロも!」 

「クロって言うなチビ」

「ぬ~っ!」


 またしても騒ぎ始めた二人。彼らを尻目に、落ち着かない者が一人。


「ルシフェル?」

「えっ、あ、いや」


 ルシフェルはちょっと言いにくそうな素振りを見せてから、おずおずと口を開いた。


「あの……昼を一緒にということは、私達の分の昼食もあるのだろうか」


 そんなナチュラルに頭を掻く仕草するなんて。ああ可愛いっ。 

 でもルシフェルの言う通りだ。あたしには弁当があるし、黎香も購買に行くだろうけど……


「購買行こうぜルーたんとBJ!」


 BJ? 天才医師?


「BJ、すなわち“ブラック・ジョン”。つまり君のことだー!」

「オレ?!」


 何が“つまり”なのかわかんねぇ。っていうかジョンって誰だよ。


「じゃそういうことで、お昼買ってくるにょー♪」 


 黎香は上機嫌で、かつ半ば無理矢理に堕天使二人を連れて行ってしまった。

 果たしてあの争奪戦の中、無事でいられるかちょっと心配。



 ―――数分後。


「ただいまぁっ」


 黎香は戻って来た。たくさんの戦利品を抱えて。


「見て見て真子ちん!」


 おー。すごいなぁ。

 焼きそばパンにコロッケパン、オムそばにチャーハンに牛乳プリン。更にはあの競争率No.1のクレープまである。


「ルーたん達が確保してくれたんだよッ」


 何でも黎香によると、堕天使二人は見えないのをいいことに品物をキープしていたらしい。黎香は悠々と会計して戻って来たわけだ。


「せっかくオレ達も働いてやったンだからよォ、早いとこ食おうぜ」


 とベルゼブブさん。あたしもお腹空いた!


「屋上行って食べない?」

「いいねぇっ」 


 ま、堕天使さん達もいることだし。


「行くぜクロレラ!」

「うっせェわ豆粒!」


 もうあだ名がめちゃくちゃだ。でもなんだかんだであの二人仲良いじゃん。


「っていうか、よく黎香の言うこと聞いたね」


 あたしが言うと、ルシフェルは肩をすくめて薄く苦笑した。


「食欲には勝てないのさ」


 なるほどね。

 と、あたしは黎香が抱える食料の山の中にあるモノを発見。思わず笑ってしまう。


「あれはルシフェルのだね」

「え?」


 ちらっと見えたパックの中にはチョコがかかった――


「エクレア、食べたかったんでしょ?」


 確か購買にあるとは聞いていたが。

 ルシフェルは驚いたようにあたしを見て、やがて照れつつも頷いたのだった。



***



 そしてほぼ何事もなく昼食終了。相変わらず黎香とベルゼブブさんは騒がしかったけど。


 あ、なんか屋上に出た時に男子のグループと擦れ違ったな。多分世間一般で言う“不良”ってやつ? 溜り場なのかな。

 そのうちの一人があたし達を振り返ってぎょっとしてたんだよね。なんでだろ?



「真子、午後も授業あるのか?」

「もちろん。暇なら家戻っててもいいよ」

「いや。だって真子が頑張っているのに、置いて行けるわけがないだろう」


 ……って言ってたのに。


「……」

「……」


 午後の授業が始まったら、堕天使二人は爆睡。


「……すぴー」


 ついでに黎香も爆睡。あたしだって眠いよー……。


 ベルゼブブさんは器用に宙に浮いたまま寝ていたが、ルシフェルはまたロッカーの上。だから授業中に、


 《ガンッ》


 という音がした時はクラス中が飛び上がった。が、実際はルシフェルの足がロッカーの扉に当たった音。寝ぼけてたのか。

 ちなみにその時は奏太も吹き出していた。あんたも見えるもんね。



 ……と、まぁ割愛しまくりだが、帰りも大変だった。

 校門を出た辺りで堕天使達が「もう姿を見せてもいいか」と言ってきたのだ。


「オレもこいつも見た目は人間だしいいじゃねーか。無駄な力使うのもアレだし。な、ルシフェル」 

「え、いやそれはそうだが……」


 ちょうど周りに人も居なかったし、あたしは頷いた。……その時。


「おい、あのねーちゃん……」


 一台の真っ赤な車が走って来る。ベルゼブブさんが指差す運転席には――


「な、楢崎先生……!」


 ヤバい……!

 めっちゃ目ぇ合っためっちゃ目ぇ合っためっちゃ目ぇ合ったぁ!


「ルシフェル、ベルゼブブさん、逃げるよっ!」

「えー?」 


 二人は危機感なしにトコトコ走って来る。


「消えたりできないのッ?」

「今消えたら逆に不自然だろーが」


 た、確かに……。でもっ。


「じゃあダッシュしてよ!」

「面倒くせェー」


 今捕まったら、楢崎先生との絡みの方が面倒くせぇよ! 下校途中にお兄さん二人を連れている奇妙さを考えろよ!


「真子が言うなら。ほら、ベルゼブブ。走るぞ」 

「はあ……しゃーねェな」


 とか言うなり二人は……文字通り全力疾走した。100m何秒だよってレベルで。


 ……

 って結局あたし置き去り?!



***



 はぁっ……はぁっ……

 よ、ようやく家に着いたよー……


「お帰り、真子」

「遅ェぞー」


 けらけら笑うベルゼブブさん。あたしは人間だもの!


 ……もう今日はいつもの何倍も疲れたなぁ。二人共楽しそうだったから、まあいいけど。

 あ。でも楢崎先生になんか言われそう……。明日学校行きたくねぇー。


 そんなあたしの憂鬱も知らないで、堕天使達は熱心にテレビを見て話している。


「顔を隠すのか」

「なかなか面白そうじゃねぇの」


 どうやら面白い番組らしい。どれどれ……


「何見てるの?」

「「“パンダの仮面舞踏会”」」


 マジかよーっ!

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